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マラウイの食料危機

連載:インターネットから知り、共に学ぶアフリカの諸問題(1)

Learning issues on Africa from internet(1): Malawi’s food crisis

『アフリカNOW』104号(2015年12月31日発行)掲載

執筆:中野 智之
なかの さとし:AJF 会員。1992年4月から2年間、青年海外協力隊員としてエチオピアに赴任。任期中に尾関葉子前事務局長と食事をした縁から、1994年4 月の帰国直後からAJF の活動に関わり運営委員も務めた。2015年3月に勤務していた外資系通信会社を会社都合で退社。現在、2016年4 月からある学校に通うための準備をするかたわら、日本語教師養成講座を受講中。


『アフリカNOW』の企画会議で、アフリカ関連ニュースの内容を解説する新連載を始めようということになり、私が担当することになった。私が主にインターネット経由で得た知識や情報を読者と共有し、意見交換をすることで、アフリカの諸問題についての理解を深めるという目的を設定して、タイトルを「インターネットから知り、共に学ぶアフリカの諸問題」とした。

さて、第1回目のテーマとして私が選んだのが「マラウイの食料危機」である。きっかけは、私がインターネットで見つけた2015年9月25日付けの記事(1)であった。その記事は、世界食糧計画(WFP)がプレスリリースを発表し、マラウイで2015年初めに起きた洪水の影響が穀物の収穫に大打撃を与え、その結果、推定で280万人もの人々が今後数ヵ月の間に飢餓状態に陥る可能性があるとして、食料緊急援助のための追加的な資金の負担を呼びかけたことを報じていた。読者のみなさんはマラウイの場所をご存知だろうか。おそらく、マラウイは日本人にとって馴染みのない国の筆頭格であろう。そのマラウイで「280万人が飢餓状態」という。このニュースは、その問題の重要度および緊急度は非常に高いが、他の多くのニュースに埋れて、一般の人たちの目には触れることのないニュースの典型的な例といえるだろう。そういう意味で『アフリカNOW』がこの問題を取り上げ、そもそもマラウイという国はどういう国なのか、また、その食料事情はどうなっていて、なぜ今回の事態になったのか、について読者に情報提供する意味があると考え、第1回目のテーマとして取り上げることにした。

まず、マラウイという国について概説する。マラウイはザンビア、タンザニア、モザンビークに囲まれた南東アフリカの国である。国土の面積は118,484 ㎢(2)で、日本の本州の面積(225,800 ㎢ )(3)のほぼ半分である。人口は1640万人で、東京都の人口と茨城県の人口を足した位の数(1639万人)(4)である。マラウイが特徴的なのは、何といってもアフリカ三大湖にもなっており、地形的に珍しい部分循環湖で水産資源も豊富にあるマラウイ湖(5)が国土の約4分の1を占めていることである。

一見豊かな国土の恩恵を受け、恵まれた国のようであるが、WFP の報告書⑹を見ると、実態は異なることがわかる。まず、まず、国連開発計画(UNDP)が発表している2013年の人間開発指数は、調査対象の187ヵ国中174位となっている。さらにWFP の報告書では、2012年から現地通貨のクワチャが49%切り下げられ、インフレ率が20%を超えるなど、経済悪化が悪化していると記されている。

一方、国民の多くが農業で生計を立てているが、8割以上が小農で、耕作可能な土地の面積が0.23ヘクタールと、サブサハラの平均0.4ヘクタールと比べても少なく、洪水や干ばつなどの自然災害の影響を受けやすい。さらに、HIV 感染率は11%で世界で9番目に高く、5歳までの乳幼児の42%が発育不全の状態にあり、子どもの死亡の原因の23%が栄養不足によるものであると指摘されている。

この報告書からはマラウイが「最貧国の中の最貧国」とも言える経済状態であることが見えてくるのだが、”Africa Renewal” の2013年1月号によると、2005年にマラウイ政府が補助金政策FISP(Firm Input Subsidy Program)を施行し、それが功を奏して、近隣国にとうもろこしを輸出できるまで農業生産が回復し、「アフリカの緑の革命」と言われるに至ったとある。

では、実際にとうもろこしの生産高がどうなったのかについて国連食糧農業機関(FAO)がインターネット上で公開しているFAOSTAT というデータベース(7)でマラウイの穀物の収穫高の推移を調べてみた。それによると、2005年に約123万トンであったとうもろこしの生産高が、2011年には約370万トンと約3倍に増加している。国レベルで数字を見れば、生産高が増加していることは明らかであるが、では、本当にその増加がFISP の効果によるものなのかどうか、また、全国民の8割を占めるという小農が国レベルの生産高増加の恩恵を受けているのかどうかという点が疑問点として残る。この点については、専門家の調査・研究を当たる必要であるが、そうした情報はインターネットからのアクセスは容易ではない。しかし幸運なことに、関連性のある論文を見つけたので紹介したい。それは、ロンドン大学のSOAS という地域研究を行う機関のAndrew Dorward 氏らがまとめた’The Malawi Agricultural Input Subsidy Programme: 2005-6 to 2008-9′ (8)である。

また、『アフリカNOW』の編集メンバーと相談しつつ記事執筆を進める中で、別の資料にも触れることができたので、紹介したい。それは、原島梓氏の「マラウイの農業政策と小農民に関する実証研究」(9)である。タバコ生産の解禁とメイズ(とうもろこし)の増産政策、そして、メイズの改良品種の採用率増加政策の3つの政策を取り上げて、小農民の行動の背景にある行動原理を示すことを目的としたこの論文は、メイズの増産政策について、「2005年の実態を見る限り、貧困対策としての効果はなく、むしろ一部の富裕層に有利な政策になっている。2006年以降、これらの問題点を踏まえ、政策は年々改良され、より貧困対策として効果的なものへと改善されつつある」と論じている。また、メイズの改良品種の採用率増加政策についても、「政府は政策の策定に当たり、在来種を生産する理由は資金制約にあると想定したため、改良品種の種子や化学肥料を無料で配布するという政策を実施したと考えられる。しかし実際には、小農民は、各々の資金制約の下で、在来種のみを生産するのか、ハイブリット種のみを生産するのか、あるいは販売用にハイブリット種を自給用に在来種を生産するのかという選択を行っていた。小農民は政府の政策をそのまま受け入れるのではなく、経済状況を勘案した上で、各世帯の最適な選択を行っていると考えられる」と結論づけている。

以上を整理すると、マラウイはまぎれもない最貧国であり、主食の原料のとうもろこし生産について、政府がFISP などの施策を実施するも、必ずしもそれが小農民の生産拡大に結びつかず、多くの小農民が現在も貧困状態にある、ということが言えるだろう。そして、今回の洪水とそれに伴う食料危機である。

2015年9月25日のWFP のニュースから約2ヵ月間、私はマラウイのローカル紙のホームページを定期的にチェックして、食料危機報道の続報について調べたが、現地の様子がわかるような記事は見つかっていない。しかし、興味深い記事(10)があったので紹介しよう。

その記事は、The Circle for Integrated Community Development (CICOD)という現地のNGO が大統領の依頼により活動を開始したことを報じているが、合わせてマラウイ農業省(Ministry of Agriculture, Irrigation and Water Development) の2014/2015年のとうもろこし収穫高についても触れている。それによると、2014/2015年のとうもろこし収穫高は278万トンで、前年の398万トンから30.2%も減少した。もしこの記事のデータと、先ほど紹介したFAOSTAT のグラフとに継続性があるとすると、2011年のデータは約370万トンなので、2011年から2014年の3年間でとうもろこし収穫高は398万トンにまで上昇したが、洪水等の影響により、2006年の水準にまで落ち込んでしまったということになる。今回の食料危機の深刻さを物語る情報と言えるかもしれない。引き続き、マラウイの食料危機に関して情報収集を継続していくつもりである。また、2015年11月12日にUNICEF はエルニーニョ現象がマラウイ、ジンバブエおよびエチオピアに数百万人規模の人々に食料危機をもたらしている現状に関してプレスリリースを出したこともあり、場合によっては、対象地域をマラウイに限定せずに、他のアフリカ諸国についても、どのような影響をもたらしているのかに、可能であれば調査したいと考えている。

(1) http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=51967&Kw1#.Vm-nCEqLTIU(“)
(2)https://en.wikipedia.org/wiki/Malawi
(3)https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_islands_by_area
(4)http://uub.jp/rnk/p_j.html
(5)https://en.wikipedia.org/wiki/Lake_Malawi
(6)https://www.wfp.org/countries/malawi
(7)http://faostat3.fao.org/browse/area/130/E
(8)http://eprints.soas.ac.uk/9598/
(9)http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/52015/1/39-077087.pdf
(10)http://www.maravipost.com/national/malawi-news/politics/9742-three-million-malawians-face-starvation.html


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