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コロナ関連知的財産権免除提案をめぐって続くつばぜり合い

=アフリカでのメッセンジャーRNAワクチン製造を
めぐっても様々な駆け引きが展開される=

非公式な4者協議での結論は間近?

世界貿易機関(WTO)での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連製品に関する知的財産権の一時・一部免除提案は、2020年10月にインド・南アが提出してから1年半近くにわたって検討が続けられている。共同提案国は現在までに65か国、加盟国のうち100か国以上が支持しているが、ドイツなど欧州諸国の一部と欧州連合が反対の立場を崩しておらず、議論は停滞が続いている。これについて、2月23-24日に開催されたWTO一般理事会が一つの焦点となっていた。

この一般理事会では、昨年11月にオミクロン株の影響で延期となったWTO閣僚会議について、本年6月13日の週に行うことが合意された。一方、TRIPS免除提案については、この一般理事会に向けて、提案を提出したインドおよび南アフリカ共和国と、ワクチンについてこれを支持する政策決定を行った米国、および反対の立場を崩さない欧州連合の4者で非公式の対話が継続されていたが、結局、この理事会までには決着がつかなかった。WTOのアナベル・ゴンザレス事務局次長は理事会前日の22日、「今回は合意に達しないが、正しい方向に動いている。集中的な討議がなされており、もうすぐ合意に達するものと考える」と述べた。この非公式対話自体は3月9-10日に再度開催されるWTOのTRIPS理事会に向けて協議が継続される予定である。

TRIPS免除の対象はワクチンだけ?

この「4者協議」について、妥協や合意を探るためにいくつかの非公式な提案がなされてきたことが、専門的なウェブサイト等で明らかにされているが、この課題に関わる市民社会は懸念を強めている。一つは、米国は昨年5月の政策転換以来、明示的にはワクチンについてTRIPS免除提案への支持を表明してきたが、これについて、TRIPS免除の対象をワクチンに限定し、これを診断や治療については広げないという立場が明確になってきていることである。COVID-19については、パンデミック宣言から2年を迎える中で重症者向け・軽症者向けの医薬品開発が進んできているが、いずれも高額である。昨年末にメルク社、ファイザー社が開発した経口薬はいずれも「医薬品特許プール」(MPP)への自発的ライセンス契約がなされているが、中南米諸国の多くが対象とされていないなどの問題がある。また、検査については、高所得国と中所得国以下の国の間で、アクセスに大きな格差が生じている。これらに鑑みれば、TRIPS免除をワクチンだけに限れば、COVID-19に関する医薬品格差の解消は遅れることになる。

また、いくつかの報道によると、米国などから、TRIPS免除の対象から中国とインドを除外する、もしくは、その対象をアフリカに限定するといった提案も出されたという。一方、欧州連合はTRIPS免除への対案として、以前から認められてきた強制実施権などTRIPS協定の柔軟性の強化を打ち出しているが、COVID-19に関しては、ワクチン、診断、治療への公平なアクセスに向けて迅速かつ包括的な対応が必要とされており、欧州の対案は、問題の解決ではなく「やっている感」を出すことを目的としている、との批判もなされている。一方、TRIPS免除提案に強硬に反対しているスイスは、4者の非公式協議という方法について批判的な見解を示している。いずれにせよ、6月の閣僚会議に向けて、4者協議を軸に、各国の駆け引きが激しさを増していくものと考えられる。

アフリカでのmRNAワクチン技術移転に向けた
前進と駆け引き

一方、世界保健機関(WHO)が、途上国のワクチンアクセスの実質的な拡大に向けてリーダーシップを発揮している「アフリカ・メッセンジャーRNAワクチン技術移転ハブ」は、アフリカにおけるmRNAワクチン製造に向けて一定の進展を見せている。その一方で、アフリカにおけるmRNAワクチン製造をめぐるメガ・ファーマ間のつばぜり合いも激しくなりつつある様子である。

2月17-18日にベルギーのブリュッセルで開催されたアフリカ連合・欧州連合サミット(AU-EUサミット)は、一方でTRIPS免除、もう一方で、COVID-19に関する欧州からアフリカへの支援をめぐる駆け引きの舞台となった。

アフリカでのmRNAワクチン技術移転ハブについては、昨年のWHOからの呼びかけに対して、南アのワクチン製造企業アフリジェン社(Afrigen)とバイオヴァック社(Biovac)、および南ア医学研究評議会(SAMRC)が呼応し、技術移転のコンソーシャムが設置された。WHOによると、この枠組みでワクチンの製造にあたるアフリジェン社はすでに研究室レベルでのmRNAワクチン製造に成功しており、今後、生産力の拡大を進める予定となっている。このハブについては、WHOと「医薬品特許プール」(MPP)が共同の進行役(co-leads)の役割を果たしている。このコンソーシャムは、アフリカにおいて知的財産権を行使しないという立場をとっているモデルナ社の技術を使用しており、モデルナ社との公式な連携に向けた協議も進みつつある。

AU-EUサミットでは、エジプト、ケニア、ナイジェリア、セネガル、南ア、チュニジアが、このハブから最初に技術移転を受けることが発表された。この発表は欧州連合、フランス、南ア、WHOの出席で行われ、テドロスWHO事務局長以外に、マクロン仏大統領、フォン=デア=ライエン欧州委員会委員長らが出席し、この構想への支持を表明した。

独ビオンテック社が仕掛ける駆け引き

一方、モデルナとmRNAワクチン技術を二分するファイザー・ビオンテック連合も動きを見せている。独ビオンテックはガーナ、ルワンダ、セネガルの3か国と連携して、同社のmRNAワクチンの包装・充填を行うこととし、そのための工場(ビオンテイナー BioNTainerと呼ぶ)の設置を進めている。これについても、2月17日、アフリカ連合、WHO、欧州連合の出席のもとに式典が行われた。

実際には、この二つのプロジェクトの間には対立が見られる。WHOのプロセスが、公開された公的な技術移転のイニシアティブとして推進されているのに対し、ビオンテックのイニシアティブはあくまで「充填・包装」に限定されており、技術パッケージもビオンテックが独占的に提供するものである。ビオンテックと連携して医療イノベーションを促進する財団である「kENUP財団」(kENUP Foundation)が、ビオンテックの「ビオンテイナー」提供イニシアティブを仲介したが、このkENUP財団が一方で、昨年8月に南アフリカ共和国政府に対して、WHOのワクチン・ハブの活動を停止するよう提言する報告書を送付したことが、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)の報道によって明らかになった。kENUP財団は、同ハブが活用するモデルナ社のmRNAワクチン特許について問題を指摘しているが、これについては、同ハブを進める「医薬品特許プール」のチャールズ・ゴア事務局長およびワクチン製造を進める南ア・アフリジェン社のペトロ・ターブランシュ運営責任者とも、kENUP財団のクレームを一蹴している。