国連の各ハイレベル会合「政治宣言」文面交渉が本格化

2018年国連結核ハイレベル会合の会場で

共通する課題でスタックする3つの文面交渉

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の教訓を踏まえた「国際保健アーキテクチャーの変革」の最重要年となっている本年(2023年)は、9月の国連総会の時期に、元々決まっていた結核およびユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の国連ハイレベル会合に加え、「パンデミック予防・備え・対応」(PPPR)に関するハイレベル会合も開催されることになり、合計3つもの国連ハイレベル会合が連続して開催される。過去には、2018年に非感染性疾患と結核の二つのハイレベル会合が開催されたことはあるが、3つは歴史的にも例がなく、各国の交渉官をはじめ、関係ステークホルダーは過酷な業務を背負わされることとなっている。

各会合の「政治宣言」文面交渉の日程も明らかに

各会合の日程は、9月20日にPPPR、21日にUHC、22日に結核、という順番となっている。すでに、各会合で採択される予定の「政治宣言」のゼロ・ドラフトは全て回覧され、討議が開始されている。最も早くゼロドラフトが公表されたのは結核で、5月15日にはプレゼンテーションが行われ、25日には第1回交渉が行われ、もともとは6月21日に最終交渉となる予定であったが、合意に至らず、さらに6月23日および7月3日に交渉が行われることになっている。

UHCのゼロドラフトのプレゼンテーションは5月24日に行われ、6~7月を通じて交渉が進められ、7月28日に最終交渉、31日からいわゆる「沈黙手続き」(最終文案が確定して以降、一定期間が定められ、この期間中に加盟国からの異議申し立てがなければ、文書が採択されたと見なる手続き)に入ることになっている。また、PPPRゼロドラフトは最も遅れて6月7日にプレゼンテーションが行われ、6~7月を通じて交渉が行われた上、7月25日に最終交渉、26日から「沈黙手続き」となるというスケジュールが設定されているが、スケジュール通りに進むかどうかは予断を許さない。

「政治宣言」争点は何か?

それぞれの政治宣言のドラフトをめぐる交渉は、概ね、共通した課題で意見の相違がみられている。結核のドラフトに関しては、コミュニティ・ベースでの取り組みなどを強調するものとなっており、この点は市民社会の働きかけが奏功したものと思われる。また、人権などに関しても、もともと途上国グループなどが反対すると思われていたところ、一定の合意が成立する状況となってきているようである。一方、治療や検査などに関する公正なアクセスや技術移転といった、いわゆる「先進国VS途上国」の対立する課題については、強制実施権など、いわゆる「TRIPS協定の柔軟性」の表現ぶりなどを含めて合意に至っていない状況である。

UHCの政治宣言ドラフトも、何度かの交渉の結果、対立点が明確になってきつつある。結核と同様、公正・公平な医薬品アクセスと知的財産権の課題については、TRIPS協定の柔軟性などに関する書きぶりも含めて合意に至っていない。また、デジタル化とUHCについても、色々な主張が展開されて合意に至るまでには進んでいない。また、保健医療従事者の途上国からの人材流出問題などについても、先進国と途上国の折り合いがついていない。一方、これまた国連交渉で常に問題となりがちな、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツとそれに関わるサービスの表記についても、多くの国連交渉同様、特にイスラーム諸国やヴァティカンと中南米・欧州などの対立が埋まらない状況となっている。

PPPRの政治宣言ドラフトは公表されてから1回目の交渉を終えたところである。文面の多くはパンデミック条約交渉に提出されているパンデミック条約のドラフトとかなり類似したものとなっている。他の交渉で問題となっている公正な医薬品アクセスとそのための技術移転・共有などについては、このPPPR会合が本丸であり、この課題をめぐる先進国と途上国の対立が表面化することは避けられない。これについては、「病原体の情報へのアクセス」と「利益配分」についての課題も同様である。一方、パンデミック行動ネットワーク(PAN)は、WHOが2021年に設立した「パンデミック予防・備え・対応に関する独立パネル」(IPPPR)が提言したような、国連にパンデミックに関わる元首級の会議体を設置することなどを求める署名運動などを展開し始めている。

これらの政治宣言の交渉をめぐる市民社会の参画については、UHCハイレベル会合に向けては、UHC2030の「市民社会参画メカニズム」(CSEM)があり、結核ハイレベル会合に向けては、ストップ結核パートナーシップが市民社会とのパイプ役として機能している。これと比較して、PPPRハイレベル会合については、こうした市民社会メカニズムが不在のため、有効な形で市民社会の意見を導入しにくい状況となっている。