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UHCとパンデミック:「健康への権利」の視点から =「パンデミックに耐えうるUHC」の実現を=

パンデミックに耐えうるUHC

国連UHCハイレベル会合に「保健への権利」実現を訴えるデモ(2019年9月、ニューヨーク 撮影:稲場雅紀)

2019年9月、ニューヨークの国連本部で「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関するハイレベル会合」が開催され、2030年までにUHCを達成するための野心的な政治宣言「UHC:より健康な世界の建設のための共同の行動」(Moving Together to Build a Healthier World)が採択された(注1)。その3か月後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が始まり、相対的にUHCの達成度が高いとみなされていた先進国でも巨大な被害が生じた。国連本部が所在するニューヨークでは、2020年中に約43万6千の感染が確認され、死者数は2万5千人以上に上っている(注2)。また、COVID-19の拡大やロックダウンなどの強制的なCOVID-19対策により、一般の保健・医療サービスへのアクセスができずに容体が悪化したり、死亡するケースも多発している。パンデミックによる急激な保健・医療需要の増大に供給側が対応できない「医療崩壊」が、先進国を含め、多くの国で生じているのである。いま問われているのは、「パンデミックに耐えうるUHCをどう実現するか」である。

平時とパンデミック時を区別しないUHCの定義

WHOはUHCを「全ての個人及びコミュニティが、資金的困難に苦しめられることなく、保健サービスを受けられること」と定義する。さらに、どのような保健サービスが含まれるかについては、「健康の促進から予防、治療、リハビリ、緩和ケアに至る、本質的で質の高い保健サービスの全範囲」とする(注3)。一方、国連の2030年までの目標であるSDGs(持続可能な開発目標)のターゲット3.8には「資金的リスクからの保護、質の高い本質的な保健ケア・サービス、安全で効果があり、質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含むUHCを達成する」と明記されている。この定義は、パンデミックなどの緊急時と平時を区別するものではない。すなわち、パンデミック時においても、UHCの達成に向けた努力は継続されねばならず、逆に、UHCは保健医療需要が急増するパンデミック時にも耐えられるものでなければならない。

必須医薬品・ワクチンを含むUHCは基本的人権

1946年に策定されたWHO憲章には「達成可能な最高水準の健康を享受することは、全ての人の基本的権利である」とある。WHOのUHCに関する定義は、この憲章をベースに記述されているものであり、いまだ未達成ではあるものの、UHCを全ての人の基本的権利とするものである。SDGsを含む、2015年に国連が採択した文書「我々の世界を変革する」の第2章「宣言」第19段落には、1948年の世界人権宣言などの国際文書の重要性を確認するとし、世界人権宣言がSDGsのベースであることを確認しているが、その世界人権宣言の第25条は健康権および社会保障を受ける権利を明記しており、SDGs3.8はこれに基づいて、ワクチンや必須医薬品へのアクセスを含めて、UHCが権利として実現されなければならないことを示している。これはパンデミック時においても例外ではない。

UHCを完全に達成した国は世界のどこにもないが、UHC達成に相対的に近い国は存在する。また、健康への権利を憲法上の規定としている国も、途上国・新興国を含め多く存在する。特にこうした国においては、パンデミック時における保健医療、また、パンデミックに関する予防・検査・治療も、「保健への権利」として位置付けられる必要がある。一方、「保健への権利」が未達であり、また、特にパンデミック時には、急激な保健・医療への需要増大に対して供給が追い付かない状況が生じうる。これは、「権利ベース・アプローチ」にとって大きな挑戦である。ここで必要なのは、どのような原理に基づけば、需要に対して限られた医療資源を分配することが、全ての人の権利であるところの「健康への権利」にとって最も適合的か、ということである。また、パンデミックが収束した後には、「健康への権利」に照らして、医療資源の分配が適切に行われたかの検証がなされなければならず、また、パンデミック時における保健・医療需要の急増に対して、全ての人の健康への権利が脅かされないような、保健・医療システムとコミュニティによる保健システムを含む、強靭で持続可能な保健のためのシステム(RSSH)の構築が立案・実施される必要がある。

付け加えれば、各国における「保健への権利」の実現の責任は第一義的には各国政府にあるが、UHCは国家を超えた「ユニバーサル」(普遍的)を志向する以上、UHCの実現は国際社会の責任である。特にパンデミックは地球規模の災厄である以上、パンデミック時における「健康への権利」の責任は、国を越えて国際社会において担われなければならない。WHOのパンデミック宣言から一か月強で設立されたCOVID-19に関わる新規技術の開発とアクセスを一手に手掛ける「ACTアクセラレーター」(COVID-19関連新規製品アクセス促進枠組み)は、この責任を果たすために形成された枠組みであるが、残念ながら巨額の資金不足で目的の達成が危うい状況にある。枠組みを形成するのみならず、資金を供給し、機能させ、成果を出すところまでが、万人の「健康への権利」に対する責任である。

(注1)UHCに関する政治宣言(2019年国連UHCハイレベル会合で採択)
(注2)ニューヨーク市保健局「COVID-19」ページ
(注3)WHOのUHC定義