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農業及び社会開発アプローチとしてのIPM、そしてIPPM

食料安全保障研究会 第6回公開講座 報告

日時:2002年6月29日(土)13:30-16:30
会場:東京都文京区立音羽生涯学習館
題目:『農業及び社会開発アプローチとしてのIPM、そしてIPPM』
講師:木村 忠氏(FAOコンサルタント)

講師からのひと言:
IPM (Integrated Pest Management) のコンセプトは1960年代に確立され、1992年の環境サミットでも、その持続可能な農業における役割が再認識されました。しかし、 IPM の定義や解釈は今もって様々に分かれており、また日本の援助関係者の中にも、「IPM は理想ではあるが、慢性的な食料不足に悩む途上国地域に導入するのは、まだ現実的でない」との意見があります。
ここでは、環境サミットの成果を受けて、1995年に国際機関 (FAO, World Bank, UNDP, UNEP) が共同設置した Global IPM Facility の活動とその成果を、主にアフリカの事例をもとに紹介します。更に、ジンバブエにおいて IPM を拡大して生まれ、アフリカ各地に広がりを見せる IPPM (Integrated Production and Pest Management) の紹介を通して、単なる作物保護にとどまらない IPM や IPPM の現状、課題、可能性について、みなさんと共に考えたいと思います。

報告

FAOコンサルタントの木村忠さんに『農業及び社会開発アプローチとしてのIPM、そしてIPPM』の解説と問題提起をしていただいた。参加者は15名。

まず、以下のレジュメに沿って説明が行われ、その後、質疑応答・討議に移った。パワーポイントetc.で示された具体的な内容は、以下の通り。

[レジュメ]

  1. IPM (Integrated Pest Management) とは
    • 「防除」だけではない
    • 「減農薬農法」ではない
    • 「一般防除」だけのものではない
    • 「農民のため」だけのものではない
    • 「技術パッケージ」ではない

    そしてゴールではない!

  2. Global IPM Facility
    • FAO、世銀、UNDP、UNEPの共同設置
    • 事務局はFAO本部内(ローマ)
  3. IPMの4つの原則
    • 健康な土壌と作物を育てる
    • 健康な農業生態系を守る
    • 定期的に耕作地を観察する
    • 農民が自らの耕作地の専門家となる
  4. IPPM (Integrated Production and Pest Management)
    • Production(生産)とProtection(防除)の両側面を強調
    • IPMと異なる概念ではなく、むしろこれがIPMの実態
  5. FFS (Farmer Field School)
    • 実験、観察、仮説の検証などを通し、農民が自ら意志決定し、行動するための実地トレーニングであり、学びの場
    • トレーナー/ファシリテーターと農民のパートナーシップ
    • 農民は情報の受け手ではなく、その土地に根ざした技術の構築者であり活用者
  6. Vehicle(伝達手段)としてのFFS
    • FFSで扱われるSpecial Topicの例
      グループ・マネジメント、マーケティング、HIV/AIDS、食糧安全保障、栄養・健康管理、環境管理、会計管理、家族計画、識字教育など
  7. IPM/IPPMの課題
    • 理念・定義の氾濫・通俗化
    • 普及の阻害要因
    • 代替技術開発・普及の遅れ
    • 評価の難しさ
    • 政策への働きかけ
    • プロジェクト後の持続性
    • 農業セクター、そしてセクター間の連携構築
    • ドナーの役割

[質疑応答]

(Q:質問 A:回答 C:コメント)

Q.IPMというのか何か? 概念なのか?

A.具体的なアプローチの手法である

Q.IPMなのか、IPPMなのか。

A.もっとも広く用いられている用語としてはIPMで、アジェンダ21などにも記されている。IPPMは、ジンバブエの国家プログラムで初めて採用されて以降、他の多くの国に広がってきている。但し、IPMも狭義の「防除」にとどまらないことから、実質的な内容は、IPPMである

Q.IPMのトレーニングは、従来から各農民の耕作している土地で行うのか。それともFFSとの同時進行か。

A.FFSとしては、コミュニティの同意によってトレーニング用に確保された土地で実施するが、参加した農民は学んだことを即日でも自分の土地で実施することができる

Q.ファシリテーター(普及員)がアジアから来ているが。

A.IPMは、最初にアジアの稲作地帯、次いで他の作物で試され、その成果がアフリカに導入された経緯があるので、アジアで経験を積んだ人材を他の地域に招くことはある

Q.先進国で、IPM/IPPMはどうなのか。

A.一定の評価をされている。但し、農薬多用型農業に導入される場合は、結果的に減農薬になることが多いものの、IPM/IPPMは減農薬を目的にしているわけではないことに注意が必要である

Q.映像を見る限り、FFSの参加農民はほとんど男性だが、これは識字との関係なのか?

A.女性の参加は重要であり、そのことについても事前にコミュニティーと話し合っているが、トレーニングへの参加者はコミュニティ側に人選をしてもらっている。女性または男性が参加者の大半を占めるFFSもある。ジンバブエの場合、全体を平均すると、男女が半々だ。FFSの参加者が女性ばかりのコミュニティは、「男性がほとんど出稼ぎ」というケースが多い。

C.スウェーデン、オランダでは「農業セクターの援助」というのがない。「環境保全の援助」という枠になる。

Q.FAOの資金で、IPM/IPPMをやっているのか。

A.FAOがパイロットプロジェクトを実施することはあるが、「FAOが自らの資金でIPM/IPPMを実施する」というのは誤解を招く。国際機関としてのFAOは、むしろ調整役。プロジェクトを求める国とドナーとをつなぐ役割をもっている。東アフリカ(ケニア、ウガンダ、タンザニア)のケースは、IFADの資金が使われ、ジンバブエも第1フェーズはFAO主導で、第2フェーズは国家プロジェクトとしてオランダによる二国間援助になっている

Q.なぜジンバブエか。

A.アジアでの成果を踏まえ、Global IPM Meeting が1993年に行われた。その時、アフリカからも関係者が招待されたが、その後ガーナとジンバブエからIPM/IPPM導入に対する支援要請があった。ジンバブエは、綿花→トウモロコシ→野菜の順でIPPMを導入した

Q.Global IPM Facilityの共同スポンサーに世銀が入っているが、その理念に合うのだろうか。

A.実際には、絶えず議論が行われている。例えば世銀の主張は、「IPM/IPPMは評価するが、その普及方法としてFFSにこだわりすぎているのではないか」、「FFSはコストが高く、Fiscal Sustainabilityが低い」などがある

Q.世銀がIPMの普及を支援しているというのは、「構造調整」の失敗から来ているのではないか。

A.むしろ、リオサミットの流れで行ったのではないかと思う

Q.相手国政府の要請と言うが、それを待っていることに問題はないのか。積極的に要請を出したという先ほどのガーナやジンバブエは例外的では?

A.FAOのプロジェクトは基本的にパイロットであり、小さい。その後、国家プロジェクトとして継続してもらうための基礎を作る役割を果たすことが多い。国際機関は、自ら何かを決めるというよりも国際社会での調整役。国際会議やワークショップなどを通して情報提供したり、支援を求める側とドナーとの間をつなぐ役割が大きい。バイのドナー(二国間援助機関)は、政策や予算があって自ら動けるが、マルチのドナー(多国間援助機関)は違う

Q.日本での評価は?

A.総論としては賛成だが、各論としてどこまで評価されているかは疑問。例えば、日本の援助でIPMやIPPMの技術協力をしている例を、私自身は承知していない。またFAOに対しても、IPM/IPPMのプロジェクトを目的にしたトラストファンドは入っていない

Q.評価はなぜ難しい?

A.経済指標だけでは済まないことが大きい。農民のエンパワーメントや農民の生活全体の向上、人体や環境への影響など、幅広い社会的要因をも含めて評価を行わなければならない。多くの専門家が検討を重ねているが、IPM/IPPMのプロジェクトを包括的にとらえる評価手法はまだ確立されていない

Q.IPMは、商業的農業ではどうなのか。

A.企業の直営農場では、IPMで生産された材料を使っていることをを売りにしたものもある(Campbell Soup Companyなど)

C.土地改革なしに無理なのではないか

C.改革なしの土地でも、一定の効果がある

Q.FFSは、12~16回の「研修」である。これで伝わるのか。

A.何よりも、出発点を作ることが出来るかどうか。トレーナーやファシリテーターの役目はそこにある。FFSによっては、参加者の発案でCommercial Plot を作る、ということを始めたところもある。そういった形で「研修」の成果が農民自身による「実践」になっていくケースもたくさんある

Q.どうして、そのやり方に金がかかるのか。

A.一番の負担は、トレーナーやファシリテーターの交通費だ。これがかかる

Q.FFSには、何かモデルがあるのか。

A.FFSは、アジアの米作地帯でのIPM、具体的にはインドネシアで始まった

Q.R.チェンバース等の影響では?

A.それはわからない。現場で活動していた多くの人々(70年代~80年代)は、自分たちがFFSを考えついたと主張しているのだが、活動対象が重複しているソーシャルワーカーなどの手法からヒントを得たり、影響を与え合ったこともあるだろう。実際のところは不明である

Q.かつての「総合的農村開発」的な発想からの評価は生まれないのか。

A.FAOの中に色々なセクションがある。IPMは防除から出発したが、他のセクションの活動との間でも、かつてのように明確な線引きは難しくなっており、評価手法の検討にも幅広い経験が生かされてきている

Q.学生に、FAO横浜事務所の見学に行かせた。サミットで英国が「FAOは時代遅れ」と発言したことについて尋ねたところ、対応してくれた方に怒られてしまった。FAOの体質というのは、どういうものなのだろうか。

A.国際機関の中でも歴史の長い、そして大きな組織であり、最新とはとても言えない。古いタイプの縦割り組織という状況から抜け切れていないところもあるだろう

Q.どこまでGlobal IPM Facilityがやるべきなのか。

A.二つの考え方がある。社会開発アプローチとして考えるなら、その範囲は拡がっていく。実際に、FFSの中では農業以外の様々な内容、例えばHIV/AIDSなどについても情報提供をしている。しかし、それをGlobal IPM Facilityとしてどこまでやるのか、という議論は内部的にもある。現在は、あくまでも活動の中心はIPM/IPPMであり、他の内容については導入だけを行い、さらに深い内容についてはそれぞれの話題の専門機関・組織に話をつなぐなどして任せるようにしている

Q.このアプローチは、よいのだが、生産性を上げるのには向いていないのでは?

A.生産性を上げるということで効果を測るのであれば、いろいろな方法があると思う。しかし、それだけではIPM/IPPMの一部にしか目を向けないことになってしまう。例えば、外部投入資材(化学肥料や農薬など)をほとんど使用していない地域で、食糧生産量の確保を最優先するために、IPMやIPPMは使えず、まずは外部資材多投入型(High Input)な農業を導入すべき、ということであれば、その後IPMやIPPMといった低投入型の農業を普及するのに非常な困難を経験する。これは、多くの先進国が経験していることだろう。むしろ、現在低投入型の農業(Low Input)を行っている地域に、High Inputの時期を経験することなく科学的にも検討されたIPM/IPPMを導入し、現地で入手可能で、再利用可能な資源を最大限に有効利用するような農業を普及することに積極的な価値を見出していくべきなのではないか

C.アジア学院がやっているのは、まさに低投入型農業だ。わざわざ一度High Inputな農業を普及してから、低投入型に移行しようというのはやはり問題が大きいと考える

C.ただし、それはHigh Inputを経験し、その問題点も知った上で初めて低投入型とか有機農業とかいったものが出て来るとも言えるのではないだろうか

C.生産力が問題というわけではないのでは? むしろ、問題は、社会構造がさまざまなショックに強くないことにあると思う。高投入なら生産力も高い、というイメージがあり、私が関わっているJICAのプロジェクトでも、カウンターパートの農業省からは「低投入型」という言葉に対する拒否反応がある

C.ここで話されていることは、事例として距離感がある。ケニアの半乾燥地では、もっと状況が厳しい

C.確かにケニアでは、有機農業をやっているNGOもある。それはケニアだと高投入がコスト高になるからだ。例えば、ジンバブウェ等の場合、改良品種が小規模農民にも普及している

C.しかし、ジンバブエにはPELUMのような有機農業の普及を進めているNGOもあると聞いている

C.最低限の投入を調整しながら進めていくIPMは、生産としても意味があることだと思う

C.ただ、援助として化学肥料が大量に入っている中で、IPMの概念がどこまで共有されているのか。援助はCommon Basketに入ってしまい、ドナー間の調整が難しいのではないだろうか。

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