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国際保健政策:早くも「次のパンデミック」へのグローバルな体制が焦点に

=G20ハイレベル独立パネルの報告書が発表=

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、ワクチンの登場とデルタ株など変異株の拡大で新たなフェーズを迎えている。一方、グローバルヘルスをめぐる政治の焦点は、終わりの見えないCOVID-19危機の中で早くも、「ポストCOVID-19」における新たな地球規模の枠組みの構想に向かっている。5月には世界保健機関(WHO)の在り方を含め、パンデミック対策・対応の新たな仕組みを構想する「パンデミック対策・対応独立パネル」(IPPPR)の最終報告書「COVID-19を最後のパンデミックに」(COVID-19: Make it the last pandemic)が発表されたが、これに引き続く形で、G20がこの1月に設立した「パンデミック対策・対応のための地球規模公共財への資金政策に関するハイレベル独立パネル」(HLIP)が7月9日、最終報告書「我々のパンデミック時代のための地球規模の取り決め」(A Global Deal for Our Pandemic Age)を発表した。

先行するWHO独立パネル(IPPPR)報告書と対照的な内容

設置と報告書の発表で先行したIPPPRは、WHOや国連の枠組みに範をとる形で、ニュージーランド元首相でUNDPの総裁も務めたヘレン・クラーク氏とノーベル平和賞受賞者でリベリアの大統領を務めたエレン・ジョンソン・サーリーフ氏が共同議長を務め、市民社会の代表も参加するなど、先進国と途上国、政府と市民社会など他セクターがある程度バランスよく参加する形をとっていた。HLIPはこれとは対照的に、ラリー・サマーズ財務長官、ンゴズィ・オコンジョ=イウェアラ元世銀副総裁(現・世界貿易機関(WTO)事務局長)、ターマン・シャンムガラットナム・シンガポール上級相の3名を議長に、国際金融機関および先進国・新興国の金融機関の経営者などが主要なメンバーを構成し、欧州の経済シンクタンクであるブリューゲルのサポートを受ける形で組織された。発表された報告書も、G20の中でも、各国財務省および国際金融機関で作る「G20財務トラック」と親和的な内容となっている。

国際金融機関の関与強化を提言

同報告書は、パネルの趣旨に沿って、主にパンデミック対策・対応に必要な資金政策(financing)に関する方向性がまとめられている。同報告書は、冒頭でCOVID-19の破壊的な影響と「次のパンデミック」への準備を早急に進める必要性を強く訴えたうえで、「4つの主要なギャップ」として、(1)地球規模の感染症サーベイランスと調査、(2)強くしなやかな国レベルのシステム、(3)感染症対策製品の開発・供給、(4)パンデミック対策のグローバルガバナンス、を示す。そのうえで、このギャップを埋め、今後のパンデミックに備えるために、各国が国レベルでパンデミック対策への拠出を増やすと同時に、グローバルで今後5年間で合計750億ドル、もしくは毎年150億ドルの拠出を行うこと、また、この資金は途上国の開発に充てる政府開発援助(ODA)の付け替えによってではなく、パンデミック対策の安全保障上の新たな側面を認識して、新たな形で行うべきだと述べる。また、パンデミック対策のグローバル・ガバナンスについては、新たに、G20諸国の財務大臣と保健大臣、主要な地域機関の長などを委員とし、とくに資金の面を統括する「国際保健脅威理事会」(Gobal Health Threats Board)を設置し、IPPPRが提唱する国連・WHOベースの「国際保健脅威評議会」(Global Health Threats Council)を補完すべきと主張する。また、世界銀行や国際通貨基金(IMF)において、パンデミック対策・対応のための地球規模公共財への資金政策を主要な役割として位置付けたうえで、その資金を担保するために、100億ドル規模の「国際保健脅威基金」(Global Health Threats Fund)を設置し、WHOへの新たな資金拠出と共に、政府および民間のパンデミック対策投資への触媒効果をもたらすべきである、と主張している。

HLIPの報告書は、パンデミック対策・対応に関するWHO・国連サイドからの考え方を中心に構築・発展させたIPPPR報告書に対する、世銀・IMFなどの国際金融機関などの応答としての側面を強く持っている。

市民社会は概してG20ハイレベルパネル報告書に批判的

この報告書について、G20に対する市民社会のエンゲージメント・グループであるC20(市民20)などからは、批判的な反応が出ている。国際金融機関における各国の決定権は各国の出資額に比例するため、特に低所得国や下位中所得国の主張は届きにくい。また、2000年代を通じて分野別に数多くの多国間基金や調整機関が設置され、そのうちのいくつかが政治的コミットメント不足で失敗に追い込まれてきた。また、80年代以降のWHOにおける任意拠出金の拡大とドナー依存の傾向が、WHOの独立性や権限を弱めてきた、との総括が市民社会にある。こうした経験を踏まえて、多くの市民社会関係者は、先進国や巨大新興経済国がより大きな権限を持つようなパンデミック対策ガバナンスや、これまでの様々な多国間基金よりも大きな金額を持つ基金の新たな設置などについて警戒感を表明している。