市民社会、G7サミットに向けてグローバルファンドへの注目拡大を訴えるキャンペーンを開始

第7次増資の目標未達成でグローバルファンドの「触媒的資金」が資金不足に

増資目標未達成のまま注目度が薄れたグローバルファンド

市民社会はG7に向け追加的拠出を求める

昨年行われた、途上国のエイズ・結核・マラリアや保健システム強化に資金を拠出する国際機関、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)の第7次増資は、保健系の国際機関の増資としては史上最大の約157億ドルを集めたが、2030年までのエイズ・結核・マラリアの終息やユニバーサル・ヘルス・カバレッジを達成するうえで最低限の目標額として設定された180億ドルを達成できないまま推移している。グローバルファンドに関わる焦点はすでに集まった資金の配分と資金を活用した取り組みの案件形成に移っており、エイズ・結核・マラリア対策や保健システム強化に向けたグローバルファンドへの追加資金の必要性についての注目は格段に薄まった状況にある。

ところが、目標が達成されなかったことによる資金不足は、特に、複数の国を対象とする案件(複数国対象案件:Multi-Country Grant)や、意欲的な案件に資金を追加する「マッチングファンド」(Matching Fund)、および各国への資金配分でカバーできない案件への資金拠出を行う「戦略的投資」(Strategic Initiative)への資金拠出枠組みである「触媒的資金」枠(Catalytic Financing)の資金確保に、大きな負の影響を及ぼしている。「触媒的資金」枠に割り振られた資金は、予定の半額以下となっており、エイズ・結核・マラリアに取り組む市民社会は、G7広島サミットに向けて、グローバルファンドやエイズ・結核・マラリアの課題についての国際的な優先順位を上げるべくキャンペーンを開始した。

市民社会は「G7広島サミット」に向けキャンペーン開始

4月18日に軽井沢で開催されたG7外務大臣会合で発表されたコミュニケでは、国際保健に一定の紙幅が割かれたものの、章立てとしては22番目で、優先順位は高くなく、内容も、パンデミック対策とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を優先課題には置くものの、全体として一般的な課題の羅列に終始し、具体的なコミットメントもなかった。グローバルファンドやエイズ・結核・マラリアなど既存の感染症についての言及もなかった。このコミュニケの内容に危機感を抱いた市民社会は、5月初旬から、日本および米国の市民社会団体と「グローバルファンド活動者ネットワーク」(GFAN)が共同する形で、5月19-21日に広島で開催されるG7首脳サミットの首脳宣言に、グローバルファンドと三大感染症、保健システム強化などについて、現代の国際保健の仕組みの変革という文脈を踏まえて明記するよう求めるキャンペーンを開始した。(現在、署名を受付中

触媒的資金への配分は前期の半分以下:戦略の達成に危機感

実際のところ、「触媒的資金」枠の資金不足は厳しい状況にある。グローバルファンドの資金の主要部分は国別の三大感染症や保健システム強化対策に割り当てられるが、国別の資金だけでは解決できない課題に取り組んだり、複数の国にまたがる案件に資金を拠出したり、国別資金をより効果的・革新的に使うことで、同基金の「戦略枠組み2023-28」、ひいては2030年までの三大感染症の終息やUHCの実現に資するための資金プールとして位置づけられているのが、この枠組みである。前回の第6次増資を踏まえた2020-22年の資金配分では、この枠組みに拠出されたのは8.9億ドルであった。しかし、今回の増資については、事業に回す総配分額が120-130億ドルだった場合には、この枠組みへの資金配分を2億ドルとするとの2022年4月の第47回理事会決定を踏まえて大幅に減額された。同年11月に開催された第48回理事会決定では、資金配分は4億ドルに増額されたが、それでも、前期と比較して半分以下にとどまっている。

さらに、増額決定された資金の一定部分は、民間セクターによる、資金使途を限定した拠出を補完するためのものとなっており、人権やジェンダー、厳しい状況に置かれたコミュニティの取り組みに関して拠出される資金は、前期に比較して大きく減額される可能性が高い。そうすると、より衡平で人々やコミュニティを中心においた保健のためのシステムの構築や、最も影響を受けたコミュニティ野参画の保障、ジェンダー平等や人権の確立といった、グローバルファンドの現在の「戦略枠組み」の達成はおぼつかなくなってしまう。市民社会は、これを抜本的に打開するには、グローバルファンドへの追加的拠出を確保するしかない、との観点から、G7サミットや9月の国連の保健関係の3つのハイレベル会合等に向けて、グローバルファンドへの各国や各セクターの資金拠出の拡大に向けたキャンペーンを展開する予定である。今回のG7広島サミットに向けたキャンペーンも、その一環として位置づけられる。