今知る世界の食料危機 No.7(2019年9月号)

国連食糧農業機関(FAO)は、Global Information and Early Warning System(GIEWS)というページで、世界の食料危機に関する情報を提供しています。

2017年度まで、国際農林業協働協会が発行する季刊誌「世界の農林水産」に、GIEWSの資料の一部(”Crop and Prospects”および”Food Outlook”)を紹介するページが設けられていました。

2018年度、同誌は紙面リニューアルを行い、この紹介ページはなくなりました。

そこで、数年前からAJFが呼びかけて行っている「FAOの資料を読む学習会」参加メンバーが中心となって、”Crop and Prospects”の「外部からの支援を必要としている国」「世界の穀物の需給概況」「低所得・食料不足国の食料事情」の3項目の参考訳を作成し、紹介していくことになりました。

「今知る世界の食料危機 No.7」では、今年9月に公開された”Crop and Prospects #3 Sept 2019”の該当ページを紹介します。

「FAOの資料を読む学習会」、「今知る世界の食料危機」の作成に関心を持ったら,food@ajf.gr.jpへ連絡下さい。

外部からの支援を必要としている国

アフリカ (31カ国)


食料生産・供給総量の異常な不足

中央アフリカ共和国-紛争、避難、食料供給の制約
・2019年8月では深刻な食料不安に直面する人々の数は昨年から10%減少し181万人となった。これは主として、現地の警備が改善され、国内避難民を元の場所に戻らせることができた結果である。
しかしこの国は安心して暮らせない状況が続いており、続く不安定さが依然として家庭の食料や生活へのアクセスに影響しており、東部と南東部での畜産業、漁業、農業活動を著しく混乱させている。

ケニア共和国ー連続した雨季の降雨不足
・2018年10月から12月の小雨季の降雨不足と2019年3月から5月の大雨季の深刻な乾燥気候の累積結果として主として北部、東部地域で約310万人の人々が深刻な食料不安に直面している。

ソマリア連邦共和国-紛争、社会不安、連続した雨季の降雨不足
・2018年10月から12月の「Deyr」の降雨不足と2019年4月から6月の「Gu」の深刻な乾燥気候により、農牧および牧畜コミュニティが影響を受け、約210万人が緊急支援を必要としていると推定される。

ジンバブエ共和国-穀物生産の減少と食料価格の高騰
・2019/20年度では食料不安に直面する人々の数は急激に増加している。この数値は2020年1月から3月の年平均から見ると、ほぼ2倍の550万人である。
・これらの要因は、急激な穀物生産の減少、主食の食料価格の高騰や厳しい経済環境により収入を生み出す機会が減少したことによる。


広範囲な食料アクセスの欠如

ブルンジ共和国-社会不安、経済の悪化、一部地域での作物生産不足
・市場、農作業、暮らしの混乱が、限られた人道支援や食料輸入能力の低下と相まって、引き続き食料保障に悪影響を与えている。食料不安が最も深刻な地域は西部のマカマ州、ルタナ州、ルイギ州およびカンクゾ州で、これらの地域は2018年の豪雨により、洪水と土砂崩れで作物を損失している。
・2018年後期には約172万人が厳しい食料不足に直面していると推定されている。(最新の入手可能な情報)

チャド共和国-社会不安とリビアとの国境閉鎖

・「Cadre Harmonisé」によれば、約64万人が2019年6月から8月期に食料不安に直面すると予想された。
・約46万4000人の難民に加え、北東部での軍事衝突によって、13万3,000人近くが国内避難民となっている。

コンゴ民主共和国-紛争と東部および南部地域での避難民発生、そして難民の流入が受け入れコミュニティの負担になっている
・2019年8月には1,590万人の人々が深刻な食料不安に直面すると予想された。
・5月31日時点でこの国には53万7,000人の難民がおり、その30%以上が北部地域のキブに住んでいる。
・エボラウイルス病(EVD)は感染拡大しており、深刻な問題となっている。8月時点で3,000人の人々が影響を受け、2,000人近くが亡くなったとWHOは報告している。

ジブチ共和国-連続する雨季の降雨不足による牧畜民の暮らしへの影響
・降雨不足の雨季が続いた影響で、2018年(最新の入手可能な情報)、農村部では約15万人が厳しい食料不安に直面していると推定された。

エリトリア-経済的制約による食料不安人口の増加

エチオピア連邦民主共和国-干ばつが地域の生計システムへ及ぼす影響
・2018年の10月から12月の「Deyr/Hagey」と2019年4月から6月の「Gu/Genna」2つの雨期の降雨不足により、主に南東部の農牧畜地域で、2019年始めに810万人が厳しい食料不安に直面していると推定された。
・5月からの激しい降雨によって引き起こされた洪水で8月には8万8,000世帯が国内避難民となっている。

ニジェール共和国-東部と西部への紛争の影響
・「Cadre Harmonisé」最新号の分析によれば、2019年6月から8月期に約120万人が緊急支援を必要とすると推測された。
・近隣諸国の紛争により、10万4,000人が国内避難民となっており、ナイジェリアからの11万9,000人とマリからの5万6,000人の計17万6,000人の難民が暮らしている。

ナイジェリア連邦共和国-終わらない紛争による北部での食料事情の悪化
・「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2019年6月から8月期に約500万人が食料支援を必要とすると推測された。
・続く紛争により190万人が国内避難民である。この地域は人道支援介入が入りづらいことから、食料事情はさらに悪化する。

南スーダン共和国ー紛争、内戦、深刻な経済低迷
・継続的な人道支援にも関わらず、食料危機はまだ人口の大半に影響を与えている。厳しい食料危機に直面する人々の数は8月の時点で635万人と予想され、人口の約54%にのぼる。この悲惨な食料危機は、継続的な社会不安、ひっ迫した供給、経済の低迷、貿易の不振と食料価格の高止まりの結果である。
・加えて、2019年7月に国内避難民は183万人と推定され、一方8月時点で、6月から続く激しい雨による洪水のため、約9500世帯が移動を余儀なくさせられている。


厳しい局地的食料不安

ブルキナファソ–北部での社会不安
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、主に北部での社会不安のため、2019年6月から8月期に食料支援を必要とする人々の数は68万7,000人と予想された。
・2万6,000人の難民、多くはマリからの難民が国内に暮らすと推定される。一方で22万人の国内避難民がいる。

カーボヴェルデ共和国-2018年農牧収穫期の不作による食料事情の悪化
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2019年6月から8月期にかけて約9,000人(全人口の約2%)がフェーズ3「危機」もしくはそれ以上の厳しい状況にあると推定される。

カメルーン共和国-国内闘争と難民の流入によるコミュ二ティへの負担

・北部地方からの国内避難民は2018年終わりから増加し続け、2019年3月に26万3,000人に達した。
・2019年6月には、(英語話者地域の)北西州と南西州における約130万人が支援を必要としていると推定され、53万1,000人が国内避難民となった。
・7月終わりの時点でナイジェリアからの難民10万8,000人、中央アフリカからの28万8,000人近い難民を受け入れている。

コンゴ共和国ー難民の流入が、国内コミュニティのすでに制限されている資源を圧迫している
・2019年7月時点で、コンゴ民主共和国からの難民2万人が国内で生活していると推定される。

エスワティニ王国ー局地的な生産不足
・2019年10月から2020年3月には、約23万2,400人が人道支援を必要とする見込みで、2018/19年度に予想された16万6,000人を上回るとされている。
・気候条件が悪いため、穀物生産が減少し食料不安を悪化させる要因となっている。

ギニア共和国ー局地的な生産不足
・2019年6月から8月に、約28万8,000人が食料支援を必要としたと推定される。

レソト王国ー穀物生産の減少
・推定43万3,410人(これは農業人口の約30%にあたる)が2019年10月から2020年3月に食料不安に直面し、前年よりも増加する。
・食料不安の悪化は、主に気候条件による穀物生産減少により引き起こされた。

リベリア共和国-高い食料価格
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2019年6月から8月期に、約4万1,000人がフェーズ3「危機」もしくはそれ以上の状態にあると推定された。この国は8,700人の難民を受け入れている。

リビア-社会不安

・人道支援を必要としている人々の数は、82万人(人口の11%)と推定され、そのうち30万人は食料支援を必要としている。難民、難民申請者、国内避難民は食料危機にもっともさらされやすい人々である。

マダガスカル共和国-食料へのアクセスの減少
・100万人近くの人々が食料不安に直面していると見込まれ、その大半が降雨不足に悩まされやすい南部地域にいる。しかし、この数は、2019年のより多くの穀物の収穫を反映して、前年の数より少ない。

マラウィ共和国-地域的な生産不足

・耕作期間の条件が全体的に良くなったおかげで、より多くの収穫があり、食料不安に直面していると見込まれる人々の数は2019/20年度に減少した。
・しかし、地域的な生産不足にある南部のいくつかの州を中心に、約110万の人々が、2019年10月から2020年3月の間支援を必要としている。

マリ共和国-中央および北部での絶え間なく続く危機
・この国には約2万7,000人の難民、約14万8,000人の国内避難民、7万4,000人の帰還民がいて、主に人道支援に依存している。
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、国内紛争が続くため、2019年6月から8月期の間に、約54万9,000人が食料支援を必要とすると推定された。

モーリタニア・イスラム共和国-牧草の減少

・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、2019年6月から8月期にかけ、約60万7,000人が食料支援を必要とすると推定された。
・主としてマリからの難民約5万8,000人が国内に居住している。

モザンビーク共和国-サイクロンによる被害と生産不足

・2つの大きなサイクロンのインパクトと深刻な降雨不足は、南部と中部のいくつかの州で食料不安の極端な増加を招いている。
・全体で、約165万人が食料危機にあると推定された。

セネガル共和国-局地的な降雨不足
・最新の「Cadre Harmonisé」の分析によれば、約34万1,000人が2019年6月から8月期にかけ、食料支援を必要とした。
・加えて、主としてモーリタニアからの難民、推定1万4,500人が国内に居住している。

シエラレオネ共和国-食料価格の高騰

・2019年6月から8月にかけて、約12万4,000人が深刻な食料危機におちいると推定される。

スーダン共和国-紛争、社会不安と高騰する食料価格

・2019年1月から3月に深刻な食料不安にさらされている、主に国内避難民と紛争影響地域にある共同体で暮らす人々は576万人と推定される。高騰する食料価格に余裕を失った家計もまた懸念の対象である。
・9月初め時点で、約34万6,000人が8月の豪雨で引き起こされた洪水により避難を余儀なくされた。

ウガンダー局地的な生産不足と難民の流入
・2018年の作物生産の大幅な減産により、東部テソ地域と北東部のカラモジャ地域で、約50万人が厳しい食料不足に陥るとみられている。
・南スーダンからの難民約83万4,000人と、コンゴ民主共和国からの難民約36万6,000人が難民キャンプにおり、人道支援に頼っている。

アジア(8ケ国)


食料生産・供給総量の異常な不足

シリア・アラブ共和国―紛争
・約650万人のシリア人が食料危機に直面しており、食料と生計への支援を必要としている。加えて、250万人が食料危機にあり、危機対応力を高めるため、生計への支援が必要とされている。
・国際的食料支援が実施されているものの、シリアからの難民が近隣諸国の受け入れコミュニティの食料不安を高めている。


広範囲な食料アクセスの欠如

朝鮮民主主義人民共和国―2019年主耕作期の生産不足と経済不振
・平年以下の降雨量および4月中旬から7月中旬の灌漑水不足により、2019年の主耕作期の食料作物生産量は過去5年間を下回ると予測されている。
・3月29日から4月12日にかけて行われた、FAO/WFPによる2019年合同評価ミッションによれば、1,010万人(人口の4割)が食料不足に直面し、緊急の食料支援が必要とされている。

イエメン共和国―紛争、貧困および食料価格
・燃料価格の高止まり
・2019年4月にもっとも厳しい状況の45地区のうちの29地区で総合的食料保障レベル分類(IPC)ホットスポット調査が行われ、125万人が極度の食料不足にある(IPC評価のフェーズ3「危機」もしくは4「緊急事態」)とされた。これは、155万人とされた2018年12月の予測より減っている。


厳しい局地的食料不安

アフガニスタン・イスラム共和国―紛争と避難民
・2018年12月の人道ニーズ概況報告(HNO)は、1,350万人がIPC評価のフェーズ3「危機」あるいはそれより悪い状況と見込んでおり、そのうち360万人はフェーズ4「緊急事態」にあると予測している。紛争と自然災害が続き、限定的な経済活動が、生存ラインギリギリの農家も含む、最も貧しい家庭の危機対応能力を弱めている。

バングラデシュ人民共和国―多数の難民流入が受け入れコミュニティに負担をかけている
・UNHCRによる最新の数字(2019年8月)によれば、ミャンマーからの約91万人のロヒンギャ難民がバングラデシュ内の主にコックスバザール県で暮らしている。多くの難民は2017年8月後半のミャンマー・ラカイン州での暴力再発を受けてバングラデシュに逃げた。

イラク共和国―紛争
・180万人と推定される人々が国内避難民となっている。
・おおよそ240万人が食料不足に陥っている。

ミャンマー―カチン州、シャン州、ラカイン州の一部の地域での紛争
・UN-OCHAの最新データ(2019年5月)によれば、ラカイン州で16万人、カチン州及びシャン州北部で10万6,500人が、継続する紛争で国内避難民となっている。72万人のロヒンギャ難民は、ミャンマー・ラカイン州での暴力再発を受けてバングラデシュに逃げた。これらの避難民は一時的な住居にいて厳しい食料状況にあり、必要最低限の暮らしを維持するための人道支援を必要としている。

パキスタン・イスラム共和国―避難民の発生と一部地域での穀物生産不振
・バロチスタン州及びシンド州の一部での2018年から2019年にかけての継続する干ばつによる穀物の減産と家畜の被害が食料危機を悪化させ、深刻な栄養不良が増える原因となっている。
・この国には未登録も併せて140万人に近いアフガニスタンの難民がいる。これらの人々の大半が人道支援を必要としており、受け入れコミュニティのすでに限られた資源に負担をかけている。

ラテンアメリカ・カリブ海 (2カ国)


広範囲な食料アクセスの欠如

ベネズエラ・ボリバル共和国―厳しい経済危機
・長引く厳しい経済危機の中、ベネズエラからの難民と移民の数は430万人に達すると推定されている。彼らは南米やカリブ海の近隣諸国に定着している。受入国でのこれらの難民と移民に対する人道支援のニーズは大きい。
・同国において、ハイパーインフレを考慮すると、購買力は激減し、世帯の食料アクセスを厳しく制限している。加えて、2019年の穀物生産は主に農業投入財不足を反映して、既に低い水準にあった前年より減少すると予想されている。


厳しい局地的食料不安

ハイチ共和国―続く干ばつと高いインフレ
・干ばつの穀物生産(特にトウモロコシ)への影響と、コメや主食を含む輸入食料価格の高騰により、2019年8月時点で約260万人が食料支援を必要とすると予想されている。

世界の穀物概況

2019/20年度の穀物供給は当初予想よりも豊富

今月、世界の穀物生産予想が上方修正されたことから、2019/20年度の世界の穀物供給は以前の予想を上回ると予想される。とはいえ、2019/20年度に予想される利用の増加に応じるために、世界の在庫は期首に予想されたほどではないにせよ、なおも減少せざるをえないだろう。

FAOの最新の予想によれば、2019年の世界の穀物生産は27億800万トンとなり、7月の予想を2,300万トン上回り、現時点で2018年の生産を5,540万トン(2.1%)上回ることになる。前月比での生産増予想のほとんどは世界のとうもろこし生産予想の上方修正によるもので、現時点で7月の予想を2.0%、2018年の生産を0.7%上回る11億2,400万トンとなっている。このさらに上昇傾向にある予想は、主として米国で作付け時期に降雨過剰であったものの単位面積当たりの収量予想が改善されたことによるものである。加えて、収穫がほぼ終わるブラジルで先日2019年の生産予想が上方修正され、さらに世界の生産予想を増加させた。

2019年の小麦生産予想はこの上方修正から外れており、FAOの現時点での予想では7月の予想を400万トン下回る7億6,700万トンとなっている。ロシアおよびEUでの収量減予想が、中国(本土)および米国での上方修正をわずかながら上回った。今月の下方修正があっても、今年の小麦生産はなおも2018年の生産を3,600万トン(5%)上回ると予想される。

最新の予想によれば、2019年の世界のコメ生産(精米換算)は5億1,700万トンと見られ、7月の予想からわずかに上方修正され、現時点では史上最高水準であった昨年に匹敵する。この増加の多くは中国(本土)で、好収益を期待して農民たちが以前予想された以上に多くの田圃に作付けを行ったことによる。同様に、米国では、以前天候不順と低価格予想に基づいて減少すると予想されたほどには作付けが減少しなかったことを反映して、生産(予想)が上方修正された。これらの生産増予想が、主として市場価格が低いために作付けが減少したバングラデシュにおける若干の生産減予想を上回った。

記録的な2019/20年度の世界の穀物利用予想はさらに増加して27億1,500万トンとなり、7月の予想より700万トン、2018/19年度の穀物利用よりも3,710万トン(1.4%)となっている。小麦の全利用の予想は前回レポート時よりも若干(160万トン)増加し7億6,000万トンと史上最高値を示し、2018/19年度を1.8%上回る。絶対値で見ると、この世界の小麦利用の前年比での増加は食用利用の高まりが主因であるが、小麦の全体としての飼料利用も3.7%増加すると予想される。これは近年にない急速な前年比での小麦利用増を意味しており、飼料利用の大幅増、特にEUおよび米国における増加によるものである。2019/20年度の粗粒穀物の全利用は14億3,700万トンと見られ、7月の予想から約500万トン、2018/19年度の利用よりも1.2%(1,700万トン)増加となって、こちらも史上最高を記録している。とうもろこしおよび大麦の利用の増加が7月の予想からの上方修正の主因そして前年度からの利用増予想の大部分を占めており、ソルガム利用の若干の減少を補って余りある。2019/20年度の世界のコメ利用は史上最高の5億1,900万トンに達すると予想され、前年比で1.3%増となり、一人当たり年間消費量を0.5kg増加させることになる。

最新の予想では、2020年に期末を迎える世界の穀物在庫は、7月から1,940万トン増加し8億4,700万トンをわずかに超えるが、なおも期首の水準から1,600万トン(1.8%)近く減少することになる。今回の予想に基づくと、2019/20年度の穀物の世界の利用に対する在庫率は30.3%に達し、2018/19年度をわずかに下回るが、なおも比較的高水準であり、世界の穀物供給が好調な年度であることを示している。それに対し、FAOの予想では、世界の小麦在庫は7月から500万トン近く減少し、2億7,360万トンとなり、前期の在庫水準を600万トン(2.2%)上回るものの、2017/18年度の記録にほぼ1,000万トン及ばないこととなる。今月の予想の下方修正は主として主要な小麦輸入国数ヶ国における期末在庫の減少予想によるもので、特に以前の予想よりも生産の減少が予想されるロシア連邦で期末在庫が大きく減少する。それでも、2020年に期末時点での世界の小麦在庫は期首から増加する。中国(本土)で今年も小麦の大豊作による在庫の大きな増加が予想され、これが主要輸出国数ヶ国で予想される在庫減を補って余りあると見られる。現時点で、中国(本土)における全小麦在庫は、期首の水準を約950万トン(7.9%)上回る史上最高の1億2,900万トンに達すると見られる。2019/20年度期末の世界のコメ在庫は現時点で1億7,900万トンと見積もられ、7月の予想からわずかに減少し、2018/19年度の高水準から1.0%の減少となる。バングラデシュ、中国(本土)、インドネシアといった国々が前期に増加させた大きな在庫を減少させると予想されるものの、今期の在庫減少は全てコメ輸入国で生じると予想される。

FAOの予想では、2019/20年度の世界の穀物貿易はほぼ4億1,500万トンとなっており、7月の予想から変化はない。今期の穀物貿易は、小麦とコメの貿易が増加してとうもろこしおよびソルガムの貿易の減少を補うと予想され、2018/19年度に迫る貿易量を保つと予想される。2019/20年度(7月/6月)の小麦貿易は、主としてモロッコおよびアジアの一部の国々の旺盛な輸入需要に支えられて、2018/19年度から500万トン(3.0%)増加して1億7,300万トンを保っている。増加の多くは、アルゼンチン、EU、ウクライナからの輸出増によってまかなわれると予想される。しかし、世界最大の小麦輸出国であるロシア連邦による小麦輸出は、輸出余力の減少によって2018/19年度よりも300万トン減少し、3,250万トンへと縮小すると予想される。最新の予想によれば、2020年度(1月−12月)の世界のコメ貿易は、中国(本土)の輸入需要減少が予想されることが主因となって、50万トン減少し4,800万トンにとどまる。しかし、この下方修正にもかかわらず、中国(本土)およびインドの輸出増が貿易の回復に大きく寄与して、世界のコメ貿易は2019年度の水準を160万トン(3.3%)上回ると予想される。前回の予想から変動はなかったものの、2019/20年度(7月/6月)の世界の粗粒穀物貿易は、前年度から600万トン(3.0%)減の1億9,320万トンへと大きく減少すると見られる。予想される減少の多くは、カナダ、中国(本土)そして特にEUで輸入需要が減少することから世界のとうもろこし貿易が1億6,000万トンとなり、2018/19年度よりも570万トン減少することによる。予想される世界貿易の減少は、米国およびウクライナからの輸出減、そこまでは大きくない南アフリカからの輸出減が、アルゼンチン、ブラジル、ロシア連邦からの輸出増よりも大きくなると見られることによる。

低所得・食料不足国の食料事情

低所得・食料不足国での2019年の生産量は、同等にとどまる

2019年のFAOによる低所得・食料不足国の穀物総生産量は4億7,350万トンで、2018年の生産高に匹敵し、直近5年の平均より2,000万トン多い。前年に比べ変化が少ないのは、いくつかの国において生産量が上向きなのに対し、サブサハラアフリカでは減少する予想のためで、アジアにおける大幅な生産増が相殺すると見込まれる。

サブサハラアフリカでの大幅な減少は、南部アフリカと東部アフリカにあたると推定されている。南部アフリカでは、モザンビークおよびジンバブエにおいて主に2つのサイクロンと、深刻な降雨不足の影響で生産量が急激に減少し、収穫量は平均よりもずっと低い予想である。天候が良好だったマダガスカルとマラウイでは、結果的に平均レベルまで収穫は上昇すると予想される。

東部アフリカの国々では、干ばつが早くに始まったため第一収穫期の生産量が落ち込み、また降雨不足が続き、主要シーズンの収穫量も減少すると予想する。ケニア、ソマリア、スーダンでは平均を下回る見込みで、前年比を大幅に下回る。

西部アフリカでは、沿岸の国々において局地的な乾燥により穀物生産量が減少する見込みである。加えて、とりわけナイジェリアの北東部、Lake Chad Basin、マリの中央部において社会不安と紛争が続くために、農業生産能力が落ち、生産見込みを減少させている。

西部アフリカにおける総穀物生産は依然平均を上回る予想だが、2018年に収穫量よりは減少する。アフリカ中央部では紛争と社会不安が続き、2019年の収穫予想を引き下げている。

アジアでは、インドにおいて小麦生産量が記録的な高さだったことから、アジア東部の一部で2019年の総穀物生産は大きく平均を上回る見込みである。バングラデシュ、朝鮮民主主義人民共和国およびネパールでは生産量は微増する予想で、これらを合わせするべトナムで予想されている生産量の減少を相殺する以上である。

中近東では、シリア・アラブ共和国において、十分な降雨があり社会不安も改善されていることから作付けが増え、2019年の生産量は増加した。しかし、2002年から20011年の危機的状況に近いレベルよりかなり低い生産量にとどまる。アフガニスタンでは、良好な天候に恵まれ、穀物生産量を引き上げ、一方イエメンでは紛争が続き、農業分野は深刻な状況である。

サブサハラアフリカでの輸入需要が拡大する予想

全体として、2019/20年度の低所得・食料不足国の総穀物輸入量は7,330万トンになる予想で、ここ7年で初めて前年比から減少した2018/19年度の輸入量に続き、減少した。今年の予想は、2019年の収穫量が激減し、外部からの供給を必要としているジンバブエの輸入が平均を大きく上回ると予想されることから、南部アフリカの輸入増が見込まれる。

輸入需要は、東部アフリカや西部アフリカでも上昇すると予想されるが、その範囲は縮小している。とりわけバングラデシュ、ネパールやウズベキスタンのアジアの国々では、国内生産量が増え国内需要を満たすと予想され、従って輸入需要が低く、輸入量は減少する予想である。

今知る世界の食料危機 No.16(2021年9月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.15(2021年7月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.14(2021年3月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.13(2020年12月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.12(2020年9月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.11(2020年7月号)⇨

今知る世界の食料危機 No.10(covid-19の影響)⇨

今知る世界の食料危機 No.9(2020年3月号)

今知る世界の食料危機 No.8(2019年12月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.6(2019年7月号)

⇦ 今知る世界の食料危機No.5(2019年3月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.4(2018年12月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.3(2018年9月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.2(2018年6月号)

⇦ 今知る世界の食料危機 No.1(2018年3月号)


世界の食料 国別状況 あ行

ウガンダエスワティニエチオピアエリトリア

世界の食料 国別状況 か行

カーボヴェルデカメルーンギニアケニアコンゴ共和国コンゴ民主共和国)

世界の食料 国別状況 さ行

ザンビアシエラレオネジブチジンバブエスーダンセネガルソマリア)

世界の食料 国別状況 た行

タンザニアチャド中央アフリカ)

世界の食料 国別状況 な行

ナイジェリアナミビアニジェール)

世界の食料 国別状況 は行

ブルキナファソブルンジ)

世界の食料 国別状況 ま行

マダガスカルマラウイマリ南スーダンモーリタニアモザンビーク)

世界の食料 国別状況 ら行

リビアリベリアレソト)