パネルディスカッション「共に生きる為に」

アフリカNOW』 No.24&25(1997年発行)掲載

ファシリテーター 勝俣誠(明治学院大学国際学部教授・アフリカ日本協議会理事)
パネラー ンデイ・マティ・ンドイ/ママドゥ・ンジャイ/グザチョ・アベガス

セミナー最後のプログラムでは講演者3名を囲んでディスカッションを行いました。会場からの質問・意見は配布した要旨に記入してもらい、1日を通して受け付けました。選別に当たってはファシリテーターと3人のコーファシリテーター(楠田一千代、久保英之、壽賀一仁、いずれもAJF会員)が行いました。

勝俣:持続的な開発・発展というものが、日本やアフリカにとってどういうものか考えたい。
 食料と安全保障は重要であり、豊かな概念だ。しっかりと把握しておく必要がある。
 3名の講演を聞いて感じたことをまず話す。
 1、日本では食料問題というと主食の米を考えるが、アフリカではいろんな穀物が主食になっている。たんぱく源も肉、魚など多様である。穀物消費の計算、カロリーを計算して、足りる足りないと論じるのみでは妥当とは言えない。
 2、食料が足りる足りないだけでなく、さまざまな社会的、文化的、性的関係を持って問題が存在している。
 3、どのレベルで食料問題を考えるか。もっとも小さな単位で食料問題がどうなっているかを考える。幸せは、小さな単位の幸せが大切だ。家族レベルの調査、食料入手のメカニズムを考えているのか。食料問題はただ国が抱えればいいものではない。
 4、食料確保の方法は複雑。一筋縄ではいかない。きめ細かい現場の調査と考察が必要である。
 5、環境問題と切り離せない。自分たちは食料生産しか見えない。しかし、食料生産は環境の取り崩しでもある。
 6、食料安全保障は生命の問題。セキュリティは生命の不安、それを克服するためのものである。量だけでなく、質や安全面の確保が重要だ。

 会場からの質問を3つに分けた。1、事実確認 2、環境、農村と都市、食 3、市民としてアフリカの食料安全保障のために、何をするのか、アクションについて。

質疑応答
1、事実確認
Q 食料安全保障において、農村レベルでは教育の役割はあるのか。その中身は?
マティ:基調報告の中でもふれた通り、教育というと、現在、NGOの活動の中の教育を指す。フランスに押しつけられた教育ではない。農民と一緒に行っていく教育である。
 教育を自分たちで解決しようとしたが、問題がある。我々の母語は文字では書かない。
 自分たちを取り巻く問題をよく知るためには、識字率を上げることだ。開発を促すためには、識字率が最初のターゲットになる。読み書きができれば砂漠化といった、自分たちの環境などをよりよく認識できる。認識が問題解決の第1歩。
 子どもに対する学校教育はフランス語。成人においても識字が大切である。
 農民は、自分たちの環境を我々よりわかっていなくてはいけない。そして自分で思考でき、努力でき、情報にアクセスできなければならない。他の人のやっていることを知ること。これらが活動に際して大切である。
 自分の問題を自分で解決するための識字教育は、もっとも重視しているものの一つ。

Q 奥地の村で、作物を売るための輸送手段は?
グザチョ:食料安全保障において、インフラの整備と輸送は重要な問題である。
 今回の調査地は僻地にあり、季節により交通は閉ざされる。経済中心地から遠い。
 一般的にいって、道路がネックになっている。未整備だということは、情報のアクセスも悪くなる。薬品や肥料なども必要な時に運べない。干ばつの際、食糧の配給も難しくなる。
 現状は、鉄道でつながっているのは、エティオピアでは4%。全天候型輸送可能な道路でつながっているのは4%。食糧の輸送もなかなかうまくいかない。食料安全保障では道路が一番大切だ。社会サービス、保健、教育などにとっても道路が同じように大切である。

2、環境、農村と都市、食
Q 地域の食料安全保障において、地方自治体はどうしているか? どうすべきか?
ママドゥ:地方議会、農村議会がある。農地を誰に与えるか、環境に関してルール作りもしている。森林伐採はどこがするかも農村議会が決めている。
 農村議会議員に選ばれるには、政党に属さなければならない。選ばれると、地位を確保するため色々なことをする。地方分権もうまくいかない。自らの政党のことばかり考えて、行動する。農民自身が議会で大きな発言力を持つようにしなくてはならない。
 インフラ整備に関しては、農村議会が重要。

Q 人口増加の理由は?
マティ:人口の増加は、ある程度の文化的背景がある。特にセネガルにおいては、4人まで奥さんをもらえる。それが人口増加の要因になっている。
もう一つは、農村における人口増加は、労働力として人手が必要ということ。人手があれば耕地面積を拡大できる。人口が農村においては求められる、特に農業生産では。文化的・伝統に根付いたものとして、ムスリムでは子どもが多ければ多いほど徳が高いとされる。財産も多くもらえる。
 今日ではいくつかの問題が起こっている。そのため人口抑制の政策がとられている。しかし、生活習慣に合わないので、受け入れられない。人口増加は多くの問題に関係し、アフリカにおいて、女性たちも人口抑制のために行動している。
 女性が多産によって健康を損なっている。それも意識に上がってきた。アフリカの開発に関しての文章にも政治的発言にも、出生率低下の必要性を訴えられてきた。
グザチョ:基本的意見は同じ。原因は、文化的経済的要素と絡んでいる。文化的には、考え方、思想、行動規範によっている。文化的には、考え方、思想、行動規範によっている。子どもがたくさんいるのは富である。しかし一方で、アフリカ諸国が出生率低下をしなくてはならないのは現実である。
 人口抑制の技術を持ち込んでも、その教育の問題があり定着しない。先進国は、環境と人口問題は不可分と考えている。しかし、環境が破壊されているということは、文化的な考え方、社会的な制度が絡んでいるんだということも忘れてはならない。どういう政策、アクションをとろうとしても、根本原因を解決しないとだめ。対症療法では、資源を投じても解決しない。

Q 1994年、セネガルの通貨CFAフラン切り下げによって、農家のレベルはどんな影響を受けたか?
ママドゥ:CFA切り下げの影響は、所得階層ごとにみなくてはならない。裕福な人は、切り下げが起こった時、影響をあまり受けなかった。農民間の貧富の格差がさらにひらいた。農民は作物を売りやすくなったが、一方、輸入品は高くつくようになった。状況分析は難しい。換金レートは変わったがお金の流れは変わらなかった。

Q 穀物銀行について。メンバーは? 最初の資金は? 売りと買いの値段はどう付けるのか?
マティ:農民は自分たちの戦略を持っていた。それによって、食料安全保障を確立しようと思った。
 貨幣経済でなかった時は、自家消費のために作物を作っていた。酪農家、作物栽培農家がいたが、自分消費分食料は自宅の周りで作っていた。牛乳は酪農家からもらってきた。自家作物で十分自分たちの家族を養っていけた。収穫物の全てを使って食料を確保していた。物々交換のシステムがあったのだ。酪農家は自分たちの生産作物を農家の人と物々交換していた。漁民もそうで、異業種間のコミュニケーションがあった。それは住民が作り上げたシステムであったが、急速な市場経済下により崩されてしまった。
 NGOが入ってきて、農民と一緒に穀物銀行をやることになった。雨期に入る頃、前年の収穫物が底をつき出す端境期になる。端境期をどうやって乗り切れるのかを、一緒に考え、そこから穀物銀行が生まれてきた。
 穀物銀行は穀物を安全に確保しておくところ。十分に穀物が市場にある時に銀行が穀物を買い、倉庫に保管する。端境期に銀行は農民に穀物を売る。普通のマーケットでは穀物が1キロ70CFA、端境期には1キロ160CFAくらいになる。穀物銀行では売った値段で変える。穀物銀行は社会的役割がある。厳しい時期に農民に安く売ってくれる。
 資金源については、はじめに、人々が穀物を持ち寄って最初の保管穀物とした.NGOが資金援助してくれることもあった。穀物の価格は、運営委員会で決める。
 この穀物銀行は、農村の人たちの端境期の食料安全保障になっている。

Q 土壌劣化対策について、どのような資金源があるか? 市民団体(NGOなど)がどのくらい関わっているか?
グザチョ:土壌侵食の問題は非常に難しい。開発の状態及び季節によって問題は変わる。社会、経済、物理的な問題が絡んで表面化する。80年代のはじめからおわりにかけて、土壌の侵食は大きな問題と考えられた。お金をかけて方策を練ったが、少ししか止められなかった。20億トンくらいの土壌侵食があった。
 新しい戦略が最近、採られた。土壌侵食が問題ではなく、根本の大きな問題を解決しなければならない。社会経済的な地位が低い農民にとって、貧困ができるだけ軽減されるような方策を採られなければならない。しかし、それだけでもだめだ。
 財源は、政府からが唯一のもの。経験ではよくない。援助への依存と、欧米型の対策が導入された。
 NGOによって、農民が対策に関わるようになった。しかし、資金的には苦しい。国からの援助は小さく、大きな土壌侵食防止のプログラムは難しい。

Q 穀物生産の国の数字と、村の生活の実態というのは?
マティ:86年と95年を比較すると、すべての穀物の生産高が落ちている。ローカルなレベルでは、主に自分で食べるための生産をするが、一部を市場に出す。
 以前は、生産作物の販売は国家がしていた。構造調整プログラムが入る前は、国がすべて価格を決めていた。それから、民営化、自由化が導入された。
 仲買人が取り扱う穀物量は、国家の統計数字には出ない。農村では生産量は落ちたが、それも数字には表れ出ない。以前は穀物倉がいっぱいだったが、最近は1年のうちいっぱいになることは少ない。農民は自家消費のためにミレットなどを取っておくが、少しずつ市場で売って、お金を作る。多くの農民は、1年間食べていくのに、問題を抱えている。その解決策のひとつに、穀物銀行がある。
ママドゥ:国家の統計はいい加減。海外との交渉にこういった数字を使うことがあるが、農民は調査のための質問攻めにされるため、うんざりしていい加減な数字をいう。
 ところが、直接農民に聞くと、面積や量の計測には自分たちのやり方があり、もともとトンやヘクタールなど使わない。本当の意味の調査、農民自身による調査が必要だ。

Q 都市と農村の関係?
ママドゥ:私が話した中(事例報告)に資源がなくなって、農民が都市へ流入するといった部分があったと思う。食べていけなくなって、社会的不安を感じる。農民は都市に出ていく。都市に出た村人と農村の連帯関係は、まだ保たれている。
 都市に行った人が稼いで、端境期に送金する。農民で方策の時には、都市の家族に送る。都市に住む農民出身の人々と農村に残る人たちの関係が深く、よく連絡し合っている。都市に出た若い人が、新しい文化を吸収し、帰ってきて、農村に新しいものを導入することもよくある。

Q 世帯の中で、食料はどのように分配されるか?
グザチョ:重要な問題である。食料不足の時期、世帯における分配は通常とは違う。十分に需要を満たせる時は、分配に問題はない。不足の時の配分は、問題の深刻さによって違う。
 1年に必要な量と供給のバランスを考え、まず需要を減らす。それでもだめな場合は、家畜などを半数売る。ひどい時は、父親、15歳以上の子どもが近隣町村へ出稼ぎにいく。残った者、子どもと老人に食料を与えようということだ。送金、現物支給で生き残りをかける。
 1、需要を減らす、2、家畜を売る、3、出稼ぎ、以上が農民の採る方法だ。

Q セネガルで食料問題が起きているのは、大地主が農民をコントロールして自家消費用作物をつくらせないというような、土地の所有問題があるのでは?
マティ:土地所有についての法律及び伝統的区分がある。3つの大きな土地区分は(1)行政的区分(2)開拓民による区分、そして(3)文化歴史的区分(テロワール)である。
 (2)区分における例はサヘル地域の川流域での米作り。(1)での土地の使用、作付けなどの行政的区分での権利は農民会議で決められている。決められた2年の期間に作物を栽培しないと、他の人に使用権が移るなどである。
 換金作物は輸出用に導入され、これが大きな問題になっている。落花生の生産が木の伐採をまねいた。

Q 換金作物・輸出作物の生産を奨励しているのは、世界銀行・先進国側。自給用食料生産に力を入れた方がよい。輸出作物は儲からない。それより、増え続ける人口のために、アフリカ内で消費した方がよい。需要が多いところに持っていった方がよいのでは?
ママドゥ:セネガルの村人の声を伝える。優先順位は自家消費。市場で売って、さまざまな経費のために貨幣を得なければならない。そのため、落花生栽培に重点を置き、自家消費を少なくする。しかし、農民も作付けを多様化している。国は以前(70年代)落花生栽培を奨励したが、今は多角化を奨励している。多角化によって、端境期をなくし、いつでも生産物があるように。水の確保も大切だ。
勝俣:アフリカでは様々なニーズがある(砂糖や油など)。アフリカ人が、まず自分たちが健全に生きるための食料需要は、まだまだあるはずだ。

Q 農村の自立というのは、何を持って自立とするのか? アフリカの人からいってどういうものか?
ママドゥ:NGO が多く、人の役に立とうとしている。しかし、よい成果が上がっていない。NGOの理論は、その国、農民のニーズに合わないことが多い。したがって、時間がたつと消えることが多い。
 食料安全保障と生きていくということはどういうものか。我々は食だけで生きるのではない。伝統、文化を持って生きる。バラバラになったものが、団結して前進しようというものではないか。
 開発は外から、上から来るものではない。人々が自分たちの現状、資源を認識して、考えていくものだ。農村間の交流も必要だ。技術や様々な教育をうけた人が混ざることも大切だ。
グザチョ:開発のさまざまなものを包含して自立という。自分たちで決めること、民主化がポイント。伝統、固有の制度を活かして、日々の食料安全保障をどう確保していくのか。
 70年代に農民は無知無学と考えられ、外から押しつける方法で開発をやったが、結局うまくいかなかった。
マティ:現在の状況において、農民がいかに自立するのかを考える。NGO の中では、自立を考えているところもあるが、大部分は農民に近づくということを目的にしている。適切ではなくても、何かをしていることは大切。環境などの問題はグローバルにみることも大切。自分たちでやることは大切だが、バックアップも必要とする。

3、市民としてアフリカの食料安全保障のために、何をするのか、アクションについて
Q 食料問題=生産増加と考えていた。複雑な問題だと思った。この問題にどこから取り組んでいるのか?
グザチョ:やはり生物学的な単位から始める。共同体から、村のレベルへ。ヒエラルキーを下から上に上がる。最終的には国レベルの政策、方針になる。
 基本的な考え方は、どのようなものであれ、食料安全保障を確保するには、草の根レベルから考えなければだめというものだ。世帯のレベルから考えていくと、農村、農民の抱えている問題、環境など、農村・農民を取り巻く現状をみることになる。
 NGO にしても政府にしても、根本原因を考慮する必要がある。問題を共同体レベル、世帯レベルで見ないとうまくいかない。
 例えば、マダガスカル政府は国有林を守ろうとした。森林省は対策の中心に農民の意識を変えることをおいた。それは最初は、森林破壊は農民が木を切ることだと考えたからだ。かなり努力したがうまくいかなかった。なぜなら根本原因は土地所有制度にあったからだ。結局、農民意識改革のプログラムを4、5年やったが、何の成果もみられなかった。
マティ:生産から入るわけにはいかない。それぞれの国が抱えているそれぞれの問題を解決するには、まず共通問題を洗い出すこと。短期、中期、長期において何を解決するかを計画する。現地住民のレベルで解決し、自給率を上げる。そして農民出身の能力をあげること。このためには、やはり識字率を上げる必要がある。NGO は経済的側面を解決することはできたかもしれないが、問題の核心は、そこではなかった。来週ローマで世界食料サミット(注:96年11月13日から)がある。スピーチは現状とかけ離れている場合が多いものだ。
ママドゥ:今日、意見交換ができたと思う。今度は参加者の皆さんの意見、視点を聞きたい。どういうところから手を貸そうとしているのか。問題は単に国レベルでは解決できない。国際レベルでやらなければ。そのためには協力が必要。みんなに質問を返す。具体的にどうしてくれるのか。

Q 伝統文化を尊重してネットワークする場合、どういうことをしてほしいのか、何をしてはいけないのか?
グザチョ:今回のセミナーが何の目的を持っているのか、どのような成果を期待しているのかそれがわからないので返答は保留する。
ママドゥ:一つの見方を押しつけてほしくない。欧州とアフリカ、その他の国の意見交換をやる。偏見などを変えていくことだ。
 資源の分配が平等ではない。資源の押しつけでなければよい。
 債務の問題がある。構造調整プログラムのおかげで、やることがたくさんある。NGO いろいろな活動が何かを変えられると考えがちであるが、展望や社会のあり方こそを変えなければならない。
マティ:他所の国に入って行くときは、そこで起こっている問題をよくみること。人々と話すこと、何を求めているかを知ること。国内政策を云々するよりも、国際的にアフリカの国々のためのロビー活動をすることも大切。そういうことで住民の生きるために必要な何かを知り解決の方策を考える。一時的な援助が悪いわけではない。

勝俣:まず、援助関係では業界用語が多い。こういう言葉は最も援助の必要な人々にどう響くか。当事者にとって分かる、実感のある言葉にし、使うこと。
 第2に、アフリカの民主化はずいぶん進んだ。今日はアフリカの人の意見を直接伺えた。地域の知恵、地域レベルの支障などを外部の人は知ることができない。援助関係者もこういったことを知らない。よく知るための現場の調査を、現地の人との協力のもとにもっと進めるべきだ。


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