アフリカの現場からーエチオピア

On the Spot in Africa/Ethiopia

『アフリカNOW』 No.80(2008年3月31日発行)掲載

執筆:近藤 徹子
こんどう てつこ:AJF感染症研究会のボランティアなどを経て、2006年5月からAJF事務局職員。在日アフリカ人支援事業やアフリカ理解促進事業などを担当している。


今年1月15~24日、NGO – JICA相互研修に参加してエチオピアに行ってきました。この研修の今年のテーマは「コミュニティ開発再考~日本と海外の現場から考える~」で、昨年11月に国内研修を行い、コミュニティ開発活動を行っている日本の団体を訪ねました。今回の海外研修では、JICAが実施している農民支援体制強化計画(FRGプロジェクト)の現場と、カラユ牧畜民を支援するエチオピアのGudina Tumsa Foundation (GTF)のプロジェクトの現場を訪問。GTFは、日本のNGO・アフリカ理解プロジェクトと協力関係を結んでいるNGOです。

東京からバンコク経由で、標高2,400mの高地にあるエチオピアの首都・アジスアベバに到着。翌日には、アジスアベバから南東に200km移動し、アダマ(オロミア語。英語名はナザレット)という都市(標高1,500m)でFRGプロジェクトについての説明を受けました。このプロジェクトは、JICAとエチオピアの農業研究機構や農業試験場の共同で、オロミア州東ショワ・ゾーンと西アルシ・ゾーンの一部で、5年間かけて実施されています。この地域は半乾燥地ですが、比較的容易に水にアクセスすることができ、インフラや道路も整備されているので、工夫すれば多様な作物を収穫できるところだそうです。この地域での農業普及活動は、以前は、農業研究員が研究した技術を農家に教えるというトップダウンで行っていました。しかしFRGプロジェクトでは、農業研究員と農民が農家の圃場で一緒になり、よい技術ややり方を考えていくことを目的としています。さらに、その技術は農業普及員を通して、別の農家にも広範に伝えていきます。

翌日は、FRGプロジェクトを実施しているワケティヨ(Waketiyo)村を訪問。村の農民組合のリーダーから話を聞き、私たちからは、一番年配に見える参加者が代表であいさつをすることになりました。村の人口は3,966人で、世帯数は407戸。一世帯あたりの人数は7~8人です。以前は放牧で生計をたてていましたが、現在は農耕だけで生計をたてていると聞きました。

この村でのヒアリングは、現地のオロミア語→英語(農業研究員)→日本語に通訳しながら行ったために、質問できることはごくわずかで、村の基礎情報を聞くだけで1時間が経過してしまいました。ところが最後に、「村で何か気になることはありますか?」と質問したところ、急に発言が熱意を帯び始めました。どうやらその原因は「砂糖工場」にあるらしい。この村では大規模にサトウキビをつくる予定があり、ほとんどの村人がこの計画に参加しています(サトウキビの生産者は518名)。3年前から砂糖会社が灌漑設備や圃場の整備を行っていますが、その間、圃場では何もつくっていないとか。自分の土地でサトウキビを生産する引き換えに、砂糖工場から生活保障をもらっているようですが、サトウキビの収穫が始まると、これまでの3年間に支払われたお金を返金していくシステムになっており、村人の不安が高まっているようでした。ただ、砂糖工場側にヒアリングをしていないので、真相の程はわかりませんが。

1月18日には、アダマから車で2時間ほど東に位置するメタハラに行き、GTFの事務所を訪ねました。この地の標高は約1,000m。ここは水へのアクセスが困難な乾燥地で、照りつける太陽が痛いほどです。周辺一体のオロミア州東ショワ県ファンターレ郡18村には、昔ながらの生活を営む牧畜民カラユが住んでおり、その人口は7万5,000人とも言われています。移動生活をしながら伝統的な放牧を営むカラユの人々は、1970年以降、放牧に適した土地を大規模プランテーションや国立公園として政府に接収され、乾燥した資源の乏しい地域で暮らしています。政府と交渉もできず、国の保護を受けることもできない少数牧畜民のカラユを対象にして、GTFが支援を始めたのが1995年。最初は警戒心の強い彼らにまったく相手にされなかったそうですが、「子どもを学校に送ろう」と言いながら一軒一軒を訪問し、地道に活動を続けてきました。

GTFの活動は、教育から始まり今では、統合された自然資源管理・生計向上・家畜肥育の普及・女性の地位向上・カラユ牧畜民の能力開発の6分野にわたっています。アフリカ理解プロジェクトと協力している教育に関する活動では、目ざましい成果をあげています。GTFがはじめて小学校を建設したときには45名の生徒(うち女子が2人)しかいませんでしたが、いまや生徒数は397名(うち女子が154人)にもなりました。学校が家から遠くて通えない、途中誘拐されてしまう恐れがあるなどの理由で、女子生徒のための寄宿舎もあります。また、牧畜民の生活に合わせて、6ヵ月間集中して勉強し、それを3クール続ければ小学校5年生に編入できる仕組みもあります。

カラユ牧畜民では初の女性大学卒業者、アリーヤさんと対面しました。彼女のお父さんは、娘を大学に行かせるときに村のあらゆる人々から反対され、災いが村に起きるとまで言われたそうです。彼女は大学では法学を習い、今ではGTFのスタッフとして自分の出身地で働き、女性を対象とした権利についてのワークショップを開催しています。彼女を見習って、大学に行く女性も増えているそうです。アリーヤさんは、GTFから資金援助を受けて大学を卒業することができたと語ってくれました。彼女に続く女子生徒も多く、アフリカ理解プロジェクトでは、引き続きGTFと協力して女子教育支援を推進することを決めています。教育がコミュニティに与える影響の大きさを肌で感じることができました。

その後、女性グループの活動や環境保全のプログラムを見学しました。女性グループのメンバーはみんなでお金を少しずつ出し合って貯金をして、その一部をグループの女性が子牛を買い・育て・増やすために貸し付けています。また貯金の一部は、街の銀行に預金しているそうです。子どもを学校に送りたいかと聞いたところ、彼女たちは借金してでも送りたいと言っていました。顔に独特の彫ったような線がありましたが、これは美しさのためと、もうひとつはFGM(女性性器切除)をしている印であるとのこと。FGMやHIV/AIDSといった問題については、所得向上や農業技術の指導など、比較的みんなが参加しやすいプロジェクトのときに合わせて啓発活動を行っているそうです。

翌日は、メタハラから4WD車で川を渡り、砂漠を渡り、走り続けること2時間。ギダラ(Gidara)村に到着。この村に着くまでにサトウキビと果樹のプランテーション地域を抜けてきましたが、この地域は政府の監視が厳しく、撮影は厳しく禁止されています。検問場所ではガードマンに車を止められ、ジーっと見られ、帰りは別の道を通って帰れと言われました。政府がNGOを警戒しているのでしょうか。GTFは政府と対立することを避けていますが、やはり制約も多く、活動しにくい現状にあることは確かなようです。砂糖工場と果樹畑ができたことで、水汲みに行っていた川に行くことができなくなったという話も聞きました。

メタハラ周辺と異なり、この村ではGTFのみが活動しています。GTFのすばらしい点のひとつは、プロジェクトマネージャーの他に、村に住み込んで生活するファシリテーターがいることです。38名のスタッフのうち半数以上が村に住み込み、村人と寝食を共にしています。GTFは活動について、最終的には住民主体のものに委譲していき、その延長上で政府との関係を築きつつ、自らは撤退していきたいと考えているようです。GTFが運営していた小学校は、すでに政府に所有権を委譲しましたが、GTFのスタッフからは、カラユの人々が正当な権利を保障され、保健衛生や教育にアクセスできるようになるためには、当分はまだまだ撤退できないだろうという話も聞きました。GTFには比較的若いスタッフが多く、自らの活動について熱く語っている様子が印象に残っています。

GTFのスタッフとディスカッションをしたときに、GTFのスタッフから私たちに4つの質問が出されました。(1)アフリカでは2015年までにMDGs(国連ミレニアム目標)が達成できると思いますか? (2)日本のODAは本当に貧しい人に届いていると思いますか? (3) 2005年の総選挙以降、EU諸国はエチオピアのCSO(市民社会組織)も援助対象としていますが、日本は対政府援助だけです。この状況は今後変わると思いますか? (4)今後、私たちとパートナーシップを結んでいく可能性はありますか? あるとすれば、どのように?
この質問を聞いたとき、私たちはみんな黙って考え込んでしまいました。簡単に答えることはできませんが、エチオピアでの経験を今後の活動に生かしていきながら、私なりにGTFのスタッフの問いかけに応えていきたいと考えています。

【関連団体のウェブサイト】
FRGプロジェクト http://project.jica.go.jp/ethiopia/5065025E0/index.html ※閉鎖
GTF  https://rainbowftf.ngo/international-development-aid-ethiopia/gudina-tumsa-foundation/
アフリカ理解プロジェクト http://africa-rikai.net/


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