国連食糧農業機関(FAO)は、Global Information and Early Warning System(GIEWS)というページで、世界の食料危機に関する情報を提供しています。
2017年度まで、国際農林業協働協会が発行する季刊誌「世界の農林水産」に、GIEWSの資料の一部(”Crop and Prospects”および”Food Outlook”)を紹介するページが設けられていました。
2018年度、同誌は紙面リニューアルを行い、この紹介ページはなくなりました。
そこで、2017からAJFが呼びかけて行っている「FAOの資料を読む学習会」参加メンバーが中心となって、”Crop and Prospects”の「外部からの支援を必要としている国」「世界の穀物の需給概況」「低所得・食料不足国の食料事情」の3項目の参考訳を作成し、紹介していくことになりました。
「今知る世界の食料危機 No.19」では、2022年7月に公開された”Crop and Prospects #2 Jul 2022”の該当ページを紹介します。
「FAOの資料を読む学習会」、「今知る世界の食料危機」の作成に関心を持ったら、info@ajf.gr.jpへご連絡ください。
外部からの支援を必要としている国
アフリカ (33カ国)
食料生産・供給総量の極めて深刻な不足
中央アフリカ共和国ー紛争、避難、高騰する食料価格
- 2022年4月に発行された最新の食料安全保障レベル分類(IPC)によれば、2022年4月から8月までに社会不安の高まり、避難、高騰する食料価格から、IPCフェーズ3( 危機)以上の深刻な食料不足人口は220万人になると推定される。
- 2022年4月30日(※原文は31日)現在、65万3,000人が国内避難民となり、約73万8,000人が近隣諸国で難民となっている(ほとんどがカメルーン、コンゴ民主共和国、チャド)。
ケニア共和国ー干ばつ状態
- 2022年3月から6月、約410万人が深刻な食料不安に陥ると推定される。これは、2020年後半からの雨季の連続した降雨不足が主に北部と東部の牧畜、農牧および限界農耕地域の作物と家畜生産に与えた影響を反映したものである。
ニジェール共和国ー紛争、穀物生産の不足
- 「Cadre Harmonisé」最新号の分析によれば、2022年6月ー8月期に約440万人が人道支援を必要とすると推定される。これは、紛争および治安状況の悪化、天候不順により2021年の穀物生産が著しく落ち込んだことによるものである。さらに、食料価格が前年よりも上昇して食料へのアクセスが妨げられ、状況の悪化に拍車をかけている。
- 2022年5月現在、内戦によって推定26万5,000人がディファ、タウア、ティラベリ地域で避難民となっている。さらに、ナイジェリアとマリからの29万人の難民を受け入れている。
ソマリア連邦共和国ー不十分な雨、社会不安
- 2021年初頭からの紛争の高まりにより、2022年5月には約520万人が深刻な食料不安に直面すると推定される。これには、2020年後半から少ない雨量の雨季が続いた結果、IPCフェーズ5(大惨事)に直面しているベイやバクール地域の3万8,200人が含まれ、作物と家畜生産に深刻な影響を与えている。
広範な食料アクセスへの欠如
ブルンジ共和国ー異常気象、高騰する食料価格
- 2022年6月から9月の間に、約64万6,000人が深刻な食料不安に陥ると推定されているが、これは主に、5月の雨不足が中央および南東部のマメ類生産に影響を与えたこと、COVID-19の社会経済的影響、燃料価格が上昇して輸送コストが上がり食料価格が高騰したことによるものである。
チャド共和国ー社会不安、穀物生産の不足
- 最新のCadre Harmoniseの分析によると、ラックおよびティベスティ地域では、生計活動を妨げ、人口移動を引き起こすような不安定な状況が続いていること、また2021年の穀物生産量が平均を下回ったことから、2022年6月から8月にかけて約210万人がCHフェーズ3(危機)以上になると推定された。
- 2022年5月現在、チャド湖地域の治安の悪さから、約38万人が避難している。また、紛争による中央アフリカ共和国、ナイジェリア、スーダンからの難民57万8,000人が人道支援を必要としている。
コンゴ民主共和国 ー東部の社会不安、経済低迷、高騰する食料価格
- 2021年11月のIPC分析によると、2022年1月から6月の間に2600万人が深刻な食料不安に直面し、IPCフェーズ3(危機)以上になると推定された。これは、避難を引き起こし続けている東部州の北キヴ、南キヴ、イトゥリで進行中の紛争と、COVID-19パンデミックの経済的影響によるものである。国内および国外での主食の価格高騰は今後食料不安をさらに悪化させる可能性がある。
- さらに、同国で実施されたIPC緊急栄養不足分析によると、2022年519の「健康ゾーン」のうち70のゾーンで、85万7,000人の5歳以下の子どもたちと47万人の妊婦または授乳中の女性が深刻な栄養不足に直面しているとみられている。
ジブチ共和国ー不順な天候、高騰する食料価格
- 2022年3月から6月の間に約13万2,000人が深刻な食料不安に陥ると推定された。これは主に2021と2022年の雨量の不足が放牧地や牧畜民の生計に影響を与えたこと、食料価格の高騰によるものである。
エリトリアーマクロ経済の課題による食料不安人口の増加
エチオピア連邦民主共和国ーティグライ州における紛争、南東部の干ばつ状態、食料価格の高騰
- 2021年後半、1800万人が食料不安にあると公式発表されている。2021年人道支援計画中間評価によると、ティグライ州の紛争の影響を除き、約1,280万人が食料支援を必要としているとされている。ティグライ地域では、2021年北部エチオピア対応計画の改定によると、約520万人が紛争による生計への影響で深刻な食料不安に直面している。
- 干ばつの影響を受けている南部諸民族州の南部および南東部、オロミア州の南部ボレナゾーンとソマリ州の新しい推計によれば、2022年3月から5月にかけて720万人が食料不安になるとされている。
ナイジェリア連邦共和国ー北部地域での紛争、穀物生産の局地的な不足、食料価格の高騰
- Cadre Harmoniséの最新の分析によると、2022年6月から8月にかけて約1,945万人が人道的食料援助を必要とすると推定され、この中には北部諸州での治安および紛争悪化、主食作物の局地的な雨不足、高騰する食料価格、収入減少によりCHフェーズ4(緊急事態)に陥るとされる118万人が含まれる。北部諸州では、2021年10月の時点で、約314万人が国内避難民となっていると推定された。
南スーダンー経済の低迷、洪水、治安の悪化
- 継続的な人道支援にもかかわらず、人口の大部分が今も食料不安にさらされている。これは、マクロ経済状況が改善しないことによって引き起こされている食料および食料以外の価格高騰、農業生産の停滞による食料供給不足、連続する広範囲な洪水の影響による生活手段の喪失、地域レベルで組織化された暴力の拡大によるものである。2022年4月から7月にかけての端境期には、約774万人(全人口の約63%)が深刻な食料不足に陥ると推定される。
- 特に懸念されるのは、ジョングレイ州、レイク州、ユニティ州で、人口の60~80%が深刻な食料不安に陥り、合計8万7,000人がIPC フェーズ5(大惨事)に直面していると推定された。
ジンバブエ共和国ー食料価格の高騰、穀物生産の落ち込み
- 2022年1月から3月にかけて、推定300万人が人道支援を必要とすると予測された。これは主に、食料価格の高騰による食料へのアクセスの悪さと、景気後退の影響による所得の減少が理由である。
- 2022年の穀物生産量の減少および食料価格の高騰により、2022年末までの食料不安人口は増加するとみられる。
ブルキナファソー北部での社会不安、穀物生産量の不足、食料価格の高騰
- Cadre Harmoniséの最新分析によると、2022年6月から8月の間に345万人が食料不安に陥り、人道支援を必要とすると推定された。そのうち、62万8,000人はCHフェーズ4(緊急事態)に相当する。センター・ノール地域とサヘル地域では、治安悪化で人口の移動が続いており、2022年3月時点では、約185万人が避難し、支援を必要とした。また、サヘル地域には、マリを中心とした約2万5,000人の難民が居住している。
- 国内の穀物生産は、悪天候や内戦の影響により、2021年には平均を下回る水準に落ち込むと予測されており、状況はさらに悪化するとみられる。異常な食料価格の高騰も食料へのアクセスを制限する要因となっている。2022年1月のクーデターも治安悪化と食料不安に拍車をかけている。
カメルーンー社会不安
- 2022年3月の「Cadre Harmonisé」の分析によると、2022年6月から8月の間に約240万人が深刻な食料不安、フェーズ3(危機)以上と推定された。これは主に、紛争、社会政治的不安、食料価格の高騰によるものである。
コンゴ共国ー難民の流入、洪水
- 2022年4月30日現在、中央アフリカ共和国から約2万9,100人、コンゴ民主共和国から2万2,100人の難民が国内に居住しており、その多くがリクアラ県とプラトー県に居住している。受入コミュニティは食料不足に直面し、生計の機会も限られ、難民の食料確保は基本的に継続的な人道支援に依存している。
エスワティニー経済の低迷
- 33万6,000人近くが、少なくとも2022年3月の主な収穫期までは食料不足になるとされた。COVID-19の流行が経済に及ぼす悪影響により、食料へのアクセスが制限されているためである。
ギニアー収入の減少
- 2022年6月から8月の間に、主にCOVID-19パンデミックの影響による食料アクセスの制約で、約122万人が食料援助を必要としていると推定され、そのうち2万人がCHフェーズ4(緊急事態)に相当すると推定された。
- また、コートジボワールとシエラレオネを中心とする約5,300人の難民が国内に居住している。
レソト王国ー経済の低迷
- 2022年1月から3月の間にフェーズ3(危機)レベルの食料不安に直面する人の数は33万8,000人と推定された。これは、経済回復が遅れ、食料にアクセスするための世帯の経済的能力に影響を及ぼしていることを反映したものである。
リベリアー食料価格の高騰、経済の低迷
- 最新の「Cadre Harmonisé」の分析によると、高い食料インフレ率とCOVID-19の大流行による経済への悪影響により、2021年6月から8月にかけて約94万人がフェーズ3(危機)以上と推定された。主食であるコメの生産量は2021年に平均を下回ると推定され、2022年の食料不安をさらに悪化させる要因になると予測されている。
- 2022年5月現在、支援を必要とする約3,600人の難民を受け入れている。
リビアー社会不安、経済的・政治的不安定、高い食料価格
- 2022年人道的ニーズ概要によると、人口の10%にあたる80万人が人道支援を必要としており、そのうち50万人が国内避難民または国内に居住または同国を通過する移民で、食料支援を必要としている。
マダガスカルー異常気象、経済回復の遅れ
- 2022年4月から8月、 南部および南東部地域では推定168万人がIPCフェーズ3(危機)の食料難に陥っており、相次ぐ干ばつや2022年のサイクロンの影響への緊急人道支援を必要としている。
- 経済回復の遅れにより、生計を維持する機会が少なく、食料価格の高騰とあいまって脆弱な立場の人々の食料への経済的アクセスが困難になっている。
マラウィー経済の低迷、穀物生産の減少
- 推定165万人が2022年1月から3月にかけてフェーズ3(危機)レベルの食料不安に直面している。これは穀物生産の局所的な不足とCOVID-19の流行による経済低迷の影響が残っているためである。
- 2022年、特に南部地域で穀物生産高が若干減少したことと食料価格の高騰により、2022年第4四半期には、食料不安が拡大する見込みである。
マリー社会不安、食料価格の高騰
- 最新の「Cadre Harmonisé」の分析によると、2022年6月から8月にかけて、184万人がCHフェーズ3(危機)に直面すると予測され、紛争激化、異常気象、2021年の穀物生産量の減少、高い食料価格により、15万6000人がCHフェーズ4(緊急事態)に直面するとしている。
- 2022年5月現在、国内避難民は約37万人で、そのほとんどが同国の中部と北部で発生している。また、ニジェール、モーリタニア、ブルキナファソを中心とした約5万3,000人の難民を受け入れている。
モーリタニア・イスラム共和国ー農業生産不足と経済低迷
- 最新の「Cadre Harmonisé」の分析によると、2021年の穀物および家畜生産量の減少およびCOVID-19の経済への負の影響による収入減少の結果、2022年6月から8月に人道支援を必要とする人は87万8000人にのぼるとされた。
- 2022年5月時点、主にマリからの87,000人の難民も人道支援を必要としている。
モザンビークー北部地域の治安悪化、異常気象
- 2022年のサイクロンや熱帯性暴風雨は、特に中部州で多くの人々に影響を与えた。一方、北部のカボデルガド州の治安の状況により、生計への影響とさまざまなレベルでの喫緊の食料不安が続き、約24,000人が紛争の続いているカボデルガド州でIPCフェーズ4に直面するとみられている。
ナミビア共和国ー主食生産の局所的な不足、経済の低迷
- 2021年に不作に見舞われた地域や、主に世帯の食料へのアクセスを制約する収入や仕事の減少などのCOVID-19パンデミックの悪影響で、2021年12月から2022年3月の間に推定75万人がフェーズ3(危機)レベルの食料不安に直面すると予測された。
- 2022年に穀物生産が増加し、食料不安に良い影響を与えると思われたが、基礎的な食料の価格が高騰しており、実質的な影響は限られる模様である。
セネガルー局地的な穀物生産の不足と収入減
- 最新の「Cadre Harmonisé」分析によると、2022年6月から8月期に、約88万1,000人が人道支援を必要とすると推定された。これは、2021年の穀物生産が局地的に不足したこと及びCOVID-19の影響を受けて収入が減少したことによる。
- モーリタニア出身者が大半を占める推定1万4,500人の難民が人道支援を必要としている。
シェラレオネー食料価格の高騰、収入の減少
- 2022年6月から8月にかけて、食料価格の高騰と購買力低下により、160万人が深刻な食料不安に直面し、各世帯の食料へのアクセスが急激に悪化するとみられている。
スーダンー紛争、社会不安、食料価格の高騰、少ない供給
- 2021年の収穫減から派生した供給量の減少、食料価格の高騰、コミュニティ間の紛争による社会不安により、2022年6月から9月にかけて、深刻な食料不安に直面する人々の数は1,170万人にのぼると推定される。
ウガンダー異常気象、社会不安、高騰する食料価格
- カラモジャ州では、2022年3月から7月にかけて、約51万8,000人(人口の41%)が深刻な食料不安に陥ると推定されている。これは主に、作物や家畜の生産に悪影響を及ぼす不十分な雨、多発する牛の盗難被害が引き起こした資産の損失と食料価格の高騰が招いた結果である。
- 南スーダンからの約93万4,000人の難民と、コンゴ民主共和国からの約42万9,000人の難民がキャンプで受け入れられ、人道支援に頼っている。
タンザニア連合共和国ー局地的な主食用作物の生産不足、食料価格の高騰
- 降雨不足による2021年10月ー12月期の「(ヴリ)Vuli」および3月ー5月の「マシカ(Masika)」期の作物損失を反映して、主に北東マラ、アリューシャ、キリマンジャロ、及びタンガ州で、2022年5月ー9月の間、約59万2,000人が人道支援を必要とすると推定されている。また、食料価格の高騰により世帯の食料への経済的アクセスが限られている。
ザンビア共和国ー穀物生産の減少と食料価格の高騰
- 2022年の穀物生産量は平均以下に減少した。食料価格の高騰とあいまって、食料不安に直面する人々の数は2022年末時点で増加するとみられ、2022年第1四半期に推定された160万人を超える水準になるとみられている。
世界の穀物需給概況
2021/22年の世界の穀物在庫は増加の見込み
FAOは、2021年の世界の穀物生産量について、2月に発表した予測値から220万トン引き上げ、2,796万トンとし、前年比で0.7%増とした。
この上方修正は、世界のトウモロコシとコメの生産量予測が増加したことに起因する。一方、ソルガムの世界生産量予測が引き下げられ、月次総量の上昇を緩やかにしている。これらの変更を加味した結果、世界の粗粒穀物生産量予測は15億100万トンとなり、前年同期比1.2%増となった。この増加の大部分は、欧州連合とインドにおけるトウモロコシ生産の増加によるもので、スーダンの粗粒穀物生産の減少を補って余りあるものである。
世界のコムギ生産の予測は、オーストラリアの生産量増加を反映し、記録的なレベルを確実なものとしている。一方、欧州連合、イラク、パラグアイの推定値がわずかに引き下げられたことで相殺され、月単位で7億7,540万トンに据え置かれた。220万トンの上方修正を受け、2021年の世界コメ生産量は5億1,930万トンに達すると予想され、2020年から0.7%増加し、新記録に達することになる。2月の予想と比較すると、この増加は主にインドの生産見通しがより好調であることを反映しており、公式にも今シーズンの主要作物の収穫量が記録的であることが示されている。この修正とマダガスカルの生産量予測の上方修正により、タンザニア連合共和国の下方修正は目立たなくなっている。
2021/22年の世界の穀物利用率の予測は28億200万トンに引き下げられ、2月の報告よりも350万トン減少し、2020/21年のレベルを1.5%(4,100万トン)上回った。今月の下方修正の大部分は、世界のコムギの利用量が300万トン減少したことによるもので、主にインドでの使用量が予想より少なく、輸出の増加が見込まれるためである。それでも、主に食料消費の増加が見込まれるため、コムギの利用量は前年比1.5%増の7億7,280万トンになると予想されている。同様に、2021/22年の世界の粗粒穀物利用量は、前回予測からわずかに縮小した。飼料用穀物の使用量がやや減少したことを反映し、15億900万トンに縮小したが、それでも2020/21年比で1.4%増加すると見られている。FAOの2021/22年の世界のコメの利用予測は2月以来わずかな変更しかなく、引き続き前年比1.7%増の5億2,000万トンとなり、過去最高となることが示された。
2022年末の世界の穀物在庫は、前月比1,160万トンの上方修正を受け、当初から僅かに(0.5%)増加し、8億3,600万トンに達する見込みである。最新の予測によれば、世界の2021/22年の穀物使用量に対する在庫比率は29.1%となり、2020/21年の29.7%からわずかに減少して8年ぶりの低水準となるものの、全体として十分な供給レベルを示している。欧州連合のコムギ在庫が増加しているのは、過去の生産量の上方修正と予想輸出量の減少によるものであり、今月、世界のコムギ在庫が360万トン上方修正された要因になっている。今月の世界のコムギ在庫は2億9,100万トンとなり、期首比1%増となる見通しである。インドと欧州連合におけるトウモロコシの生産量増加で、世界のトウモロコシ在庫も増加し、粗粒穀物在庫も470万トン上方修正された。インドが保有する予想備蓄量が上方修正されたことにより、2021/22年販売シーズン終了時点におけるFAOの世界コメ在庫予測は、2月の予測から320万トン上回り、1億9,090万トンとなった。
FAOの2021/22年の世界穀物貿易の予測は、前回予測より270万トン増加し、2020/21年のレベルを0.9%(450万トン)上回り、前月比4億8,400万トンに引き上げられた。この予測は、ウクライナ紛争がウクライナとロシアからの輸出に与える潜在的な影響をまだ想定していない。2021/22年シーズンの残り(3月1日~6月30日)については、ウクライナはコムギを約600万トン、トウモロコシを1,600万トン、ロシア連邦はコムギを約800万トン、トウモロコシを250万トン輸出すると予測されている。
FAOはこの動向を注視しており、2021/22年の世界の穀物貿易への影響を評価していく予定である。2021/22年(7月/6月)の世界コムギ貿易は、現在、2020/21年のレベルを2.5%(480万トン)上回り、記録的な1億9,400万トンと予測されている。これは、カザフスタンとサウジアラビアの需要が前回予想を上回り、110万トン増加したことを反映している。輸出面では、記録的な豊作がインドとオーストラリアによる前回予想を上回る販売を支えていると見られる。2021/22年(7月/6月)の粗粒穀物貿易予測も前回レポートから140万トン引き上げられたが、依然として2020/21年の水準から0.9%(210万トン)縮小し2億3,700万トンになると予測される。この縮小は主に、世界のトウモロコシ貿易が1.7%減少することによるものである。十分な輸出量と、特にアフリカと中東のバイヤーを中心とした需要増により、3年連続で年間5,340万トンの拡大を維持すると予測される。
2022年産穀物の早期見通し
FAOが発表した予備予測では、世界のコムギ生産量は4年連続で増加し、7億9,000万トンになる。
この増加の大部分は北米に由来すると予想される。カナダとアメリカ合衆国の両地域では、価格主導の面積拡大と収量の回復が見込まれるため、生産量は前年同期比で増加し、2022年の生産高は、過去5年間の平均を上回る見込みである。欧州での結果は一様とはならないことが予想されている。
ロシア連邦では、早期の乾燥から天候が改善し、収量が増加する見込みで、2022年の生産量は、暫定的に8,200万トンとなる見込みである。ウクライナはコムギ作付面積の縮小により生産量は減少することが予想されるものの、過去5年平均を若干上回ると予想される。これらの予測では紛争の影響を考慮していない。欧州連合では、作付けは前年比ほぼ横ばいと予測され、コムギの生産量は暫定的に1億3,300万トンに減少する見込みである。これは、2021年に記録した高水準に続く収量の減少が予想されるためである。
英国および北アイルランド連合王国のコムギ生産量は、播種面積を若干拡大した効果が収量の減少により相殺される見込みで、前年並み約 1,400 万トンにとどまる見込みである。アジアでは、インドとパキスタンで小幅な増産が見込まれている。これは、政府の支援政策が継続されていることと、報酬価格が高い水準にあり播種が維持されていることが下支えとなっている。中国(本土)のコムギの作柄も良好で、2022年の生産量は5年平均を上回ると予想される。中東諸国では、初期の降雨不足に続いて、2021年末から2022年初めにかけての広範囲かつ平均を上回る降雨により作物の見通しが改善し、2022年の生産量は平均レベルに近いと予測される。カザフスタンでは、これまでの降雨が概ね良好であったため、生産見通しが改善され、コムギの生産量は平年をやや上回ると見られている。北アフリカでは、モロッコ、アルジェリア西部、チュニジア中部で広範な旱魃が作物に影響を与え、2022年のコムギ生産量全体の見通しを悪化させている。
粗粒穀物の生産については、南半球の国々では今後数ヶ月で2022年産穀物の収穫が始まるが、赤道より北の国々ではまだ作付けが始まっていない。南米では、アルゼンチンとブラジルの2022年のトウモロコシ生産量が平均を大きく上回り、特にブラジルでは過去最高の1億1200万トンに達すると予測されている。この見通しは、国内穀物価格の上昇と旺盛な輸出需要に農家が積極的に反応し、播種量が過去最高となったことが主な要因となっている。南部アフリカでは、南アフリカの生産見通しが同様に良好で、作付けが若干減少するものの、良好な気象条件により2022年のトウモロコシの生産量は平均を上回ると予測されている。
低所得・食料不足国の食料事情
悪天候のため、低所得・食料不足国の2022年穀物の初期生産量の減少が予想されており、2022年穀物の収穫は南部アフリカとアジアで4月から始まり、播種は東アフリカ、中央アフリカ、西アフリカで同じような時期に始まる見込みである。
南部アフリカのマダガスカル、マラウイ、モザンビーク、ジンバブエでは穀物生産の見通しは芳しくない。これは、雨季の開始が遅く、雨季の2021年10月から12月の最初の3ヶ月は平均以下の降雨量であったことが影響している。その後、1月と2月にサイクロンと熱帯性暴風雨の被害を受け、2022年の穀物生産量は平均かそれ以下と予想される。東アフリカでは、2022年の穀物の大半は3月から4月にかけて作付けされる予定である。現在の気象予測によれば、次の雨季(3月〜5月)の収穫はまちまちで、不確実性が高い。平均以下の降雨量予測が現実のものとなれば、前例のない4年連続の降雨不足の雨期が食料供給とアクセスの面で悲惨な結果をもたらすだろう。さらに、南スーダンやエチオピアのティグライ州などの紛争影響地域では、引き続き農作業の中断が予想され、生産見通しをさらに悪化させている。西アフリカでは、2022年の穀物の播種も3月から4月にかけて開始される予定である。同様に、2021年はニジェールやブルキナファソなどの紛争の影響を受けているいくつかの国では引き続き生産資材へのアクセスが妨げられ、収量が減少すると予測される。中東のシリアとアフガニスタンではシーズン始めの不規則で例年以下の降雨により、2022年の小麦の生産予測が悪化している。残りの期間の作物生育状況が改善するには順調な降雨が必要である。CIS(独立国家共同体)アジア諸国では、春先の降雨量の少なさが続くという予報に加え、不順な天候であるため、6月に収穫される2022年の冬小麦の生産量が減少する見込みとなった。
2021年のLIFDCsの穀物総生産量に関するFAOの最新予測における総生産量は平均を上回り、1億8600万トンで、平均より約210万トン高い。平均を上回る増加の大部分は、バングラデシュと南部アフリカ諸国での大豊作によるもので、ガーナとセネガルでの生産量の増加も全体の総生産を押し上げる要因となった。対照的に、スーダン、ニジェール、シリア、アフガニスタンでは、天候不順や紛争が農作業に与えた影響により、穀物生産量が著しく低下した。
2021/22年の輸入需要の増加
2021/22穀物年度のLIFDCの輸入総需要は、過去5年間の平均を15%上回る6,660万トンと推定される。平均を上回る総輸入需要の大部分は、2021年の生産不足を反映した東アフリカと西アフリカの国々の高い輸入需要が占める。バングラデシュでは、食料消費の高まりにより小麦の輸入量が増加しており、全体として平均を上回る輸入需要の要因となっている。南部アフリカ諸国では、2021年の豊作で輸入需要が減少し、特にジンバブエで顕著であった。