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「パンデミック条約」制定は2024年以降?

WHO世界保健総会特別セッション、政府間交渉主体の設置に合意

 

オミクロン株検出で世界が騒然とする中で行われた世界保健総会特別セッション

11月26日、世界保健機関(WHO)は、南アフリカ共和国で新型コロナウイルス(SARS-COV-2)の新たな変異株を「オミクロン株」と名付けた。その3日後の11月29日から12月1日までの3日間、WHOは史上2回目となる「世界保健総会特別セッション」を開催し、今後のパンデミック対策の刷新に道を開く「パンデミック条約」に関する討議を行った。「特別セッション」の成果として、12月1日、「世界が一緒に:パンデミック予防・対策・対応の強化のための政府間交渉主体の設置」という計2ページの文書が採択された。この文書では、WHO憲章の第19条もしくはそれ以外の条項に基づき、パンデミック予防・対策・対応に関する条約、合意もしくはその他の国際的な規定を起草し、策定に向けて交渉するための、すべての加盟国等に開かれた政府間交渉主体(intergovernmental negotiating body)を設置することが決定された。この政府間交渉主体は、2022年3月1日までに第1回目の会合を開催して共同議長の選出や業務方法・スケジュールを決め、同年8月1日までに第2回目の会合を開催して、この取決めをWHO憲章のどの条項に基づくものにするのかを決定する。また、中間報告を2023年5月頃に開催される第76回世界保健総会で行い、成果文書を2024年5月頃に開催される第77回世界保健総会で行うこととなっている。また、この決定文書では、第2回目の会合までに公聴会を行うことや、適切な形で国連書記官や政府間機関、WHOと公式な関係のある非国家主体やその他のステークホルダー、専門家等の参画を得ることを、WHO事務局長に要請している。

米国政府も議論を前進させるために協力することを約束

これにより、「パンデミック条約」は今後2年以上の年限をかけて討議され、2024年以降に策定される可能性が高くなった。「パンデミック条約」については、2020年秋頃より、欧州諸国を中心に、これを制定すべきという動きが強まり、欧州に加え、アジアでは韓国やタイ・インドネシア等、アフリカでは南アやケニア・セネガル等、中南米でもコスタリカやチリなど26か国が参加して「条約の友」(Friends of the Treaty)が設立され、条約制定の原動力となった。一方、米国政府は強制力のある条約を批准するにあたっての困難さなども勘案し、必ずしも積極的な態度をとっていなかったが、オミクロン株の検出や感染拡大など新たな動きを踏まえて、11月30日、一定積極的な立場に転じることを表明した。ホワイトハウスのサキ報道官は「米国はその他のWHOの加盟国と協力して、(世界保健総会特別セッションに向けて報告書を提出した)『WHO保健緊急事態対策・対応強化のための加盟国ワーキング・グループ』の提言を前に進めることを約束する。これには、(現行の)『国際保健規則』の効率性や機動性を向上させるために、WHOの新たな条約・規則もしくは仕組みを作り、合意を形成することが含まれる」と述べている。

「パンデミック条約」は必要な包括性を持ちうるか

サキ報道官が言及した「ワーキンググループ」は、この世界保健総会特別セッションに向けて報告書を提出しているが、この報告書では、新たな条約・合意もしくは仕組みを作ることの意義として、以下の9つの側面を上げている。まず、医薬品アクセスや技術移転、知的財産権などと関わる「公平性」(Equity)の増進、次に、人間と動植物や環境の「健康」を一体で見る「ワン・ヘルス・アプローチ」の促進、「パンデミックの予防やリスクアセスメント、検出および対応の強化」、現行の「国際保健規則」の義務的事項の順守やアカウンタビリティ、パンデミック対策資金、パンデミックによる医療ニーズ急増に対する保健システム強化などによる対応力強化、病原体の遺伝子情報や生体サンプル等の共有、パンデミック予防・対策・対応に関する政府全体・社会全体のアプローチの促進による構造的解決、最後に、公衆衛生に対する誤情報や偽情報への対策。これらの論点に鑑みると、パンデミック条約は、今回のCOVID-19を踏まえた総合的かつ包括的な内容を含むものとなりうる。

透明性の確保と参画の保障を求める市民社会

市民社会はWHOに透明性と参画の保証を求めている。テドロス事務局長自身はオープンだが…。(写真は2017年UHCフォーラム(東京))

今回の世界保健総会特別セッションの成果について、いくつかの市民社会団体が声明を出している。このうち、COVID-19パンデミックにあたって知的財産権保護の免除や新規医療技術等の技術移転の促進を求めてきた米国の「知識環境インターナショナル」(KEI: Knowledge Ecology International、理事長=サキコ・フクダ・パー氏)は、特別セッションに向けて報告書を準備してきた上記「ワーキンググループ」に対して、パンデミック条約において、公的資金を活用して開発された新規技術について、その権利やノウハウをシェアし、知的財産権の免除規定を義務付けること、研究開発への資金調達の透明性の確保、緊急時のワクチンやその他の医薬品に関するより良い規制・許認可プロセスの設定などを求めてきた。ワーキング・グループではこれらについても議論されたものの、特別セッションまでの間にコンセンサスは得られなかった。KEIは声明で「政府間交渉主体(INB)が意義ある成果を得るためには、INBの会合は包摂的で透明なモノでなければならない。WHO事務局は、公聴会を開くのみならず、すべてのINB会合において、非政府主体の完全な参加を保障する必要がある」と述べている