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WSFがめざしてきたものとは

What has WSF been aiming at?

『アフリカNOW』76号(2007年3月25日発行)掲載

執筆:秋本 陽子
あきもと ようこ:ATTAC Japan運営委員。2002~2005年、2007年の世界社会フォーラムに参加。


世界社会フォーラム(WSF)は、毎年1月にスイスの高級リゾート地ダボスで開催されている世界経済フォーラム(WEF)に対抗する民衆フォーラムとして、2001年から開催されてきた。 WEFは政財界のトップエリートたちが集まって新自由主義に基づく世界のありようについて論じるのに対して、WSFは市場原理主義、競争主義を否定し、新自由主義的グローバリゼーションではないもう一つの世界を求めるために討論が行われる。 WSFのスローガンは”Another World is Possible!”(もう一つの世界は可能だ!)である。 「社会」フォーラムという発想は、1990年代後半に起きた経済のグローバル化に反対する社会運動の世界的な高揚の中で生まれた。 メキシコでのサパティスタの蜂起、フランスの反失業闘争、多国間投資協定(MAI)の破綻、世界貿易機関(WTO)シアトル第3回閣僚会議の失敗、国際通貨基金(IMF)や世界銀行の構造調整計画(SAP)に抵抗する途上国の民衆の闘いなどを経験する中で、世界を席捲する新自由主義的グローバリゼーションに反対する者たちの間から、 「われわれはどういう世界をめざすべきなのか」について徹底的に意見交換と討論をしようという声が高まった。 当時、ATTACフランスの代表であったベルナール・カッセン(『ル・モンド・ディプロマティク』編集長)は、WEFに対抗するものとして「社会」フォーラムの必要性を主張し、かつそれを「南=途上国」で開催することを訴え、2001年1月、ブラジル南部のリオ・グラン・デ・スル州ポルトアレグレ市で最初のWSFが開催された。 WSFポルトアレグレの開催は衝撃的であった。何か新しいものが南から始まったというWSFの成功が、瞬時に世界の活動家たちに伝わった。 「もう一つの世界」という抽象的かつ曖昧な概念は、いわゆる従来の社会主義または共産主義に基づく概念ではなく、また資本主義の改革や改良をめざすものでもない。 今までに存在しなかった新しい概念であり、あえていうなら、WSFとは、グローバル・ジャスティスを求めて世界規模で展開する変幻自在な新しいネットワーク型の運動である。 WSFは、日本の社会運動やNGOに慣れ親しんだ人たちにはわかりにくいだろう。

日本で行われる何らかの政治的または社会的なイベントでは、何らかの獲得目標が盛り込まれ、少なくともある方向性を示唆する形で終わらせることが多い。 しかし、WSFには結論がない。多様な人たちが世界中から集まって討論すること、意見交換すること、表現することなどが尊重される。 ここにWSFが場を提供するオープン・スペースであり、宣言という結論を出さないプロセスであるという理由がある。 一方で、WSFにはそれを性格づける最低限の規定がある。

第1回WSFが開催された後に、世界社会フォーラム国際評議会(WSF-IC)が作成した原則憲章(Charter of Principles)である。 この憲章はWSFを、

(1) 新自由主義、資本やあらゆる形態の帝国主義の支配に反対する者たちが集まるオープン・スペースである、
(2)「もう一つの世界は可能だ」としてオルタナティブを追求する、
(3) 多様性、民主主義を採用する、
(4) 政党や軍事組織としての参加を認めない、
(5) WSFとして宣言を出さない、

などの場として定めている(1)。 WSFに参加するためには、この憲章に同意することが求められる。 しかし、ナイロビで開催されたWSF2007では原則憲章に反する出来事が数多く見受けられた。 WSFはWEFやG8首脳とのパートナーシップを作り出すための場ではなく、排除、差別、宗教原理主義、権利侵害などが容認される場でもない。 従って本来的には、世界銀行、IMF、WTOなどのイニシアティブを志向する人たちが集う場ではないし、周縁化された者たちの参加が拒否されてはならない。 ところが、今回のWSF会場には、従来のWSFにはなかった光景があった。 中絶禁止を呼びかける教会のブースがあったり、西サハラからの参加者のセミナーが妨害されたり、高額な参加費を払う余裕のないケニア人たちが参加を拒否され、入口のゲートを突破して入場した青年たちが警察に身柄拘束されたりした。 さらに、会場内の飲食やミネラルウォーターの値段がナイロビでの通常価格よりかなり高額であるなど、商業主義も目立った。 WSFは本旨に還り、新自由主義批判を打ち立てて始まった出発点に戻るべきである。

【注】
(1) 憲章のエッセンスをまとめた。全文は以下のURLから。
http://www.wsf2007.org/process/wsf-charter