ウガンダ「反同性愛法」の違憲性について憲法裁判所が聴聞を開く

LGBTIQ+当事者と法律家、支援者たちの粘り強い異議申し立てが継続

憲法裁判所が異議申し立ての署名を受け入れ

ウガンダのLGBT当事者・支援者ネットワークの連合「平等への連携」のロゴ

東アフリカの内陸国ウガンダで2023年5月、国会で可決されていた「反同性愛法案」に同国のヨウェリ・ムセベニ大統領が署名、この法律が発効した。これに対して、反対する当事者団体や人権運動団体、法律家らが同国の憲法裁判所に対して、同法をウガンダ憲法違反として効力を停止するように求め、署名を提出していたが、12月18日、憲法裁判所はこの署名を正式に取り上げることとし、5名の判事の出席の下、署名者の代表を呼んで聴聞を行った。リチャード・ブテーラ裁判長(Richard Buteera)は、処分が下せるようになった段階で通知すると述べた。

ロイター通信の報道によると、署名者側の代理人弁護士のニコラス・オピヨ氏(Nicholas Opiyo)は、「私たち署名者は、ウガンダ社会のすべての構成員が、その性的指向の如何に関わらず、憲法の下に保護されているのかどうか、という疑問について、法廷がこの機会に応えてくれることを願っています」と述べた。また、同法の成立に際して、これに反対するために発足した「平等への連携」(Convening for Equality: CFE)の共同代表でウガンダのLGBTIQ+の運動団体の老舗である「ウガンダの性的少数者たち」(Sexual Minorities in Uganda)のフランク・ムギシャ共同代表(Frank Mugisha)は声明で、「私たちは、裁判所が反同性愛法に対する異議申し立てに耳を傾けてくれたことを歓迎する。この誤った法律により、多くの暴力と破壊が生じた後に、裁判所が、この法律が様々な意味でウガンダ憲法に違反しているという訴えを聞いてくれたことに感謝する。『ウガンダ六法』(Uganda’s Law Books)には、この法律を掲載すべきページはない」。

聴聞では、署名を提出した代理人のオピヨ弁護士が、同法がウガンダ憲法で保障されている平等権や尊厳、プライバシーの権利、表現や結社の自由、健康権、差別からの自由といった原則を侵害しているほか、法律制定の手続きにおいても、憲法で保障されている公衆の適切かつ意味のある参加の機会が与えられなかったなどの瑕疵があると主張した。また、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は「法廷の友」(Amicus Curiae)として聴聞に参加、同法がウガンダのエイズへの取り組みを妨げているかについて発言した。一方、憲法裁判所は、同法の制定を促進したスティーブン・ランガ牧師(Stephen Langa)およびマーティン・センパ牧師(Martin Ssempa)についても、「法廷の友」として出廷も認めた。この二人の牧師は、ファミリー・ウォッチ・インターナショナル(FWI)など、世界で反同性愛を鼓吹している米国のキリスト教原理主義勢力と長年連携している人物である。

反同性愛法による迫害続く

ウガンダでは、同法の制定後、実際に性的指向や性自認を理由とする暴力や人権侵害が相次いでいる。同国の人権団体「人権認知・啓発フォーラム」(Human Rights Recognition and Promotion Forum: HRAPF)は法律制定後のこうした暴力や人権侵害について事例を収集し、月報を発行しているが、同団体のまとめでは、8月に71件、9月に68件、10月には83件の事例が報告されている。また、判決の如何によっては死刑の対象となる「加重同性愛」で起訴されたケースもすでに存在する。また、同国の国家科学技術評議会(Uganda National Council for Science and Technology: UNCST)は、同国の学者・研究者たちに対して、研究プロジェクト等に関わっている者で特に加重同性愛に関わった者がいる場合には通報することが法律上の義務である」との趣旨の指示書を発行した。これに対しては、ウガンダ、ケニア、南アなどアフリカ諸国や北米、欧州、中南米等35か国から312名の学者・研究者から、この指示書が国際社会で認知されている学問・研究上の原則から逸脱しており、研究者たちの命や健康、尊厳、自己決定や秘密保持の権利を脅かすものだとする公開状が、同評議会のマーティン・オンゴル事務局長代行(Dr. Martin Ongol)宛てに出されている

国際社会の圧力と連携した当事者や法律家の粘り強い闘い

同法に対しては国際社会からの圧力も強まっている。世界銀行は8月9日、ウガンダの反同性愛法が、人種、ジェンダー、セクシュアリティに関わらず貧困をなくすという世銀の価値観から逸脱しているとして、ウガンダ政府が新規の措置をとらない限り、同国への融資を停止する措置をとった。これについては、ウガンダ保健省が、世銀の措置発表の前日に、同法に関わらず同性愛者を含めたすべての人に保健サービスを継続するとの「適応計画」(Mitigation Plan)を発表し、世銀はこれの有効性について調査している状況である。また、米国のバイデン大統領は10月30日、「反同性愛法」を理由に、アフリカ諸国からの輸出品への関税を一定の条件付けの下に免除する「アフリカ成長機会法」(AGOA)の対象国からウガンダを外すことを決定した。また、さらに、米国国務省は12月4日、民主主義の軽視や少数者集団への抑圧を理由に、ウガンダの政府職員に対するビザ交付の制限を発表し、さらに12月28日、「旅行情報」において、ウガンダを、テロや暴力犯罪の危険とともに「反同性愛法」によるLGBTQI+への迫害などを理由に、4段階の危険情報のうち「レベル3 旅行を再考せよ」(Reconsider Travel)に指定した。

ウガンダの世論は一般的に同法への支持が高いとされており、同法や同性愛者への迫害を理由に、多くのウガンダ人LGBTIQ+が難民として同国から逃れている。一方で、この動きは、ムセベニ大統領が1986年から37年の間、政権の座にあり、国民の民主主義的権利の保障も危機的な状況にあるウガンダの国内においても、LGBTIQ+の当事者運動が存在し、狭められながらも存在する様々な異議申し立ての方法を活用して、反同性愛法と闘う弁護士や宗教者らも確実に存在することを示している。実際、2014年に同様の趣旨を持つ「反同性愛法」が制定された際にも、同様に異議申し立てが憲法裁判所に持ち込まれ、同裁判所は手続き的瑕疵を理由に、憲法違反として同法の効力を停止した。今回の憲法裁判所の決定が待たれるところである。