中南米の高いコロナ死亡率の背景に貧困と格差

市民社会の報告書、逆進的な課税制度と税逃れの克服と、公共の保健医療への十分な投資を求める

 

アムネスティ等の報告書「不平等と致死」

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のインパクトは、先進国とともに、東欧や中南米、中東、南アジアなどの上位・下位の中所得国、いわゆる「新興国」に大きな影響を与えている。これらの国々は、極端な貧富格差と大規模な貧困人口を抱え、肥満や非感染性疾患が大きな健康上の問題をなしている。国の予算に占める保健医療や社会保障への支出は少なく、貧困層の保健医療アクセスも限られた状況にある。東欧や中南米はとくに、こうした状況でCOVID-19パンデミックに直面し、人口当たりのインパクトが先進国などに比して非常に大きくなっている。

4月27日、アムネスティ・インターナショナルと経済社会権利センター(Center for Economic and Social Rights)は共同で、報告書「不平等と致死:パンデミックで引き起こされた人権上の危機からの回復のための鍵となる5つの行動」(Unequal and Lethal: Five key actions to recover from the human rights crisis unleashed by the pandemic in Latin America and the Caribbean)という報告書を発表した。

同報告書によると、同地域の人口が世界人口に占める割合は8.4%にすぎないが、COVID-19による死者は世界の28%を占めている。その理由は、「世界で最も格差が大きい」とされるこの地域の貧富格差と巨大な貧困人口の存在、そして、保健医療や社会保障制度が未発達・投資不足で貧困層をカバーできていないという現実である。公的医療保険の未発達や資金不足により、人口の3割が公共の保健サービスにアクセスできていない。同地域では、COVID-19により、2019年比で貧困人口が1400万人増加し、極端な貧困にある人々の人口は1600万人へと拡大した。一方、生活環境でみると、狭い家にたくさんの人がいるという環境で暮らしている人口が全体の3割(2019年)に及んでいる。(同報告書の「事実と数値」参照)

同地域で保健医療アクセスの状況が悪く、社会保障などの再分配システムが機能していない理由が、圧倒的な貧富格差と、不十分で逆進的な課税制度、さらには企業の租税回避により、再分配のための財源がやせ細っていることである。COVID-19の死亡率が最も高いペルーや死者数で米国に次ぐ2位のブラジル、5位のメキシコは、人口の1%の超富裕層が国富の3割を所有している。チリでは、所得上位2割の人口層が、所得下位2割の人口層の10倍の富を所有している。同地域は逆進性の高い消費課税が主流であり、さらに、脱税によって3500億ドル、企業の税逃れによって401億ドルが失われており、同地域の税収は、OECD諸国がGDPの33%であるのに対し、GDPの22%しか上がっていない。その結果、アルゼンチン、キューバおよびウルグアイ以外の中南米諸国は、米州保健機関(PAHO)が掲げる「GDPの6%を公的保健医療サービスへ」という目標を達成できていない。また、COVID-19パンデミックに対して行われた現金給付等のプログラムも、貧困層の多くには届いていない。同報告書は、こうした実態が、COVID-19による「大量死」の原因となったと結論付けている。

この調査を行ったアムネスティ・インターナショナルの米州ディレクター、エリカ・ゲバラ=ロサス氏は、「ラテンアメリカの現状は数百年の植民地支配による不正義の結果であり、その結果として一部の人々は歴史的に、またシステム的に、権利を否定されている。各国政府はパンデミックからの回復にあたって、実質的な平等を目指すアプローチと、アファーマティブ・アクション等を導入する必要がある」と述べる。また、共同で調査を行った経済社会権利センターのケイト・ドナルド事務局長も、「政府は、この差別や疾病、経済的災厄の最悪の影響から自らの市民を守るため、積極的に資源を動員する役割を負っている」と述べた。