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アフリカの手話とろう者の世界

イベント概要

  • 日 時 :2009年01月24日(土)14:00-16:30
  • 講師 :亀井伸孝さん(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究員)
  • 会場:東京大学駒場キャンパス ファカルティハウスセミナー室

手話は身振り手振りであり世界共通だと思っている人がいるかもしれませんが、実はそうではありません。日本手話やアメリカ手話など、世界ではさまざまな手話が話されており、各地のろう者たちの文化として息づいています。もちろんアフリカ各地にも、数多くの地域色豊かな手話の文化があるのです。
今回のアフリカひろばでは亀井伸孝さんを講師に招き、アフリカの手話とろう者たちの文化に触れたいと思います。亀井さんは文化人類学者として、これまで西アフリカの6カ国で調査をされ、各地のろう学校、ろう者の団体、キリスト教会などを訪れ、訪問先のろう者たちの手話を学びながら、手話によるフィールドワークを続けてこられました。

亀井さんがアフリカ現地で撮影した映像や写真、そして東京外国語大学で完成した世界初の「フランス語圏アフリカ手話」 DVD動画辞典の紹介などをまじえながら、フィールドワークの体験談を聞き、実際に手を動かしながら異文化としてアフリカの手話に出会うことの魅力と大切さについて学びます。


講師プロフィール

亀井伸孝さん
日本手話歴12年、アフリカの手話歴11年の文化人類学者。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所研究員。2008年、同研究所で初めてアフリカの手話の集中講義「言語研修『フランス語圏アフリカ手話』」(100時間)を、カメルーンのろう者講師とともに担当。おもな著書に『アフリカのろう者と手話の歴史』(明石書店, 2006年, 国際開発学会奨励賞受賞)、『アフリカのいまを知ろう』(岩波ジュニア新書, 2008年, 山田肖子編, 共著)、ほか。
内容充実のウェブサイト「亀井伸孝の研究室」http://kamei.aacore.jp/

イベント報告

参加者28名、スタッフ6名、合計34名となりました。 講師の亀井さんは日本手話歴12年、アフリカの手話歴11年、専門は文化人類学です。これまで西アフリカの6ヵ国で調査をされ、各地のろう学校、ろう者の団体、キリスト教会などを訪れ、訪問先のろう者たちの手話を学びながら、手話によるフィールドワークを続けてこられました。今回はテーマに合わせ、アフリカひろば初の試みとして手話通訳を用意し、ろう者の方々も参加されました。
まずは、導入として手話やアフリカに関する簡単なクイズや説明がありました。 手話は世界共通ですか。手話にも方言はあるのですか。手話は学校で考案されたものですか。など知っているようで意外と知られていないような、手話についての簡単なクイズを10問程度行った後、アフリカの言語や宗教の分布などを、地図を用いて紹介しました。

亀井伸孝さん

アフリカろう者のフィールドワーク

亀井さんがこれまで調査で訪れた西・中部アフリカ6ヵ国の様子を写真や動画で紹介しました。 亀井さんが最初にアフリカを訪れたのは学生時代、1996年のことでした。 当時の風貌からイメージした手話で現地の子どもたちにニックネームをつけてもらったという亀井さんが行ってきたフィールドワークには、いくつかの方法があります。そのひとつは、年配のろう者たちに話を聞くということです。彼らは昔のことを知っているため、手話の歴史を知る手がかりになるのです。宴会には、ノートとペンを欠かさず持って行き、トイレに行くふりをしてメモをとったこともある。時間をかけて慌てずゆっくりとおしゃべりに付き合うことで様々な話を聞くことができる。それが文化人類学者にとって大切なことだと亀井さんは力強く語っていました。

とにかく手話を覚え、それを使いながらいろいろと教えてもらうという方法で調査を行っていた亀井さんは、 よその国のろう者の話をしてほしいと呼ばれて手話で講演を行ったり、手話通訳者たちの懇談会に呼ばれ、通訳の卵たちの前で体験を話したりという経験もあったそうです。自分の研究を紹介するセミナーを開いた際には、若い世代のろう者たちが知らないことが多いアフリカろう者の教育の歴史などを話し、自分の研究で得たものを現地の人々と共有してきました。公的な施設がほとんどなく、物質的・経済的制約もある中での研究会ですが、その中で交わされる議論の興味関心や熱意はどこでも同じであり、少ない資源の中でも熱心に研究・調査に取り組もうとする意欲を感じたそうです。現地のろう者と接する際は、「調査する側」対「調査される側」の関係ではなく、共同研究者として接することが多いと話していました。
次に、調査の結果どのような文化や歴史がわかってきたかについてお話いただきました。

手話を体験

ろう者によるろう者のための国際事業

アフリカはアメリカ手話の影響を受けた国が多いが、それが必ずしも英語圏の国であるとは限らないのはなぜなのだろうか。 というのが亀井さんの疑問の原点でした。アフリカには、かつてろう者たちが手話で営む、世界最大級のろう教育事業体がありました。西アフリカ(フランス語圏)にアメリカ手話が伝播したのは「ろう者のためのキリスト教ミッション」(Christian Mission for the Deaf :CMD)の影響によるものです。CMDはアメリカで設立されたキリスト教を広める団体で、ろう者によって運営されています。西アフリカでCMDの活動を率いたのが、アメリカ生まれの黒人ろう者アンドリュー・フォスターです。フォスターは、まだ人種別にろう学校が分かれていた時代に、アメリカにあるろう者のための大学を黒人として初めて卒業。
卒業後にCMDを設立し、30年間で13ヵ国に31校のろう学校をつくります。その特徴として、フォスターたちの学校は手話で教える学校でした。というのも、日本や欧米などの先進国では、ろう児の言葉を聴者(耳の聞こえる人)の話し方に近づけようと、なるべく手話を使わずに音声言語で話すことをよしとする教育が主流だったのです。また、フォスターはアフリカのろう者教員たちに研修を行い、ろう児への教育も行いました。このように、フォスターはアフリカのろう者の先生に手話と教育の方法について研修を行い、修得後はその先生に任せ、自身は次の国へ行き活動を広めるといった方法で学校数を増やしていったのです。
アメリカ手話がアフリカに広がっているのを見たとき、先進国によるアフリカの支配や悪い影響と捉える方もいるかもしれませんが、地図だけではわからない歴史があります。ろう者たち自身が作り上げた歴史を学ぶと、アメリカ手話が広がっていることを必ずしも悪いことと決めつけることはできません。フォスターはアフリカろう者の社会では絶大な支持を受けるヒーロー的存在です。宗主国フランスがしなかったことをフォスターがしてくれたと、フォスターの功績はいろいろな人に語り継がれています。

最後に、亀井さんが、東京外国語大学でアフリカの手話の講座を担当した際に作成した世界初の「フランス語圏アフリカ手話」DVD動画の紹介をしていただきました。 「なぜアフリカの手話の研究をするのですか?」とよく聞かれるそうです。「そこにろう者がいるから」、それだけで十分に学ぶ価値があるというのが亀井さんの考えです。これまで手話というと欧米や日本だけが注目され、アジアやアフリカにはなかなか目が向けられてきませんでした。さらに言えば、亀井さんがアフリカの手話の研究をしているのは、そこに「魅力」と「大切さ」があるからだそうです。

「魅力」―アフリカの手話は面白いのです。それは、各地の文化を反映した魅力的な言葉であり、各地のろう者が長い間に築いた歴史的遺産でもあります。そして、世の中に知られていないアフリカの手話の魅力をみんなに紹介していきたいという思いがあります。
「大切さ」―アフリカの手話は面白いという側面だけでは語れません。手話はアフリカの耳が聞こえない人が未来を切り開いていくための重要な言語です。しかし、アフリカにはまだまだ手話通訳が少なく、学習しようとする活動も少ないのが現状で、それがろう者の将来への選択肢を狭めているのです。教育や就労支援など、彼らの選択の幅を広げていく必要がありますが、そのための強力な武器として欠かせない、重要な言語なのです。
手話の「魅力」と「大切さ」の両面をバランスよく学び、今後も紹介する仕事を続けていきたいとまとめ、講演が終わりました。

質疑応答

参加者からの質問や感想を紹介します。

参加者(ろう者):亀井さんは50数国を今まで回ってこられましたが、アフリカに行かれたら危険な地域もあるかと心配です。

亀井さん:安全面には事前に準備が必要です。しかし、最大の安全対策は、現地の人と仲良くすることだと思います。1度だけ強盗にあった時にも、現地のろう者の知り合いが助けてくれました。調査に行くにも、ただ情報をもらって帰ってくるのでなく、時間をかけて信頼関係を築くことが大切です。

参加者(ろう者):アフリカに行きたいと思っています。アフリカでは手話文化が進んでいても、働く場所がないのではないでしょうか?

亀井さん:ろう学校では手話を使ってコミュニケーションがとれますが、耳が聞こえる人で手話に興味を持つ人は少ないです。ろう者は、洋裁や家具職人など手に技術を身につけて、あまり聴者と話さなくても良い仕事につく人が多いです。つまり、ろう者と聴者のコミュニケーションがとれる体制がまだまだ整っていないのです。アフリカのこれからの課題は、手話を理解する聴者をもっと増やすこと。そのうえ、ろう者の中にHIV感染者が増えています。そこには、HIV感染予防に重要な情報がろう者に伝わらないという事情があります。これからは、聴者とろう者を繋ぐ人材となる手話通訳者の育成が必要だと考えています。

【ここでアンケートに寄せられたメッセージを紹介します】
◆日本のろう文化や歴史を学ぶことは多いが、アフリカというのは初めてだった。 (アフリカでは)日本も学ぶべき内容の多いろう教育が行われていて驚いた。目からウロコのような内容でした。(40代 女性)

◆わかりやすく興味深いお話で勉強になりました。アフリカにも手話にも以前から興味があったのに、両者を結びつけて考えたことはなぜか今までありませんでした。何年か前に少し手話を学んだことがありましたが、改めてその魅力に気づくことができました。ありがとうございました。(20代 女性)

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