書評 ”LET THEM LIVE” written by Chris Chidume C.

『アフリカNOW』91号(2011年5月31日発行)掲載

“LET THEM LIVE”
First published in Nigeria by Fountain books
Revised Edition published October 2009
本文89ページ
販売価格:1,500円(税込)

執筆:但井 裕子
たい ゆうこ:元AJFインターン。慶應義塾大学文学部哲学系卒業、米国Monterey Institute of International Studies言語教育学修士課程修了。ハワイ州で英語と日本語のコミュニケーション能力開発研修の企画・立案。帰国後は、公立の小中学校でのネイティブによる英語教育に従事。現在は、外資系食品会社で人材開発を担う。


AIDSで父親を亡くした13歳の少年マイケル(Michael)と、子どもの頃にHIVに感染した血液を輸血されたために感染してしまった14歳の少女ベアトリス(Beatirice)。ナイジェリア・アブジャの国際会議場で子どものために開かれたエイズのイベントで知り合った二人は、短編小説の共同出版をすることになる。本の売り上げの半分を使って、子どもたちへのエイズ教育の普及を夢見る。ラゴスに住むベアトリスとラゴスに引っ越す予定のマイケルは、再会することを約束する。
世界銀行アブジャ支店に勤める父親と弁護士の母親、7歳の妹アダの4人で仲良く暮らしていたマイケルは、ある日、母親を不慮の交通事故で亡くす。自暴自棄になったマイケルの父親はHIVに感染し、死亡する。父親の死の真相を理解できないマイケルだが、クラスメートや近所の人たちのゴシップに落ち込んでしまう。マイケルは父親の死の原因を教えて欲しいと大人たちに懇願するが、父親が感染した理由をどうしても言葉にできない大人たち。
両親をなくしたマイケルは妹アダとラゴスに住む父親の姉ローズ叔母さんの家に住むことになる。ローズ叔母さんの2人の子どもは全寮制の学校に通っているので、マイケルとアダは、ローズ叔母さんと彼女の無職の夫と4人で暮らすことになる。いつも鼻をほじっているローズ叔母さんは、マイケルに対して怒鳴ったり殴ったりと、虐待を続ける。
ラゴスに引っ越して間もなく、マイケルはべアトリスから電話を受ける。(べアトリスは、なぜか家の電話を使わずに公衆電話から電話をし、両親とは住まずに叔父と住んでいる。この不自然さは特に物語の中で説明されていないが、アフリカの事情に詳しいかたは、そこからも何らかの背景事情を読み取るのかもしれない)。べアトリスはマイケルの家で週末を過ごしたいと言う。虐待を繰り返すローズ叔母さんに、HIVに感染している友だちを泊めて欲しいと頼むのが怖くて仕方がないマイケルだったが、意外にも、週末だけという条件で、ローズ叔母さんは許可してくれる。
べアトリスは自分の使命を知っていたのだろう。心の曲がったローズ叔母さん、優しく理解のあるマイケルの担任の先生、3年前に弟をAIDSで亡くした学長、そして、育ちのいいマイケルのクラスメートたち。ローズ叔母さんの家に滞在している間に、彼女はおくするすることなくHIVに感染している事実を打ち明け、ひとりのごく普通の少女として積極的に人々と関わりを持っていく。立場の違うそれぞれの人が、それぞれの立場でべアトリスとふれあい、自身の持つHIV・AIDSに対する偏見やタブー視に向き合うことになる。
しだいにやせ細っていくべアトリス。マイケルの目にも、病状が進んでいることがわかるようになる。そんなある日、べアトリスの通う教会で事件が起こる。新しくやってきた司祭は、HIVに感染しているべアトリスをあからさまに差別する。傷つくべアトリスだが、大司教に訴えたことでメディアに大きく取り上げられ、事件は世間の注目を浴びることになった。そして、ナイジェリアを訪問するローマ法王から面会の招待を受け、べアトリスは法王に謁見する幸せをつかみ取る。
読み進めていく中で、HIV・AIDSに対する偏見やタブー視は、実はマイケルの心の中にもあることに気付かされる。マイケルは、べアトリスを友だちとして受け入れながらも、世間のHIV感染者への偏見やタブー視もまた同時に受け入れている。本書を読まれるかたは、感染者であるべアトリスが、感染していない人たちと同じように、ごく普通の少女として行動することに周りがどう反応するのか、どう受け入れるのかを、いつもひやひやしながら見守っているマイケルの描写にも注目してもらいたい。
本書は、HIV/AIDSをテーマにした短編小説である。支援する側ではなく、感染者の視線でHIV/AIDSを見つめることのできる作品だ。また、物語には、HIVの感染ルート、感染防止、症状、必要な医療などの知識も書かれており、HIV/AIDS問題の全体を考えさせられる作品に仕上がっている。簡単な英語で書かれているので、興味のある方はもちろん、高校の課題図書などに取り入れて、ぜひ多くの人に読んでいただきたい。


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