バイデン政権の知的財産権免除支持方針に日本も賛同

一方、欧州連合首脳会議では消極姿勢の表明が続出

日本政府の茂木敏充・外務大臣は5月19日、米国バイデン政権のキャサリン・タイ通商代表と電話会談を行った。タイ通商代表はこの会談において、自らが5月5日に表明した、WTOで審議されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防・治療・封じ込めに関わる物資・技術への一時的な知的財産権の免除提案への米国政府の支持表明について説明し、理解を求めた。外務省のプレスリリースによると、茂木外相はこれに対して、(1)日本としても、ワクチンの国際的な生産拡大と公平なアクセス確保を迅速に実現させることを重視していることを強調し、WTOを中心とする国際的な議論に建設的に関与していくことを表明し、(2)COVAXへの貢献などの取り組みを進めていく考えを伝えた。両者はこれを踏まえ、今後ともワクチンに関わる国際的な取り組みについて緊密に連携していくことを確認したという。

参議院外交防衛委員会で答弁する茂木外相(5月25日、写真:参議院)

それから1週間が経過した5月25日、茂木外相は参議院の外交防衛委員会で井上哲士参議院議員(日本共産党)の質問に答え、「日本として、その他の国が(WTOの上記提案等について)前向きに取り組む中で、日本だけ待ったをかけるつもりはない」と発言、さらに「国際的にもどうやったらボトルネックを解消できるのか議論していきたい」と述べ、WTOの交渉に積極的に関与することを表明した。知財権免除提案自体への賛否については明言を避けたものの、茂木外相の19日および25日の発言は、日本が米国の政策変更に対応して、WTOにおける知財権免除提案について、少なくとも交渉の進展に反対しない姿勢を明確にしたものとみなしうる。

スペイン・イタリアが一定積極姿勢、フランスはあいまい

日米が少なくとも「交渉の進展をブロックしない」という点において強調したのに対して、欧州の対応はいまだに分かれたままとなっている。欧州各国の態度は、5月7日に開催された欧州連合(EU)首脳会議(サミット)で明らかになった。

同提案への賛同を政府として明確にしたのがスペインである。スペインのカルメン・カルボ第一副首相は5月6日、WTOの提案およびこれに支持表明した米国バイデン政権を擁護し、「こうした保健上の危機には、例外的な措置が必要だ。それによって私たち全員が救われるか、さもなければ、誰も救われないかのどちらかだ」と述べた。イタリアも基本、これに同調する方向だ。同国のルイギ・ディ=マイオ外務大臣は「米国の支持表明は重要なシグナルだ」と述べ、また、ロベルト・スペランザ保健大臣は「ワクチンの特許権に関する自由なアクセスはバイデン政権が開けた重要な突破口だ。欧州もそうしなければならない」と述べた。一方、ドラギ首相はより慎重な態度で、「ワクチンは世界の公共財だ」と述べはしたものの、知的財産権については言及しなかった。ギリシャも米国の提案賛同を支持する立場を明らかにした。

フランスは微妙な立ち位置にある。マクロン大統領はバイデン政権の方針転換を受けてすぐ、ワクチンに関する知的財産権免除を支持すると述べた。しかし、5月7日のEUサミット前には「(2000年代初頭の)エイズの時代に我々がしたことと同じことをしなければならない。議論を始めることだ。知的財産権が障壁の一つとなっているなら、それを取り除かなければならない。しかし、限定的な方法でだ」と軌道修正、さらにドイツなどと波長を合わせて、英米など「アングロ=サクソン」諸国からのワクチン輸出が過少であることに矛先を向けた。「実際の問題は知的財産権ではない。連帯の主要課題は、ワクチンの共有だ」「問題は『アングロ=サクソン』諸国がワクチンと原材料の大半をブロックしていることだ。米国で作られたワクチンは100%米国市場に行っている」

ドイツや欧州連合首脳は否定的見解

もっとも否定的な態度をとったのはドイツだ。6日、ドイツのイェンス・シュパーン保健大臣は「バイデン大統領がセットした『世界にワクチンを届ける』というゴールは、パンデミックから抜け出る唯一の道だ。ワクチン製造国はそれらを輸出しなければならない」と、ワクチンの輸出に消極的な米国をけん制。また同日、同国の政府報道官は、「ワクチン製造に限界をもたらしている要素は、質の高いワクチンの製造能力であって、知的財産権ではない」「知的財産権保護はイノベーションの源泉であって、これからもそうあり続けなければならない」と述べた。ドイツの姿勢は、ファイザーにメッセンジャーRNAワクチンの技術を提供したビオンテック(BioNtech)など開発系製薬企業を同国が抱えていることに由来するともいわれている。

米国は知財権免除を支持しつつ、英国と共に、原材料やワクチンに関する実質上の輸出規制を行っている…反対に回った欧州諸国はその点に不満を表明した。先日「パンデミック条約」の提案者の一人となったシャルル・ミシェル欧州理事会議長(ベルギー)は、WTOにおいて討議を進める準備は出来ているとしながらも、ドイツ政府と同様、英米が輸出規制を緩めることを強く求める姿勢を明らかにした。ミシェル氏は、今パンデミックと闘う方法は、できるだけたくさん製造し、輸出規制を解くことだと言明。「米国、英国のようなワクチンを作りつつも他に売らないやり方をしている国々は、素早くワクチンを作り、輸出規制を解くことが必要だ」。ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長も、同様の発言を行っている。

欧州諸国も、議論をテキストベースの交渉に進めること自体に反対、という立場ではなくなりつつあるのは一歩前進と言える。しかし、WTOのオコンジョ・イウェアラ事務局長がいうように、この提案への議論は一定長くかかることが予想される。今直ちに実施できる手段を前倒しで行いつつ、WTOでの議論を現実に前に進められるかどうかが問われている。

<参考資料>

外務省「茂木外相とタイ米国通商代表の電話会談」

参議院外交防衛委員会での茂木外相の発言(第13回外交防衛委員会)

  • 動画 (時間:開始からの経過時間 1時間43分~1時間55分)

<参考記事>

スペイン  Publico
Espana se suma a Biden y apoya la liberacion de las patentes de las vacunas

イタリア Politico
US shift on vaccines embarrasses Europe before India summit

Draghi, vaccini bene globale, abbattere ostacoli

フランス ガーディアン(英)
Macron voices concerns over Covid vaccines patent waiver

欧州連合 Politico
US shift on vaccines embarrasses Europe before India summit

ドイツ The Local
UPDATE: German government voices opposition to US call to waive Covid vaccine patents