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看護学生がTICAD Ⅵの開催地ケニアで感じたこと

Report by a nursing student – what I felt about TICAD VI in Kenya

『アフリカNOW』108号(2017年5月31日発行)掲載

執筆:久保田 彩乃
くぼた あやの 名古屋大学医学部保健学科看護学専攻4年。高校時代から給付型の奨学金で進学し、日本に生まれた意味を考える。2016年よりJYPS(Japan Youth Platform for Sustainability)という若者のプラットフォームで政策提言、キャンペーン、広報に関わる


アフリカから目を背けることはできなかった

私は看護学生です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に興味があります。UHC とは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」(1) ことを意味しています。私がUHC を最初に知ったきっかけは、開発関係の本を読んだことでした。UHC の概念にとても共感しました。健康であることや基本的保健医療サービスを享受することは、人種や居住地、経済・社会的条件によって差別されてはならない基本的人権だと思っていたからです。
私はアフリカに行きたいと思ったことはありませんでしたが、アフリカの現状はデータで知っていました。出生児の平均余命が日本の84歳に対して、アフリカ地域は60歳に満たないこと。新生児死亡率が日本の30倍以上であること。妊産婦の死亡率は日本の80倍以上であること(2)。同じ人間なのに、生まれる場所が違うだけで、死の近さがまったく違うことに驚きました。私は、自分の人生を「日本に生まれてラッキー」では終わらせたくないと思っていました。日本に生まれたから、アフリカの健康問題なんてどうでもいい、とは思えなかったのです。
あるとき、アフリカの保健システムが国際的に議論される場があることを知りました。これがTICAD Ⅵです。私はJYPS(Japan Youth Platform for Sustainability)(3)という若者のプラットフォームでキャンペーンと広報を担当しています。JYPS は、日本の若者の声を集約し、政策に反映させるために日本政府や国連機関そして市民社会に若者の声を届けていくことを目指すプラットフォームです。JYPS の決定に基づき、私はJYPS を代表してTICAD Ⅵに参加し、若者の視点でアフリカの保健に関する問題を含めた提言をすることになりました。同時に、アフリカの若者から現地の実際の様子を聞き、UHC の実現には何が必要なのかを議論する場を作ることにしました。

簡単には行けない場所、アフリカ

とはいえ、アフリカに行くことは不安でした。ひとまずインターネットであらゆる情報を調べました。必要な知識はすぐにネットで調べられる時代です。安全な日本で暮らす私は、実際に自分がアフリカに行ったら何を思うのか、どんなにネットを調べてもわかりませんでした。だからこそ、自分の肌で感じ、学び、行動する機会は自分から取りに行かなくては得られないと思い、腹をくくりました。
今回訪れたのは東アフリカに位置するケニアです。比較的工業化が進んでいるものの、コーヒー、茶、園芸作物などの農産物生産を中心とする農業国です。首都のナイロビに行きました。私の渡航はTICAD Ⅵに参加することが目的だったため、ナイロビの中でも発達した地域のみを訪れました。
調べていると、アフリカには簡単には行けないことがわかってきました。日本からケニアに行くには20時間以上かかります。私の場合はトランジットが2回ありました。ビザは滞在先の住所や訪問先まで記入する必要がありました。ケニアはオンラインでビザが発行され、数日でビザを手に入れることができました。通常は予防接種も必要でしたが、訪問予定の2016年8月は黄熱病の予防接種証明書を携帯していなくても入国できました。携帯の有無はWHO の規定によって比較的頻繁に変わります。常に最新の情報を自分で調べなければ、自分の命を守れません。荷物を準備し、安全に関する情報を何度も確認し、ついにケニアに向けて飛び立ちました。飛び立ったものの、ケニアに到着するまでは苦労もありました。長いフライトで何よりも不安だったのはトランジットです。事前に日本で乗り換え先の空港のホームページにアクセスしても、どこに向かえば乗り換えができるのか詳しい情報はなかったので、現地で何とかするしかないと覚悟はしていました。特に、エチオピアのボレ国際空港(アディスアベバ)でのトランジットは、看板がほとんどない上に非常に混雑しており、自分自身で人に質問して前に進まなければ、トランジットに間に合わなかったと思います。
ケニアのジョモ・ケニアッタ国際空港(ナイロビ)に着いたとき、とてもワクワクしました。空港はターミナルが複数あるほど巨大で、外の景色は現代的でした。ホテルの運転手が空港まで迎えにきてくれました。印象的だったのは、出会うケニアの人々がとても私を歓迎してくれたことです。運転手は「日本の支援にはとても感謝している」と笑顔で、ナイロビの街や動物について話してくれました。隣の車線を走る車の運転手は、私と目が合うと’Welcome!’ と笑顔で声をかけてくれました。ナイロビの街中には大きなTICAD Ⅵのポスターが貼られていました。暑くもなく寒くもないカラッとした気候の中、日本と変わらない大きな道路の真横に、広大な草原が広がっている様子を見て、ついに私はケニアにきたのだと思いました。
トラブルにも2回ほど巻き込まれました。最初はホテルの中でのことです。比較的ハイクラスのホテルに宿泊していましたが、宿泊して2日目、シャワーからお湯がまったく出なかったのです。水は出たので、噂に聞いていた人生初の水シャワーを体験しました。2回目は路上でのトラブルです。5車線の道路が大渋滞する中で、乗っていたタクシーのエンジンが止まってしまい、再始動もできずに完全に動かなくなってしまったのです。ナイロビの道路は基本的に大渋滞しています。その中、運転手と2人で路肩まで車を押して歩いたのは何とも印象深い思い出です。見た目は発達した都市でも、まだまだ多くの課題があることを実感しました。

Hot Heart, Cool Head

TICAD Ⅵへの参加を目的にケニアを訪れた私は、いわゆるアフリカの格差を直接的に目にすることはほとんどありませんでした。しかし、貧困層の労働者としてナイロビで働く人々との短い会話や、いわゆる裕福層として育ちTICAD Ⅵに参加したケニアの若者たちとの交流などから、私なりに得たものがあります。TICADⅥに若者として関わり、感じたことを2点述べます。
1点目は、世界を肌で感じてみることの大切さです。私は日本という命が保証された国に生まれた人間として、明日の命が保証されないような国に足を踏み入れることは、何だか傲慢なことのように感じていました。しかし、出会ったケニアの人々はとても温かく歓迎してくれました。「世界の裏側からケニアに来てくれてありがとう」と言われました。国籍も性別も年齢も超えて、「ようこそ」と迎えてもらえたことがとてもうれしかったです。知識は机上で得られますが、世界を肌で感じることで、新たな物の見方を得られます。
2点目は、Hot Heart, Cool Head の重要性です。熱いパッションと冷静な頭脳をもつことです。TICAD Ⅵの議論では「貧困」というテーマに向き合い続けました。私は同じ人間なのに格差が生まれることはおかしいと強烈に思います。Social Justice と表現される感情かもしれません。この感情を忘れないことが原動力の一つになると思います。同時に、冷静に現象を見つめることも大切です。目の前で起こっていることに対して、感情にのまれすぎず、原因を考え、構造的に捉える必要があります。構造的に捉え、構造的にアプローチしてゆくことが世界を少しでも良い方向に進める手段だと思います。
抽象的な感想になりましたが、アフリカの空気に触れ、生涯をかけてUHC の実現に尽力したいという思いを強くしました。アフリカに行く機会を提供していただいたすべての方々に感謝すると同時に、経験を発信する機会を下さったAJF にもお礼申し上げます。

(1) https://www.jica.go.jp/aboutoda/sdgs/UHC.html
(2) http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2016/health-inequalities-persist/en/
(3) https://www.jyps.website/


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