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カメルーン:ヤウンデだより(第2回)

アフリカの現場からーパンアフリカンのNGO・IPDで働く

Working as a staff of Pan-African NGO IPD

『アフリカNOW』107号(2017年2月28日)掲載

執筆:どて かなえ
大阪出身。創価大学法学部卒後、大阪産業大学大学院にて博士前期課程(社会経済学)修了。2003〜2005年、在コートジボワール・日本大使館で専門調査員として勤務する。ベナンのアフリカ協同開発大学留学(2010〜2012年)を経て、2013年よりIPD(Institut Panafricain pour le Développement/ Panafrican Institute for Development)にてプロジェクト調整員として勤務。


終わり時間のない会議

‘Management concerté’ これがうちの上司、事務局長の基本の運営方針です。何を意味するかというと「協議によって物事の進め方を決める」ということです。
2016年秋、IPD 事務局が引越をし、各人の事務室が階ごとにばらばらになって皆で顔を合わす機会が減ったことから、毎朝8時15分から15分の会議をすることになりました。全ての上司と運転手をのぞくスタッフがそれぞれの前日の仕事の内容、当日の仕事の内容を報告します。計12人いるので、一人が1分ずつ話せば15分未満ですみますが、一人1分で終わるはずもなく。それぞれの業務の進捗状況に加え、懸案事項があると、全スタッフでそれについて議論します。もめているスタッフがいると、それぞれの意見を聞いたり、アドバイスをしたりします。重要な案件を、幹部、スタッフ合わせて、それぞれが平等に意見を述べることができます。そのため、決定事項に対し全スタッフが責任を持つことになり、上司のワンマンも減ってきました。それはとてもいいことなのですが、懸案事項が多いとき、そうでなくても、会議が2時間かかることも頻繁にあります。
上司の家の壁の塗装を警備員に頼もうと思っていて、値段がいくらだけど、どう思うか。その価格は安いと思うか、高いと思うか。そんなことまで皆で話し合います。また、話すのが好きな上司が、「日当とは何を意味するのか」など、ミニ講座を始めることもあります。「今日は忙しいから話すのは一人1分で」などといいながらも、自分が一番長くしゃべっています。始めは、「フランス語の勉強にもなるし」という気持ちで話に聞き入っていましたが、そのうち、さっさと会議を終えて、早く仕事に取り掛かりたい、とストレスに感じることもでてきました。仕事が忙しい時期など、延々と終わりのない議論を聞いていると、関係者だけで話しあってくれ、と徐々にイライラしてきます。そのため、会議中はノートパソコンを 持ち込み、話を聞きながら作業をするようにしました。ただ、あまりおおっぴらに作業していると、話を聞いていないのかと思われてしまうので、少し作業しては休んでということを繰り返しています。

国際女性の日とパーニュ

また、この朝の会議がスタートしてしばらくすると、お茶を飲みたい、と言い出す上司がいて、事務局長秘書と私が毎朝、紅茶またはコーヒーの飲み物、ピーナッツ、クッキーなどのおつまみを準備することになりました。日本の職場では、女性スタッフがお茶だしする、という風習はまだ残っているのでしょうか? アフリカでは、男女平等がうたわれつつも、やっぱり飲み物や食べ物をサービスするのは女性の仕事、という感覚がまだまだ根強く残っています。女性の側もまた男性のそういった要望に応えるのに喜びを感じ、それでこそアフリカの女性、という意識を持っているように思えます。ちなみに、年に一度、3月8日の「国際女性の日」には、女性は家事を何もしないことをおおっぴらに主張でき、男性も家事や子育てを手伝います(もちろん、男性の中には普段から家事を手伝うことに抵抗のない人もいます)。その日は、女性たちは毎年デザインが変わる、国際女性の日を祝うパーニュ(布)で作った個性豊かなドレスを着て、大統領夫人の前で各種企業、グループごとに行進します(カメルーンは国民的な行事があると、必ず行進を行います)。夜には飲み屋に友だち同士で出かかけ、遅くまで飲み明かします。ちなみに、この国際女性の日を記念したパーニュの販売は、1990年代にカメルーンの極北部のマルア市の女性たちの企画で、CICAM という繊維産品製造会社に持ち込まれ、実際には2000年から開始され、徐々に全国的に広がっていったそうです。毎年、デザインや色が変わるだけでなく、パーニュに盛り込まれる一つのメッセージも、特色が時代とともに変化しています。
例にあげれば、’Mon mari est capable’(My husband is able、私の夫には能力がある)、’Participation active à l’ intégration nationale(Active participation in national integration、国家統一への積極的な参加)など。そして2016年は、’Tous unis contre le terrorisme(All united against terrorism、テロに対して一つになろう)という、女性に特化したものではない、昨今のカメルーンの情勢を反映するメッセージとなっています。
現在では男性は、6,500〜8,000セーファーフラン(約1,300〜1,600円)ほどするパーニュを購入し、妻/パートナーに贈ることが慣習となっています。この日、女性の日記念パーニュで作った服を着用していないと、彼女の夫/パートナーには「甲斐性なし」の烙印が押されます。私の職場では、女性職員に対して毎年このパーニュをプレゼントしてくれます。男性職員に奥さんの分としてプレゼントする企業もありますが、IPD では、奥さん/ パートナーが2人以上いる男性職員の家庭では争いになるからという理由で、それは実施されていません。毎年、全国的に販売されるこのパーニュは現在でもCICAM が一括して生産・販売していますが、大変な売り上げになると思います。

話をパーニュから会議にもどすと、会議後は、みんな飲み食べ散らかしたカップやらピーナッツのかすやらを放置してさっさとその場を去ります。IPD には清掃員がいないので、警備員が清掃と食器等の後片付けを好意で担ってくれています。しかし、自分たちが飲んだ後のカップやらをテーブルに放置することも気が引けるので、彼らが洗いやすいよう、私が毎回、整頓するようになりました(と言ってもトレイに回収し、洗いやすいように集めておくだけですが)。男性職員のみならず女性職員すら手伝ってくれず、会議の長さとあわせて、やや疲れてきたころ、ある問題が勃発しました。

IPD の内部危機?

その問題とは、情報の流出です。うちの事務局で話し合った事案が、他のIPD の支部局に伝わっていることがわかりました。カメルーンでは、うわさ話をすることを「コンゴサする」と言います。私は、同僚同士のコンゴサの延長だと思っていますが、どうも重要な事案が漏れているといいます。結局、その後、全スタッフ交えての会議は週に一度、月曜日だけ行われることになり、重要な事案に関しては、上司は「これは外に漏らさないで」と前置きし、話すようになりました。
もしそのことがなければ、この会議は永遠に続いたでしょう。短くても1時間、長ければ3時間の会議を週に5日続けていると、毎週、10時間前後の時間をさいていることになります。一日分の労働が消えているのです。こんな風に考えるのは日本人の私だけかと思っていたら、カメルーン人の同僚たちもうんざりしてきていることがわかりました。ただ、会議が長すぎる、と批判している同僚にかぎって、話が長かったり、すべての話題に口をはさみたがっています。私は、毎日お茶を用意・後片付けする必要がなくなり、また長すぎる会議にイライラを募らせることなく仕事に集中でき、ほっとしています。

‘KAIZEN’(カイゼン)とアフリカ

時間にまつわるもう一つのエピソードがあります。国際協力機構(JICA)がカメルーンで’KAIZEN’(カイゼン)コンサルタント養成のための研修を開始し、候補者(カメルーン全土で20人程度)を募っていたので、私がそのことを朝の会議で伝え、IPD からも職員を応募させよう、と提案したことがあります。JICA 関係者の取り計らいで、すでにはじまっていた前期の研修の報告会に一人の上司と参加しました。参加した上司は内容を評価していて、彼自身が報告会で学んだことをすぐに職場内で実践していました。再度会議にて、「カイゼン」とは何なのか、私が理解できた範囲でごく簡単に報告しました。一つは、整理・整頓、それによる大幅な時間の短縮(ものを探す時間がなくなる→仕事に集中できる)、そして、清潔、安全など。いかにIPD内で物や書類を探すのに日常的に時間を取られているかを指摘し、また、プロジェクト管理の研修を提供する機関として名高いIPD として、今後、研修に「カイゼン」のコンセプトを取り入れたらいいんじゃないか、と結構熱く語ったと思います。IPD とあるパートナーとの協定調印式の際、参加者が到着するまでの待ち時間に、IPD の紹介ビデオを紹介する予定だったのが、延長コードが見つからなかったために上映できずに終わってしまい、絶好の宣伝機会を逃したことなどを例にあげました。
しかし、私の提案は結局却下されました。その理由の一つは「日本で生まれた管理方法(カイゼン)をアフリカに取り入れるよりも、IPD の使命としては、アフリカの文化にあったアフリカ独自の管理方法(例えば、事務局長の言う’management concerté’)を推進していくことにある」ということです。その他、「アフリカには時間はたっぷりある。一分一秒を削らなくてもいい」というモロッコ人同僚の意見。また、JICA の専門家の方から、カイゼン研修を正式に修了するには、ほぼ2週間休みなく1分の遅刻もなく参加することが条件であると聞いていたので、そのことを説明すると、「毎週、誰かのお葬式やら結婚式があるアフリカの社会で、一日も休みなく参加するのは不可能だ」という反応がありました。
「カイゼン」の手法は多様で創造的で、決してアフリカに日本式を押し付けようとしているのではないと思う、と再度訴えながらも、「日本人だから日本式を贔屓している」と見られるのも嫌で、それ以上、カイゼン研修への参加を強く主張することはしませんでした。こうして「かなえ、○○はどこにあったっけ?」と同僚に尋ねられ、物を探しつづけるIPD での私の日々は続いています。

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