あらゆるレベルでより強い協調と協力が大事:ACTアクセラレーター外部評価報告書

今後のパンデミック対策に向けてまとめられたCOVID-19対策の経験と教訓

ACTアクセラレーターの外部評価報告書

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが落ち着き、急性フェーズからいわゆる「残存」(endemic)フェーズに移行しつつある中で、これからのパンデミックに対応するための多国間のメカニズム構築が進められている。そうした中で重要なのは、今回のコロナ・パンデミックへの対応の教訓をどう総括し、「パンデミックへの備えと対応」(PPR)体制の構築に生かすかである。特に、COVID-19の診断・治療・ワクチンおよび対応システムの開発と世界的な供給を担った保健系国際機関と民間財団の連携メカニズムである「ACTアクセラレーター」(Access to COVID-19 Tools Accelerator:COVID-19関連製品アクセス促進枠組み)の評価は重要である。

COVID-19の「急性期」収束への動きの中で、ACTアクセラレーターも移行期に入った。ACTアクセラレーターの運営評議会(Facilitation Council)の共同議長(南アフリカとノルウェー)は7月、ACTアクセラレーターに関する独立した外部調査を依頼し、この調査プロセスを6ヵ国及び4つの市民団体の代表でつくる「外部評価参照グループ」(External Evaluation Reference Group)に監督させることとした。この外部評価は、国際開発や保健に関わるドイツのコンサルタント企業「オープン・コンサルタンツ」(Open Consultants)が行い、報告書は10月10日に発表された

200以上の文献の分析と101名の関係者のインタビューやグループ討論、およびオンライン調査などを総合して発表された報告書「ACTアクセラレーターの外部評価」(External Evaluation of the ACT-A」は、これらのインタビューやオンライン調査の概要を要領よくまとめたものとなっており、多くの教訓を引き出すことができる。

資金と調整、主体的参画の不足が機能の停滞を招く

報告書は、「役割りと運営モデル」「財政と資源動員」「ACT-Aとその4つの分野の成果」「成果に影響を与えた外部要因」に分けて、調査で得られた主要な所見を分析した上で、それぞれについての教訓をまとめている。このうち、「主要な所見」の分析で多く見られるのが、資金の不足、関係機関等の調整の不足、および、特にサービスを受ける側の国とされる低所得国・中所得国が、意見を十分にインプットする機会がなく、その結果、オーナーシップ不足に陥っていったということである。その他、所見に書かれている主要論点は概ね以下の通りである。

●COVID-19パンデミックが生じた時点では、国際保健関係の機関の調整・協力の枠組みを作るので精いっぱいで、それ以上の機構を作ることは困難であった。この点でACTアクセラレーターの設置はベストの選択であった。一方、ガバナンスについては、ACTアクセラレーターの運営評議会が担った「非公式な調整モデル」は不十分であったと評価する意見が多い。

●特に、ワクチン、治療、診断の3つの分野(柱=pillar)と、保健システム・コネクターという連携の仕組みが、結局、縦割りのアプローチとなり、分野間の連携が撮れなかったことは課題である。また、透明性、アカウンタビリティが十分果たされていなかったこと、ガバナンスにおいて市民社会や低所得国・中所得国の意見が充分に聞かれなかったことは課題である。

●ワクチン分野(COVAX)の当初の設計では、COVAX自体を世界のワクチン購入の主要な仕組みの一つとし、先進国もCOVAXからワクチンを購入してもらい、それをもって市場形成と途上国へのワクチン供給の資金配分に活用しようとしていたが、これは「野心的」すぎた。先進国はCOVAXファシリティからではなく、独自にワクチンを購入したため、COVAXは市場形成の機能を持ちえなかった。今後はより野心度の低い、目標を絞った戦略をとるようにすべき。

ACTアクセラレーターは合計通算235億ドルの資金を確保した。これは資源動員を調整して行ったことによるものであり、評価は出来る。しかし、特に治療・診断・保健システムは資金不足に陥り、充分な機能を果たせなかった。これを考えれば、「パンデミックが始まった日から資金確保の努力を始める」のでは間に合わないことは明白。

●ACTアクセラレーターのあげた成果については、この危機の中である程度の役割を果たしたという評価が多い。特に、ワクチン(COVAX)については一定の評価があり、次いで治療と診断の柱も重要な成果を上げたとの評価となっている。一方、保健システム・コネクターについては失敗との評価が多い。緊急時に保健システムを強化しようとしたのは目的設定に誤りがあり、本来は各柱の間の連携の強化に徹するべきであった。、

●ワクチン接種率が10%に満たなかった34か国におけるワクチン普及に的を絞って2022年1月に出来た「COVID-19ワクチン供給パートナーシップ」(CoVDP)は有効に機能した。

●治療において酸素供給は問題であった。これについて、保健システム・コネクターが酸素供給を担当していた時はうまく行かず、「治療」枠にこれを移して以降は機能するようになった。

●ACTアクセラレーターは、国家の保護を受けられない難民・避難民等に供給するための「人道目的の取り置き」(Humanitarian buffer)を確保した。一方、COVAXは、ワクチンによる副作用についての賠償請求を恐れる製薬企業等との関係で、供与された資金の一部を使って「賠償および無過失補償制度」(indemnification and no-fault compensation mechanism)を設けた。しかし、この制度は、難民や避難民に対して非政府公益団体(NGO)がワクチンを供給する場合には活用しがたい状況があり、今でも解決していない。

●ACTアクセラレーターの役割に負の影響を与えた外部要因として上がったのは、まず、製造・供給能力の偏りである。ワクチンを必要とする多くの途上国にワクチンの製造能力がなく、全て輸入に依存する状況となっていることを解決する必要がある。次に、特に高所得国が、「ワクチン・ナショナリズム」により、ワクチンの買い占めに走ったことで、世界全体を見通した供給の流れができなかった。また、各国の国内でワクチンや医薬品を適切に供給する能力が低い「ラスト・ワン・マイル」の課題もあげられた。平時において、ワクチンや医薬品の製造・供給能力を世界全体で向上させておく必要がある。

世界全体での協調と協力が成功のカギ:ACT-Aの教訓

報告書では、ACTアクセラレーターの経験を踏まえて、研究開発の調整、医学的手段(Medical Countermeasures:MCM)のための緊急の資金供給、地球規模の機能、地域での製造および保健システム、の4点にわたって提言を行っているが、そのいずれもで強調されているのが、協調・協力・調整の必要性である。研究開発については、現在縦割りとなっている診断・治療・ワクチンそれぞれの柱の中での、また、柱同士の連携が必要であると説いている。

また、緊急の資金供給については、パンデミックが始まってからでは遅いので、パンデミックになったときにただちにMCMの開発に携われるよう、事前に枠組みを作っておくこと、パンデミックに対応する保健システムについても、パンデミックになってから強化はできないので、予め強い保健システムを整備しておくことが必要である。地球規模の対応については、難民・避難民に対する「人道目的の取り置き」分について、NGOが供給者になる場合、副作用などに関する賠償制度をどのように適用するかという点をクリアする必要がある。

また、技術移転や、地域レベルで持続可能な形で製造能力を強化しておくことも、パンデミック対策において必須である。