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プロサバンナ事業:現地調査で何を調べたのか

『アフリカNOW』99号(2013年10月31日発行)掲載

執筆:舩田クラーセンさやか
ふなだ くらーせん さやか:東京外国語大学教員。専門はアフリカ地域研究、平和・紛争研究。1994年に国連モザンビーク活動(ONUMOZ) 選挙オフィサーとして活動して以来、モザンビーク紛争と平和構築、開発に関する研究を行ってきた。主著は『モザンビーク解放闘争史』(御茶の水書房、2007)。編書に『アフリカ学入門』(明石書店、2010)


日本の政府開発援助(ODA) によるモザンビークにおける大規模農業開発事業「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるアフリカ熱帯サバンナ農業開発プロジェクト(プロサバンナ事業、ProSAVANA-JBM)」は、この事業を立案計画した国際協力機構(JICA) の資料によれば、現在マスタープラン策定が進行しています。

「プロサバンナ事業とは何か」について、この間JICAに聞いてきましたが、いまだに全容をつかむのがとても困難です。今年5月29日の朝日新聞に掲載されたプロサバンナ事業に関する記事では、JICA の取材に基づき、かつて日本とブラジルが協力して行なった日伯(日本・ブラジル)セラード農業開発協力事業(PRODECER)の成功を、ブラジルと同じ緯度で同じ熱帯サバンナ地域であり、公用語として同じポルトガル語を使用するモザンビーク北部でも実現すると書かれています。

2009年の3ヵ国調印文では、プロサバンナ事業は日本とブラジルのパートナーシッププログラムに基づいて行われる、モザンビークの熱帯サバンナの農業開発プログラムであると明記されています。JICA のプロサバンナ事業の説明サイトでは事業を推進する理由について、「モザンビークには広大な未利用の農耕適地が残されており、低い生産性を余儀なくされている農民が人口の8割を占め、ブラジルのセラードと似ている」と書かれています。「不毛な」セラードを立派な大豆の一大プランテーション地域にした、だから「モザンビークで余っている農地」もこのようにしようという意図が示されています 。つまり、ロサバンナ事業の立案・形成は、一つ目に「モザンビーク北部に広大な土地が残っている」、二つ目に「小農は生産できず飢えている」という前提に基づいて、「ブラジルにおけるセラードの経験を生かすべきである」とされているのです。また、「現地の大農や投資と小農は共存できるし、それを奨励すべき」との前提のもとで「投資を通じた小農支援を行う」と説明されています。

今年5月にはモザンビークの市民社会組織23団体から、プロサバンナの緊急停止を求める公開書簡が安倍首相、モザンビークのゲブーザ(Guebuza)大統領、ブラジルのルセフ(Rousseff)大統領に手渡されました(14~18 ページに関連記事と公開書簡を掲載)。この公開書簡に対してJICA・外務省は、意見交換会などで、プロサバンナ事業では対話を重視しており、プロジェクトを進めていないと繰り返してきました。そこで実態がどうなのかについて調べるため、現地調査を行いました。この調査では、(1)意味のある対話は行われているのか、(2)土地は本当に余っているのか、(3)大農や投資と小農は共存し、ウィン・ウィンの関係が現地で形成されているのか、(4)小農は生産できずに飢えているのか、という4点について調べてきました。

私たちが参加した8月8日の市民社会の会合には、約200人のモザンビークの農民や市民社会、政府関係者などが参加しました(大半は農民)。農民の女性の一人は、「私は農民であり、母である。そして、この農地を守っている者である。しかし、いまモザンビークでは、土地を守っている農民からどんどん土地が奪われている。土地をめぐる問題について発言したり、問題提起をすると、政府が警察を連れてくる。特に力の強い警察がやって来て、声をあげた農民を連れていく。政府の代表はこのような状況であることを知っていて、土地が余っていると言うのか。農民と対話していると主張しているが、本当の対話になっていない」と訴えていました。

モザンビーク政府からは農業大臣が出席したほか、首相の代理として農業省の経済局長そして大臣退席後の代理として別の局長が出席しました。経済局長は、「プロサバンナ事業はまだコンセプト段階にある。まだ何も進めていないので今から対話をしよう」と発しましたが、農民はこの事業が進んでいることを知っているので、会場からは失笑が漏れていました。

北部から来た農民はこの発言を聞いて、次のように言いました。「政府が説明したことと現地で起きていることには別々の二つのリアリティーがある。いったいどちらが本当なのか。政府はすべて大丈夫と言うが、農民が生きている現実では日々状況が悪化しており、政府は生活の悪化に加担している。また、これまで政府は、『プロサバンナ事業はブラジルを手本にする、ブラジルで成功したからモザンビークでも大丈夫だ』と説明していたのに、もはやそのような説明はされなくなった。かつては盛んに『ブラジルのPRODECERの成功をモザンビークでも』『投資をする、大豆を輸出する』と言っていたのに、なぜそのことが急に言われなくなったのか。このことは小農としてはとても喜ばしいことだが、この急な変化の背景には何があるのか。これは国民的な恥(National Shame)だ。犯罪だ。政府は嘘つきだ」と。

また会場では、モザンビークの農民組織(UNAC)と農民支援組織(ORAM) がブラジルの土地なし農民運動(MST)と共に作ったビデオ”ProSavana e faceoculta do Prodecer”(『プロサバンナと顔を隠したPRODECER』 farmlandgrab.org/post/view/22661)が上映されました。ブラジルのセラード開発の結果として農民がいなくなった現実が描かれています。サトウキビと大豆の広大な畑が続く中に農民の姿が一つもない、どこまで行っても農業労働者が一人もいないという現実。会場では「これがモザンビークで行われようとしているのか」という問いかけがなされましたが、政府は「関係ない」と答えただけでした。

 

現地調査からプロサバンナ事業を問い直す


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