詳細報告:食料価格がどうやって決まるのか?

なぜ高騰する食料価格

AJF・HFW・JVC・明治学院大学国際平和研究所共催 連続公開セミナー「食料価格高騰がアフリカ諸国に及ぼす影響」第1回 詳細報告

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日時:2008年7月3日(木)午後6時半~8時半
講師:板垣啓四郎さん(東京農業大学教授)
会場:明治学院大学白金校舎 本館10階大会議場

司会:今回の連続公開セミナーでは、現在進行中の食料価格の高騰の問題がアフリカ諸国にどんな影響を及ぼしているのかを考えていきます。今日は食料価格が、どういうふうに決まるものなのか。少し大まかな見取り図をお話していただきます。

講師:今日、私に与えられたテーマは、「なぜ高騰する食料価格:食料価格がどうやって決まるのか?」です。食料価格がなぜ高騰するのかを考えると、バイオ燃料の問題、投機マネーの問題などもでてきます。今日はそのイントロの部分と位置付けていただければと思います。

プレゼンテーション・ファイル((1.2メガ)

○穀物の需要量、生産量、期末在庫率の推移

最初に紹介するのは、世界における穀物の需要量、生産量、期末在庫率の推移です。この図で青い実線グラフは1970年から2008年までの穀物生産量の推移を示しています。赤は消費量、空色が期末在庫率です。これを見ると、穀物の需要と供給、色々と節目によって変動がありますが、最近になって極端に穀物が不足しているという局面ではありません。ただし、期末在庫率は、1990年代後半以降、かなり急速に落ちています。オレンジ色の点線はFAOが定めている安全在庫水準です。全穀物でその水準は17~18%といわれています。現在、在庫率が安全在庫水準に近づいていますが、極端に食料価格が上がるほどの水準ではありません。

○世界の農産物価格の動向

次は、世界における農産物価格の推移です。黄色い線は米の価格です。緑が大豆、青が小麦、赤紫がトウモロコシの価格です。40年近い年月にさまざまな変動がありましたが、青で囲った部分(2006年から2008年の6月末まで)を拡大して、右に示したものを見ると、米は異常なほどに上がっています。続いて大豆で、小麦、トウモロコシと上昇率が小さくなっています。

○世界の穀物需給

これは、過去3年間における世界の穀物の生産量、消費量、貿易量、期末在庫を、穀物合計、小麦、粗粒穀物とわけて作られた一覧です。米、粗粒穀物、小麦という世界三大穀物を集めて世界全体で約22億トンといわれています。この表を見ると、生産量と消費量に、それほど開きはありません。また穀物全体の貿易量は生産量から見るとそう大きくはないこともわかります。この表からは、世界の穀物が極端に不足して価格が高騰したという説明はできません。

○中国、インドの穀物生産量推移

最近、中国、インドという新興経済成長国で食生活が変化し、たくさんの畜産物を食べるようになったため家畜用飼料にする穀物が不足して価格が高騰している、とよくいわれます。あるいは、都市工業化が進み、その過程で農業が置き去りにされたのではとも言われています。しかし、少なくともこのグラフにしたFAOのデータを見る限りでは、最近において生産が極端に減ったとは言えません。消費もほぼ穀物生産量に見合う形で増えています。

○中国におけるトウモロコシ輸入量

こちらは、中国におけるトウモロコシ輸入量です。1995年という異常な年を除けば、大体550万トン前後で推移しています。中国が極端にトウモロコシを輸入しているわけではないのです。

○中国におけるトウモロコシの動き

中国におけるトウモロコシの動きを図示しました。1990年代後半に、期末在庫率が100%を越えていました。この在庫を減らすために、中国は2002年にトウモロコシを原料にエタノール製造を開始しました。ところが中国も所得水準がのびてくると、食生活も高度化してきます。そうするとトウモロコシが家畜の飼料にどんどん回っていきます。それに伴って価格が上昇しました。これに慌てた中国政府は、新規のエタノール製造をストップしました。その結果、現在では550万トン前後が輸入されていますが、まだまだトウモロコシ在庫には余裕があります。しかし、将来、飼料用トウモロコシの輸入が増大することは必定、相当伸びてくるものと予想されます。

○海外食料自給レポート2007

農林水産省が出している海外食料需給レポート2007年版は、世界の穀物生産は前年比で4.2%増加し史上空前の生産量になるだろうと発表しました。一方、大豆は作付面積が14%減少し6.5%減産になる見込です。大豆の消費が減っているわけではなく、大豆の作付面積を減らしてバイオ燃料用のトウモロコシが作付けられているのです。消費を見ると、穀物消費が2.8%増、大豆消費が4.7%増の見込みです。消費が増えていることがわかります。今年の期末在庫率は14.7%と、15%を割るのではといわれています。特に、トウモロコシの在庫が減っています。

○ある専門家の指摘

世界の穀物需給の逼迫感が強まっているわけですけれども、最大の需給逼迫要因は、おそらくアメリカで増えているエタノール需要だろうと、ある中国人の専門家はいっています。この専門家によれば、2008年のエタノール用トウモロコシ需要は8100万トン、日本の年間消費量の5倍に達する見通しです。一方、中国は世界最大の大豆輸入国であり、大豆の主要な生産輸出国アメリカとブラジルの輸出量の半分を中国が輸入しています。特に1990年代後半から輸入量が増えています。

○食料需給の構造:レスター・ブラウン「飢餓の世紀」をもとに作成された図
ウェブサイトで公開されているレスター・ブラウン著「飢餓の世紀」をもとに作成された図を念頭に置きながら食料需給の構造を考えます。

○食料需給変動の特徴

食料需要には、一人当たりの食料需要と人口が関わっています。途上国、特にサハラ以南アフリカ諸国で人口増加率が高く、次いで南アジアが高くなっています。近年、年平均7000万の人口増があります。食料需要の内容にも変化があります。中国、インドで家畜が増えており、飼料としての穀物の需要が増えてきます。供給される食料の中心は穀物です。穀物は飼料としても使われますので、食肉生産にも関わっています。また漁業生産にも大きな関わりがあります。最近は水揚げ量の半分以上は養殖です。ということで、養殖に使われる餌としての穀物需要も大きいのです。
穀物生産を増加させるには、作付面積を拡大するか、単位あたり収量を伸ばすかの、どちらかが必要です。新たに作付けできる土地は、もうほとんど残されていません。そうすると単収増に頼るしかありません。土地の生産性向上には、改良された品種、化学肥料、灌漑などが必要です。水と土づくりと肥料で土地の生産性が決まってしまいます。他方、気象状況によって左右されるということもあります。食料の総需要は伸びていく一方で、穀物生産がはたしてどこまで伸びていくかが問題となっています。まとめると、需要には、年間7000万人に上る人口増、畜産飼料需要拡大が関わっています。40億人の人々が求める豊かな食生活のために生産する肉、卵、ミルクにも大量の穀物を必要とするわけです。中国、インドの両国あわせると約25億人いますので、たいへん大きな需要であることは間違いありません。
ここ2~3年の食料需給に大きな影響を与えたのは、需要側よりも供給側の要因でした。特にオーストラリアが2年連続の干ばつに見舞われ小麦が大減産となりました。また、世界的な土壌の侵食、気候の変動、気温の上昇は、トウモロコシの収穫の10%減に繋がると言われています。今年、アメリカを大洪水が襲いました。これでアメリカの農務省は今年の供給量を修正しなければいけないと発表しています。大変大きな被害が出ているそうです。ミャンマーのサイクロン被害など、自然災害の不安要因も増長しています。 レスター・ブラウンは、収量を大きく増加させる新しい技術の開発が困難な局面になっていると主張しています。

○食料需要と競合する穀物のエタノール生産への転換

ここまでをまとめてみると、食料需給の動向から穀物価格の高騰を説明できないことは明白です。価格高騰を引き起こした、バイオ燃料生産のための穀物メジャーによる買い占めと、投機マネーについて検討します。
ブッシュ政権の下で、2005年にエネルギー法が成立しました。2012年までに穀物を原料とするバイオ・エタノール75億ガロンの使用を義務づけたものです。エネルギー法は、2007年に改定され、2022年までに360億ガロンのバイオ・エタノール使用を義務付けるものになりました。そのうち、トウモロコシ原料のバイオ・エタノール生産量を2015年までに150億ガロンに引き上げるという目標を設定しています。アメリカがバイオ・エタノールに相当力を入れていることがわかります。
アメリカ政府は、バイオ・エタノール生産企業に補助金を出しています。農業者は、企業が補助金で原料を高く買ってくれるので、エタノール用のトウモロコシ生産にむかっています。今は、飼料用、輸出用よりもエタノール用が一番高く売れるようになっています。 EUも2020年までに輸送用燃料の10%をバイオ・ディーゼルに切り替えると言っています。EUはオイル・パームを使っています。そのため、マレーシアやインドネシアでどんどん自然が破壊され、オイル・パーム農園に変わっています。生産されたパーム・オイルの一部は、当然燃料になります。
もともとトウモロコシをエタノール燃料として使用するように働きかけたのは、穀物メジャーだと考えられています。
穀物メジャーは、莫大な資金を投じて、世界各地にバイオ燃料工場やその原料となる作物のプランテーションを拡張しているのです。 アメリカが、なぜここまでバイオ燃料に執着するかを追うと、穀物メジャーの話になります。アメリカはずっと長い間、穀物の過剰に悩んでいた国なのです。世界各国で「緑の革命」など色々なことがあって、アフリカの一部の地域を除いて、穀物は過剰傾向にありました。日本でも米が余っていました。売るに売れなかったという状況がつづいていたのです。一方、京都議定書などもあってだんだん地球温暖化に対する懸念が共有されるようになりました。しかし、アメリカは炭素排出規制になかなか応じる気配がありませんでした。アメリカはバイオ燃料利用を拡大するので、その分、化石燃料を使わなくなると言うのです。有り余る穀物を何かに使えないかということで、アメリカが目を付けたのが、バイオ燃料だったということです。そしてバイオ燃料にいろめきだったのが穀物メジャーだったわけです。色んな後押しを受けて増産態勢に入っていきます。
アメリカは今までの穀物の供給過剰に対応するために、多くの財源を使っていたのですね。補助金を出したり、貯蔵するために莫大なお金を使ったり、あるいは価格下落によって政府が補助をしたり、そういうことでアメリカは慢性的に財政赤字を抱えていたわけです。この財政赤字を解消するために輸出拡大を追求してきたのです。現在では、輸出拡大がバイオ燃料に切り変わってきたという状況があります。これによって、材料のトウモロコシ価格がどんどん高くなってきました。一方で、だんだん補助金の額が少なくなってきました。そしてアメリカの財政赤字が縮小していくことになります。財政と貿易に関わるアメリカの2つの赤字が、バイオ・エタノール使用と、価格高騰によって解決するのではとも言われています。
また、サブプライム問題きっかけに、株式市場、金融市場からの投機マネーが原油市場と穀物市場に流れ込んで、先物取引の価格を吊り上げているとの指摘もあります。
穀物メジャーが、グローバルな規模で穀物をバイオ燃料へシフトさせたこと、そして投機マネーが穀物市場に流れ込んだこと。この2つが世界穀物価格の高騰を招いたと、まとめることができると思います。

○アメリカのトウモロコシ

ここまでの話から予想されるように、トウモロコシに関して、アメリカは世界の穀物需給に対し絶対的な影響力を持っています。アメリカは、世界全体のトウモロコシ生産量約7億トンの38%を占めています。トウモロコシ貿易量8700万トンに占める割合はもっと高く、90%にのぼります。生産量の8%、貿易量の23%の小麦はそれほどでもありませんが、生産量の37%、貿易量の42%を占める大豆とトウモロコシは、アメリカにとっては大変重要な輸出戦略物資なのです。
かつては、トウモロコシと大豆との輪作が普通でした。しかし最近は、トウモロコシ連作が広がり、大豆の作付面積が減っています。トウモロコシは稲と同じ仲間です。窒素分を吸収します。大豆は逆に豆科作物ですので窒素を固定していきます。ですからトウモロコシと大豆の輪作は、土壌を維持するのは大変良いやり方なのです。その大豆を減らしてまでもトウモロコシを作っています。
連作をすると連作障害による病虫害が発生します。こうした病虫害に強い遺伝子組換品種の作付けがどんどん伸びており、現在ではトウモロコシ作付けの73%くらいが遺伝子組換えであると言われています。
先ほど説明したように、バイオ・エタノール製造に補助金が出ているということもあり、トウモロコシの単位面積あたりの粗収入は、小麦、大豆よりも高いのです。
トウモロコシの需要構造は、飼料向、輸出向、エタノール向に大別されます。昨年段階で、エタノール向が輸出向を上回り、需要の27%を占めています。図1によれば、エタノール向需要が2004、5年から急速に伸びていることが実に良く分かります。トウモロコシと大豆の単位面積当たりの粗収入を比較すると、やはりトウモロコシが大きいです。アメリカが、どんどんトウモロコシに向かっていっていること、そしてその理由もよくわかります。

○高騰する食料価格、飢餓の脅威

現在の食料価格高騰により大変苦しんでいる国が37ヶ国あります。中国の内陸部も含まれていますが、何と言ってもアフリカに集中していています。37ヶ国中21ヶ国で暴動、あるいは暗殺事件など起こっているわけで、たいへん不穏な事態であることは間違いありません。その原因に、サブプライムローンの破たんで行き場を失った投機マネーが原油や穀物の値段をつり上げていることがあるのです。

○原油と穀物の価格高騰の影響

原油と穀物の価格高騰の影響についてまとめてみます。原油価格が高騰すれば、農業生産のコストが上昇します。肥料や農薬など色々なものが石油に関わっていますので、当然上がります。流通コストもかかります。これらが食料か価格の高騰に繋がっていくというわけです。穀物価格の高騰により、飼料価格も上昇し畜産経営、穀物加工メーカー経営も圧迫します。そのことで穀物価格はさらに上昇し、全体的に生活を非常に苦しくしていくということです。

○レスター・ブラウンの見解

レスター・ブラウンは、今後の技術開発の可能性について、5~6%くらい収量を増やす程度の小さな進歩はあるかもしれないが、2~3倍もするような大きな進歩はないのではないかと、非常に悲観的な見方をしています。遺伝子組換え技術も、作物の生理・生態に与える影響もまだまだわからないことがたくさんあり、食料安全を確保するには心もとないと言われています。そうしたなかでは、水の生産性向上技術の開発には可能性があり、水を適切に管理することができれば、収量をもっと上げることができるのではといわれています。それに対して、単収の高いところから技術を学んでいけば、格差縮小の過程で増産する可能性もあるのではないかとの主張もあります。

○原油価格の推移

原油価格の推移を振り返ると、1973年に石油ショック、1979年に第二次オイルショックがあって急激な変化がありました。そのあとは小康状態でしたが、2002年あたりからじわじわと上がってきています。2008年5月の段階で135ドルに達しています。

○原油価格高騰、食料価格高騰と国際金融不安の関係

現在、穀物の価格が上がり、原油価格が上がり、金融不安が続き、環境も破壊されているという状況が続いています。この図にあるように、原油価格の高騰が穀物価格の上昇に関係し、そのときにはいつでも国際金融不安を誘発していく、あるいは国際金融不安というものが原油、穀物価格の高騰を押し上げてしまうという関係があります。こうした状況の中で資源は枯渇し、環境は崩壊し、かつて1970年代初頭、1980年代前後にあったオイルショックとその後の穀物価格の上昇という事態が、またしても出てきています。しかも今回は、以前よりも規模が大きいのです。こんな中で洞爺湖サミットが開かれ、議長国日本がどのように主導権を発揮するのか、世界の注目を浴びています。洞爺湖でどのような論点と方針が出されるのか、世界の関係者は固唾をのんで見守っています。

○巨大多国籍アグリビジネス企業

多国籍アグリビジネス企業は、世界各地に活動拠点を設けて、食料の生産から加工、流通、消費まで全工程を統合して、世界の食生活に大きな影響を与えています。グローバルゼーションのなかで、アグリビジネスはますます重要な役割を担ってきています。穀物を含めた農産物は基本的に自給的性格が強く、輸出に回るのは余剰分だけですから、供給量をちょっと変動させるとことで価格を上げられてしまいます。とくに米がそうです。穀物取引では、将来の価格変動に対応するために先物取引が活発におこなわれています。米をのぞく現在の世界穀物の価格の大半はシカゴの穀物取引所で決められています。

○穀物メジャーの台頭

1972年、旧ソ連が穀物を大量に買い付けたことをきっかけに穀物メジャーは急成長をとげたと言われています。そして、世界の穀物生産の変動と相場、輸出政策の変更に、大きな影響を与え続けています。現在、世界の穀物市場において、確実な需要の存在により穀物価格が上がっています。穀物メジャーが最も活躍できる市場環境は、世界的に穀物の生産高が高い水準にあること、各国において国内市場が旺盛であること、そして輸出が好調というものであり、現在の状況はこの条件にぴったりあてはまっています。これまで、三つの条件がそろうことは滅多にありませんでした。

○世界の穀物メジャーとは

すでに穀物メジャーは、世界の穀物貿易の70~80%を握っていると言われています。穀物メジャーの活動は、さらに国際化、大規模化、高収益化、戦略化してきています。穀物メジャーはアメリカ政府と癒着し一体化しながら、アメリカ最大の輸出製品である食料を世界に供給してきました。アメリカは日本の天下りはけしからんと言っていますが、アメリカ農務省の次官が辞めると穀物メジャーの役員になったりしているのです。政府系の情報にも通じるルーツを得て、穀物メジャーが世界の穀物市場を支配していく体制が、アメリカの内部で整えられていると言われています。アメリカは、援助の名目で食料を提供しまた売り込んできました。それがアフリカにたいへん大きな影響を与えています。
しばらく前まで世界の5大穀物メジャーと言われていましたが、現在では、米国に本拠を置くカーギル社およびADM社(Archer Daniels Midland Company)が世界の最も強力な穀物メジャーといわれています。

○穀物メジャーの戦略

穀物メジャーはその圧倒的な力を利用して、農産物貿易の自由化を押し進めようとしています。アメリカ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン、タイ、カナダが一番強く自由貿易を主張しています。反対しているのは、日本、韓国、そして中国です。中間にEUがいます。WTO農業交渉の力関係の中で、輸出に力を持っている国々は、日本をはじめとする世界の食料自給率を引き上げるどころか、自給率を引き下げるような圧力をかけているのでないかと思います。収穫期に補助金付きの作物をアフリカ諸国で安売りするなど、途上国のまずしい農民たちの農業を壊滅に追い込んでいるのではないかと思われます。
穀物メジャーの戦略は、貿易のシェアを握ることで価格統制をはかり利益を生み、流通拠点を独占して生産者側をロックオンしてしまうというものです。WTOなど国際機関に市場自由化政策を推進させ、世界各国の市場に食い込んできました。貧困国には援助の名のもとに、農産物を大量に供給して農業を破壊し、食料輸入国へと追い込んできたのです。一代雑種種子や放射線照射種子など次世代の種子を残すことのできない、しかも冷害や農薬に強い種子を作り、市場に導入することで、農家はどんなことがあっても穀物メジャーから種子を買わなければならない状態になってしまいました。

○アフリカ諸国への影響

私は、穀物メジャーがアフリカの農業を支配しているのではないかと思います。アフリカは自分で食べるものだけを作っているわけではありません。むしろ外貨を稼ぐためにプランテーション経営をやっています。このプランテーション経営を欧米の企業が支配しています。アフリカの農民は、プランテーションの労働者として決して高くない賃金で働いています。アフリカの農業者は、生産、加工、輸出という一連の流れの主人公ではありません。また、大変大きな借金かかえており、返済がたいへんな重みになっています。生産資源の利用についても、農民自ら意思決定できないわけという状況ではないかと思います。農業者は、自分の家族が生きることのできるだけの食料を確保するための資源もおそらく持っていないではないでしょうか?新規の技術を導入しようとしても先立つ資金がない、干ばつが到来する状況の中で、世界の食料価格が上がってしまうと、到底生きていけなくなり、さらに借金を増やすことになる。このようにして、アフリカの農村はかなり深刻な飢餓に押しやられているのではないだろうかと、私は思っています。
具体的な問題として、食料輸入がアフリカ農業を破壊しようとしているように感じます。アメリカやヨーロッパから補助金の付いた安い輸入穀物が入ってくると、アフリカでの生産費さえまかなえないほどに価格が安くなってしまいます。かといって、あまりにも輸入穀物が高くなると、実際に不足している食料が手に入らなくなり、飢えに苦しむことになります。このように輸入穀類の価格が高くても、安くてもアフリカの人にとっては深刻な問題になっています。つまるところ、農業者が経営の主体性、資源へのアクセスを持てるかどうかがポイントだろうと思います。日本を含めた世界の国際協力、NGOあるいはアフリカにおける政策立案者との会合は、そのことが可能になる秩序をどういうふうに作っていくのか、という問題意識を持ってなされるべきだと思います。

明治学院大学国際平和研究所 勝俣所長: 私は、まずこの研究会を3回にわたってやるという理由をお話ししたいと思います。ハンガー・フリー・ワールド、JVC、AJF、それから私たち国際平和研究所が一緒になってこうした研究会を開催することに、私自身はたいへん乗り気でした。どうしてかというと、特にアフリカの弱小な国々の食料問題っていうのは、僕らが考える以上に深刻な問題だと思うのです。私たちは、平和研究をやっています。国際平和に関わっては、核の問題、基地の問題など色々あるのですけれども、生命を確保する食料へのアクセスというのは極めて重要な人権問題なのです。ですから、食料について考えるのは、今回が初めてではありません。平和の「平」は、平ら、平等ということです。「和」は、漢字の字源からいうと稲を口にすることだそうです。万人が食べ物を食べることができるというのが平和の原点だと思うのです。数年前から、私達は、これから資源、食料、エネルギーをめぐる取り合いをどうやって避けるかを考える研究会を持ってきています。アフガニスタン、イラクの紛争は、石油エネルギーと密接な関係があります。ですから、これからどうやって食料とか水とかエネルギーの取り合いを避けるかっていうのはすごく大きな問題なのです。
2つめは、量だけでなく質の問題です。安全なものを僕らが食べられるかどうかということは、アフリカだけではなくて僕たち自身の問題です。次の世代にまともな食料を残せるのかと考えると、遺伝子組換え技術などについては、技術者にまかせるというような問題ではありません。生命の再生産がかかっているときに、投機の問題、穀物メジャー、アグリビジネスなどに関わりある人達に、ほんとに任せていいのかという問題があります。というように食料の問題は平和との密接な関係があるので、これらのNGOと一緒に研究会をできることを、我々は嬉しいと思っています。
アフリカを見ていると、確かに食料暴動が起きています。最初に起きたのはモロッコで昨年11月でした。食料価格がパッと上がったことに対する反応がありました。次に、ブルキナファソ、カメルーン、セネガルで起きました。消費者団体が動きました。コートジボアールでも動きがありました。カメルーンでは、死者が出ました。一般に食料暴動って言われていますが、上がっているのは食料だけではありません。燃料価格、交通費が物凄く上がっています。石鹸とか灯油も値上がりしていますし、食料とオイルの値段が上がって、生活苦が広がっている、失業者も増えているという中で、お米やパンの値上げがあったので、この際、もっと政府に文句を付けようという動きが広がったのです。これからも十分に「暴動」が起きる可能性があります。
板垣さんのお話にあった「プランテーション」はどうなっているのかを紹介します。会場入り口に、AJFが製作した「アフリカの食料安全保障を考える」という小冊子が置いてあります。この冊子にまとめられているように、アフリカの営農システムはすごく多様です。西アフリカにはカカオのプランテーションがありますがいずれも小規模です。欧米の資本ががっちり握っているというようなものではありません。アフリカの農業では、基本的にはスモールファーマーが中心なのです。ですから、「農業支配」は、種子とか肥料などを通して入っているのかなと考えさせられました。
ここで質問です。穀物メジャーは、アフリカが飢えている、人口増で苦しんでいるというのを機会に、国際援助のお金を使って、技術や資材や種子を提供しますと言ってくるのではないかと思います。遺伝子組換えも悪くない、アメリカ人は受け入れているというような形で、アフリカ諸国の政府を説得してしまうなど、穀物メジャー、アグリビジネスがアフリカにいろんな形で入っていくこと自体に危機感をお持ちでしょうか? そして、それを避けるためには、アフリカはどう対応すればよいのか、あるいは市民社会がそれを食い止めるようなシナリオ、あるいはもっと別の形のアフリカの食料増産の道といったシナリオがあればお教えいただければと思います。

講師: アフリカの中で人口が増えている、なおかつ資源の供給が少なくなっている、また資源そのものが劣化してしまっているという中で、従来のスキームでやっていたらアフリカの小農で自分達の生存を維持できるようなメカニズムは崩壊してしまうのではないかという気がします。従来のアフリカの社会システムのなかで、個々人の持っている生存するメカニズムが間に合わなくなってきていると思います。それに代わる何がなかなか見えてきません。
マラウイの事例を見ると、所得の減少を補ってきたのが農外収入だったのだろうと思います。農業の中のいろんな仕事、いろんな雇用の機会によって所得を補ってきたと思うのです。そういう中でいくらか海外から入ってくる企業。その中にありつける仕事があればまだいい方だったのかもしれません。
しかし、企業を誘致して、やってきた企業の活動を維持してビジネスにする環境がアフリカの農村にあるかというと、これは結構厳しいだろうと思わざるをえません。そうすると農外収入の場というのも思うように楽観視できない。穀物の方もなかなかうまくいかない。非常に悲観的なアフリカのシナリオを描かざるをえないというのが、現時点での私の考えです。そうなってきた場合に、少しでも生存食料を維持していくために、何か安定的な資材の供給というものをどうやって構築していくかを考えています。資金融資など、条件を少しでも整備させないと、アフリカの農民たち自身に資材購入のための購買力はないのではないかと思います。国際協力の課題はそこにあると思います。現状では、国際協力の資金が投入された際、付加的な所得がどれだけアフリカにもたらされるのかが良く分からないのです。欧米の企業がアフリカに進出しても、結局アフリカを供給基地にして流通、あるいは消費の都合の良いところだけ持っていき、利益も経営権も欧米諸国に握られてしまう、利益の配分がアフリカに流れ込んでいかないという現実があるように感じます。また、民間でまかなえない部分をどう補っていくか?私はそこにも今後アフリカを考えていく課題があると考えます。

質問1: WFPのホームページを見ていましたら食料価格が上がったといっても、そんなにシリアスに捉えていないような感じがします。上がったら他にお金が回るわけで、そこからもらえばいいという発想があるように感じました。日本でもワーキングプアの問題があり、北九州市が生活保護を打ち切り、また生活保護も受けられなくて餓死者がでているといった状況があります。これに対し、アフリカでは社会の中で助け合うとか、何か社会的な面で価格上昇に対して守るようなものがあるのでしょうか?

勝俣さん: 今日は供給面から食料について話していただきました。アフリカの大きな問題の一つは輸入食料に頼りすぎた点です。特に都市住民の食料問題対策として、アフリカ諸国の政府は安い食料、西アフリカの場合は東南アジア産=ベトナム、タイの米を輸入したわけです。しかも安く買える破砕米、ほとんど廃棄品に近いものを、西アフリカの国々は輸入していたわけです。これらの国々は、もともとミレット、ソルガム、芋類を食べていました。お米なんかは作ってなかったので、急には栽培できません。現在、食生活を見直そうという声が、一部の消費者運動の中で起きています。つまり世界市場に合わせて、安い食料に合わせた都市を中心とする食パターンが今見直されるべきだとの声は当然あります。

司会: 今日の配布資料で紹介した食料・農業に関わる国連食糧農業機関、世界食糧計画の最新のプレ・リリースの一つが、モーリタニアでの食料量産計画に触れています。増産の対象となっているのは、ミレット、トウモロコシ、豆など、地域に応じた食料です。また、穀物メジャーがはいってくるのではないかと話には先例があります。2000年にモザンビークで大洪水が起きた時、遺伝子組換え作物を作っているモンサントが、モザンビークに遺伝子組換え作物の種子を提供すると申し出たことがありました。その時はモザンビークの中で反対の声があって受け入れるところまではいきませんでした。2002年の南部アフリカでの食料危機の際には、アメリカが遺伝子組換のトウモロコシを提供すると打ち出したことから、大問題になり、ザンビアは受け入れない、マラウイ、ジンバブエは粒のままではなくて砕いたものなら受け入れると決めたことがありました。

質問2: 技術開発があまり期待できないという話がありました。ジンバブエでは関連した施設が次々できてメジャーが持っている土地を買い上げて、供給している。つまり土地改革をおこなうことによって農民の意識が変わってそれで収入が上がるということが期待できるのではと、それはどうでしょうか?もう一つは遺伝子組換え作物で連作に強いといっていましたが、連作していけば土地が痩せていくのでは?つまり作物の見かけ上はよくなるかもしれないが、土地が痩せていっていつかはだめになるのではないでしょうか?昔、米の値段を決めるのは大きな政治問題だったわけです。それで補助金が問題になっていますが、ヨーロッパとか補助金を出すところが、国家財政でどういう位置づけになっているのでしょうか?

講師: 土地改革については、いろんなところで言われていることです。あとは技術改革、制度改革と農家における経営革新です。これはこの3つが農業開発を進めていくだろうと思っています。それから連作の問題ですが、これもおそらく同じ技術を続けていけばやはり、環境が変わっていくと思います。そうするとその変わった環境にたいして新たな遺伝子組換え作物を導入しないといけない。ということを繰り返していく中でだんだん優勢的な品種というのが劣化してしまうのではないかと思います。3つめは、じつはヨーロッパが非常に頭を悩ませていることは、政治問題というよりも経済問題なのです。私は3つあると思います。一つは新しく入ってきたEU加盟国への後発な国に対しての経済改革。あとなかなか税収が伸びないということ。3つめは共通農業政策がなかなか上手く行かないことです。共通農業政策のイニシアティブをもっている国は、イギリス、フランス、ドイツなのですが、この3つの国で考え方が全然違います。これがEUのやりかたを難しくしています。そのEUのやり方を、固唾をのんで見守っているのが東南アジアです。東南アジアでは今、アセアン・エコノミック・コミュニティー創設に向けて動いています。2015年にはできるだろうと言われています。つまり、東南アジア版EUができるわけです。その中で、相当もめるのが農産物だろうと言われています。どの国でも地域共同体を作るっていうのはいつでも農業がネックになるのはまず間違いないです。

質問3: アフリカなり東南アジアなり、穀物メジャー、先進国によって儲けを取るっていうのは良く分かるのですが、もう少し具体的な事例を聞きたいと思いました。

質問4: 食料価格の高騰がアフリカ諸国に及ぼす影響があってその結果、日本にどのような影響があるのか?

AJF食料安全保障研究会・吉田さん: 一つはアフリカで何故価格が上がっているのかを、もっと詳しく調べていく必要があるのではないかと考えます。というのは、確かに輸入が多い国は輸入価格が上がっているから価格が上がると思うのですが、国によっては輸入に頼らない食料自給国も多いと思うのです。米とか小麦は確かに輸入されていますが、そうでない食料も多いわけです。アフリカでは芋類が食料の大きな部分を占めており、ウガンダでは食用バナナが主食になっていますが、そういう作物も値段が上がっているのです。バナナを輸入しているわけではないのに、何が価格上昇をもたらしているかと考えると、一つは輸送費の上昇があります。もう一つ、WFPによる援助を通じての価格上昇も考えられるのかもしれません。トウモロコシなどは援助でもたらされることが多いわけです。それにつれて、かつてはもうちょっと干ばつに強いソルガムなど食べていたのに、トウモロコシを食べる人口が少し増えています。そういうことを通じた食の変化がかなりあって、アフリカでも食料がかなり違うのに、それにもかかわらずなぜ食料価格上がるのか?簡単に言ってしまってはいけないと思うのです。

講師: 穀物メジャーは生産物だけでなくて、輸送、流通というサービス、あるいは肥料、農薬、種子といった投入財などいろんなものを売りつけているわけです。私が東南アジアで見た事例では、種子などの投入財に中国製のものが多いのです。中国でもちろん生産しているわけですが、ほかの国から買って販売しているのもあるかもしれません。様々な農業機械なども中国製のものがあり、かなり使われています。アグリビジネスの文脈に照らせば、フードチェーンを連ねる川上、川中、川下のなかで産み出されるバリューのゆがんだ配分メカニズムによって生産者が利益を得る割合が小さくなると思います。価格の上昇局面でも、実はかなりのところアグリビジネスに配分される割合が高いのでないかと考えています。
価格高騰の日本への影響は、食卓にも出ています。穀物価格が日本にダイレクトに与える影響は大きいと思います。日本の穀物自給率は27%と低いのです。その中で少しずつ自給率を上げようとしていますが、なかなか効果が上がらず、輸入に依存しています。しかも私たちは輸入農産物に遺伝子組換え作物が使われていることを強く意識していませんが、醤油や味噌に使用する大豆、家畜の飼料などには遺伝子組換え作物が使われています。私自身は、遺伝子組換えがいいのか悪いのかという適切な判断基準は持ち合わせていません。けれども日本人の大半が、遺伝子組換え作物を使用するのは嫌だと言っているのが現状です。が、価格上昇のなかで量的には背に腹は代えられないとなってしまうのではなかろうかとも考えます。畜産経営では、コストアップのすでに6割は飼料穀物の価格上昇によるものと言われています。
私は、アフリカは意外に強い地域という気もがします。あるいはしたたかに生きているともいえます。つまり状況の変化に応じて、消費する農産物の組み合わせを変えていく柔軟性、限りある農産物を共同体のなかで均等にシェアしていく能力というか社会秩序を暗黙のうちに備えていると思います。アフリカの強靭な社会システムの仕組みは、経済学では理解を超えており、人類学、社会学、人間行動学などの学際的領域で解明されなければなりません。
今日はおそらくネリカ米の質問が出ると思っていました。日本政府は、今後10年間に米の生産量を倍増させることに協力すると言っています。しかし、この達成には困難がつきまとうのは想像に難くありません。アジア地域にみられる協働の力、個人の力量をもってしては立ちゆかない例えば水資源の管理など、アフリカ地域の人々がややもすれば苦手とする協働による資源管理の能力が不足しているとすれば、お米づくりはそれほど容易なことではありません。人々による協働の力を発揮しなければ米づくりはむずかしい。そういうところに、わたしはアフリカにおける米増産に不安を感じています。あとお米の需要がどこまで増大していくか不透明なところです。いまは都市部でも米の消費が伸びていますが、はたしてその勢いが農村部まで行き渡るかどうか。

司会: 先ほど、アフリカの食料価格高騰が日本に及ぼす影響はとの質問がありました。私たちがおこなったセミナーでは世界最大の食料輸入国である日本が食料を輸入するってことはアフリカに行くはずだったかもしれない食料を日本が奪うことになるのではとそういう話しが出てました。

質問5: 人口増に対して食料増が追いついていないっていう状況だと思いますが、簡単にいうと行き着くとこはどこなのでしょうか?

講師: まず、需要と供給をよく見る必要があります。需要は人口によって決まる部分が大きいので、アフリカの人口がどう変わるかに大きく影響されると思います。人口構成の中で若い人口ばかりが増えていくことも大きな問題です。食料需要の規模を大きくさせます。しかも都市化の比率が高くなるのも問題です。そういったアフリカの人口構成がどう変わるかが、需要の大きさと形を決めていくと思います。本日のプレゼンの中で、レスター・ブラウンの見解を紹介しました。彼は、かつて「中国が養えるか」という本を出版しましたが、あれは違うだろうと思いました。私はアジアにおける食の基本型というのは、米、野菜、魚の組み合わせであり、西洋は、麦、肉、果物だと思っています。中国の食がどんどん洋風化するとは思えません。そうすると、主要穀物が将来中国で大幅に不足するというのは、やや言い過ぎではなかろうかと思います。
供給には、資源の制約、土壌の制約が大きいのです。その中で遺伝子組換えというのが食料の増産をもたらすのではないかという議論があります。しかしそれは、ややもすれば土壌を疲弊させたり、様々な問題も起こってくるのではないかとも言われています。遺伝子組換え作物を使ってアフリカの土壌がどうなるかは私にはよくわかりません。国際農林水産研究センターは、最近アフリカのいもやミレットなどの在来作物の研究に着手し始めています。遺伝子組換え作物や生産ン資源の話はこれから出てくるだろうと思います。日本もようやく本格的なアフリカの農業研究の局面に入ってきたことは間違いないと思います。

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