今知る世界の食料危機 No.11(2020年7月号)

国連食糧農業機関(FAO)は、Global Information and Early Warning System(GIEWS)というページで、世界の食料危機に関する情報を提供しています。

2017年度まで、国際農林業協働協会が発行する季刊誌「世界の農林水産」に、GIEWSの資料の一部(”Crop and Prospects”および”Food Outlook”)を紹介するページが設けられていました。

2018年度、同誌は紙面リニューアルを行い、この紹介ページはなくなりました。

そこで、2017からAJFが呼びかけて行っている「FAOの資料を読む学習会」参加メンバーが中心となって、”Crop and Prospects”の「外部からの支援を必要としている国」「世界の穀物の需給概況」「低所得・食料不足国の食料事情」の3項目の参考訳を作成し、紹介していくことになりました。

「今知る世界の食料危機 No.11」では、2020年7月に公開された”Crop and Prospects #2 Jul 2020”の該当ページを紹介します。

「FAOの資料を読む学習会」、「今知る世界の食料危機」の作成に関心を持ったら、food@ajf.gr.jpへご連絡ください。

外部からの支援を必要としている国

COVID-19のパンデミックの影響は、主に経済的打撃を通して、世界中で食料不安の悪化を引き起こすと予想される。

農業生産は比較的影響を受けず、主食の供給も概ね十分もしくは安定であると報告されているが、ウイルスの蔓延を封じ込めるために実施された措置と、経済全体の低迷による収入の減少は、食料不安の深刻さと広がりを増大させる可能性がある。

程度は異なるが、次のセクションに記載されているすべての国がCOVID-19パンデミックの影響を受けており、人道支援の必要性が高まる要因として考慮する必要がある。パンデミックの影響は、食料不安の推定にまだ体系的に捉えられておらず、ほとんどの国内評価はまだ進行中であるか、まだ実施されていないことに注意する必要がある。したがって、このセクションに示される数値は、一般的な食料安全保障の状況を包括的に反映しておらず、食料の支援を必要としている人々の最小数を示しているにすぎないと見られる。国家の食料不安の推定にCOVID-19パンデミックの影響が組み込まれている場合にのみ、このセクションでは要因として言及されている。

アフリカ (34カ国)

食料生産・供給総量の異常な不足

中央アフリカ共和国-紛争、食料供給制約による避難
・総合的食料安全保障レベル分類 (IPC)によれば、深刻な食料不安に直面する人々 (IPCフェーズ3:「危機」もしくはそれ以上)の数は240万人と推定され、この人数は、COVID-19パンデミック以前の予測であった作物の収穫量が減る時期(端境期) (2020年5月~8月)の210万人と比較して15%増えた。

ケニア-洪水とサバクトビバッタ
・2020年4月から7月にかけて、2019年後半の洪水による生計手段の喪失やサバクトビバッタによる作物や牧草地の局所的な被害により、主に北部、東部の地域で、約98万人が深刻な食料不安に直面していることが推定される。
5月の時点で、約39万3,000人が、3月以降の集中豪雨による洪水の影響を受けた。

ソマリア連邦共和国-洪水、社会不安、サバクトビバッタ、牧畜民の生活を脅かす長引く雨季の影響
・2020年4月から6月にかけて、約270万人が緊急支援を必要とすると推定される。懸念される主な地域は、洪水の影響を受けた河川地域、都市の避難民居住地、北西部のオーダルとウォクオイ・ガルビード地域で、最も脆弱な世帯がIPCフェーズ4(「緊急事態  」もしくはそれ以上に)に直面している。
・5月の時点で、約91万9,000人が4月の集中豪雨による洪水で影響を受けた。

ジンバブエ共和国-平均以下の穀物収穫、食料価格の高騰
・2020年の上半期に430万人が食料不安に直面すると推定された。
・2020年も引き続き穀物収穫量が平均以下である影響を反映し、高い食料価格が続く。
そのため、食料の供給量とアクセスは、多くの世帯にとって厳しいままである。

広範な食料アクセスの欠如

ブルンジ共和国ー洪水、地滑り
・2020年6から8月に、3月以降の豪雨による洪水や土砂崩れによる生計手段の喪失により、約85万人が深刻な食料不安に直面したと推定された。

チャド共和国ー社会不安
・前回の「Cadre Harmonisé」によれば、2020年6月から8月期に約100万人が食料不安に直面したと推定されている。
・北東部での軍事衝突により23万6,500人近くが国内避難民のままである。加えて、国は約47万人の国外からの難民を受け入れている。

コンゴ民主共和国ー社会不安の永続化
・約1,360万人が深刻な食料不安に直面していると推定される。そのほとんどが、治安状況が不安定なままで、世帯レベルで深刻な食料アクセス制約に直面しているイトゥリ、北キブ、南キブの東部州を含む国内避難民(IDP)と難民が集中している地域に居住している。

ジブチ共和国ー連続する雨季の降雨不足
・主に連続する雨季の降雨不足のため、2020年1月に約17万5,000人が深刻な食料不安であったと推定された。

・最も食料不安の影響を受けた地域は、ディキリとオボックで、人口の45から50%が深刻な食料不安に直面した。

エリトリアー経済的制約による食料不安人口の増加

エチオピア連邦民主共和国ー高い食料価格、洪水、サバクトビバッタ、前の干ばつの影響
・2019年はじめから半ばにかけて主に東部農業地域と北部と南東部の農業牧畜地域でKaran/Belg/Gu/Gennaの雨季の降雨不足があり、2020年2月から6月には、約850万人が深刻な食料不安に直面していたと推定された。
・ 5月時点で、約21万9,000人が3月からの豪雨による洪水の影響を受けている。

ニジェール共和国ー社会不安
・「Cadre Harmonisé」最新号の分析によれば、2020年6月から8月期の終わりには約200万人が緊急支援を必要とすると推定される。
・近隣諸国の紛争により、22万3,000人の難民を受け入れ、その内16万2,961人はナイジェリアから、5万8,813人はマリからの難民である。一方26万5,522人が国内避難民となっていると推定される。

ナイジェリア連邦共和国ー北部での終わらない紛争
・「Cadre Harmonisé」最新号の分析によれば、2020年6月から8月期に約700万人が人道支援を必要とすると推定された。
・持続する社会不安により260万人以上が国内避難民となっている。人道支援にアクセスできない地域では、最悪の食料危機状況に直面している。

南スーダン共和国ー深刻な経済低迷、社会不安、長期にわたる紛争
・継続的な人道支援にも関わらず、不十分な食料供給、経済の低迷、食料価格の上昇により、人口の大半がまだ食料危機の影響を受けている。
・5月から7月には約648万人(全人口の55%)が厳しい食料危機に直面していると推定される。食料危機が最も大きく広がっているのは洪水により最も被害を受けたジョングレイ州で、そこでは人口の70%近くが厳しい食料危機に直面すると報告されている。2020年5月の国内避難民は160万人と推定された。
・約1万2,000人が、5月の激しい雨による洪水の影響を受けている。

厳しい局地的食料不安

ブルキナファソー北部での社会不安
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、主に北部での社会不安のため、2020年6月から8月期に食料支援を必要とする人々の数は210万人と推定される。
・2万1,000人の難民、多くはマリからの難民が国内に暮らすと推定される。一方で92万1,500人の国内避難民がいる。

カーボヴェルデ共和国ー2019年農牧収穫期の不作 
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2020年6月から8月期にかけて約1万人(全人口の約2%)がフェーズ3「危機」もしくはそれ以上の厳しい状況にあると推定されている。

カメルーン共和国ー社会不安

・2020年3月の“Cadre Harmonise”によれば、2020年第二四半期には推計260万人が深刻な食料危機(フェーズ3もしくはそれ以上)であったと分析された。食料危機にある約45%は、治安部隊と分離武装グループの衝突が続く、英語圏の北西州、南西州にいる。2020年3月から4月には、北部地方の社会不安が高まり、新たな避難民を生み出している。

コンゴ共和国ー難民の流入、洪水
・コンゴ民主共和国からの2万人と中央アフリカ共和国からの2万2,000人の難民がいると推定される。北部および東部地域では、2019年10月から2020年1月にかけての大雨が洪水となり、中央アフリカ共和国とコンゴ民主共和国からの難民3万人を含む約17万人が影響を受けた。
・受入れコミュニティは食料不足と限られた生活手段にさらされ、難民の食料は基本的に人道支援に頼っている。

エスワティニ王国ー局地的な生産不足
・2020年の第一四半期では、約23万2,000人が人道支援を必要とした。穀物生産量は増加する予想で、食料供給は改善される見込みだが、局地的な生産不足が食料不安に悪影響を与えるだろう。

ギニア共和国ー局地的な穀物生産不足
・2020年6月から8月期に、約26万7,000人が食料支援を必要とすると推定されている。

レソト王国 ー局地的な生産不足
・2019年10月から2020年3月に、約43万3,000人が食料支援を必要としたと予想された。2020年は穀物生産量が増加する見込みで、状況は改善しそうだが、南部地域では局地的な生産不足であり、逆に食料不安に見舞われるだろう。

リベリア共和国ー高い食料価格
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、約4万1,000人が2020年6月から8月期にかけてフェーズ3「危機」以上にあると推定されている。 約8,700人の難民を受け入れている。

リビアー社会不安、政治不安、石油価格の低迷
・2020年、人道支援を必要としている人々の総数は、90万人と推定され、そのうち34万人が食料援助を必要としている。 難民、難民申請者、国内避難民は、食料危機に最もさらされやすい人々である。地元の通貨価値の低下、食料価格の上昇および臨時的な雇用機会の低下により、この数字は上昇したとみられる。

マダガスカル共和国―食料へのアクセスの減少
・南部での乾燥した気候が農業生産に及ぼす影響で、2020年には食料不安が悪化すると予測されている。

マラウイ共和国―地域的な生産不足
・2020年は、全国的な穀物生産の好転が食料安全保障全体を改善させると予想されるが、南部では、昨年に引き続いて地域的な穀物生産の不足が推測され、厳しい食料不足の状況が続くとみられている。

マリ共和国―国内不安
・国内に、人道支援を必要とする25万1,000人の国内避難民、8万4,000人の帰還民を抱えるなか、約4万5,000人の難民を受け入れている。
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によると、紛争のため、2020年6月から8月期に130万人が食糧支援を必要とすると推定される。

モーリタニア・イスラム共和国―農牧期の生産不振
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2020年6月から8月期にかけ、約60万9,000人が食料支援を必要とすると推定されている。

・支援を必要とする、主としてマリからの難民約6万3,000人が国内に居住している。

モザンビーク共和国―主食穀物の生産不足
・昨年に引き続き、降雨不足により2020年も南部における穀物生産が平年以下になると予測されており、当該地域の厳しい食料不安の状況が続くとみられている。
・2020年1月から2月期に、国全体で、200万人近くが食料不安にあったと推定される。

ナミビア共和国ー農業生産不足
・2020年1月から3月期に、43万人がすでにIPCフェーズ3「危機」に直面していた。 予想される農業生産の増加が食料供給を改善するだろうが、生産不足が状況を圧迫する地域もある。

セネガル共和国ー地域的な穀物生産不足
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2020年6月から8月期に約76万7,000人が支援を必要とすると推定される。
・主としてモーリタニアからの難民、推定1万4,500人が国内に居住している。

シエラレオネ共和国―高い食料価格
・2020年6月から9月にかけて、約130万人が深刻な食料不安に陥ると推定される。

スーダン共和国―紛争、社会不安と高騰する食料価格
・2020年6月から9月期に、厳しい食料不安にある人々の数は960万人であったと推定される。食料不足が最も心配される地域は南コロドファン州と青ナイル州、および大ダルフール州のほぼ全域である。

ウガンダ共和国ー地域的な穀物生産不足、難民流入および洪水
・2019年のはじめに(利用できる最新情報では)、テソ地域東部とカラモジャ北東部で約50万人が厳しい食料不足に陥ると見られていた。
・南スーダンからの難民約88万1,000人と、コンゴ民主共和国からの難民約41万5,000人が難民キャンプに収容されており人道支援に頼っている。

・5月時点で約17万7,000人が、2019年10月以来の豪雨によって発生した洪水の影響を受けた。

タンザニア連合共和国―地域的な穀物生産不足
・2019年に長引く干ばつで顕著な穀物生産の減少があった、主に北東部のマニヤラ州とキリマンジャロ州および中央部のドドマ州とシンギダ州で、2020年5月から9月期に約49万9,000人が緊急支援を必要とすると推定されている。
・5月時点で、3万1,000人が、3月以降の集中豪雨による洪水で被災した。

ザンビア共和国―地域的な農業生産不足と食料価格上昇
・2020年の穀物増産が、世帯レベルでの食料供給を改善すると期待され、また、年のはじめに記録的に高騰していたメイズ価格を落ち着かせると思われる。
・さらに、昨年に引き続き、国の南部での地域的な生産不足により、当該地域の食料不安の厳しい状況が続くとみられる。

アジア(8カ国)

食料生産・供給総量の異常な不足

シリア・アラブ共和国ー内戦、停滞する経済
・2019年、790万人が食料ニーズを満たすことができず、190万人が食料危機に直面している。高い食料価格、低迷する賃金と、COVID-19のパンデミックの蔓延を制限するために導入された抑制手段によって拡大された限られた生計機会の結果、この数字は2020年に増加することが予想される。
・国際食料支援は供給されつつあるが、シリア難民は近隣国の受け入れコミュニティの資源に圧力も与えている。

広範囲なアクセスの欠如

朝鮮民主主義人民共和国ー低い食料消費レベル、食事の多様性の不足、経済不振
・5月から8月の農閑期の間、人口の大半が低いレベルの食料消費と食事の多様性の極端な不足に直面している。
・経済不振が人々の食料不安への脆弱性を高めた。

イエメン共和国ー紛争、貧困、洪水、高い食料価格及び燃料価格
・全人口の80%以上、約2,430万人が何らかの人道支援を必要としている。食料安全クラスターは、2020年6月から12月に2,010万人が食料保障と農業支援を必要としており、そのうち1,000万人が緊急に必要としていると推計している。これらの数字は収入向上機会の制限と仕送りの減少と共に増加することが予想される。

厳しい局地的食料不安

アフガニスタン・イスラム共和国ー紛争、避難民の発生、停滞する経済
・COVID-19パンデミックの影響により、インフォーマル労働機会と仕送りが減少したため、食料安全状況は最近数ケ月で悪化した。2020年の4月から5月の間に、約1,090万人(人口の35%)は極端な食料不安にいて、緊急の人道的行動を必要とすると推計された。これらは約740万人がIPC評価のフェーズ3「危機的レベル」、350万人がフェーズ4「緊急事態」であることを含む。

バングラデシュ人民共和国ー熱帯サイクロンアムファンにより影響を受けた多くの人々、難民が受け入れコミュニティに負担をかけている
・2020年5月に地すべりを起こした熱帯サイクロンアムファンは、少なくとも100万人の生計に深刻な影響を与え、家と、灌漑設備を含むインフラ設備を破壊した。
UNHCRの最近の数字(2020年5月)によると、約86万人のミャンマーからのロヒンギャ難民はバングラデシュの主にコックスバザール県に住んでいた。難民の多くは受け入れコミュニティだけでなく、既存の施設やサービスに負担をかけている。

イラク共和国ー紛争、低い石油価格、停滞する経済
・約410万人、主に国内避難民と帰還民は人道支援を必要としている。極端に食料不安に陥っている人々の数は約92万人と推計され、主に国内避難民と帰還民の170万人は食料不安に脆弱で、その大半はディヤラ、ニネべ、サラアルディン、アンバーとカークック州に集中している。

ミャンマー チン、カチン、シャン、カイン、ラカイン州の各地での紛争
・ラカイン、チン、カイン、シャン州での継続する紛争は特に2017年から人々の大規模な避難を引き起こした。2020年6月時点で、その大半は女性と子供である推計23万5千人が国内避難民となり、これらの中で最も多くの人がラカイン州とカチン州に避難している。

パキスタン・イスラム共和国ー避難民の発生
・同国は140万人近くの登録・未登録のアフガン難民を受け入れている。これらの人々の大半は人道支援を必要としており、既に限られた受け入れコミュニティの資源に負担をかけている。
・国の主要穀物である小麦と小麦粉の価格は、今年初めから高いレベルで、食料へのアクセスを制限している。

ラテンアメリカ及びカリブ海地域(2ケ国)

広範囲なアクセスの欠如

ベネズエラ・ボリバル共和国ー深刻な経済危機
・深刻で長引いている経済危機の最中に、ベネズエラ・ボリバル共和国からの難民と移民の数は510万人と推計される。その人たちはコロンビア(180万人)とペルー(82万9千人)をふくむ、近隣諸国に定住している。同共和国の人々だけでなく受け入れ国の難民や移民を支援する人道支援ニーズは甚大である。・2019年の第3四半期に行われたWFPの食料安全保障分析によると、約230万人(全人口の8%)は同国で、主に高い食料価格の結果、深刻な食料不安に陥っている。

厳しい局地的食料不安

ハイチ共和国ー長引く干ばつと高いインフレ率
・2019年の低い食料生産と高い食料価格、及び経済低迷により、3月~6月期に約410万人が深刻で極端な食料不安に直面しており、緊急の食糧支援が必要であると予測された。

世界の穀物需給概況

記録的な世界穀物生産予想は、期末在庫率を20年ぶりの高値にまで引き上げ

FAOによる2020年の世界の穀物生産の最新予想では、7月に930万トン上方修正され、現在では約27億9,000万トンとなり、2019年に達した史上最高レベルよりも3.0%(8,130万トン)上回る世界的な生産高となる。世界の小麦生産は、7億6,150万トンに達し、直近の6月の予想から320万トン増加し、額面では昨年の平均以上の生産高と等しくなる。月々の増加の値は、オーストラリアの小麦生産の予想の上方修正(+550万トン)を反映しており、主に早期の広範囲にわたる降雨と残りの期の好天予報を根拠とした、収量改善の見通しに基づいている。これは、当初予想されたよりも大きな、小麦の耕作地と相まって、2020年に一層顕著な生産の回復を導くと期待されており、干ばつが収穫高を減少させた過去2年と比較して、大幅な改善を記録すると思われる。小麦生産予想は、作付面積の拡大と収量の増加を示す最新の公式データに基づき、インドでも増加(+220万トン)、そして、好天が収量の増加の期待を高め、結果として生産量の増加が見込まれるロシアでも増加(+200万トン)である。これらの増加は、収量減少予想によるEUの小麦生産予想(―550万トン)と英国(-150万トン)で相殺されるのよりも多い。2020年の世界の粗粒穀物生産予想もまた、15億1,900万トンまで増加し、前回の6月の数値よりも570万トン上昇し、2019年よりも5.0%(7,300万)多い。オーストラリア、EU及びトルコの大麦の多くの生産高は、主に月ごとの上昇に支えられている。少なからず世界のトウモロコシ生産予想も先の6月の予想から上昇しており、これはEUでの若干の増加を反映している。また、これは、数週間の乾期に続いた最近の降雨が特にフランス南部とイタリア北部での作物に恩恵を与えたためである。同様に、ブラジルのトウモロコシ生産高も増加し、現在では、昨年の産出額を若干上回り、史上最高を記録している。FAOの2020年の世界のコメ生産予想は、5億920万トンと目されており、2019年より1.7%、6月の予想よりも40万トン増加している。このわずかな上方修正は、好ましい天候が史上最高の収量予想へと押し上げた南米諸国の予想改善が主として反映されたものであり、昨年の収穫高の減少からの部分的な改善を促している。

2020/21年度の世界穀物利用量の予測も7月には27億3500万トンに引き上げられ、2019/20年度の水準を4300万トン(1.6パーセント)あまり超えることとなった。上方修正は、当初の予想に比べて飼料利用および工業利用が上向きに転じたことに後押しされ、粗粒穀物の利用予測が300万トン近く増加したことに大きく由来している。2020/2021年度の総粗粒穀物利用予測は史上最高の14億7100万トンを記録し、2019/20年度よりも2.7パーセント(3800万トン)増と見られる。前年同期比予測増加分の40パーセント(1440万トン)近くを米国が、20パーセント(9万トン)強を中国が占めている。世界のコメ利用量も2020/21年度は記録的な5億1040万トンに到達し、食料利用の拡大をもとに2019/20年度の1.6パーセント増となる見通しだ。一方、2020/21年度の全世界の小麦利用予測は2019/2020年度水準の微減(0.4パーセント)を示している。これは、主に粗粒穀物の飼料用市場占有率の縮小予測および工業利用の低下によるものである。

2021年のシーズン終了時のFAOによる世界の穀物在庫量は、6月の予測値から200万トン引き上げられて9億2900万トンとなり、前期比で5230万トン(6.0パーセント)増と堅調に拡大している。この水準で推移すれば、2020/21年度の世界の穀物期末在庫率は20年ぶりの33.0パーセントに達する見込みで、次シーズンへの明るい供給見通しを提供している。いくつかの国で生産見通しが改善したことによる小麦の供給量増加により、2020/21年の小麦在庫はさらに上方修正され、予測値は2億8,400万トン近くに引き上げられた。当初の水準から900万トン(3.2%)近く増加したが、2017/18年の記録的な水準には届いていない。前年比の増加の大部分は中国(本土)のもので、在庫は1億3,800万トンと過去最高を更新し、年始の予測水準を1,100万トン近く上回り、欧州連合(EU)と米国での減少を相殺してあまりある。

小麦に比べると、2020/21年度の粗粒穀物在庫予測はさらに大きく拡大すると見られ、トウモロコシと大麦の在庫量増加予想に伴い、約4500万トン(10.8パーセント)上昇する見通しである。トウモロコシの在庫量増加見込みの大半は米国に集中しており、大麦はオーストラリアとEUの在庫蓄積が見込まれている。2020/21年度シーズン終了時の世界コメ在庫量は1億8220万トンと予測され、シーズン開始時の予測から0.7パーセント減、直前の予測値からは微修正にとどまっている。予測値の減少分の大半は中国(本土)のものであるが、2020年穀物在庫量はおおむね十分な水準であると見られている。バングラデシュやインドネシアでの生産減少とあわせても、この在庫量は3年連続で増加が見込まれている主要なコメ輸出国の備蓄を凌ぐことになるだろう。FAOによる最新の2020/21年度穀物世界貿易量予測は4億3500万トンで、2019/20年度よりも記録的な900万トン(2.1パーセント)増が見込まれている。2020/21年度(7月/6月)の粗粒穀物貿易は約2億900万トンで、2019/20年度の予測値よりも2.4パーセント増であり、中国(本土)の輸入ソルガム需要への期待感に支えられた予測値である。2020/21年の世界の小麦貿易量は過去最高の1億7,870万トンと予想され、2019/20年比で150万トン(1%弱)の増加が見込まれている。これは、特にオーストラリアとカナダで力強い生産回復が見込まれ、欧州連合とウクライナで予想される輸出の減少を相殺する以上に、輸出量の増加が見込まれていることに基づくものである。アフリカの輸入需要の回復は、2021年(暦年)のコメ貿易を2020年から6%増の4,760万トンに押し上げ、3年ぶりの高水準を記録すると予想されている。

低所得・食料不足国の食料事情

低所得・食料不足国における2020年の生産は、増加すると予想される

低所得・食料不足国における2020年の穀物総生産についてのFAOの予想は、4億9270万トンであり、これは平年より6.4パーセント高く、もし実現すれば、5年連続の年間生産の増加となるだろう。

南部アフリカでは、作付け前の雨の不足の後、年初から降水量が回復したことにより穀物の状態が回復し、その結果として平年を上回る総収穫量となった。しかしながら、ジンバブウェでは、耕作期を通じた少雨及び農業の投入財への農家のアクセスを阻む経済的な困難のために、生産はやや増えたにもかかわらず、2年連続で収穫量が平年以下にとどまると予想される。

モザンビーク南部とマダガスカル南部における洪水と乾燥によって見込まれる生産不足も、2020年の生産を平年に近いレベルにとどめると予想される。東アフリカでは、主耕作期の穀物は、収穫中かこれから始まるところである。サバクトビバッタ関係のリスクは、特に3月から5月にかけての豊富な雨が新しい群の形成を促す条件を生み出したソマリア、ケニア、エチオピアの各地で現在も残っているが、大規模な駆除活動のおかげで大発生を抑え、穀物や牧草への被害を最小限にとどめている。西アフリカでは、主要な粗粒穀物と水田作物の作付けが、10月から収穫するために、始まっている。西アフリカの低所得・食料不足国の2020年の総生産は暫定的に平年以上を維持すると予想されているが、年間でやや減少すると見込まれる。中部アフリカでは、主要な生産国であるカメルーンやコンゴ民主共和国を含むいくつかの国での紛争によって農業生産の成長が抑制され続けているため、生産は平年レベルと変わらないと予想される。

アジアでは、主に低所得・食料不足国(LIFDCs)の中で最大の穀物生産国であるインドの過去最高の小麦生産と、バングラデシュでのトウモロコシと小麦の生産のわずかな増加を反映して、穀物の総生産量は平均をはるかに上回ると予想される。同様に、シリア・アラブ共和国では、良好な気象条件と相まって、治安状況の改善により、農家はより高い収量を達成し、ほぼ平均的な播種面積を維持することができ、穀物の収穫は2年連続で増加する見込みである。しかし、危機前の平均ははるかに下回る。

アフリカ及びアジア諸国の低所得・食料不足国(LIFDCs)における大きなニーズにより、2020/21年度に輸入が増加している

2020年に総生産量が増加したにもかかわらず、低所得・食料不足国(LIFDCs)の穀物輸入量の2020/21市場年度の推定値は7,330万トンで、年間ベースで390万トン増加し、5年間の平均を約5.5%上回る。

西アフリカでは、いくつかの国での生産の減少を示す初期の兆候を反映して、大量の輸入が推定されている。 2019年に収穫量が減少したために国の在庫が大幅に減少したスーダンとジンバブエでは、2回連続で平均を下回る収量と国内在庫の減少を反映して、輸入の大幅な増加が見込まれる。

一部のアジア諸国、特にアフガニスタンとネパールでは、2020年に予測される生産の減少を反映して輸入ニーズも高まると予想される。

今知る世界の食料危機 No.16(2021年9月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.15(2021年7月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.14(2021年3月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.13(2020年12月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.12(2020年9月号)⇨

⇦ 今知る世界の食料危機 No.10(covid-19の影響)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.9(2020年3月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.8(2019年12月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.7(2019年9月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.6(2019年7月号)

⇦ 今知る世界の食料危機No.5(2019年3月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.4(2018年12月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.3(2018年9月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.2(2018年6月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.1(2018年3月号)


世界の食料 国別状況 あ行

ウガンダエスワティニエチオピアエリトリア

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リビアリベリアレソト)