• info@ajf.gr.jp
  • 〒110-0015 東京都台東区東上野1-20-6丸幸ビル3F

『モンサントが支配する世界』を読んで

『アフリカNOW』93号(2011年1月31日発行)掲載

The World According to Monsanto
Pollution, Corruption, and the Control of the World’s Food Supply
Written by Marie-Monique Robin
Translated from French to English by George Holoch
The New Press (May 4, 2010)
384pages
Price : 26.95US$
ISBN : 978-1-59558-426-7

 

執筆:山本義行
やまもと よしゆき:1943年生まれ。英語と仏語のフリーランス翻訳者。1968年に北海道大学工学部を卒業後、新日本製鐵を経て昭和鉄工に勤務し、2004年に定年退職。DAPAD事務局を経てAJF会員に。シニアエキスパートフォーラム(SEF)会員。


悲惨な過去に向き合わないモンサント

今日では世界の農業アグリビジネスを牛耳るまでになった米国企業モンサントは、同社のホームページや2011年の年報によると、米国内だけで従業員10,317人、全世界では66カ国に従業員21,305人、売上高118億2200万米ドル、純利16億700万米ドルという大規模な多国籍大企業であるが、同社のホームページには化学メーカーであった過去のことは書かれていない。
驚くべきは、本書を執筆したフランスのフリージャーナリストが暴露している同社の企業としての生態である。これはPCB(ポリ塩化ビフェニル)汚染にまつわる犯罪的行為の歴史でもある。PCBは、電気絶縁性が高く、耐熱・耐薬品性に優れているため、加熱冷却の熱媒体、変圧器の絶縁油を中心に広く使用されたもので、有毒性ダイオキシン類に分類される。PCBによる汚染は、日本でも1968年に発覚したカネミ油症事件として知られ、1972年にPCBは製造禁止になった。世界では、2004年に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約が発効し、PCBは2025年までに使用全廃、2028年までに適正な処分(高温焼却処分)が求められているものの、欧州でもその実態は自主申告に任されており、その除去・処分は不徹底な状態にあるとされる。
モンサントの過去をさかのぼると、1929年にスワン化学会社からモンサント化学会社に再度の名称変更したときにPCBの製造を開始した事実にたどり着く。モンサントのPCBによる深刻な被害は、遅くとも1937年には同社内で具体的に認知がなされていたにもかかわわらず、1977年に米国でPCBの製造が禁止されるまで実に40年間も放置されてきた。1929年のPCB製造開始以来、モンサントの工場があった米国アラバマ州アニストンの工場周辺の黒人地域社会は、PCB汚染によるがんや流産の異常発生頻度などの深刻な被害に悩まされたが、モンサントはPCB汚染の事実を徹底して隠匿し続けた。それでも、1990年代の半ばになってようやく、ひそかに敷地の除染や周辺不動産の買い上げを始めたものの、PCBが汚染源になっていることはあくまで否定し続けた。2002年には原告3,500人規模の集団訴訟において陪審員全員一致の表決によりモンサントが敗訴したにもかかわらず、いまだに謝罪も懺悔もまったくなしの完全永久否定を続けているのだ。
ミズーリ州の小都市タイムズビーチでも、1971年にダイオキシンによる異常現象が発生。1982年には住民の間でパニックが起き、1983年には政府が原因不明のまま3,000万ドルで都市ごと買い上げという決定をせざるをえなかった。モンサントは、PCBがこの異常現象の原因であると知っていながら、その事実を隠ぺいし、責任回避を続けた。また1970年代には、ベトナム戦争で使用されたモンサント製造になる、かの悪名高き枯葉剤のオレンジ剤によるPCB被害が明らかになり、ダイオキシンの後遺症に苦しむ4万人を超えるベトナム帰還兵が集団で提訴。1984年にモンサントなど製造会社側は、枯葉剤の被害を認めないまま、原告側に補償金を支払うことに合意した。
さらに2007年には、フランスで欧州環境基準の5-12倍のPCB汚染がローヌ川流域の沿岸300kmにわたり発見され、いまも沿岸付近の魚介類の食用が禁止されている。この事件も、モンサントの子会社がかつて投棄したことが原因とされる。最近の調査では、PCB汚染はフランスの広範囲にわたっており、特にセーヌ川はローヌ川以上に深刻な状態にあると言われる。

特許が許された遺伝子

転換作物1980年米国最高裁はついに、形質転換遺伝子微生物を特許の対象とすることを認めた。それ以降、バイオ技術だけでなく天然の遺伝子も特許の対象になってしまった。これを契機にして遺伝子組み換え(GM)作物の開発が大いに進展し、1996年には早くも本格的なGM作物の商業栽培が始まった。
2010年に国際アグリバイオ事業団(ISAAA)から発表された「世界の遺伝子組替え作物の商業栽培に関する状況:2009年」によると、GM作物の商業栽培面積は25カ国で1億3,400万haにも達するほどに拡大した。作物別にみたGM品種の作付け割合は大豆77%、綿花49%、トウモロコシ26%、ナタネ21%となっている。また、GM作物の商業栽培面積は世界で前年より約900万ha増加、もっとも増えた国はブラジルで前年比560万ha増(35%)、アルゼンチンを抜いて世界第2位になった。第1位は米国である。アフリカでは、早くからGM作物を栽培し、2009年にはその栽培面積が210万haに達した南アフリカに加え、2008年から害虫抵抗性綿花の栽培を始めたブルキナファソで栽培面積が8,500haから11万5,000haへと14倍に増加した。ISAAAは、GM作物の栽培面積900万haの増加分のうち700万ha(+13%)が途上国、200万ha(+3%)が先進国で、栽培面積は今後も途上国で伸びると予想している。
GM作物の種子を農家に直接販売しているのは中小を含む種子企業であるが、主な種子企業はM&A(合併と買収)によって軒並みバイオメジャーの傘下に収まってしまった。モンサント、デュポン、シンジェンタの3社で世界種子市場の5割近くを占め、GM作物品種に限れば、バイエルを加えた4社でほぼ独占状態となっている。農薬市場では、種子事業でやや遅れをとったBASFとダウを加えた上位6社で世界全体の76%のシェアを占める。農薬規制の強化と新規有効成分開発の困難化に直面する農薬企業にとって、種子、特にGM作物の種子は重要な戦略商品に位置付けられている。特許を強力な武器として種子市場の寡占化をはかることで、GM技術や遺伝子資源の囲い込みが行われ、種子価格の高騰を招いているといわれている。モンサントは野菜種苗やサトウキビ種苗にも手を広げ、他社ブランドも含め、GM形質が組み込まれた品種系統の種子のシェアはトウモロコシで8割以上、大豆で9割以上に達すると言われる。

モンサントと行政との危うい関係

農家はモンサントとの種子購入(技術使用)契約で、自家採種や種子譲渡を禁じられている。違反者を摘発するために同社が雇った「遺伝子警察」に圃場査察やサンプル採取の権限が与えられ、近隣農家間で監視通報できるよう専用ダイヤルまで設置されている。2006年には種子販売だけでなく特許情報の永久的なレンタル契約にもに成功し、訴訟で破産する農家も続出した。モンサントは「これは新しい革命だから生みの苦しみはある。しかし技術は正しい」と言ってはばからない。花粉が非GM作物の畑に蜂や風で分散しても特許権侵害でモンサントから訴えられる可能性もあり、現在の特許法では他人のGM作物で汚染されても賠償責任を免れない。意図しない混入であってさえも契約違反で提訴され、多額の罰金を科せられている。元の品種に戻ろうにも、GM品種が普及してしまった国では非GM作物の優良品種系統が入手しづらくなっている。
このようなにわかには信じられない、利益のためにはなりふりかまわない企業生態が許されている背景には、長年にわたり定着した同社幹部と行政トップとの天下りを通じた「回転ドア」と評される癒着関係があるとされる。モンサントは広島、長崎の原爆の製造にもかかわった化学メーカーで、国防総省に人脈の根を張っていたと言われる。現在に至るまでも、GM製品を食品として監督する米国食品医薬品局(FDA)やGM製品を殺虫剤として監督する環境省(EPA)の要職に同社の幹部が天下りする慣例が長年にわたり定着しているため、ユーザーの立場で監督すべきFDAやEPAは、いかなる批判があろうとも企業寄りのル―ル設定や運用を徹底できると言われる。会社のためにはデータのねつ造をする、デマ情報を流す、都合が悪ければ自由な研究発表を邪魔する、買収してまで相手を黙らせる。この時代にまさに信じられない態度を示してどこ吹く風なのだ。
もともと生命を軽んじてはばからない無機質な化学品を得意とするメーカーが、いつのまにか生命をもっとも重んじなくてはならない有機物を扱う農業を牛耳るようになったことだけでも驚きである。その上、このような邪悪な企業生態をもつ会社が現在のハイテク、種子、食品製造、アグリビジネスに関わっているという現実を知るべきである。このような事態を招くことを許す現在の世界のルールには、明らかな欠陥があると言わざるをえない。
そもそも、複雑系の自然に対する影響が未知のままの最先端技術は、慎重な安全確認環境があって、高度な技術監視の上に長い目で普及されていくべきものであるはずである。現に、農薬や殺虫剤いらずで手間いらずの高収率といった触れこみの除草剤耐性GM品種や害虫抵抗性品種、これらの品種の機能を両方備えたスタック品種などのGM品種の効能も長続きせず、数年でその効能を越えるスーパー雑草とかスーパー害虫が出現したり、風媒や虫媒によって、他の自然のままの圃場も汚染されるといった被害が見られている。このような状況のもとで、GM作物の商業栽培に消極的な欧州や日本をしり目に、技術後進性をかかえる途上国を中心にGM作物の商業栽培が拡がりを見せていることに危うさを感じるのは一部の人たちだけなのであろうか?


アフリカNOWリンクバナー