日本のアフリカ政策が問われるTICAD Ⅳ

TICAD 4: Japan’s African policy is questioned

『アフリカNOW』98号(2013年5月31日発行)掲載

執筆:斉藤龍一郎
さいとう りょういちろう:AJF 事務局長(2000年4月より)。AJF 食料安全保障研究会運営担当。メールマガジン “AFRICA ON LINE” 編集メンバー。障害学会、日本アフリカ学会会員。TICAD Ⅳに向けたNGO のネットワークであるTICAD Ⅳ・NGO ネットワーク(TNnet)の運営委員を務めている。


今年(2008年)5月に横浜で開催される第4回アフリカ開発会議(TICAD Ⅳ )に向けて、昨年3 月にアフリカに関わるいくつかのNGO が集まりTICAD Ⅳ・NGOネットワーク(TNnet)をスタートさせた。
TNnetは、TICAD プロセスへの市民参加を求めるアフリカと日本の市民社会の共同の取り組みを追求すること、アフリカが直面する課題について広く理解を促していくことを目的としている。TICAD市民社会フォーラム(TCSF)が事務局を務めるゆるやかなネットワークとして、月例会合で情報を共有し、取り組みの進め方を確認しながら、昨年5月から6回のTICAD外務省・NGO定期協議を行ってきた(今年5月に最後の定期協議開催を予定している)。昨年10月には、国連開発計画(UNDP)と共催で国際シンポジウム「市民が求めるアフリカ開発とは〜国連ミレニアム開発目標達成のためにTICADができること〜」を開催した。また、昨年10月にザンビア・ルサカと11月にチュニジア・チュニスで開かれたTICADⅣ地域準備会合、そして今年3月にガボン・リーブルビルで開かれた閣僚級会合にアフリカ諸国のNGO とともに参加してきた。
TICAD外務省・NGO定期協議をはじめとするTICADプロセスへの参加を通して知り得たこと、および報道などをもとに、TICAD Ⅳで何が討議・決定されようとしているのかを考察し、私たちが何を言うべきなのか、どのような行動が求められているのかを考える手がかりとしたい。

TICAD Ⅳの新しさ

TICAD Ⅳには、TICAD Ⅲまでにはない新しさが3つある。
一つ目は、今年7月初め北海道・洞爺湖で主要国首脳会議(G8サミット)が開かれることもあって、具体的成果が求められていることだ。日本政府のアクション・プランの内容と実行姿勢が問われることになる。
二つ目は、TICAD Ⅲに比べると倍に近いアフリカ45カ国(今年3月初めの予想数)の首脳が参加することだ。これまでアフリカ諸国の首脳のTICADへの参加数は、1993年のTICAD Ⅰでは5人、1998年のTICAD Ⅱでは13人、2003年のTICAD Ⅲでは23人であった。2006年11月に北京で開かれた中国アフリカ協力フォーラム北京サミットを上回る首脳出席が目指されているのであろう。
三つ目は、2009年に開港150周年を迎える横浜市の積極的な取り組みだ。大きなアフリカ地図を描き、アフリカの著名なスポーツプレーヤーなども紹介したリーフレットを20万部作成して、市内の小・中学生全員に配布している。また、「一校一国」運動と銘打って、アフリカ出身のテレビタレントや大使館員が小・中学校で授業を行う取り組みも進めている。さらに、今年のアフリカンフェスタ2008は、例年の開催地である東京・日比谷公園ではなく、横浜・赤レンガ倉庫前の広場で開催されることになっている。

中国は新興援助国か?

近年、中国が石油など地下資源獲得を前面に打ち出してアフリカに接近している、と語られることが多い。アフリカ諸国との関係を深める中国について、「中国の支援に対して(アフリカ側の)警戒感が高まっている」と外務省幹部が語ったという報道(1)もある。
それに対して、昨年1月に国際協力総合研修所で開かれたセミナーで発言した中国の研究者は「中国とアフリカ諸国との関係は1950年代に始まる」ことに注意を促し、さらに中国はアフリカ諸国との平等・互恵の関係を目指していることを強調していた。
歴史を振り返れば、中国は1970年代から1980年代にかけては旧ソビエト連邦との対抗関係から、1990年代以降は台湾との対抗関係からアフリカ諸国へ援助を行い、協力関係を結んできたことは明白だ。留学生の受け入れなどの人的な交流の積み重ねも大きい。
最大の発展途上国を自称し、友好と連帯を前面に出してアフリカ諸国との友好関係を作っている中国を「新興援助国」としてのみ捉えるのでは、事態を見誤ることになるだろう。

TICAD Ⅳで具体的成果が?

今年1月末にエチオピア・アディスアベバで開かれたアフリカ連合(AU)総会で、森喜朗元首相は日本政府を代表して「(TICAD Ⅳを)単なる意見交換の場ではなく具体的成果を出す場としたい」とスピーチした。従来のTICADは「アフリカ諸国とアフリカの開発パートナーとが、アフリカ開発の今後のあり方について真剣な政策対話を行う場を提供するもの」(1993年TICAD Ⅰでの細川総理演説)であり、具体的なアフリカ開発のあり方を決める会議や、参加した国々・機関が実施することを前提とした提案をする会議ではなかった。森スピーチの背景には、こうしたTICADのあり方では、日本がアフリカ諸国に期待している国連常任理事国入りや世界保健機関(WHO)事務局長選などでの支持を得ることができてきていない現状の打破が困難だ、という判断があるのだろう。
したがって、TICAD Ⅳで採択される横浜宣言やTICAD Ⅳに合わせて日本政府が発表するアクション・プランは、日本政府がアフリカ諸国政府への支持を求めて送るメッセージとして読むことができる。

TICAD Ⅳ:3つの柱、4つの協力分野

昨年5月の第1回TICAD 外務省・NGO 定期協議の際、外務省の目賀田アフリカ審議官(当時)は、「経済成長の促進」・「人間の安全保障の確立」・「地球温暖化への対応」の3つを柱としてTICAD Ⅳの準備を進めていることを明らかにした。2003年のTICAD Ⅲ開催後に、2004年11月に東京でTICADアジア・アフリカ貿易投資会議、2006年2月にエチオピア・アディスアベバでTICAD平和の定着会議、2007年3月にケニア・ナイロビでTICAD持続可能な開発のための環境とエネルギー閣僚会議を開催してきたことをふまえて、これらの課題に取り組むことを表明したと言えよう。
これに対してTNnetは、TICADは国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に寄与すべきだと主張し、MDGs達成を責務とする国連機関からの働きかけもあって、日本政府は「人間の安全保障の確立」の下に「MDGs達成」と「平和の定着」という2つの協力分野を設定した。これによってTICAD Ⅳでは、「経済成長の促進」・「MDGsの達成」・「平和の定着」・「気候変動への対応」の4つの協力分野に関する議論が行われることになる。

経済成長の促進

アフリカの経済成長の促進につながるものとして日本政府が進めている政策には、ケニアへの円借款再開(2)、第2世銀を通した投融資拡大(3)、税関業務の円滑化支援(4)、インフラ整備支援(5)、知的財産権に関わる制度の整備(6) などによる投資環境整備、レアメタル確保に向けた民間企業との連携(7)、そしてアフリカの就労人口の大多数を占める農業開発に向けたアフリカ緑の革命同盟との協力(8)、などがある。
投資環境整備の取り組みを民間企業による投資に結びつけるためには、基本的な情報提供の充実や事業従事者の安全性の確保などから始まるさまざまな課題があることが指摘されている。
一方で現在アフリカ諸国は、石油やレアメタルに加え、バイオ燃料作物の産地としても注目を浴びており、欧米企業に加え、中国、インド、ブラジルなどの企業が積極的な投資を行っている。ところが、石油産出によって急激な経済成長を記録している赤道ギニアについて、外務省の基礎データでは「石油収入が必ずしも国民の貧困解消に寄与していないとの指摘もある」(9)と記載されている。また、2002年12月の大統領選挙による政権交代以降に経済成長が続いていたケニアでは、昨年末の大統領選挙後に大規模な騒乱が起こった。このように、格差を拡大する経済成長であれば、むしろ社会不安を増大させることを念頭において考えなくてはならない。
人口の多くが農村居住者であり、農業従事者も多く、農業生産が国民総所得(GNI)に占める割合も無視できないアフリカ諸国の農業支援が重要であることは言うまでもない。さらに、アフリカ大陸の広大さに対応してアフリカにおける営農体系が多様であることや、農業・林業・水産業が環境や人々の生活に及ぼす影響を考えると、特定の営農形態を推奨するかのような援助政策ではなく、地域の状況をふまえた人々のさまざまな営農努力を力づける農業支援のあり方を明示すべきである。地域が大規模な土地集積や単一作物栽培一色に染まるような農業のあり方を求める海外資本主導のバイオ燃料作物生産計画に対して、農業・農村開発活動を行っているアフリカのNGOからも警告が発せられている。

MDGsの達成
保健・教育・水問題への取り組み

昨年11月25日に高村外務大臣は「国際保健協力と日本外交〜沖縄から洞爺湖へ〜」と題した講演(10)を行い、2000年7月のG8沖縄サミットで日本がエイズを始めとする感染症対策を取り上げたことが今日の世界的な取り組みにつながっていることをふまえ、さらに国際保健分野での協力を強化することを表明した。この講演の中では、安全な水へのアクセスについても言及している。また福田首相も、今年1月26日にスイス・ダボスでの世界経済フォーラム(ダボス会議)で特別講演(11)を行い、保健・教育・水に関する取り組みの必要性を強調した。いずれも、MDGs達成目標年度である2015年までの折り返し年にあたる2008年に、MDGs達成が困難視されているアフリカでの開発をテーマに開催されるTICADにふさわしい議題であろう。どのような経済成長が望ましいのかを考えるためにも、人々の健康と教育が長期的な経済成長にとってきわめて重要であるという意味でも、TICAD Ⅳの成果を決定するテーマであるとも言える。
保健・教育・水をめぐる状況をどう捉えるべきか、現在どのような取り組みがなされているのか。そうした取り組みをふまえた今後の課題は多岐にわたっており、簡潔に紹介することはむずかしいが、たとえばアフリカ諸国では、「万人のための教育:ダカール目標」の下で初等教育無償化の取り組みが大きく前進している。このことは、前述したダボス会議での福田講演でも触れられているが、その一方で、国際協力に関心を持つ人々の間でも十分に知られているとは言えない。この状況を広範な人々に伝えることも、NGO・市民社会が担うべき重要な取り組みの一例であろう。

平和の定着

今年2月に、日本政府がスーダンへの自衛隊派遣を検討しているという報道(12)がなされた。一方で、今年1月初めにタンザニアを訪問した高村外務大臣はスピーチの中で、「アフリカ諸国の難民救援や食料援助、国連平和維持活動(PKO)の訓練施設などに総額2億6,000万ドル(約300億円)の資金協力」について語っている。また、福田首相もダボス会議の講演の中では、「新たに、アフリカ自身の平和維持能力向上を目的としたアフリカ各地のPKOセンターへの協力」に触れているにすぎない。
急浮上した自衛隊派遣論は、政府の中で平和の定着に関する方針が固まっていないことをうかがわせる。「平和の定着」がアフリカにおいて重要な課題であることに異論はないだろうが、「平和の定着」を掲げて日本政府が何を追求しているのかについては不明確な点も多く、今後、さらに継続したウオッチングが必要とされる。

気候変動への対応

昨年、アフリカ・サヘル地域で広範囲な水害が起こり、地球温暖化の影響かと問題になった。昨年11月12日の共同通信は「温暖化対策で『横浜宣言』 来年、アフリカ開発会議」と題した記事(13)で、温暖化対策の先進技術を持つ欧州連合(EU)と(日本との間で)アフリカ支援をめぐる「争奪合戦」が激化する一方で、省エネ技術などを有する日本の民間企業はアフリカ支援への参加に慎重であると報じている。だが、日本を含む先進国の生活・経済活動が現在の地球温暖化に大きな影響を及ぼしていると言われている中で、地球温暖化対策とアフリカ支援を別個のものとして考えることができるのだろうか?今年3月14〜16日に千葉で開かれた気候変動、クリーンエネルギーおよび持続可能な開発に関する第4回閣僚級対話(G20 ちば2008)では、アフリカ諸国を含む途上国代表から「一人当たりの排出量が大幅に少ないわれわれが、なぜ主要排出国として先進国と同じグループに入らなければならないのか」「(長年、大量の二酸化炭素を排出し続けてきた)先進国の歴史的責任をどう考えるのか。こんな総括は認められない」という怒りの声が出されている。
一方で、温室効果ガス=二酸化炭素を吸収する農業によって生産される燃料、すなわちカーボン・ニュートラル・エネルギーとしてバイオ燃料が注目を浴び、アフリカ諸国を含む多くの途上国で、バイオ燃料生産計画が打ち出されている。これらの計画のほとんどは、先進諸国、ブラジル、中国、中東諸国の企業が途上国でのバイオ燃料生産に投資し、生産された燃料は先進国へ輸出するというものだ。国内で必要とするバイオ燃料を生産することのできない日本、EU諸国が主たる輸出先に想定されている。アフリカ諸国で農業・農村開発に関わるNGOや環境問題に取り組むNGOから、アフリカ諸国の食料安全保障を脅かし、農民から土地を取り上げることや保護林伐採につながりかねないバイオ燃料生産計画に対する懸念の声が上がっている。
スマトラ沖地震・津波の際、ソマリア沖で難破した船から流れてきた産業廃棄物によってソマリアの人々が被害を受けた。また、ヨーロッパからコートジボワールに運ばれた産業廃棄物から毒ガスが発生し、何人もの死者が出ている。こうした事件は氷山の一角であり、先進国の有害ゴミを途上国に押しつけるような動きも監視しながら、何が問題になっているのかを明確にすることが求められている。

TICADへの市民の参加とは

TICAD Ⅳの開催を機に、横浜市がアフリカ理解教材を作成し、アフリカ理解授業を実施していることは、これまでにない成果につながる可能性がある。市民向けのアフリカ理解講座や市内の大学や国際機関と連携したシンポジウム・セミナーも多数開催されている。こうした状況は、1998年のTICAD Ⅱフォローアップ事業として始まったアフリカンフェスタのあり方を見直すよい機会になるとも言えよう。
1998年のTICAD Ⅱの後では、アフリカンフェスタの開催に加え、アフリカ理解授業やアフリカ諸国からの留学生受け入れ拡大がフォローアップ事業として打ち出された。アフリカンフェスタは、在日アフリカ人コミュニティの人々も楽しみにする、アフリカ色豊かなイベントとして定着している。アフリカ諸国からの留学生も以前より接触する機会が増えた。残念なことに、在日アフリカ人と日本人の研究者・NGO スタッフが小・中学校を訪問して行ったアフリカ理解授業は、何度かの試みで終了してしまった。今回、横浜市で取り組まれた「一校一国」運動が、他の自治体での取り組みの参考になればと願っている。また、NGOのバオバブの会が試行的に実施したアフリカの学校とのビデオ・レターによる交流事業もさらに試みられて欲しい。
その一方で、TICAD Ⅳの会合そのものへの市民参加は、オブザーバー参加とゲスト・スピーカーによるスピーチに限られている。会場外からTICAD Ⅳが無視できない声をあげていくこと、TICAD Ⅳを契機にアフリカへの関心と理解をさらに広げ、深めていくことが求められている。

(1) 2008/3/3 MSF 産経ニュース 「約45カ国の首脳級が参加 5月に『第4回開発会議』」 http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080303/plc0803032044011-n1.htm
(2) 2007/11/20 北海道新聞 「30 年ぶり大型円借款供与へ 政府、ケニアの港湾施設に」 http://www.hokkaidonp.co.jp/news/politics/61517.html
(3) 2007/11/22 時事ドットコム 「第2 世銀に3500億円出資へ=アフリカ支援重視、前回比26%増‐政府」 http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007112200929
(4) 2007/11/28 NIKKEI NET 「財務省、アフリカ諸国と関税フォーラム」 http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20071128AT3S2801Q28112007.html
(5) 2008/01/15 yomiuri.co.jp 「アフリカ道路網整備、国際支援の柱として政府検討」 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080115i401.htm?from=main4
(6) 2008/02/01 IP NEWS 「特許庁、28日開催した知財分野アフリカ支援会議について発表」 http://news.braina.com/2008/0201/move_20080201_001____.html
(7) 2007/10/25 asahi.com 「経産相、南ア・ボツワナ訪問 レアメタル確保へ」 http://www.asahi.com/business/update/1024/TKY200710240707.html
(8) 2008/02/10 yomiuri.co.jp 「アフリカ農業支援で政府、ゲイツ氏らと連携」 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080210-OYT1T00035.htm
(9) 外務省ウェブサイト http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eq_guinea/data.html
(10) 外務省ウェブサイト http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/19/ekmr_1125.html
(11) 外務省ウェブサイト http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/20/efuk_0126b.html
(12) 2008/02/16 時事ドットコム 「スーダンに自衛隊派遣検討=南部地域でPKO 活動」
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2008021600153

(13) 2007/11/12 共同通信 「温暖化対策で『横浜宣言』来年、アフリカ開発会議」 http://www.47news.jp/CN/200711/CN2007111201000081.html


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