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現地レポート・ザンビア:緊急農業復興援助から見えてきたこと

Zambia:Relief Aid for Agriculture Recovery

『アフリカNOW 』63号(2003年3月31日発行)掲載

執筆:志澤道子(難民を助ける会非常勤スタッフ、AJF会員)


アフリカ南部の国々を襲った2年連続の干ばつは、難民を助ける会(以下、AAR)が18年にわたって活動するザンビア共和国でも、多くの農民たちに深刻な影響を与えた。ここでは、干ばつへの救援事業として、AARがWVJ(ワールド・ビジョン・ジャパン)と共同で実施した緊急農業復興援助について、ザンビアの現場から報告したい。なおこの文章は、あくまで筆者個人の立場から書かれたものであり、事業に関係する団体としての見解を述べたものではないことを明記しておく。

ザンビアでの緊急農業復興援助の概要

ザンビアの農村人口は、総人口の約56%を占めるが、うち9割は自給自足の小規模農家である。主たる作物は主食のメイズだ。メイズの生育には充分な水量が必要だが、農耕は主に降雨頼りである。通常のサイクルでは、雨季の始まり(11月頃)と共に種をまき、乾季が始まる4月から5月に収穫を得る。そして採れた作物を食糧にし、残りを販売して現金収入を得て、来季の種子と肥料を買うのである。だがザンビアでは、2002年の1ヘクタール当たりのメイズ収穫量の平均は、平年の1~2割に過ぎなかった。そのため多くの農家が来季の種としてとっておくべき分まで食糧として消費してしまい、今季にまく種がない状態にあった。雨季の始まりが近づいていた2002年の9月の時点で、ザンビアの農民たちが緊急に必要としていたのは、食糧だけではなく、種子と肥料でもあったのだ。雨季の始まりに合わせて種をまくことができなければ、来季の収穫も得られず、食糧危機はさらに続くことになる。
こうした危機的状況に対して、ジャパン・プラットフォーム(外務省、経団連、NGOの3者による緊急援助スキーム)の支援を受けて、2002年9月にAARとWVJが共同で、総計18,000世帯を対象とした種子と肥料の配布事業を開始することになった。WFP(世界食糧計画)による食糧支援が各地で大規模に実施されるなかで、「その先」の危機に対応する形の事業を展開するのである。その目的は、雨季の始まりに間に合うように、複数の作物の種子と肥料を農民たちに配り、通常の農耕サイクルを復活させ、食糧危機の改善につなげることであった。現地のカウンターパートとなるWVZ(ワールドビジョン・ザンビア)と協議した結果、ザンビアで特に干ばつの被害の大きかった南部州と西部州の中から6地域が事業対象地として選ばれ、WVJは南部州のマザブカと西部州のモングとカラボで、AARは南部州カロモ県のシアチテマとトワチヤンダで、それぞれ種子と肥料の配布を担当した。わたしは当時AARの事業調整員として、2002年9月から12月まで現地に滞在し、配布事業の調整にあたっていた。

農家への種子と肥料の配布

AARがWVZと共に事業を実施したシアチテマとトワチヤンダへは、首都ルサカからまずチョマという町へ車で3時間走り、そこから幹線道路をはずれた悪路を2~3時間走ってようやくたどり着く。広大な土地に約12,000世帯の農家が暮らすが、今回の事業では、シアチテマとトワチヤンダで弱者世帯を中心に各3000世帯、合計6000世帯を対象とした。配布したのは、1世帯あたりメイズ種子5kg、ソルガム種子2kg、落花生種子2kg、ソルウェジ豆種子5kg、そしてメイズ用肥料として先まき肥料(Compound D)50kg、後まき肥料(Urea)50kgである。これが6000世帯分であるから、総量は684トンになる。
調達と運搬そして配布の作業は、本格的な雨季が始まるまでにという時間との戦いと悪路との戦いであったが、2002年12月初旬までにはすべての配布を完了することができた。南部州の降雨量は、残念ながら今年も平年以下だが、播種のタイミングによって多少の差はあれ、ほとんどの農家ですでに実りがあり、もっとも食糧が乏しくなる2月から3月に食糧を得ることができたと、現地からの報告が届いている。現在、現地では配布後のモニタリングを継続中であり、事業の成果は4月の本格的な収穫期に明らかになるだろう。

進行する農村の危機

事業期間中、頻繁に配布現場を訪れ、受益者の農民と接する中でわたしは、農村の危機が静かに進行していることを肌で感じていた。もともと南部州は、ザンビアの中でも降雨量の少ない地域であり、干ばつの影響を最も受けやすい。土質は砂地で、水の確保は容易ではない。天候不順が何年も続き、充分な収穫が得られないため、農民の多くは家財道具を少しずつ売ってその場をしのいでおり、生活の質は確実に低下している。また南部州では、牛による農耕が広く行われているが、近年コリドー病という病気がまん延して、多くの牛が死に、地域の農民にとって大打撃になった。
村で食べられなくなった若者たちは、チョマやカロモなどの近隣の町に出てゆき、女性はコマーシャル・セックス・ワーカー(CSW)に、男性はタクシー運転手兼CSWの手配師になるのが典型的な例だと、地元の人は言う。チョマやカロモは、ルサカとリビングストンを結ぶ幹線道路沿いにあり、長距離トラックや旅行者が立ち寄る。こうした環境では、典型的にエイズがまん延しやすくなる。エイズによって働き手が倒れると、農民たちの生活はさらに困窮する。さらに前政権による農業政策の軽視が問題を肥大化させ、ザンビアの食糧危機は、まさにコンバインド・クライシス(複合的危機)になっているといえよう。

コンサベーション農法

今回の種子と肥料の配布はあくまでも緊急支援事業であり、こうした問題の根本的解決のためには、長期的な取り組みが伴わなくてはならないのは当然だ。降雨に頼らない潅漑農業を普及させることで、干ばつの直接の被害は減らせるはずだが、それには莫大な資源が必要となる。そこで現実的な選択肢として、食料安全保障を確保するために、メイズだけでなく多様な作物を育て、干ばつに強いコンサベーション農法を普及させることが現地では試みられている。今回、メイズに限定せずに4種類の種子を配布したのはその一環でもある。またWVZは、数年前から現地でコンサベーション農法の普及に取り組んでいるが、今回の配布の際も、現地で農民を集め、コンサベーション農法の利点や方法、種子の利用法・保存法などについてのワークショップを開催した。
昨年この農法を試した農家が、そうでない農家よりも干ばつの被害が小さかったということが口コミでコミュニティーの間に広がっており、種子を受領する前に、一家総出でポット・ホーリング(コンサベーション農法による播種準備。土地を完全に耕起せず、種をまくための穴を掘る)に励む農家に数多く出会った。
だがコンサベーション農法は、伝統農法よりも多くの労働を必要とする。生活と文化に密着した農法を切り替えることは、外部の人間が考えるほど容易なことではない。多様な作物を育てて食料安全保障を実現するという考えは正論ではあるが、メイズから作るシマを主食として愛するザンビア人にとっては、シマ=メイズこそが本物の「食べ物」であり、干ばつに強い作物をもっと育てて食べよと外部の人間が言っても、切り替えは容易ではないだろう。平凡な結論ではあるが、必要なときに迅速な緊急援助を行う一方で、現地の人々と共に最善の方法を探りながら、粘り強く長期的に問題に取り組んでいくことが、食糧危機の根本的解決には不可欠ではないか。


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