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西サハラにおける新型コロナ:統計数値の違いはどこから?

アフリカCDCはサハラ・アラブ民主共和国政府の発表数値を採用。モロッコ占領地では新型コロナ感染が深刻化

29年ぶりに交戦をみた西サハラ

アフリカの北西部に位置する西サハラ(旧スペイン領サハラ)では、1991年に、帰属を問う住民投票の実施を前提に国連が主導して結ばれた停戦協定が11月14日、29年ぶりに破られ、国土の西側4分の3を占領するモロッコ王国軍と、国土の東側4分の1を解放区とするサハラ・アラブ民主共和国(ポリサリオ戦線)が交戦する事態となりました。

2019年12月に開催されたポリサリオ戦線第15回大会(解放区チーファーリーチーーの会議場。写真:稲場雅紀)

この紛争の発端は1975年に遡ります。1975年、フランコ総統の死を前にしたスペインは、同地の独立を求めるサハラ住民(サハラーウィ)の代表勢力であるポリサリオ戦線(サギア・エル=ハムラ及びリオ・デ=オロ解放人民戦線)の存在をしり目に、同地の領有を主張するモロッコ王国が同地に侵入した「緑の行進」に対して、同地域の北側約4分の3をモロッコ、南側約4分の1をモーリタニアに割譲する「マドリード秘密協定」を結び、この地から撤退、代わりにモロッコとモーリタニアが国際法に反して同地を占領。ポリサリオ戦線は住民十数万人とともにアルジェリアの南西部チンドゥーフ周辺に難民キャンプを設置、サハラ・アラブ民主共和国(RASD)の樹立を宣言し、解放戦争を開始します。モーリタニアはRASDと和解して撤退、モロッコは西サハラを南北に縦断する全長2720キロの長大な「砂の壁」を築いて、その西側の占領を継続。「砂の壁」の東側がRASDの解放区となっています。また、アルジェリア領内ティンドゥフ周辺の西サハラ難民キャンプは、RASD政府・ポリサリオ戦線が統治する形となっています。アフリカ連合はRASDを正式な加盟国として認めています。国連はRASDを加盟国としては認めていませんが、モロッコの占領も認めておらず、地域住民の自治が及んでいない地域であることを意味する「非自治地域」として扱い、1991年の停戦協定の下で「国連西サハラ住民投票ミッション」(MINURSO)を派遣しているほか、国連事務総長が西サハラ担当特別代表や個人特使を任命しています。

混乱する西サハラのCOVID-19件数

この地域における「新型コロナウイルス感染症」(COVID-19)の感染動向の把握はどうなっているでしょうか。

世界のCOVID-19感染動向についてよく参照される米国ジョンズ・ホプキンス大学の「コロナウイルス情報センター」は、西サハラにおけるCOVID-19件数の累計を10名、死者を1名としています。一方、ロイター通信の「世界コロナウイルス・トラッカー&マップ」は、西サハラにおけるCOVID-19件数の累計を766名、死者を2名としています。このように、この地域におけるCOVID-19関係の統計は混乱した内容となっています。(注1)

世界保健機関(WHO)は、この地域について、WHO本部、アルジェリアを管轄するアフリカ地域事務所(AFRO)、モロッコを管轄する東地中海地域事務所(EMRO)のいずれにおいても、西サハラについては何ら扱っておらず、地図上でも「空白地域」として処理されています。ロイター通信の「世界コロナウイルス・トラッカー&マップ」は、西サハラに関するデータの出典を「欧州疾病管理・予防センター」(E-CDC)としており、E-CDCのウェブでは、同地の件数はロイターと同様766件、死者は2名となっています。E-CDCが参照しているデータの出典はWHOとなっていますが、残念ながら、このWHOのデータベースは、WHO関係者のみがアクセスできることになっており、一般の人はアクセスできないようです。(注2)

国連は、上記のMINURSO(国連西サハラ住民投票ミッション)が、COVID-19に関するデータを暫定的に発表してきました。このMINURSOが発表するデータは、モロッコ占領地におけるCOVID-19事例も含まれていますが、後に述べるモロッコ保健省が発表している件数とは大きく異なっており、何に由来するものなのかは定かではありません。MINURSOは4月末までの段階で西サハラにおける感染数を10名としており、ジョンズ・ホプキンス大学の発表している数値はこれに基づいているのではないかと考えられます。

アフリカCDCはサハラ・アラブ民主共和国保健省の数値を採用

アルジェリア領内の西サハラ難民キャンプの風景(写真:稲場雅紀)

一方、サハラ・アラブ民主共和国を加盟国として認めるアフリカ連合の機関として設置されているアフリカ疾病管理・予防センター(アフリカCDC)は、西サハラについて、サハラ・アラブ民主共和国保健省の発表した数値を掲載しています。この掲載は、同保健省が、難民キャンプを含む同国の管理する「解放区」におけるCOVID-19の件数を最初に報告した7月25日から始まっています。アフリカCDCは、直近(11月17日)に発行した週報において、サハラ・アラブ民主共和国における感染の累計を28件、死者を1名としています。(注3)

モロッコ占領地ではCOVID-19が深刻に

一方、西サハラの西側5分の4を占領しているモロッコ王国は、早い段階からCOVID-19の感染拡大が深刻な状況となってきました。アフリカCDCが11月17日に発表した週報では、モロッコ王国のCOVID-19件数は累積293177件、死者は4779人となっています。同国保健省は州別の感染動向も発表していますが、西サハラおよび同地と国境を接するモロッコ領の一部を含めた、同国政府が「ラーユーン・サキア・エル=ハムラ州」と「ダーフラ・ウェド=エッダハブ州」と称する地域での11月27日の一日の感染数は合計191人、死者は1名となっています。ここには、サハラーウィー(西サハラ住民)ではなく、新たにモロッコから移住したモロッコ人がかなり含まれるものと思われます。(注4)

注1
ジョンズ・ホプキンス大学コロナウイルス資料センター「西サハラ」
ロイター通信世界コロナウイルス・トラッカー&マップ

注2
世界保健機関COVID-19ダッシュボード
欧州疾病管理・予防センター COVID-19世界統計

注3
アフリカ疾病予防・管理センターCOVID-19週報

注4
モロッコ王国保健省COVID-19統計