特集:顧みられない病気に対する取り組み

途上国の発展を妨げる保健・医療の貧困

『アフリカNOW』87号(2010年2月28日発行)掲載

執筆:アフリカNOW編集部

保健・医療サービスと途上国の経済発展の関係について、すでに2001年末には、世界保健機関(WHO)のマクロ経済と保健委員会の答申において、エグゼクティブサマリーの冒頭に下記の表が提示され、開発と保健・医療サービスの関係への注意が促されている。この委員会に参加した加藤隆俊さん(元大蔵省財務官)は、『日本経済新聞』2001年12月28日朝刊の「経済教室」で、この答申の趣旨を次のようにまとめている。
報告の試算では、こうした必要最低限の保健・医療サービスは、低・中所得途上国をならしてみれば一人当たり30?40米ドルで利用することが可能である。低所得途上国で実行する場合、2015年でみて現在よりも660億米ドルの資金が追加的に必要となる。このうち外部からの援助資金は研究開発投資分も含め380億米ドル、残りは各国が負担することになる。
これは資金供与側からみれば国内総生産(GDP)の0.1%に相当する。これに対して報告は、世界経済からみた直接の経済便益だけでも1,800億米ドル、経済成長の加速などを考慮した間接効果も加えれば3,600億米ドル、すなわちかけたコストの約6倍の便益がもたらされると計算している。
換言するならば、途上国の現状は、保健・医療サービスが十分でないばかりに経済発展が阻害されている状態だということになる。
またこの答申は、公表直後の2002年1月1日に発足した世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)の理論的な根拠の一つにもなった。

顧みられない病気に対する取り組み

サハラ以南のアフリカ諸国では、エイズ、結核、マラリアの三大感染症に加えて、アフリカ睡眠病、内臓リーシュマニア症、ブルーリ潰瘍、住血吸虫症といった、先進国ではなじみのない疾病が多くの人々の健康、そして生命をも脅かしている。これらの疾病は、世界規模の製薬会社が本拠を置く温帯圏に住む人々にとってはなじみがなく、また、これらの製薬企業にとってサハラ以南のアフリカ諸国の市場がごく限られたものであるため、治療薬・治療法の開発・普及の取り組みが十分に行われてこなかった。そのために「顧みられない病気」(Neglected Disease)と呼ばれている。
これらの疾病による健康被害は、人々の生活・生命に関わるだけでなく、健康被害が広がる地域・国の経済発展を妨げる大きな要因にもなっている。これに対して、国際エイズ・ワクチン・イニシアティブ(IAVI)やマラリア・ワクチン・イニシアティブ(MVI)などのように、健康被害を受けている国々の公的機関やWHO、NGO、民間財団そして製薬企業がネットワークを組んで、感染予防のためのワクチン開発や治療薬・治療法の開発に取り組むPDP (Product Development Partnership)と呼ばれる動きも広がりつつある。
本特集で紹介する、顧みられない病気のための新薬イニシアティブ(DNDi)は、こうした動きの一環として、国境なき医師団(MSF)が1999年に受賞したノーベル平和賞の賞金を提供して開始された、顧みられない病気のための新薬(DND)ワーキンググループを経て、途上国の政府機関や公的機関を共同設立者として発足。新しい薬や治療法の開発・普及においてすでに注目すべき成果をあげている。DNDi Japan代表の平林史子さんに、DNDiの活動やアフリカでの取り組みについて話を聞いた。さらに、神戸国際大学のブルーリ潰瘍問題支援プロジェクト(Project SCOBU)の活動についての記事も掲載する。

平林史子さんに聞く-DNDi: 顧みられない病気のための新薬イニシアティ
DNDiの調査・研究によって生み出された新しい薬と治療法 平林史子
神戸国際大学ブルーリ潰瘍問題支援プロジェクトの取り組み 新山智基


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