神戸国際大学ブルーリ潰瘍問題支援プロジェクト(Project SCOBU)の取り組み

Project SCOBU (Save the Children of Buruli Ulcer) in Kobe International University

『アフリカNOW』87号(2010年2月28日発行)掲載

執筆:新山智基
にいやまともき:日本学術振興会特別研究員DC(立命館大学大学院 先端総合学術研究科 博士課程)。神戸国際大学学生時代の2004年より、Project SCOBUの活動に従事し、現在に至る。ガーナ、トーゴ、ベナンの西アフリカ地域をフィールドとして、ブルーリ潰瘍問題に対する研究(主にNGOの支援研究など)を行っている。


ブルーリ潰瘍とは

ブルーリ潰瘍(Buruli Ulcer)とは、西アフリカ・中央アフリカ諸国で特に流行しており、世界的にみても熱帯と亜熱帯地域を中心に発生が確認されている感染症で、少なくとも32の国と地域(1)で症例が報告されている。古くは1897年にウガンダでブルーリ潰瘍と類似した潰瘍が報告され、1960年代にウガンダのブルーリ郡(2)というところで流行していたことから、ブルーリ潰瘍と名付けられた。1980年代以降、西アフリカを中心に症例が多く確認され、これを重く見た世界保健機関(WHO)は、1998年にグローバルブルーリ潰瘍イニシアティブ(Global Buruli Ulcer Initiative)を創設し、ブルーリ潰瘍に対する対策と研究を本格化させるのである。ブルーリ潰瘍に対する取り組みを始めたWHOは、「結核やハンセン病に続く深刻な感染症となる恐れがある」と警告している。
また、ブルーリ潰瘍を含む14の疾病を顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)といい、世界全体で10億人が感染し、年間50万人が死亡しているといわれている。14の疾病が共有する問題は、医療へのアクセスが十分でないことに加え、社会・経済的・歴史的、また政治的な問題などが複雑に絡んでいる。
ブルーリ潰瘍は、発病原因はマイコバクテリウム・アルセランス(Mycobacterium Ulcerans)という病原菌が体内に侵入することによって発病することがわかっているものの、感染源や感染経路は研究段階にあり、いまだに解明されていない。発病すると、痛みのない丘疹と呼ばれる虫さされのような潰瘍が初期症状として現れ、これが広がると病巣部が拡大し、患部の切除あるいは切断に至る。初診において、このような切除・切断まで悪化したケースもあり、早期発見・早期治療が重要となっている。早期発見・早期治療を妨げている原因には、経済・社会的な状況から医療に受診するが困難なことや、差別・偏見なども点在している。近年では、抗生物質による治療が確立されつつあるものの、潰瘍部の縮小にとどまり、完治には至らない。しかし、切断状態から患部の切除にまで負担が軽減できるようになったことなど、研究は進んでいる。
このような実情に対して、支援団体はどのような取り組みを展開してきたのだろうか。そこで次項からは、日本でも数少ないブルーリ潰瘍問題に取り組んでいる支援団体である神戸国際大学ブルーリ潰瘍問題支援プロジェクト(Project SCOBU)の取り組みを紹介していく。

国内での活動

神戸国際大学では、国際理解を深め、国際色豊かな人材を育成するための講座やカリキュラムを実施してきた。そうした中、ブルーリ潰瘍という難病に苦しむ子どもたち(3)のことを知ったのは1999年のことである。そのきっかけは、卒業生がWHOの関係者と出会った際に、ブルーリ潰瘍のことを聞きつけ、何か協力ができないかと、出身大学である神戸国際大学側に持ちかけたことに始まる。Project SCOBU (Save the Children of Buruli Ulcer)は、1999年に学生や卒業生、教職員などが協力して設立されたボランティア団体(国際NGO)であり、この疾病を取り巻いている問題とその問題に取り組む人々を支援することを目的としている。設立以来、学内だけでなく、学外のボランティア団体や、地域などの協力を得ながら地道な活動を続けてきた。
国内では、主にブルーリ潰瘍を周知してもらうために、チャリティーコンサートや高等学校での講演会、シンポジウム、写真の展示会などを通じて、ブルーリ潰瘍を取り巻く問題について啓発活動を行っている。また、地域の人々と交流を図りながら、支援を行うための募金活動などを実施している。
さらに、大学の特徴を活かした活動として、大学の講義にブルーリ潰瘍に関する幅広い分野からの科目がかって設置されていた。この講義の目的は、単にブルーリ潰瘍に対する支援活動を体験するだけでなく、これらの講義をきっかけにボランティア活動を幅広く理解し、将来の活動の担い手を育てることを視野に入れたものであった。講義内容は、キリスト教とボランティアの関わり,ボランティアと教育,ブルー潰瘍に関する医学情報,政府開発援助(ODA),募金活動等の実習などが含まれていた。

国際的な支援・活動

国際的な支援活動としては、流行地域への直接的な支援に加え、現地の資料・情報収集や国際会議での報告(4)、国際シンポジウムの開催などを実施している。
Project SCOBUでは、ブルーリ潰瘍が流行している地域に効果的な支援を行うために、WHOのブルーリ潰瘍対策プロジェクトであるグローバルブルーリ潰瘍イニシアティブと連携しながら、次の活動を実施してきた(2009年12月時点で実施されている支援活動は、「ブルーリ潰瘍こども教育基金」と「高等教育支援」である)。

・ 医療器具、洗濯機の寄付(ガーナ:2000年)
・ 病棟建設(コートジボワール:2000年)
・ 啓発用Tシャツの提供(ガーナ、コンゴ民主共和国、パプアニューギニア、ベニン:2004年)
・ 緊急支援基金(パプアニューギニア:2006年)
・ ブルーリ潰瘍こども教育基金(ベニン:2006年、トーゴ:2009年)
・ 高等教育支援(カメルーン:2007年)
現在、Project SCOBUは、西アフリカ地域に対して教育関連の支援を行っている。教育支援に注目している理由は、ブルーリ潰瘍問題は医療関連の支援は行われているものの、医療以外の支援が少なく、教育や家族への支援が積極的に行われているとはいえないからである。罹患者は治療後、医療費の支払いに苦難し、家計の圧迫は結果として教育費を削ることにつながるケースもある。教育分野への支援は、国の未来を担う子どもたちを育てるためにも必要である。
ここでは、Project SCOBUが実施してきた支援のなかでも特徴的な医療支援・教育支援をいくつか紹介しておこう。

(1)ガーナでの支援事例

Project SCOBUは当初から、医療器具などに加えて、幅広い面から医療分野周辺の支援を行ってきた。例えば、2000年にガーナ共和国で実施した支援では、医療器具に加え、洗濯機の寄付を行った。医療器具も必要ではあるが、多くの病院では包帯を手洗いによって再利用する現状であった。そのため、衛生面や時間の効率化などを考え、専用の洗濯機を提供することによって、包帯を再利用してもらえるようにすることを考えたのである。政府や他団体の支援は、直接的な医療品が多く、洗濯機のような医療関連周辺の支援までその範囲がカバーできていなかったことを考慮し、少しでも看護師の負担を軽減し、本来の機能・業務を果たしてもらえるようにするために支援を実施した。

(2) コートジボワールでの支援事例

コートジボワールでは、2000年に病院内に宿泊できる施設としてシェルターを提供した。この支援は、WHOを通じてコートジボワールの深刻な状況を知ったことを背景として、病院内で家族が宿泊できるような施設の建設案が浮上した。アフリカの多くの病院では、日本のように入院患者への食事が提供されるわけではない。家族(主に母親)は、子どもの食事を自炊する形で作るため、毎日のようにして病院へ通わなければならない。そのため、宿泊できるような施設の計画が持ち上がったのである。結果的に、家族の負担を軽減するために提供したシェルターは、病棟という形で使用され、本来の趣旨とは異なっているものの、このような形で使用されなければならないほど、社会・経済的な状況が深刻であるといえる。

(3) ベニンでの支援事例

以上の2つの支援事例は、医療(周辺)関連の支援ケースであった。医療分野への支援は、他の支援団体も行っているが、ブルーリ潰瘍問題では、教育や経済的などの視点からの支援は積極的に行えていないのが現状である。このような状況からProject SCOBUでは、2005年から「ブルーリ潰瘍こども教育基金」(5)を開始した。入院中の食事などの身の回りの世話などは、家族が行わなければならないため、その費用の捻出は退院後の家計に影響する。その影響は、子どもの就学復帰に際して障壁となっているため、本支援では治療後の早期の就学復帰を目的としている。医療分野以外の支援が少ないなかで、将来的な経済的自立を根ざした取り組みが必要である。

今後の展開

現在、ブルーリ潰瘍問題に取り組む支援団体は、医療(器具や施設、知識不足の改善・啓発など)分野への支援が多い。Project SCOBUの支援は、治療後の支援の重要性から、教育分野に力を入れている。ベニンでのブルーリ潰瘍こども教育基金に加え、2009年からはトーゴでプログラムをスタートさせた。このプラグラムの特徴は、病院内教育(in-hospital education)の支援である。長期の治療・入院は、教育の機会を奪うことになる。特に、子どもが多く罹患しているブルーリ潰瘍の場合、病院内でも教育を受けられるようになることで、治癒後の就学復帰をスムーズに行えるようにすることを目的としてスタートした。
また2010年からは、ブルーリ潰瘍対策への資金が乏しいトーゴで、早期発見・早期治療を促すために、現地のフィールド・オペレーター(6)に対する支援を実施する予定である。
Project SCOBUも設立当初の支援活動と比較すると、医療器具や病棟建設といった医療分野から、近年では患者の就学復帰を支援するなど、教育分野や社会・経済分野に支援内容が移行していることがわかる。医療面の支援も重要ではあるが、教育や社会復帰に向けた視点に移すことができたのは、大学という教育の現場の活動だからそこ成しえたものであると推察できる。病気に関する支援を考えると、医療という部分が最重要であると思われがちだが、医療だけでなくその後の患者の様々なケアも、必要とされていることのひとつである。
このような視点にたった活動は、ブルーリ潰瘍問題に取り組む支援団体のなかでは数少ない。国際的な支援では、教育的な分野での支援を継続しながら、国内では多くの人々にブルーリ潰瘍問題の実情を知ってもらい、支援を広げていくための活動を展開している。

 

<参考文献・WEBサイト>

・新山智基・福西征子「グローバリゼーションと顧みられない熱帯病?ブルーリ潰瘍の事例?」『セミナー医療と社会』第34号、セミナー医療と社会、2009年
・新山智基 「ブルーリ潰瘍問題をめぐる国際NGOの動向?神戸国際大学ブルーリ潰瘍問題支援プロジェクトの果たしてきた役割を中心に?」『コア・エシックス』Vol.5、立命館大学大学院先端総合学術研究科、2009年
・神戸国際大学ブルーリ潰瘍問題支援プロジェクト

(1) WHOの報告では、日本でも4件の症例が確認されている。
(2) 現在のナカソンゴラ(Nakasongola)地区。
(3) ブルーリ潰瘍の罹患者の多くは子どもである。約7割が子どもであるという調査結果もある。
(4) 近年では、2009年3月にベニンで開催された「顧みられない熱帯病に関するアフリカサミット(African Summit on Neglected Tropical Diseases)」に参加し、「世界ブルーリ潰瘍イニシアティブ年次大会(Annual Meeting of the Global Buruli Ulcer Initiative)」で活動報告を行っている。
(5) 本基金は「ベニン共和国保健省ブルーリ潰瘍対策プログラム(Programme National de Lutte Contre l’Ulcere de Buruli)」に基金提供し、年間3,000米ドルで、90人の子どもたちに、学費や文具類、制服などの教育関連費用を支援している。
(6) 遠隔地村を訪問して、患者の発見を行う職員のこと。

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