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ストリートチルドレンとサーフィン

サンディーレ シリル ムカディさんが語る 南アフリカ・ダーバンでの試み

Sandile Cyril Mqadi’s talk:
Supporting street children through surfing in Durban

『アフリカNOW』88号(2010年7月31日発行)掲載

筆者:Sandile Cyril Mqadi
サンディーレ シリル ムカディ:1977年、南アフリカ・クワズールナタール州ウムズンベ生まれ。
子どもの頃から白人サーファーが波乗りをする姿を見て育ち、アパルトヘイトが終わる頃に白人サーファーからもらった中古のサーフボードを使ってサーフィンを始め、南アフリカのジュニア代表に選出。現在は、サーフィンの国内コンテストや国際大会でのジャッジも行う。昨年よりダーバンのNGOウムトンボ(Umthombo)をベースに、ストリートチルドレンにサーフィンとライフスキルを教えている。

※本稿は、2009年1月6日に開催された「南アフリカ・ストリートチルドレンへの支援」でのトークの内容を編集しました。


私は現在、南アフリカのダーバン(Durban)に住んでいますが、出身地は、ダーバンから南に100kmくらい離れたウムズンベ(Umzumbe)という海岸沿いの街です。ストリートチルドレンを支援するウムトンボ(Umthombo)という団体に所属して、彼らの支援活動を行っています。
南アフリカにはストリートで生活する子どもたちがたくさんいます。エイズで亡くなる人が多く、車社会なので交通事故で亡くなる人も多いのです。また仕事が少ないため、失業率がとても高い。そういったことが要因となり、ストリートチルドレンが増えています。ダーバンだけでも、路上で生活する子どもは500人以上います。彼らは、犯罪に巻き込まれる可能性が高い暮らしをせざるをえません。多くの子どもたちがシンナーを吸っており、その子どもたちが道で寝泊まりしているために街が混沌としています。

シンナーを吸わずに時間を過ごす

ストリートチルドレンの支援において、最初に問題になったのがシンナーでした。シンナーから彼らを遠ざけるために私たちは、彼らが常に何かに夢中になれる活動に参加するように働きかけてきました。スケートボートをさせたり、プールで泳がせたり、海について学ぶことをプログラムに取り入れました。
彼らにとってシンナーは本当に大きな問題で、中毒状況に近い子どももいます。
せっかく家に帰っても、シンナーを吸いたくて、ストリートに戻ってくる子どももいます。シンナーを吸っている子どもたちが海になれないまま、いきなり海に入ることはリスクを伴うので、私たちのプログラムでは、海でサーフィンをする前にプールで泳ぐ練習をします。そして、サーフィンをするうえで重要なバランス感覚を養うため、スケートボードをさせます。さらに、サーフィンのルールや海についても教えます。ウムトンボではサーフィンのほかにも、子どもたちにサッカーやアート、ダンス、絵、劇なども教えています。世界中のストリートチルドレンのチームによるサッカーのワールドカップ開催の計画もあります。

家に戻ることができるように支援する

私たちは、子どもたちが最終的に家に戻れるように支援しています。私たちの事務所には、子どもたちが日中に集まったり食事をとる場所はありますが、寝泊まりできる場所はありません。寝泊まりできる場所があると、子どもたちは帰らなくてもよいと思ってしまうのです。ダーバンには、シェルターを持っている団体もいくつかありますが、結局のところ、ストリートに戻ってしまう子どもも少なくないようです。ストリートチルドレンといっても、幼い子どもから10代後半の若者までさまざまなので、ケアの仕方は年齢によって分けています。10代後半の若者には、生活していくための支援金を政府から受けられるようにするため、本人のIDを作る手助けをしています。
「ストリートチルドレン」と一口に言っても、「ストリートチルドレン」という特別な子どもたちがいるわけではありません。普通の子どもたちがストリートにいるというだけのことです。幼い子どもに対しては、ソーシャルワーカーがケアを行っています。家庭に問題があってストリートに出てきているので、なかなか難しいのですが、なんとか子どもの家族に連絡をとり、児童手当の手続きを取るなど、最終的には戻れるような支援を続けています。子どもたちがいろいろなプログラムに参加して事務所にもスタッフにもなれてきたころに、ソーシャルワーカーがひとりひとりとじっくり話をするようにしています。

朝食から始まる一日のプログラム

ウムトンボの一日の活動プログラムは、道で生活している子どもが事務所に来て、朝食を食べるところから始まります。朝食の後に朝のプログラムを始めます。とにかくプログラムに専念させて、シンナーを吸わせないようにするのです。
まず、ウムトンボの事務所で着替えて、サーフボードを持って海まで行きます。
ウォームアップのために砂の上で走って旗を取ったり、桟橋から桟橋まで泳がせます。その後でサーフィンを教えるとかなり体力を使いますが、時にはスケートボートもさせます。そこまですると体が疲れて、子どもたちはプログラムが終わった後は、すぐにねぐらに戻ってしまいます。
こうして、シンナーを吸う時間をなくすようにしているのです。月曜日から金曜日まではこうしたプログラムを実施していますが、現在では、土日にビーチで子どもたちのためのコンテストを行っています。コンテストでトロフィーや賞状をもらうと、子どもたちは何かを達成したということで、とても喜びます。また自信がつくことで、自分にも何かできるという変化をうかがうことができます。
こういった活動に参加するうちに、彼らはストリートの生活だけが人生ではないと感じ始めるのです。ウムトンボのサーフィン活動には、昨年末の時点で32名が、いつもは常に30人前後の子どもが参加しています。一方で、これだけ子どもがいるのだから教育にも目を向けてはどうかという意見もありますが、シンナーの影響などもあり、じっくり座って授業をうけるということは、今のところ彼らにとってはかなりハードルが高いと言えるでしょう。

「稼ぎのある」女の子たちは参加しない

私たちが支援する子どもたちは、男の子がほとんどです。もちろん女の子もストリートにいるのですが、女の子は売春や薬物売買に使われやすく、自分である程度「稼いで」、なんとか生活していける場合も少なくないのです。
それでも、結局は自分の子どもを捨てたり、HIV感染の危険性にさらされたりと、リスクの高い生活をせざるをえない状況に置かれてます。子どもたちひとりひとりに話を聞くと、厳しい環境で育ってきた子どもが多いようですが、私たちの活動を通じて、「未来がある」という希望を感じてほしいと思っています

順を追って家に戻る支援を進める

家族のもとに戻れそうな子どもについては、ソーシャルワーカーが家に行って、家族と話をして状況を確認します。そして、子どもがまず休暇中に家族とすごすなど、家に戻る可能性を少しずつ探っていくようにしています。家に戻れるような状況になった場合は、受け入れる家庭のサポートもしています。
とても貧しい家庭の場合は、食料を援助するといった活動も行っています。警察の子どもたちへの暴力も問題になっています。何か事件や騒ぎがあったら、まずストリートで生活する子どもたちが疑われ、濡れ衣を着せられたりするときもあります。彼らは、全員が犯罪者になるような子どもたちではなく、素直でいい子どもがほとんどなのです。
ダーバンでもスコールが降りますが、彼らには雨宿りをするところもなく、寒さに震えているのです。今日みなさんにお願いしたいのは、どんな形でもいいので支援をしていただきたいということです。とくに男の子が着るような洋服などがあれば、寄付をお願いします。

【質問に答えて】

―ストリートチルドレンが急増していると聞きましたが、彼らには家族がいるのでしょうか?

ストリートチルドレンのなかには親のいる子どももいます。しかし、失業しているなどの理由で家庭の生活が苦しく、子どもを養っていけない家庭では、子どもが自ら車の掃除やガードマンをするなど、小銭を稼いで生きているケースが少なくない。もちろん、両親を亡くした子どももいますし、親の再婚相手と合わず、家を飛び出してきた子どももいます。

―ウムトンボでは、アドボカシーも行われているようですが、行政にはどんな働きかけをされていますか。

現状では、ストリートチルドレンのために行政はまったく何もしていません。それどころか、国際会議がある前などには、大きな車(バン)にストリートチルドレンを押し込んで、100km先の広場に彼らを置き去りにしています。私は実際に、120km南のところに置き去りにされた子どもたちが、仕方なく数日かけて歩いてストリートに戻ってきた、という話を聞きました。

―先ほど、何人かのストリートチルドレンが家族のもとに戻れたという成功例をあげられていましたが、具体的な支援方法を教えてください。

まず家族のもとに出向き、なぜ子どもたちがストリートに出なければいけなくなったのかという要因を聞きだし、それに対応した支援を行っていきます。たとえば、インフォーマルな地域に住んでいる場合は、政府から養育支援金をもらえるような手助けをしたり、子どもの住む場所がきちんと確保されていない場合は、
シャック(掘立小屋)を作り、とりあえず生活できるベースを作っていくなどの支援をしています。

―親や親せきのいる子どもを、家庭に戻す活動をされていますが、親類縁者がまったくいない子どもの場合は、どうやってケアをしているのですか。

他の団体と協力してケアを行っています。他の団体の経営するシェルターに滞在し、そこから学校に通うケースもあります。道のごみ箱に赤ちゃんが捨てられていることも多く、最初から施設で育つケースも少なくないのです。

―ストリートチルドレンを支援している団体の運営資金はどのようにして調達されているのでしょうか。

ウムトンボは、ディレクターがイギリス人なので、イギリスから支援をもらっていますし、キリスト教系の団体からの支援金もあります。また、サーフボードやウェットスーツなどは、全部、サーフィン関係者や知り合いなどから好意で寄付してもらいました。ヨーロッパからは支援金だけではなく、多くのボランティアが来ていますし、ヨーロッパの団体自体が南アフリカで活動するケースもあります。
その一方で、団体の運営資金を得るのは難しく、結局は辞めてしまう団体も少なくないですね。以前ジョハネスバーグにあったストリートワイズという団体は、マンデラ元大統領が設立した財団からの支援を受けていましたが、支援金が少額であったために運営が厳しく、結局は活動をやめてしまいました。政府のNGOに対する支援は、確実なものではありません。

―日本でも戦後に親をなくした孤児が路上に住み、ヤクザの手先として犯罪の使い走りをさせられるケースがありました。南アフリカにもこうした問題がありますか。

ダーバンにもギャング集団の縄張りがあります。現在、ウムトンボの中で問題になっているのは、男の子同士のレイプです。刑務所などでレイプ被害を受けた10代の若者が出所して、今度は自分が加害者となって年少の子どもをレイプするというケースも起きています。つい最近もウムトンボの中で、15歳の男の子が10歳の子どもをレイプし、補導されるという事件がありました。
そういったことがあると、HIV感染の危険性が高まります。とにかく夜間に路上にいると危ないので、できるだけ事務所も長く開けるようにしています。年上の子が年下の子を使って、犯罪に手を染めさせたりすることもあり、年少の子どもを使うということは、刑務所で覚えてくるようです。ダーバンのストリートでも、縄張り争いが殺人にまで発展することもあります。子どもたちの顔は傷だらけで、いつも警察やギャングなどに追われています。朝、ウムトンボの事務所を開けると、血だらけで来る子どももいます。一日の始まりが治療で始まることも少なくないのです。

―ウムトンボのプログラムでサーフィンをしている子どもたちに嫉妬を感じて、意地悪をされたりすることはないのですか。

ビーチにいるときはとても安全です。ただ、路上に戻ると人間扱いされないので、危ないことも少なくないと思います。子どもたちが縄張り争いに加わっていることもありますが、プログラムに参加しているときは縄張り争いに関係なく、一緒に楽しんでいます。

―街中では、ストリートチルドレンと普通の子どもは明確に線引きできるのですか。

ストリートで生活する子どもかどうかは、はっきりとわかります。特にストリートチルドレンの夜の姿は、他の子どもたちとはまったく異なっていて、警察に追いかけられたり、街の人にうとまれたりします。また、ストリートに長くいればいるほど、路上での生活に慣れていってしまい、どうしても犯罪に手を染める可能性も高まってきます。そこで、ストリートに住みはじめたばかりの子どもたちには、路上生活から早期に抜け出せるように、なるべく早い時期からウムトンボのプログラムに参加させるようにしています。

―子どもたちは、ストリートで生活をしてはじめてシンナーを経験するのでしょうか。あるいは、学校などですでに経験しているのでしょうか。

シンナーに関しては、ストリートではじめて経験すると思います。家にいるときに煙草などを吸って、親に出ていけといわれ、路上に出てきてマリファナやシンナーなどに手を染める子どもも少なくないようです。地方では、シンナーなどはあまり出回っていないようですが、ダーバンなどの都市の路上では何でも売っています。シンナーは効果が長く、安価なので、気軽に手が出しやすいようです。
販売ルートは明らかにされていませんが、薬物取引で儲けているグループがいるのは確かなようです。最近、子どもだけでなく大人にも流行っているのが、殺鼠剤を吸うことや、消毒薬とマリファナの葉っぱを混ぜて吸うことで、とても効果が大きいそうです。また、南アフリカの裕福な家庭の子どもたちは、高価な薬物に手を出したりしています。煙草を吸い、酒を飲み、大騒ぎをするなど、富裕層の若者たちもさまざまな問題を抱えています。

―サンディーレさん自身は、サーフィンを通じてどのように変わられましたか。

私の民族であるズールーは、海に対する畏怖の気持ちが強く、特に年配の人は、今でもまだ海に入ってはいけないと思っているかたも多い。サーフィンをはじめてからも、海に入るなどとんでもないと言われてきましたが、サーフィンが好きでずっと続けてきましたし、サーフィンを通していろいろ貴重な経験をするチャンスを得られたのです。ストリートで生活する子どもたちにも、人生の次のステップに進んでもらいたいと願い、一生懸命にサーフィンを教えています。

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Umthombo(ウムトンボ)について

南アフリカには数千人の「ストリートチルドレン」と呼ばれる子どもたちがいます。その数はこの5年間で急激に増加しています。HIV感染も彼らにとって深刻な問題となっています。しかし、彼らは社会の「厄介者」扱いされることはあっても、なぜ彼らがストリートにおいやられたのか、そこでどのような生活を強いられているのか、彼らのために何をなすべきなのかを理解する人はほとんどいません。そして、多くの子どもたちが、路上で命を落とし、犯罪者となり刑務所に送られ、また売春を余儀なくされているのです。
Umthomboは、ストレートチルドレンを支援するために、かつて自らもストリートチルドレンであった活動家たちが2004年に立ち上げたNGOです。その母体となったのは、1998年からダーバンでストリートチルドレンのために活動を続けていたDurban Street Teamでした。Umthomboとは、ングニ語で「湧水」を意味します。その湧水のそばにはUmthombo treeと呼ばれる木が茂り、その木の周囲の土は常に水分を含んでいます。南アフリカの乾いた大地にあって、Umthombo treeはいわば「希望」の象徴といえます。その木にちなんで命名されたNGO Umthomboは、かつてのストリートチルドレンたちによって運営されています。過酷な状況に置かれたストリートチルドレンにとって、社会に復帰し自立を果たしたかつてのストリートチルドレンこそ、一筋の希望なのです。

Umthomboの取り組み

Umthomboの目指すゴールは、ストリートチルドレン問題に対する南アフリカ社会の認識とその対応を変えさせていくことです。そのために現在2つの主要なプログラムに取り組んでいます。ひとつは、草の根活動に注力するDurban Street Team (DST)の取り組みです。それは路上に暮らす子供たちを探し出し、彼らと信頼関係を築くことから始まります。
そのためにサッカーやサーフィンなどのスポーツ、アートなどのプログラムも活用しています。そしてドロップインセンターと呼ばれる施設や巡回医療クリニックなどの生活支援、さらに彼らが路上生活から抜け出せるよう自信を与え、家族や地域社会への復帰を支援する活動などを行っています。地域社会に戻っていった子どもたちのその後のケアもグループの重要な仕事です。
もうひとのプロジェクトは、社会に対する啓蒙活動に注力するStreet Child Consciousness Team (SCT)です。子どもたちの置かれた現実とニーズを真に理解しているのは、会の運営を担うかつてのストリートチルドレンです。ストリートチルドレンの現実を社会に周知し、具体的にどのような取り組みが必要なのか、ストリートから声を上げて様々な戦略・政策提案を行っています。問題解決のための「シンクタンク」としての役割を担っているのです。2010年に南アフリカで開催されるワールドカップが、ストリートチルドレンにとってさらに困難な事態を招来してしまうのか、それとも彼らを真に支援する政策の実行をもたらすのか、Umthomboの果たすべき役割は今後ますます重要なものになると思われます。

トーク資料から引用(作成:アジア・アフリカと共に歩む会)
Umthombo ウェブサイト http://www.umthombo.org/


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