プロサバンナ事業:推進状況

『アフリカNOW』99号(2013年10月31日発行)掲載

執筆:森下麻衣子
もりした まいこ:オックスファム・ジャパンのアドボカシー・オフィサー。慶応義塾大学法学部法律学科卒業。外資系投資銀行勤務を経て、国際交流を手がけるNGO の平和・開発教育プログラムに携わる。2010年より現職。貧困削減の観点から気候変動や食料問題などに関するアドボカシー(政策提言)やキャンペーンを担う。


私はプロサバンナ事業の対象地において、具体的に何が事業として進められているのかについて報告します。プロサバンナ事業を推進する3ヵ国政府の説明によれば、プロサバンナ事業はマスタープラン作成途中であるとされています。それにもかかわらず、実際に現地で事業が進められていると言われる際に取り上げられるプロジェクトが2つあります。

一つ目は、プロサバンナ開発イニシアティブ基金(PDIF: ProSAVANA Development Initiative Fund)で、JICA とモザンビーク政府の融資機関により、2012年9月に初期資金75万USドルで立ち上げられました。PDIF の目的は、プロサバンナ事業対象地のモザンビーク北部ナカラ回廊沿いで事業を行うアグリビジネスを、プロサバンナ事業のパイロット事業者として支援することです。その原資は、モザンビーク政府に提供された食糧援助(KR)の見返り資金が7割を占め、残りの3割はGAPI という半民半官組織が出資しています。昨年の秋にPDIF の第一次募集が行われ、5つのアグリビジネスが融資対象に選ばれました。
そのうちの一社と取引する教師の男性の話を聞きました。彼は中規模農業経営者でもあり、40ヘクタールの農地でゴマを生産しています。また、IKURU の関係者によると、IKURU が取引している農家の大半も中規模農家に近く、5〜10ヘクタールの農地を耕しているそうです。それらの農家に、PDIF の融資で購入したトラクターを貸し出しています。
PDIF で推進されているのはいわゆる契約栽培で、融資先も小〜中規模農家と契約栽培を行なうアグリビジネスです。こうした契約栽培が小規模農家の支援につながるのか否かについても精査する必要があります。

二つ目は、クイック・インパクト・プロジェクト(QIP:Quick Impact Project) です。JICA のウェブサイトには、プロサバンナ事業全体の農業開発計画の中から即効性が期待できるものをQIP に指定すると書かれています。今年3月に入手したプロサバンナ事業のレポート(市民社会からはプロサバンナ事業のマスタープランのドラフトではないかと指摘されているが、3ヵ国政府はこれを否定)では、少なくとも16のQIP が提案されています。パブリックセクターが行う8つの事業では、プロサバンナ事業を実施するにあたって必要な政策づくりやインフラ整備などが、プライベートセクターが行う残りの事業は、すでに現地で実施されている事業がプロサバンナ事業の性格に見合うものであれば、その事業に融資し企業投資を奨励する、という分け方がされています。

パブリックセクターに分類されるQIP の一例を紹介します。このプロジェクトは、リバウエ(Ribáuè)郡マタリア(Matharia)地域で行われており、土地バンクを作るというものです。モザンビークでは土地はすべて国家が所有していますが、10年間同じ土地を耕作していればと農民はその土地の利用権を持ち、DUAT を取得して土地の登記を行います。しかし農村部では、大半の農民は字が読めないなどの理由でDUAT を取得していません。土地バンクは農民のDUAT 取得を奨励し、土地のデータを入力して、外部からの投資環境を整えるということを目的としています。

リバウエ郡の農村でインタビュー調査を行いました。この農村では、農民組織が灌漑設備を作り、野菜などを生産しています。ある農民にプロサバンナ事業について知っているかと聞くと、知っていると答えてくれました。今年1月に、村長と農民組織の代表は出席せよと指示され、イアパラ(Iapala)での話し合いに呼ばれ、その場でプロサバンナ事業関係者から、「この事業は3ヵ国の協力プロジェクトだ。モザンビークには多くの使われていない土地があり、それがどこかわかればモザンビーク政府にそこを使用させてもらう。そのために土地のDUAT 登録をしなくてはならない」と聞いたそうです。3月には、モザンビークだけでなくブラジルと日本からも関係者が来て、土地がどのように使われているかを調べ、7月には実際に農地を測りにきました。
インタビューに応じてくれた男性が「DUAT を取得した場所以外でもさらに農地を拡大したい」と話していました。「DUAT を取得したら決められた土地以外は使えないのではないか」と聞いたところ、「農地を拡大したらまたDUAT を取得すればいいのだ」と答えていました。前述したプロサバンナ事業のレポートを読むと、DUAT 取得は投資環境を整えることをもっぱらの目的としており、現在行われている移住型農業(shifting cultivation)を定住型農業(fixed cultivation)にすると書かれています。こうしたことが現地農民に理解されていないのではないか、現地できちんとした情報共有や協議がないままに事業が進行し、農民が誤った認識を持つのではないかと危惧を覚えました。

また、PDIF から約7万USドルの融資を受けた人物(Matheria Empreendimentos のオーナー)の話を聞きました。彼はマプートに住んでいる白人で、この付近に2,850 ヘクタールの囲まれた農地を所有しています。この農地は内戦中は放棄され、農民が住んでいましたが、彼が内戦後に戻ってきて農民を追い出したそうです。彼が融資を受けるに至った経緯について尋ねたところ、「プロサバンナ事業の関係者は良い土地や大きな土地を持っている人物を探していたので、彼を見つけたのだと思う。彼の農地では約30人が雇われており、周囲の農民に種と肥料などをセットで貸し出している」と話してくれました。私たちが調査に来た目的を説明すると、「プロサバンナ事業は彼のようなお金持ちを探して助けるのではなく、自分たちのようにお金のない小規模農家を支援すべきではないか」と語っていたことが印象的でした。

プロサバンナ事業は、対象地の農民の土地の利用と生活を大きく変えていくプロジェクトです。その方向性や生活への変化・影響が現地農民に理解されているのかという問題があります。土地利用の登記(DUATの取得)に関してきちんと説明をしないと、土地収奪が起こっている現地ではさまざまな憶測や不安が生じてきます。情報がきちんと提示されないまま事業が進められるならば、計画的に土地が奪われていると思われても仕方がないでしょう。

現地調査からプロサバンナ事業を問い直す


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