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WTO知的財産権免除提案:ゆらぐ先進国の「反対」姿勢

WTOでの新型コロナ関連知的財産権の免除提案を巡り強まる攻防戦

南アのドイツ大使館前で知財権免除支持を要求する南アの市民グループ(©Candice Sehoma/MSF)

世界貿易機関(WTO)では、南ア・インドなど57ヵ国が共同提案している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関わる知的財産権の免除提案について議論が続いている。3月10-11日の貿易関連知的財産権(TRIPs)理事会では、この提案に反対する少数派の先進国などのブロックで、提案国側が求める「テキストベースの検討」に行きつかず、議論は4月に持ち越された。次の機会は4月22日の非公式理事会、30日の公式理事会となっているが、これに向けて、「反対」を掲げている先進国の中でも、新しい動きが出てきている。

バイデン政権が「賛成」に転じる?

報道によると、米国ホワイトハウスで3月22日、中堅レベルの政策スタッフが集められ、南ア・インド等の知的財産権免除提案への「反対」政策を変え、これに賛成すべきかどうかの検討が行われた。これは、ヤン・スカコフスキー氏ら民主党の下院議員が、同提案への賛成を求めて記者会見を行い、その後60名の連邦議員がバイデン政権にこの提案に賛成するように要求したことを受けたものである。この会議で、結論は出なかった。一方、知的財産権の強化に向けて常にロビー活動をしている製薬企業やその他の産業界は、バイデン政権に対して、この提案に反対し続けるようにロビー活動を続けている。3月11日、米国研究製薬工業協会(PhRMA)とバイオテクノロジー・イノベーション機構(BIO)はそれぞれ、バイデン政権に対して、この提案への反対を堅持するよう要望する書簡を送った。また、3月30日には15の産業界の代表が連名で同趣旨の書簡を送っている。逆に見れば、バイデン政権が「賛成」に転じる可能性が大きくなったために、産業界に焦燥感が生じたとみることもできる。バイデン政権はホワイトハウスに数多くの製薬企業や業界出身のスタッフを抱えており、最終的に「免除」提案支持に転じるかどうかは不透明である。

欧州議会でも118名の議員が方針見直しを要求

欧州でも、欧州理事会および欧州委員会に対して、免除提案への「反対」を見直すべきとの働きかけが強まっている。2月24日には、欧州議会の議員118名が共同で、免除提案を見直すよう求めた。また、G20の開催国であるイタリア議会は3月24日、同国政府に対して、欧州連合が免除提案に賛成するよう働きかけることを求める動議を可決した。

「第3の道」:製薬企業の自発的ライセンシング拡大

一方、COVID-19の変異株の脅威の高まりや中国・ロシアのワクチンの存在、さらに途上国や市民社会の「知財権免除」提案の勢いに押される形で、「第3の道」を追求する先進国や国際機関等の動きが加速している。この「第3の道」は、これまで限定的かつ不透明な形で行われてきた、特許権保有企業の「自発的ライセンシング」によるジェネリック企業への技術移転による生産を加速するというものである。これまでの事例では、英アストラゼネカ社と世界最大のワクチン製造企業であるインドのセーラム・インスティチュート・オブ・インディア(SII)のケースがある。実際、途上国にワクチンを供給する国際枠組み「COVAX」のワクチンのうちかなりの部分を、SII社が製造するアストラゼネカ・ワクチンが占めている。

3月8-9日、英国の伝統的なシンクタンクであるチャタム・ハウスがファシリテートする形で、「ワクチン製造・サプライチェーン・サミット」が開催され、COVAXとその主要機関であるCEPI(感染症対策イノベーション連合)、GAVIワクチンアライアンス、米国研究製薬工業協会(PhRMA),バイオテクノロジー・イノベーション機構(BIO)、途上国ワクチン製造業者ネットワーク(DCVMN)が参加した。この前後に欧米製薬企業とWTOのンゴズィ・オコンジョ=イウェアラ事務局長が会談し、オコンジョ事務局長は製薬企業側に対して、現行のワクチン供給の不平等は受け入れられず、自分は「免除」提案を支持すると表明しつつ、自発的ライセンシングの拡大を迫った。オコンジョ事務局長は一貫して、「自発的ライセンシングの拡大は、知財権免除提案の決着がつくまでの間の代替案として有効である」として、この「第3の道」をけん引している。

知財権免除提案を支持する多くの市民社会は、「第3の道」を、免除提案に代わり得るものとしては認識していない。その理由は、自発的ライセンシングは特許権者が恣意的に運用でき、透明性や公開性が保障されず、結局のところ、メガ・ファーマ(欧米の巨大製薬企業)による医薬品の独占を変えるものにならないからである。その市民社会は、4月22日の非公式TRIPs理事会、30日の公式TRIPs理事会に向けて、「免除」提案支持の運動をさらに展開する方向性を示している。オックスファム、アクションエイド、アムネスティ・インターナショナル、国連合同エイズ計画(UNAIDS)などの国際NGOや国際機関の連合体である「ピープルズ・ワクチン連合」(People’s Vaccine Alliance)は、アフリカ、ラテンアメリカ、欧州に加えて南・東南アジア地域でのネットワークを拡大し、「COVID-19関連知的財産権の免除を」の声を世界に響かせようとしている。

(参考ウェブサイト)

WTO知財権免除提案:バイデン政権が賛成に転じる?(英語)

前米製薬研究工業協会(PhRMA)、バイオテクノロジー・イノベーション機構(BIO)がバイデン政権に「知財権免除」反対堅持を要求(英語)

米国の15の産業界代表がバイデン政権に「知財権免除」反対堅持を要求(英語)

イタリア議会、EUに「免除」提案賛成を働きかける動議可決(イタリア語)

欧州議会議員118名がWTO知財権免除提案への反対を見直すよう要求(英語)