持続的村落開発-ザンビア・ケース 

食料安全保障研究会 第5回勉強会 報告

日時2002年5月31日(木)18時40分-21時
会場東京都文京区民センター
講師二木光(にきひかる)氏(国際協力専門員 国際協力事業団)
題目『持続的村落開発-ザンビア・ケース』

出席者今回も、開発コンサルタント、NGO、JICA、研究者といった「開発」の業務に関わる方の他、学生の参加者が多かった。合わせて22名になる。内容:河内が司会を務めた。まず、「農村開発」という概念に関し、講師から整理があった。続いて、PASViD(参加型持続的村落開発)の紹介が行われ、「参加」概念に関する問題等が指摘された。その後、質疑応答・討議に移った。
パワーポイントetc.で示された具体的な内容は、以下の通り。

[講師より]

1.農村開発という概念

  1. 農業開発/地域開発との違い

    農村開発は、地域開発の中に含まれるが、農業を核にしたものを指す。また、農業開発が農業生産の増大、改善を目的とし、人や土地等はその手段として位置づけられるのに対し、農村開発は、地域住民の福祉向上を直接的な目的とするという点で違いがある。

  2. 究極の目標

    現時点のみならず、未来の住民(家族)と農村地域(集落)における総福祉の極大化を計ることである。

  3. 目的:以下の5点が指摘された。
    • 社会的不公正の是正
    • 地域(村落)共同体と農民の経済自立
    • 健康及び居住アメニティー改善
    • 周辺生態循環・伝統の保全
    • 都市との共生

2.PASViD(参加型持続的村落開発)とは?

  1. 定義
    • 小規模村落における     ……対象地域
    • 村民(特に小規模農家)の  ……対象者
    • 収入増、生活水準向上を通し ……目的
    • 豊かな自立社会を構築するため……究極目標
    • 村民が主体となって     ……実施主体
    • 事業企画・実施・評価を行う ……活動内容
    • 手法            ……性格
  2. 概要
    • ファシリテーターが資金調達の目処を立て、PRA等により対処婦村落基礎調査を行う。
    • 村民(50人~100人)が参加するPCM(参加型評価手法)ワークショップを開催し、マイクロプロジェクト(インフラ建設、小企業)を開始する。ひとつの村あたりの予算は100米ドル/家族、つまり100家族の村で1万ドルが目安(ザンビアの場合)になる。
    • 3年後に評価し、事業継続のための教訓を得る。
    • 村落共同体規模で経済活性化を計る。
    • 究極的に豊かで自立した共同体を目指す。
  3. 戦略
    • 外部からの経済支援は事業開始時のみであるため、以後は自助努力で資金送出する。
    • 自主自立のための共助活動を促し、以後は控除活動として技術・情報の提供をする。
    • 出来るだけ多くの村内資源動員を促す。
    • 農協等の共同体活動を活性化する。
    • 生産・生態・生活各環境の持続性を重視する。
    • 弱者(貧困層、女性等)に配慮し、公正を期す。
  4. 限界
    • ファシリテーター(普及員)に対する総合的村落開発指針・手法であるため、個々の技術や組織運営法には触れていない。
    • 持続的農業技術開発・普及が遅れている時、村落開発の持続性は保証されない。
    • 国家経済開発に対しては遅効的・部分的である。

3.「参加」の陥穽:以下の5点が指摘された。

  • いずれの事業に置いても住民参加は当初住民発意ではなくドナー主導による。
  • ドナーは「参加の実績面」、つまり頭数に注目し、数値や映像記録で満足しがちである。
  • ドナーは、住民に対し見え透いた結論への誘導をし、あたかも住民をして変革へ参与した錯覚を植え付けようとする。
  • 外発的開発事業への労働参画に経済的余得を付加し、「参加」を「直接受益」で糖衣している。
  • これらの所作からは住民のダイナミックな共感と、その後の変革主体としての自覚は生まれない。

質疑応答

Q.参加型マイクロプロジェクトをパイロット地区(2村)で実施したと言うが、その結果はどうなったか。

A.ひとつは、ルサカから約40kmと町に近い村。ロバを持ち込み、「灌漑」を導入した。ひとつは、ルサカから約75kmにある山中の村。「灌漑」施設は導入せず。女性グループによる「制服作り」を始めた。どちらも軌道に乗った

Q.二つの村のファシリテーター(普及員)に力量差はあったか。

A.あった。しかし、2週間の時間をとり、研修を実施した。研修の対象者は、SAO(Senior Agricultural Officer))である

Q.農業普及員は、ファシリテーターとして能力が高いと言ったが、もともとなのか研修等で身につけたスキルなのか。

A.PCMとPRA(参加型農村調査法)をあわせた研修を、世銀が行っていた。その研修を彼らは受けていた。したがって、私が初めて研修を行ったというわけではない

Q.プロジェクトの費目で、例えば人件費はどのように計上したか。

A.まず、外の技術者の謝礼は、件の1万ドルから出す。普及員の交通費は、その1万ドルから出すようにした。 

Q.PASViDの有効性はどうやって検証するのか。

A.村でワークショップを行う。リスク分析を行う。事前に、PDM(プロジェクト・デザイン・マトリックス)に外部条件を盛り込む

Q.保健や教育の関係で村をまわる普及員というのはいるのか?

A.地域開発オフィサーがいるが、予算が無く不充分である。農業普及員は農業に特化しているが、こちらは地域全体を見る

Q.カウンターパートは、本業が疎かにならないか。

A.きれいごとだが、そうでもない

Q.現地のNGOとは一緒に動いたのか。

A.それは、一度もない

Q.サイト選定の基準は?

A.絶対に成功させねばならない、という前提が大きな縛りとしてあった。そのためには、村長がしっかりしていることと首都から近いことを条件にした。他にも8つほど、条件をつけ、点数化して、上位2ヵ村を選んだ

Q.日本のNGOが近くにいれば、何らかのアクションを起こすか。

A.日本のNGOはいなかった。ヨーロッパのNGOはいたが、特に関係は無かった。「関係しない」と決めているわけではないが、本プロジェクトのコンポーネントとして「NGOとの連携」は、持っていないということである。現時点ではアクションプランを打ち出していないが、考慮すべき点であることは確かだ

Q.共同作業は難航しないか。

A.平等感を保ちながら、負役を行うことができるかという点がポイントである。そこで、面識集団を前提にした

Q.アジアとアフリカの違いを感じるか。感じるとすれば、どういった部分か。

A.アジアはCompetitiveだが、アフリカは相互に協力的だ。持続的な農法ということなら、アフリカのやり方になるのではないか。

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