食料を通して見えてくる世界

ウェブマガジン『今知る世界の食料危機』の作成から

World seen through observing food situation
AJF’s online magazine from FAO’s “Crop Prospects and Food Situation”

『アフリカNOW』114号(2020年9月30日発行)掲載

執筆:加藤 珠比

かとう たまひ:東京外国語大学スペイン語学科卒業。民間企業を経て、英国の大学院へ留学。国連、JICAタンザニア事務所などで国の開発政策に係る実務を経て、Overseas Development Institute で開発政策の研究を行う。その後、開発コンサルタントを経て、英国サセックス大学院でアフリカの農業政策、食料安全保障について研究。開発学博士。現在は複数の大学で国際協力学などを教えながら、アフリカ農業加工、女性起業家等の研究を行い、開発コンサルタント業務にも従事。


AJFのウェブサイトの「アフリカの食料と農業」のページ(http://ajf.gr.jp/foodagriculture/))に掲載しているウェブマガジン『今知る世界の食料危機』は、「FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations、国連食糧農業機関)の資料を読む学習会」で作成しています。FAO はGlobal Information and Early Warning System(GIEWS)のページで世界の食料危機に関する情報を報告しており、その中の季刊”Crop Prospects and Food Situation”を読み、同学習会で和訳作業を行っています。世界の食料安全保障の状況やその警戒状態を3ヵ月毎に報告する”Crop Prospects and Food Situation” は、2017年度まで国際農林業協働協会の季刊誌『世界の農林水産』に和訳が掲載されていましたが、紙面リニューアルでそれがなくなったため、本学習会で和訳し、確定版を上述のAJFのウェブサイトに載せています。

この学習会は2017年初めに発足し、私は2017年5月に開催されたアフリカ学会に参加した際、斉藤龍一郎さんに誘われ参加するようになりました。今年初めまで毎月1回集まっていましたが、最近はコロナの影響によりオンライン(Zoom)で月2回、1時間ほど学習会を行っています。

何が食料危機を引き起こすのか

上記レポートが公開されるごとに読み進めてきて、世界の多くの国で経済危機や食料価格の高騰、天候不順や自然災害、社会不安や紛争の影響で食料へのアクセスが厳しくなったり、紛争による難民、避難民の流入などがホストコミュニティ(受け入れ地域)の食料事情を圧迫していることなどが分かりました。中でもアフリカには食料危機に直面する国が多く、毎号、多くの国、地域で深刻な食料不安が生じていることが記されています。

また、圃場(ほじょう)準備、作付け、生長、成熟、収穫など農作業の各ステップについて学び、各国間で耕作の季節が異なるため、同じ穀物でも耕作の時期がずれることも分かりました。主要穀物の供給状況が穀物の生産大国の収穫状況によって変わり、穀物利用、穀物在庫、穀物貿易がその需給に大きな影響を与えていることも伝わってきます。そして、レポートの翻訳作業をして

いるなかで、関連するアフリカの食料について話がおよび、アフリカの食料や農業についてより詳しく知る機会にもなっています。例えば、アフリカの様々な国でトマトが多く消費されていますが、その価格高騰がナイジェリアのある地域の食料事情に深刻な影響を与えたことがあったことも知りました。

客観的な基準に基づく食料危機警告

食料危機の状況については、EU、国連など15のパートナー機関が作成する「食料危機に関する世界的な報告書」、マルチパートナーによる革新的なイニシアティブ「総合的食料安全保障レベル分類」、また「食料安全保障についての分析(Cadre Harmonise)」といった客観的な基準に基づく報告が定期的に発行されています。こうした資料を通して、現在の世界各国の食料不安や極端な栄養失調状況について知ることができます。

FAO の資料を読んでいると、「総合的食料安全保障レベル分類(IPC; Integrated Food Security Phase Classification)」あるいは’Cadre Harmonise’の分析に基づく現況報告が活用されていることがわかります。IPC では、最も深刻な食料不安の状況はフェーズ5「飢ききん饉」の状態とされています。

東アフリカ北部における2019年秋の大雨の影響

2019年10月頃の大雨季の大洪水により、東アフリカ北部地域では、生活する場が失われただけでなく、食料生産が大きなダメージを受け、その収穫への影響が今年の食料アクセスへの欠如につながっていることが報告されています。これらの大洪水や他の大雨季の影響および社会不安や紛争による避難民、難民の流入などの要因によって、昨年から今年にかけてアフリカの多くの国で、食料へのアクセスの状況が厳しくなっています。”Crop Prospects and Food Situation”(MARCH 2020)では、約601万人(全人口の51%)が厳しい食料危機に直面している南スーダンで、大洪水により最も被害を受けたジョングレイ州の2万人がIPCフェーズ5「飢ききん饉」レベルに直面していると推定されており、エチオピアでは2020年初めに、約850万人が厳しい食料不安に直面していると報告されています(「今知る世界の食料危機」No.9[2020年3月号]参照)。

この号では、東アフリカ諸国でのサバクトビバッタによる食料生産への影響も報告されていますが、新型コロナウイルスの感染拡大により、今年後半のアフリカでの食料安全保障状況はさらに深刻になることが予想され、注視していくことが必要です。

学習会には、アフリカで活動した経験を持つメンバーもいて、アフリカの食料や農業に関心を持っている仲間が集まっています。メンバーが増えるほど、いろいろな食や農業についての知識、関心を共有できると思います。皆さんの学習会への参加をお待ちしています!


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