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新たな変異株「オミクロン」の登場で世界貿易機関(WTO)閣僚会議が無期延期

新たな変異株の登場に、ワクチン・医薬品ギャップを生じさせた先進国の責任を問う声相次ぐ

11月30日から12月3日まで、スイスのジュネーブでハイブリッド形式で開催される予定だった世界貿易機関(WTO)の閣僚会議について、11月27日、一般理事会議長のダシオ・カスティージョ大使(ホンジュラス)が無期延期を宣言した。これは南部アフリカで11月中旬にその存在が判明した新型コロナウイルス(COVID-19)の新たな変異株について11月26日、世界保健機関(WHO)が「オミクロン株」と命名し、「懸念される変異株」に指定したことを受けた措置である。同時に、各国は南部アフリカ諸国を対象とした渡航制限措置を強化した。これに対して、南アフリカ共和国のジョー・パーシャ保健相(Joe Phaahla)が「これらの措置は正当化できず、逆に事態を悪化させかねないうえ、WHOの提示する規範と基準にも反している」と抗議するなど、南部アフリカの指導者や人々はこうした対応に反発している。

ハイブリッド方式で透明性の低い会議の延期を求めていた市民社会

今回のWTO閣僚会議では、昨年10月に提案されて以降、英国、ドイツなど少数の国々の反対で議論が停滞していた、南アフリカ共和国・インドなど64ヵ国による、COVID-19に関する知的財産権保護の一時・一部免除提案も主要なテーマになる予定であり、この課題を含め、保健や貿易投資の課題に取り組む市民社会団体の多くが、これに向けた政策提言や行動を予定していた。一方で、COVID-19のためにオンラインでしか参加できない国や市民社会もあり、オンラインとオンサイトのハイブリッドでは、どうしてもオンサイトで参加できる主要国が有利となり、透明性も確保できないので、貿易問題に取り組む世界の市民社会のネットワークである「我々の世界は商品ではない」(Our World is not for Sale)は、この会議の延期を求め、要望書も送付していた。オミクロン株が理由とはいえ、会議は中止となったわけだが、代表団がすでにジュネーブに到着している国もあり、非公式な二国間・二者間や有志国間での協議なども行われ、ますます透明性のない形になりうることが懸念されている。

医薬品ギャップを克服できていれば防げたかもしれない変異株の登場

オミクロン株の登場については、そもそも、世界におけるワクチンや検査・治療などの資源がより公正な形で貧困国にも供給されていれば、防ぐことができたのではないか、という声が出ている。市民団体「貿易に関する公正キャンペーン:のスポークスパーソンであるモニカ・ディ=シスト氏(イタリア)は、「オミクロン変異株によるWTO閣僚会議の延期決定は、メガ・ファーマの企業利益を優先し、世界の医療格差を放置してきた主要国政府の選択の帰結である」と述べた。また、WTO閣僚会議が開催sれる地元スイスの「適切なインターネット・ガバナンスのための協会」のリチャード・ヒル氏は、「ワクチンの生産は、知的財産権保護によって制限されている。WTOはこの制限を解除しないことで、新型コロナの際限ない増殖と変異を助長してきた」と述べた。

こうした市民社会の声は、英国のゴードン・ブラウン元首相によって増幅された。ブラウン元首相は英紙「ガーディアン」に寄稿し、「オミクロンの登場は驚くべきことではない。途上国の人々にワクチンを供給することに失敗した結果、問題は我々のところに戻ってきた。ワクチン接種が大規模に行われなければ、ウイルスは変異を繰り返し、先進国でワクチン接種を完了した人をもリスクに陥れることになる」と述べ、次のように続けた。「9月に米国バイデン大統領が開催したサミットでは、12月末までに世界のすべての国でワクチン完了率40%、来年9月までに70%が目標と決められたのに、少なくとも82ヵ国では、この目標が達成されないと予測されている。先進国による途上国へのワクチン供与の達成度も極めて低い。米国も25%二しか達しておらず問題だが、欧州はさらに問題だ。英国は11%、カナダは5%しか達成できていない」。元首相は「私たちがワクチン・ナショナリズムや医薬品に関する保護主義を拒絶してはじめて、私たちは感染症の急拡大がパンデミックに発展するのを止めることができる」と締めくくった。

バイデン米大統領は改めてワクチン知的財産権保護免除への合意を呼びかけ

米国のバイデン大統領も、オミクロン株の拡大について26日に声明を発表、「来週開催されるWTOの閣僚会議に集まるすべての国々に、COVID-19のワクチンの知的財産権保護を免除するという米国の立場を支持することを求める。これによって、ワクチンを世界中で生産することができる」と述べ、WTO閣僚会議でこの問題に決着をつけるよう求めた。一方、閣僚会議の延期を求めていた市民社会ネットワーク「我々の世界は売り物ではない」は27日、延期自体は歓迎しつつも、知的財産権保護免除に国際社会が直ちに合意することを求める声明を発表している。