GFAN、グローバルファンド第7次増資に285億ドル必要と提言

コロナ下で三大感染症の終息を実現するために資金倍増を求める

2022年は保健関係国際機関の「増資」が目白押し

GFANが発表した提言書「十分な資金をグローバルファンドへ」

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが始まってから2年が経過したが、オミクロン株の登場などもあり、その収束はいまだ見えない。COVID-19の登場は生物多様性の喪失と関連付けられ、今後、これまでよりも多くの新たなパンデミックのリスクが生じる可能性があることから、「パンデミック予防・対策・対応」(PPR)を一つの軸に、多国間の国際保健枠組みの変革(Transformation of global health architecture)に向けた議論が進んでいる。この議論においては、年間1兆円規模の「国際保健脅威基金」(Global Health Threats の設置が提案されるなど、国際保健に関する資金ニーズは今後、飛躍的に拡大することが予想される。

一方、2022年は、多くの国際保健関連機関の「増資プロセス」が展開される。ワクチン開発に携わるCEPI(感染症対策イノベーション連合)、母子保健から保健システム強化に関わるGFF(女性・子ども・若者のための地球規模資金ファシリティ)、また日本が「顧みられない熱帯病」への医薬品研究開発支援のために設置されたGHIT(グローバルヘルス技術振興基金)や、ポリオ対策に関する増資等も行われる。この増資の中でも規模が大きいのが、エイズ・結核・マラリアの三大感染症対策に資金を供給するグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)の増資である。

グローバルファンドの「増資プロセス」の仕組み

グローバルファンドは2011年以降、増資プロセスによって集めた資金額をベースに対象国のプログラムに資金を割り振る「新資金供与モデル」(New Funding Model)を採用している。そのため、増資ターゲット金額をいくらに設定し、実際に設定した金額を集められるかは、グローバルファンドが対象国に適切に資金を供給できるかどうかの試金石となる。増資プロセスが成功するかどうかは極めて重要なのである。増資プロセスは3年ごとに行われるが、通常、12月~3月の間に「増資準備会議」を開催して増資ターゲットを決定し、その後、主要ドナー国をはじめ、多くの国が様々な機会に拠出誓約を行い、10月前後に、これを集約してターゲット金額に到達させる「増資会議」を開催するという方法がとられている。今回の増資は7回目であり、2023-25年に拠出する資金を集めるために行われる。増資準備会議の開催国は決まっていないが、増資会議については、米国バイデン政権が開催することが決まっている。

2020年、COVID-19の影響により、三大感染症対策は大きな痛手を被った。エイズ、結核、マラリアのすべてにおいて、検査受診数が大きく減少したほか、結核の治療については18%(薬剤耐性結核については19%)下落、HIV予防プログラムにアクセスできた人口は16%下落した。このことに鑑みれば、この遅れを取り返し、今後も続くCOVID-19による悪影響を克服し、国連の目標通り、2030年に三大感染症の終息を実現するには、これまでの想定よりも大きな資金が必要であることは明確である。

GFAN、必要資金倍増を求める

グローバルファンドに関わる提言活動を世界各地で展開している市民社会のネットワーク「グローバルファンド提言者ネットワーク」(GFAN)は、増資準備会議に先駆けて11月23日、今回の増資にあたって、ターゲット金額を、2019年の第6次増資の2倍強にあたる285億ドル(約3.1兆円)とすべきとする提言書「十分な資金をグローバルファンドへ:COVID-19の下でエイズ・結核・マラリアを終息させる軌道に戻す」(Fully Fund the GLobal Fund: Get Back on Track to End AIDS, TB and Malaria in a COVID World)を発表した。

この提言書によると、2023-25年の3年間でグローバルファンドが支出すべき金額は、エイズに関して毎年30億ドル、結核が24億ドル、マラリアが26億ドル。これに加え、三大感染症をはじめとする保健に取り組むコミュニティを中心とした保健対応システムの強化に毎年15億ドルを要し、これを合計した金額が285億ドルとなる。この数字の算出は、2018年に開催された国連結核ハイレベル会合や2021年に開催された国連エイズ・バイレベル会合で採択された「政治宣言」で誓約された資金額をベースとしている。GFANは、2020年以降のCOVID-19パンデミックによって、途上国の三大D感染症対策費が、ODAなどの国際資金、途上国自身がねん出する国内資金とも減少する一方で、対策の後退により、必要な資金が増大していることを指摘。また、「コミュニティ主導の保健システム」については、COVID-19により、公共・民間の保健システムに加え、地域社会や感染症の影響を強く受けやすいコミュニティ自身による保健への対応が、三大感染症をはじめ、保健全体の改善にとって極めて重要なことが改めて明らかになったことを指摘したうえで、コミュニティ主導の保健システム強化に関して、グローバルファンドが他の機関に比べ各段に積極的に資金を投入してきたことを評価。この点について、さらに支援を強化することを求めた。

GFAN提言書はそのうえで、第6次増資の2倍を越える「285億ドル」というターゲットを設定し、これを達成する上で、旧来の政府開発援助(ODA)が最も主要な役割を果たす必要があるとしつつも、ODAのみならず、伝統的な援助資金を越えた革新的な資金創出戦略が必要と指摘。具体例として、債務転換(Debt2Health:債権国が途上国の債務の返済を免除し、債務国はその返済分を当該国のグローバルファンド案件の資金に充当する)、金融取引連帯税(金融取引に薄い税率をかけて公的資金を生み出す「国際連帯税」の一つ)、IMFの「特別引き出し権」(SDR)の寄付などを挙げている。そのうえで、「今、より多くの資金を効率的に投資しておかないと、後になってさらに大きな資金を費やす結果となることは明らかだ」と結論付けている。

GFANの提言書「Fully Fund the GLobal Fund」の全文はこちらからダウンロードできる。
(英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語、ヒンディー語でアクセス可能)