2024年2月号(アフリカニュース発掘部)

アフリカニュース発掘部2024年2月号です。
参考:アフリカニュース発掘部とは?

■目次
1 プランテン製ワイン・アガダギディの可能性(ナイジェリア・食)
2 最大野党CCC党首ネルソン・チャミサ氏が離党(ジンバブエ・政治)
3 T.B.ジョシュア氏のスキャンダル(ナイジェリア・宗教)
4 アシャンティ王国からの略奪品の返還(ガーナ・植民地・文化)
5 移民問題の解決には内務省の改革が必要(南アフリカ・政治・移民)
6 100年以上にわたるアフリカのラジオ放送:プロパガンダから人々の力へ(アフリカ・メディア)

1. プランテン製ワインアガダギディの可能性

 ナイジェリア 食

● 概説  アフリカにはさまざまな「伝統的な」アルコール飲料がある。なかでもナイジェリアでは、プランテンから作る「ワイン」であるアガダギディ(Agadagidi)が注目されている。アガダギディは一般的に祭事に嗜まれているが、必ずしも品質が保障されてこなかった。この点に着目した研究者らが、小規模生産の品質に関する実験を行った。その結果、安全性が保障され、十分に消費に耐えうる品質の試作が得られたと発表した。将来的に本研究を応用し、農産物の廃棄量の削減、農業従事者の所得の増加を通じ、経済を活性化させるとともに、輸入ワインへの依存からの脱却の可能性があると同研究は述べている。 ナイジェリアでは、労働力の約7割は農業従事者であるが、GDPに対して農業部門の占める割合はおよそ3割である。しかし、収穫した農作物うちのおよそ半分のみ消費されるにとどまり、これに伴い農業従事者の所得が失われている。また、プランテンは1972年から2021年まで、年平均2.75 %の割合で生産量を伸ばしており、潜在性は高い。

● 詳細記事 Adetola, Malomo Adekunbi 2023. “Nigeria’s plantain wine: a tranditional drink with huge economic potential.” The Conversation. December 21.

● 感想  Agadagidiに関する文献の無さがこのワインに対する注目度の低さを物語っていると感じ、また、自分自身もプランテンという作物は大学の授業で初めて耳にし、食べたことがないので、いつか食べてみたいと思った。もちろんAgadagidiも飲んでみたいので、アマゾンで買えるような製品化をしていただきたい (インターン:奥平)。

 

2. 最大野党CCC党首ネルソン・チャミサ氏が離党

 ジンバブエ 政治

● 概説 2024年1月25日、ジンバブエ最大野党CCC(the Citizens Coalition for Change)の党首であるネルソン・チャミサ(Nelson Chamisa)氏がプレスリリースを発表し、自身の離党を表明した。CCCは2022年にチャミサ氏を中心に発足した政党であり、昨年の選挙では44%まで得票数を伸ばしたものの敗北。選挙後、内部分裂が表面化していた。チャミサ氏は、CCCの内部問題を与党ZANU PF(The Zimbabwe African National Union – Patriotic Front)の妨害行為によるものと主張している。今後、チャミサ氏は新たな政党を発足するとしている。

● 詳細記事 BBC 2024. “Nelson Chamisa: Zimbabwe opposition CCC leader quits ‘contaminated’ party.” BBC. January 26.

● 感想 昨年2023年に行われた大統領選挙では、その正当性が外部からも指摘されており、与党によって野党の内部への妨害活動が実際に行われた可能性は十分考えられる。しかし、チャミサ氏のリーダーシップが弱まっているのは事実であり、新たな政党にどれほどの現CCCメンバーが追随するか、注目していきたい(インターン:青木)。

● もっと知りたい! 現地メディアによる報道は例えば以下の通り。
・「チャミサ氏はCCCを見捨てた」(ニュースデイ紙)Online Reporter. 2024. “Chamisa abandons CCC.” Newsday. January 26.
・「チャミサ氏が離党:裏切りと利己的な計略」(ヘラルド紙)Matthew Mare. 2024. “Chamisa resignation from CCC: Poor betrayal and selfish strategy.” The Herald. January 26.
・「チャミサはジンバブエ最大野党を迷わせたのか」(アルジャジーラ)Mafundikwa, Ish 2024. “‘Structureless party’: Has Chamisa led Zimbabwe’s main opposition astray?” Al-Jazeera. February 12.

 

3. T.B.ジョシュア氏のスキャンダル

 ナイジェリア 宗教

● 概説 2024年1月、BBC(英国放送協会)の特集”Africa Eye”が約150分にわたるドキュメンタリー動画「DISCIPLES: The Cult of TB Joshua」を公開した。この動画はナイジェリア内外で衝撃をもって受け取られ、現在も議論が続いている。BBCによる動画は、2021年に亡くなったナイジェリア・ラゴス州に本拠地を置くペンテコステ・カリスマ系教会であるシナゴーグ・チャーチ・オブ・オールネイションズ(SCOAN)の指導者T. B. ジョシュア(Joshua)氏による20年以上にわたるレイプ、拷問、虐待の実態を、当事者の証言を交えて詳細に報告している。1987年に創設されたSCOANは、ナイジェリアはもちろんアフリカ地域全体、ひいては世界中に多数の信者を抱える。ラゴスにあるSCOAN本部は現在も有名な観光地の一つとして知られる。ジョシュア氏は多くの「病い」(さまざまな不幸、高血圧からHIV/AIDS、「同性愛」に至るまで)を「治す」という「奇跡(miracle)」を引き起こすとされ、当然その内実には国内外から多くの批判もある。他方、多くの社会貢献活動を行う慈善家として多数の表彰を受けたり、アフリカ内外の著名人(首脳級からプロスポーツ選手に至るまで)との関係も深い。以下の記事は、なぜ彼が教会を拡大させることに成功したのか、またなぜ彼がBBCで特集された程にあまりにも悲惨な暴力を行うに至ったのか等について、ペンテコステ教会の特徴、インターネットの普及、ナイジェリア国家の脆弱性などの観点から議論している。

● 詳細記事 Wariboko, Nimi 2024. “TB Joshua scandal: the forces that shaped Nigeria’s mega pastor and made him untouchable.” The Conversation. January 19.

● もっと知りたい! 以下の記事は上述したBBC Africaによるドキュメンタリーをまとめた記事である。ドキュメンタリー動画は同記事真ん中辺りにリンクがある:Northcott, Charlie and Helen Spooner 2024. “TB Joshua: Megachurch leader raped and tortured worshippers, BBC finds.” BBC. January 8.

 

4. アシャンティ王国からの略奪品の返還

 ガーナ 植民地 文化

● 概説 19世紀、アシャンティ王国(現在のガーナの一部)からイギリス軍により略奪された39の金製品が、2024年2月から4月にかけて、ガーナのマンヒヤパレス(Manhiya Palace)博物館に最長6年間返還される。本記事では、ガーナ側プロジェクト担当者のひとりであり、歴史家で博物館エコノミストのDuah氏へのインタビューが掲載されている。

● 詳細記事 Engmann, Rachel Ama Asaa 2024. “Ghana’s Looted Asante Gold Comes Home (for now): Asante Ruler’s Advisor Tells Us about the Deal.” The Conversation. January 30.

● 感想+解説  今回、所蔵品を返還する大英博物館及びヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は、双方ともイギリスの国立博物館であるため、自国の法律上、所蔵品の売却や移転が禁止されており、今回は「貸与」という形式での返還となった。 ガーナのみならず多くのアフリカ諸国で、旧植民地宗主国による略奪品返還をめぐる論争は絶えない。本件も約半世紀にわたり政府間での交渉が行われてきたものの、進展はみられていなかった。今回の、政府レベルではなく、博物館同士の協定というイギリスの法律が許す範囲内での返還の実現は、この停滞している状況を動かす、大きな一歩となるだろう。本件が他のアフリカ諸国での同様の動きに連鎖していくのか注目していきたい。また、返還後のガーナ国民の反応や貸出期限が終了する際の博物館、政府の動きも気になるところである(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
・「略奪されたガーナ アシャンティ王国の金財宝の貸与返還」(Katie Razzall. 2024. “Asante Gold: UK to loan back Ghana’s looted ‘crown jewels’.” BBC. January 24.)
・「英博物館、ガーナの略奪品を本国に「貸与」:なぜ返還しないのか」(Folk, Zachary. 2024「英博物館、ガーナの略奪品を本国に「貸与」:なぜ返還しないのか」Forbes Japan. January 27.)

 

5. 移民問題の解決には内務省の改革が必要

 南アフリカ 政治 移民

● 概説 移民の流入が拡大している南アフリカで、移民問題に関するトラブルが絶えず、内務省(Department of Home Affairs)が陳謝する事態となっている。査証や入国許可の手続きにトラブルが多発し、査証の不正取得や内務省職員による汚職まで明らかとなった。南アフリカ政府は、本件解決のための草案を発表したものの、その内容は移民の権利のさらなる制限であり、根本的な解決は期待できない。本記事の著者は、これらの問題の解決には内務省の抜本的な改革が不可欠とし、二つの内部調査の結果をもとにその理由を示している。

● 詳細記事 Hirsch, Alan. 2024. “South Africa Needs to Manage Migrants Better. That Requires Cleaning up the Department of Home Affairs.” The Conversation. February 2.

● 感想  南アフリカには歴史的に近隣諸国から多くの移民が居住しており、移民関連の問題は後を絶たない。例えば、政府への不満の矛先が人口の多くを占める移民に向けられ、各地で移民排斥の動きとして表出している。移民政策の厳格化により不法移民が増加することで、そのような動きが助長されてしまうのではないか、懸念される。また、アフリカの一部の国では、行政機関の職員、警察、空港職員などによる汚職はよくみられる光景となってしまっているが、南部アフリカ諸国をリードする大国である南アフリカには、各機関の職員への教育を徹底し、汚職を厳しく取り締まってほしいものである(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
・「南アフリカで外国人嫌悪はなぜ起きているのか」(Charlie, Ayanda. 2023. “Inside South Africa’s Operation Dudula: ‘Why we hate foreigners’.” BBC. 18 September.)
・「南アフリカの間違った移民政策」(Landau, Loren B. and Walker, Rebecca. 2023. “South Africa’s immigration proposals are based on false claims and poor logic- experts.” The Conversation. 23 November.)

 

6. 100年以上にわたるアフリカのラジオ放送:プロパガンダから人々の力へ

 アフリカ メディア

● 概説  アフリカの多くの地域ではラジオ放送が重要なメディアの一つである。ラジオ放送は植民地の拡大のツールとして、また植民者が故郷とつながるツールとして使用されていた。最初の公式ラジオ放送は南アフリカのヨハネスブルグで1923年12月に始まったとされる。その後1927年にケニア、1934年にシエラレオネで放送が始まった。第二次世界大戦時には、世論の戦争支持を得るためにラジオが使われた。当時、イギリスはアフリカにおける多様な言語での放送も始めている(ただしフランス領はフランス語での放送であった)。1950年代から1960年代は、無線技術の価格低下、また独立の機運と運動の高まりと相俟って「抵抗ラジオ」ともいうべきラジオ放送が注目される。例えば南アフリカにおける反アパルトヘイト抵抗運動としての「ラジオ・フリーダム」がある。他方でアンゴラのように、当初はラジオを国家建設のツールとしていたものが、1977年のクーデター後は検閲を強化していった場合もある。ルワンダのジェノサイドにおけるラジオ放送も想起する必要がある。また民間放送局も拡大を続けた。ガーナでは現在、公共放送、商業放送、コミュニティ放送、キャンパス放送などを含めて500以上の放送局がある。今やアフリカ各地で様々な言語での放送が続いている。ポッドキャストを含めインターネットを介したメディアの変化は続くが、ラジオ放送はアフリカにおいて重要なメディアの一つとして健在である。

● 詳細記事  Nkoala, Sisanda 2024. “100 Years of Radio in Africa: from Propaganda to People’s Power.” The Conversation. February 12.

● 感想 記事を読んでいたら、ナイジェリアで出会った人が、自分の子どもが勉学に励んでいることを喜びつつも、英語しか話さない(ヨルバ語を話さない)ことについて、「ヨルバ語のラジオ放送すらちゃんと理解しないのだ」と嘆いていたのを思い出した。またバスに乗っているときに、ラジオでコメディアンがお馬鹿なことを言ったことで、スマホばかり見ていた乗客も含めてみんなで大笑いしていたことも思い出した。ラジオを通してアフリカを見てみたら、植民地支配から、紛争の引き金となったスピーチに至るまで、さまざまな物事が見えてくる。他方でラジオを、人々をつなげ、力に変えるツールとして考えると、日ごろ聴いているラジオも少し違って聴こえるかもしれない(玉井) 。

 
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