都市ゴミで砂漠緑化!-ニジェール共和国における試み

2007年度 食料安全保障研究会公開セミナー

日時:2007年1月20日(土)14時~16時30分
講師:大山修一さん(首都大学東京・都市環境科学研究科助手)
会場:丸幸ビル2F・オックスファム会議室

1月20日、食料安全保障研究会公開セミナーを開催し、講師・スタッフを含め18人が参加しました。

講師の大山さんは2001年より、サヘル地域のニジェール共和国で現地調査を続けています。農耕民ハウサの村に住み込み、ハウサの農耕様式、牧畜民フラニ、トゥアレグの暮らしぶりなどを調査していますが、近年村では土壌劣化(砂漠化)が進行しています。しかし村びとは黙って土壌劣化を見ているだけではないそうです。村びとの土壌劣化を防ぐ民俗知識を調査するなかで、大山さん自身がニジェールでNGOを設立し、砂漠化の防止に取り組むようになった経緯と今後の課題を、写真・動画を交え100分近く話してくれました。
以下、講演内容と質疑に関する簡単なメモです。

ニジェール共和国

国土の北半分はサハラ砂漠
砂漠の中にウラン鉱山がある
主要な農産物:降雨量年間300ミリ以上の地域では最も乾燥に強いトウジンビエ(ミレット)+ササゲ栽培が行われ、降雨量が増える南に向かってソルガム耕作地帯へと移行していく
最貧国の一つだが、国内には大金持ちもおり、貧富格差は大きい
大統領直轄の砂漠化防止の取り組みが進められている

砂漠と砂漠化

調査の対象地は砂漠化(土壌劣化)が振興している地域
気候的な要因によって成立している砂漠と、人為的な荒廃によって砂漠化したところを区別し、後者を研究対象としている
30年前は共同放牧地だった土地が土壌劣化によって、つるはしで穴をあけるのも困難なカチカチの土壌になっている
小雨地帯で降る雨の多くは、雨期に一日の降雨量が20ミリ以上の強い雨が短い時間のうち降るため、土壌浸食もはなはだしい

調査地域

首都ニアメから200キロほど東北にある町から7キロほど離れた戸数55の農村
牛、ヤギ、馬を飼っている大きな農家に居候して調査
村で5軒だけの牛車を持った農家の一つ
毎年、フラニやトゥアレグが牧畜を追ってやってくるコースにあたる
年間降水量は446mm。(1923年から降水量データが記録されている)

農地

肥沃度が高い畑では、トウジンビエの収量は1.1トン/ha(2003年)であった
そのまま耕作を続けると、作物が立ち枯れする荒廃地になってしまう
1950年代の航空写真を見ると休閑地がかなりあったが、現在は荒廃してしまって耕作が放棄された地域が広がっている
農民は、収穫は雨量によってではなく土地の肥沃度に規定される、と言っている
土地の肥沃度をあげるために、農民は、家庭内のゴミ(食べ物のかす、衣類などに加え廃棄された鉄鍋やサンダル、ビニール袋なども含む)を耕地に撒いている
牛車を持つ農家は週に一回くらい(400キロ)、そうでない農家は毎日頭に載せたカゴでゴミを運んでいる

土壌肥沃化の仕組み

雑多なゴミが土壌の肥沃化にどのように寄与するのか、実験を行った
カチカチの土壌の対象区をプロット1、2m四方の土地に50キロのゴミを散布した土地をプロット2、同じ広さに5キロのゴミを散布した土地をプロット3としてチェックしたところ、土壌の肥沃度に明確な違いを確認することができた
散布されたゴミのうち有機物はシロアリの餌となり、結果として土壌の有効成分になる
サンダルなどのゴミは日光を遮蔽してシロアリの巣、活動領域をつくっている
ビニールのゴミなどは保水力を強める効果がある。鉄鍋などは強い雨で土壌が押し流されたりするのを食い止める効果がありそうだ
地表に撒いたゴミで隙間のあるデコボコができると、風で飛ばされてきた砂や土壌が溜まってくることも観察された

都市ゴミを荒廃地に

昨年7月、上記の実験を踏まえ、調査村から少し離れたかつての共同放牧地に、7キロ離れた町のゴミを運んで散布した
地元へ牛車を借り出し、地元の人々に謝礼を出して散布事業を行った
このゴミ散布事業およびフォローアップを目的にNGOを立ち上げた
このような都市ゴミを利用した土地生産性の改善は、ニアメの資産家によって、すでにおこなわれている。このようなニジェールの人々の営みを、NGOの公益的な活動として進めていきたいと考えている
大統領特別プログラムでおこなわれている半月溝の造成事業と組み合わせることを考えている

ニジェールの都市ゴミ問題

都市への急激な人口集中が進行中(20世紀初頭に2000人弱の小さな町であったニアメに現在は70万人近くの人が住んでいる)
都市内のゴミは、居住区(コミュニティ)ごとに置かれたゴミ・コンテナに集積され、定期的に郊外のゴミ廃棄所に運ばれることになっている
富裕な居住者の多いコミュニティのゴミ処理はスムーズになされているが、貧困者の多い地域にはゴミ・コンテナ自体が置かれていないため、道路にゴミが大量に放置されている地域もある
ゴミが放置された地域では、雨期になるとコレラが発生し多くはないが死者が出ることもある
郊外のゴミ廃棄所は、道路脇にゴミが放置されているだけである
ゴミ処理による環境保全への関心が、援助関係者の中でも高まっている
JICAへ、ニジェールで建設費10億円のゴミ処理場(焼却炉)建設の提案がなされたと聞いている
このゴミ処理場の運営自体に年間2000万円が必要と見積もられている
年間国家予算が350億円余りのニジェール共和国にとって、この提案はいかがなものだろうか?

世界的な規模で考えると

途上国から先進国への食料=有機物の流れがある
途上国では有機物を土壌へ返すことができないで土壌劣化が進行している
ニジェールのような条件の厳しい国では、すでにこうした土壌劣化による食料生産減少=砂漠化が進んでいる

質疑、コメントから

マリでもゴミを耕地に散布するのを見たことがある
途上国でのゴミ処理案件にJICAが参加するケースもある
アジアでの経験で言えば、ゴミ処理=ゴミ焼却というケースはほとんど聞かない
ゴミを耕地に撒くことが環境汚染につながるのではないか?
 →懸念はある
個人として取り組むのであれば、範囲も限られており、他からとやかく言われることもないだろうが、自治体や国が取り組むとなると、環境保全への配慮をもっとていねいに打ち出す必要がある
ゴミとして廃棄されたビニール袋をヤギや羊が食べてしまい、食べ物を消化できなくなって死ぬというケースがあると聞いている
先進国のゴミを途上国に持って行くということになるとよくない
 →そういうことをさせてはいけない
去年、コートジボワールでヨーロッパから持ち込まれたゴミから発生した有毒ガスのため何人も人が亡くなるという事件があった。スマトラ沖大地震・インド洋大津波の際には、ソマリア沖で先進国の産業廃棄物を運んでいた船が被災し、ソマリアの海岸に流れ着いて産廃のため多数の犠牲者が出たとの報道もある。こうした動きにも注意すべきだ
フィリピンに日本の使用済み注射針が送られていたという事件もある

講師によるまとめ

ニアメのゴミ廃棄所の栄養分と、調査地の一番良い耕地の栄養分とを比較すると、ゴミ廃棄所の栄養分が圧倒的に多い。こうした状況を変えていくことが必要だ。
ゴミの散布にあたり分別にも取り組むなどの、提起された課題について検討したい。
3月に調査に行き、昨年7月ゴミを散布した旧共同放牧地も見て来る。

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