4章 アフリカ農業の多様性を営農体系から理解する

執筆:吉田昌夫

2008年1月に発行した『アフリカの食料安全保障を考える』をウェブ化しました。

営農体系研究・普及とは

われわれがアフリカ農業を語るとき、ある特定の小地域の問題をアフリカ全体に引き伸ばして説明することが多い。しかしこれでは、アフリカ(ここでは、サハラ以南アフリカ)農業の多様性を見失ってしまう危険性がある。アフリカの農業・農村問題を全体として考える際に、この多様性をどのように取り入れるかが大きな課題となってくる。その多様性を農業開発の観点から理解する有力な方法が、営農体系研究・普及(Farming Systems Research and Extension : FSRE)のやり方である。

JIRCAS(国際農林水産業研究センター)の横山繁樹氏によればそれは、主に開発途上国を対象に、特定地域の農家もしくは農家集団をひとつのシステムとしてとらえ」、その活動体系(農業[耕作、畜産]、非農業的経済活動、家計)間およびそれらを取り巻く「外部諸条件(自然的、社会・経済的)との相互規定関係を明らかにした上で(中略)営農改善並びに地域社会・経済の持続的発展を図ろうとするもの」である。またそれは問題の所在を営農現場からくみ取ろうとする「現場主義」、自然科学から社会・人文科学まで関連分野の研究者・実務家が共同研究・開発を行なおうとする「学際主義」、問題解決を旨とする「実践主義」に基づくという特徴がある(注1)。

営農体系の類型

ある意味では、どの営農体系もユニークである。しかし各々を異なるものとして扱うことは、費用のかかる接近方法である。公立の農業試験所ならびに普及機関では、個々の営農体系の間に共通性を見出すとともに、一つの類型として区分される農業体系に適用できるような技術の開発をめざしている。営農体系の類型を区分する要素は分析のレベルによって異なるが、通常次の諸要素のひとつ、またはいくつかに基づいて区分される。

  1. 土壌類型、土地面積、地形、年間温度変化、年間降水量とその分布、あるいは灌漑へのアクセスなど、生物、物理的環境の性質。
  2. 当該世帯の土地面積に最も多く作られている作物のタイプ、家畜の有無、そして世帯の大きさや資源付与度など、営農の構成部分の特徴。
  3. 耕転方法(人力,畜力、トラクター)、播種形式、作付けパターン、施肥方法、防除方法、収穫方法、貯蔵形式などといった農業生産の技術。
  4. 労働交換の程度、土地保有上の地位、収穫物や家畜の販売、自家消費割合、協同組合あるいは農民組合への参加、農外雇用など、営農体系における社会文化的、経済的、政治的な環境への関わりの程度。

サハラ以南アフリカにおける地域別営農体系類型

アフリカの農業の地域的多様性を知る第一歩は、マクロレベルの営農体系の類型を知ることであろう。2001年に『営農体系と貧困、変化する世界における農民の生活改善のために』と題する本がFAO/世界銀行によって出版されたが(注2)、この中で、サハラ以南のアフリカには15の営農体系が見出されるという分析が出され、それぞれの特徴が記述されている。またその大体の範囲を示す地図(8pの図を参照)も付けられているので、その位置を知ることができる。この15類型は以下の通りである。

  1. 灌漑営農体系 (Irrigated Farming System)
    この営農体系は、スーダンのゲジラ計画の大規模灌漑、西アフリカの大河川の洪水後の溢流減退時の灌漑、ファダマと呼ばれる低湿地、ソマリアのワビ・シェベレ川岸などよりなり、3,500万haの土地(サハラ以南アフリカの面積全体の1.4%)を占める。作付面積は200万haほどで、700万の農民人口(サハラ以南アフリカの農・牧畜民人口全体の2%)を支える。灌漑されている土地の残りは、他の営農体系に属し、南アフリカとナミビアの大規模商業的農地(10)や、稲・樹木作物営農体系(4)に属するマダガスカルなどにある。
    灌漑営農体系は、特に制度的な面で複雑であり、多くの場合は、天水農業や畜産と並存している(ゲジラ計画は例外)。国家が運営するいくつかの灌漑計画は経営が危機的な状況にある。貧困はあまり見られない。
  2. 樹木作物営農体系 (Tree Crop Farming System)
    この営農体系は、西アフリカ沿岸部のコートジボワール、ガーナからナイジェリア、カメルーン、ガボンまで、また小規模にコンゴ、アンゴラまでカバーし、湿潤地域にある。7,300万haの土地(全体の3%)を占め、約1,000万haに作付がなされ、2,500万(全体の7%)の農民人口を支える。
    この営農体系では商業用樹木栽培、すなわちココア、コーヒー、油やし、ゴムなどがこの体系の中核をなし、食用作物はこれらの輸出用樹木作物の間に植えられ、自家消費分が大部分である。商業用作物栽培地では、中核プランテーションの外で農民がつくる分を買い付ける方式をもつものもある。これらの樹木作物は不作がないので、国際市場における価格の変動が唯一の危機となる。ほかの営農体系を持つ農民より貧困になりにくく、貧困は、農地をわずかしか持たない農民と農業労働者だけに限られている。飢饉は通常、存在しない。
  3. 森林営農体系 (Forest Based Farming System)
    この営農体系は、2億6,300万haの面積(全体の11%)を占め、作付面積は600万haほどで、2,800万の農民人口(全体の7%)を支える。この体系は、湿潤な森林地帯で行なわれ、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、カメルーン南部、中央アフリカ南部、赤道ギニア、ガボンに見られる。
    農民は叢林休閑法を用い、森を開いて新しく畑をつくり、2~5年そこを利用したら放棄し、7~20年の休閑をとって地力を回復させる。しかし、人口増加により休閑期間が短縮されてきている。作物はキャッサバを主食とするが、トウモロコシ、ソルガム、豆、ココヤム(サトイモの類)によって補われる。牛やその他の反すう動物は少なく、人口密度も低い。道路やマーケットの欠如が大きい問題である。森の産物や野獣が現金収入となるが、換金作物はあまりなく、貧困は広く存在し、ある場所では悪化が激しい。空き地の存在と多い降水量のおかげで、発展可能性は中程度あるが、環境保全に注意が必要である。
  4. 稲・樹木作物営農体系 (Rice-Tree Crop Farming System)
    この営農体系は、マダガスカルにあり、湿潤・半湿潤の気候の下にある。その面積は3,100万haのみで(全体の1%強)、作付面積は220万haに過ぎないが、700万の農民人口(全体の2%)を支える。個々の畑面積は小さいが、灌漑面積はサハラ以南アフリカ全体の10%を占める。食用作物のコメ、トウモロコシ、キャッサバ、野菜と、樹木作物のバナナ、コーヒーが重要である。貧困レベルは中位にある。
  5. 高地永年作物営農体系 (Highland Perennial Farming System)
    この営農体系は、エチオピア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジにあり、3,200万haの土地(全体の1%強)を占め、作付面積は600万haである。湿潤・半湿潤の気候の下にあり、3,000万人の農民人口(全体の8%)を支える。この体系はアフリカで最大の人口密度地域をつくり出しており、土地利用は集約的であり、土壌は肥沃であるが農民の個々の畑は小さい。営農体系は永年作物に基づいており、プランテン・バナナとエンセーテ(エチオピアのみ)が主食として重要で、他にキャッサバ、サツマイモ、ジャガイモ、豆、トウモロコシ、ヒエ、ソルガムなどが食料として作られる。牛は1,100万頭も飼われ、それはミルク、有機肥料、婚資、貯蓄、社会保険などの大きな意味を持っている。
    貧困者の数は多く、貧困の程度も高い。自然条件や気候はよいが、農業発展の可能性が低いとみなされており、それは個々の農民保有地の小ささ、資源の余剰のなさ、農外収入機会の少なさ、これまでの適正技術の欠如が影響している。
  6. 高地温帯型混合営農体系 (Highland Temperate Mixed Farming System)
    この営農体系は、1,800mから3,000mの高度を持つ山や高原にみられ、主にエチオピアに存在するが、エリトリア、レソト、アンゴラ、カメルーン、ナイジェリアの一部にもあり、湿潤・半湿潤の気候の下にある。この地域は4,400万ha(全体の2%)に広がり、600万haが作付面積となっており、2,800万の農民人口(全体の7%)を支える。平均人口密度は高く、個々の畑は小さく、高地永年作物営農体系(5)ほど小面積ではないが、土壌肥沃度がより低いので条件はより悪い。牛の頭数は1,700万といわれるほど多く、畜耕、ミルク、有機肥料、婚資、貯蓄、非常時の販売などのために保有されている。細粒穀物の小麦や大麦、テフ(エチオピアのみ)が主食であり、エンドウマメ、レンズマメ、ソラマメ、アブラナ、ジャガイモなどで補っている。現金収入の多くは羊、山羊などや作物の販売によっており、レソトでは出稼ぎによる送金が大きい。
    この営農体系の地域で大きな問題になっていることは、土壌浸食による環境悪化とバイオマスの欠乏であり、穀物生産は投入財の欠如に悩まされている。世帯レベルの脆弱性は、主に気候の不確かさから来る。高地における霜の害は、作物生産を大きく減少させ、温度の低い湿った年は、作物を全滅させることもある。他の地域にも見られるが、播種期後から穀物収穫期直前まで飢えの季節が訪れる。貧困レベルは中位から高位までとなるが、特にアフリカの角といわれる地域では、周期的に飢饉に見舞われる。
  7. 根菜作物営農体系 (Root Crop Farming System)
    この営農体系は、西アフリカのシエラレオネからコートジボワールを通り、ガーナ、トーゴ、ベナン、ナイジェリアを通り、カメルーン、中央アフリカに達する湿潤な地域で行なわれる。中部、南部アフリカでも同じように、森林地域の南側に接してアンゴラ、ザンビア、タンザニア南部、モザンビーク北部とマダガスカル南部の小地域で、キャッサバ、ヤム、ココヤムなどの根采作物を主食とするこの体系がみられる。この地域は2億8,200万ha(全体の11%)に広がり、2,800万haで作付が行なわれ、4,400万の農民人口(全体の11%)を支えている。また1,700万頭の牛が飼われている。雨のパターンは年に二つのピークがあり、作物が全滅する事は少ない。貧困は中位にある。
    この営農体系の技術については、あまり発達がみられない。しかし都市における根采類食品や米の市場は拡大しており、ここでの農業と非農業セクターとのリンケージは、ほかよりはよいようである。
  8. 穀類・根采作物混合営農体系 (Cereal-Root Crop Mixed Farming System)
    この営農体系は、根菜作物営農体系(7)の北側にそって、ギニアからコートジボワール北部、ガーナ、トーゴ、ベナンを通り、ナイジェリアの中部、カメルーンの北部に達する地域で行なわれる。また中部のザンビア、南部アフリカのマラウイ、モザンビーク、マダガスカルでもみられる。この地域は3億1,200万ha(全体の13%)におよび、作付面積は3,100万haで、5,900万の農民人口(全体の15%)を支える。牛の頭数も非常に多く、4,200万に達する。
    この営農体系は、トウモロコシ混合営農体系(9)と似ているが、違う点は、より低い高度、より高い温度、より低い人口密度、土地の余剰の存在とより多い家畜にある。交通の便はより悪い。トウモロコシ、ヒエ、ソルガムなどの穀類が多く栽培されるが、畜耕があまりないところではヤムやキャッサバなどの根菜類の重要性がより高い。間作 (Inter-cropping ) がよく見られ、数多くの作物が栽培され、売買されている。脆弱性の主な原因は旱魃である。しかし貧困の状態にある者は限られている。農業発展の機会は大きく、この営農体系の地域は、アフリカの食料供給地 ( bread basket)になるかも知れない。
  9. トウモロコシ混合営農体系 (Maize Mixed Farming System)
    これは東部、南部アフリカにおける最も重要な営農体系である。この地域は800mから1,500mほどの高原で、北はケニア、ウガンダの東部から、タンザニア、ザンビア、マラウイ、ジンバブエを通って、南アフリカ、スワジランド、レソトに達する。その範囲は2億4,600万ha(全体の10%)におよび、作付面積は3,200万haと大きく、6,000万という多数の農民人口(全体の15%)を支える。気候は半乾燥から半湿潤の下にある。典型的には年1度の雨季を持つが、地域の北方では年2度の雨季を持ち、2回の収穫期がある。
    人口密度はかなり高いほうであり、個々の畑の面積は大きくはなく、しばしば2ha以下である。この営農体系のなかには灌漑農業も見られるが、そのほとんどは農民管理の小規模のもので、全灌漑面積の6%にしかならない。主食作物はトウモロコシである。主な現金収入は出稼ぎ労働からの送金、家畜、タバコ、コーヒー、茶、綿花の販売、さらに食料作物のトウモロコシ、豆類などの販売から得られる。牛の頭数は多く、3,600万頭に達し、畜耕、繁殖、ミルク、肥料としての糞、婚資、貯蓄、緊急時の販売などのために保有されている。居住形態は散居であるが、共同制度、市場アクセスともに他の地域に比べ発達している。
    社会経済上の格差は広がってきており、出稼ぎ労働がそれを促進している。現在この営農体系は危機に面しており、農業投入財の使用が急速に落ちている。購入種子、肥料、農薬が手に入らなくなり、生産性は低下し、地力も低下しており、農民は粗放的農法に戻ってしまっている。脆弱性の大きな原因は旱魃と市場価格の変動である。貧困も多く見られる。現在の危機的状況にもかかわらず、将来の発展可能性は高い。
  10. 大規模商業的農業と小農の並存営農体系 (Large Commercial and Small-holder Farming System)
    この営農体系は、南アフリカ北部とナミビア南部に見られ、乾燥・半乾燥の気候の下にある。その範囲は1億2,300万ha(全体の5%)におよぶが、作付面積は1,200万haで、農民人口も1,700万(全体の4%)とあまり多くはない。
    この営農体系の地域内には、アフリカ人の故郷の散居的居住地の小規模の畑とヨーロッパ系農民の大規模商業的農場という、まったく異なる二つの農場が並存している。しかし両者とも基本的には穀類・家畜体系で、北部と東部はトウモロコシ、西部はソルガムとヒエが作物の中心である。牛は1,100万頭ほどおり、他の反すう動物とともに飼われている。貧困は小農に集中し、地域を離れて農外産業に雇用されてようやく生き延びており、脆弱性は高い。この営農体系の地域全体に土壌は貧弱で、旱魃が起こりやすい。小農の中では、恒常的で広範囲の貧困が存在している。
  11. 農牧ヒエ・ソルガム営農体系 (Agro-Pastoral Millet/Sorghum Farming System)
    この営農体系の地域は1億9,800万ha(全体の8%)の面積を占め、2,200万haが作付地となっており、3,300万の農牧民人口(全体の8%)を支えている。その範囲は西アフリカのセネガルからニジェールまで帯状に伸び、またソマリアやエチオピアから南アフリカの東部・南部アフリカの一部を含む。この地域は半乾燥地域であり、農業と牧畜の重要度はほぼ同等ということができ、2,500万頭の牛のほかに山羊、羊を多く持っている。人口密度は低いが、土地にたいする人口圧力は高い。雨に頼って栽培するソルガムとヒエ(トウジンビエ)が主食となっていて、これらはほとんど市場で販売しないが、ゴマや豆類は市場に出すことがある。土地耕起は牛かラクダを使っており、河岸地帯では鍬が使われる。家畜はミルクとミルク加工品、運搬、畜耕、販売と交換、貯蓄、婚資、非常時の保険のために保有される。住民は集村に住むが、家畜の一部は遠距離まで放牧される。
    脆弱性の主な原因は旱魃で、作物が全滅したり、家畜が弱ったりし、資産の窮乏販売が起こる。貧困は激しく、広範囲に存在する。
  12. 牧畜営農体系 (Pastoral Farming System)
    この営農体系は、サハラ砂漠の南辺のサヘルと呼ばれる西アフリカ乾燥地帯、すなわちモーリタニアからマリ、ニジェール、チャド、スーダン、エチオピア、エリトリアなどの北部地域に存在し、さらにケニア、ウガンダの一部にまで存在する。また南部アフリカのナミビア、ボツワナ、アンゴラ南部の乾燥度の高い地域にも存在する。その範囲は3億4,600ha(全体の14%)という広さであるが、牧畜民の数は2,700万人(全体の7%)に過ぎない。牛の頭数は2,100万と多く、また羊、山羊、ラクダも多い。乾季の厳しい季節には西アフリカの牧畜民は南の穀類根菜作物営農体系の地域に移動し、雨季にはまた北に戻る。
    脆弱性の主な理由は激しい気候変動であり、旱魃が頻発することである。社会経済的格差が家畜を失う者とそうでなかった者との間に拡大している。貧困が広範にみられる。
  13. まばらな(乾燥)営農体系 (Sparse(Arid)Farming System)
    この営農体系のある範囲は4億2,900ha(全体の17%)と広いにもかかわらず、農業の面では重要ではなく、600万の農民人口(全体の1.5%)を支えるのみで、牛も800万頭いるのみである。この体系が存在するのは、スーダン、ニジェール、チャド、モーリタニア、ボツワナ、ナミビアの6カ国で、主に沙漠より成る地域において、オアシス周辺での灌漑による小規模の農業を営んでいる。
  14. 沿海漁業営農体系 (Coastal Artisanal Fishing Farming System)
    東部アフリカでは、この営農体系がある地帯はケニアから南へタンザニア、モザンビークまでに連なり、沿海部のザンジバル地域、コモロ、マダガスカルも含む。西アフリカでは、ガンビア、セネガルのカサマンス地域、ギニアビサウ、シエラレオネ、リベリア、コートジボワール、ガーナからナイジェリア、カメルーン、ガボンに連なる。この範囲は3,800ha(全体の2%)にのぼり、作付面積は500万haで、1,300万の農民人口(全体の3%)を支えている。この地域の人口密度は、平均してかなり高い。
    住民の生活は主に職人的漁業に依存し、沿海部で作物生産をすることでこれを補っている。それはしばしば高さの違う作物を混栽する形をとり、根菜類、果樹、ココヤシが栽培される。耕地のうち4%ほどは灌漑されている。職人的漁業は、船からの釣漁、地引網漁、定置網漁、湾や内海での簗漁、マングローブ海岸のエビ漁などから成る。牛はほとんど見られず、鶏と山羊が多く見られ、耕作では鍬を使う。西アフリカでは湿潤気候のため沼地を利用して稲の作付けが進んでいる。社会経済的格差は広がっているが、貧困はそれほど多くはない。
  15. 都市周辺営農体系 (Urban Based Farming System)
    サハラ以南アフリカの都市人口の総数は2億を超すといわれているが、大都市や町の区域内や周辺部でかなりの農業が行なわれている。ある推計では都市人口の10%が農業に従事しているといわれ、全体で1,100万人の都市住民が農作物を生産しているという推計もある。
    この営農体系は千差万別で、小規模ではあるが資本集約的な商業的野菜栽培から酪農、肉牛肥育などをはじめ、都市貧困層が食料不足を補うために空き地を利用して作物栽培を行なっているものも含む。この種の営農は自然発生的に広がりをみせており、ダイナミックな活動形態であるといえる。

営農体系類型が食料安全保障推進に与える意味

アフリカにおける食料安全保障をどう進めるかという問題を考える際に、まず必要なのは、アフリカの農業が地域的に非常に多様であることを知ることである。食料生産を増大するためには、農民の生活する地域に合った方法をとること、そしてそこに存在する営農体系に基づいて、これを改良していくという戦略をとる必要がある。たとえば、有機肥料を農家が作ろうとする場合、異なる営農体系にある農家に可能な方法はそれぞれ違ってくる。家畜の糞を使える所と使えない所が出てくる。また土地に余剰があるところとないところでは、耕地を集約的に使った方がいいのか、粗放的に使うことの方に合理性があるのか、という問題に違いが出てくる。ここに示したのはマクロレベルの営農体系の類型であって、もっとミクロにみれば違う体系があるかもしれない。しかし、少なくともマクロレベルの類型は、大枠を示すものとして、農業の制約条件に無視できない知識を与えるものであるといえよう。


【注】
(1) 横山繁樹、1999、「ファーミングシステム研究・普及をめぐる最近の動向」『国際農林業協力』、Vol.22,No.4号
(2) Hall, M. et al (eds.) , 2001 , Farming Systems and Poverty , Rome , FAO/World Bank

【参考文献】
農水省JIRCAS、(2000)、『ファーミング・システム研究、理論と実践』国際農業研究叢書

>>『アフリカの食料安全保障』5章 アフリカの土壌の特徴 小崎隆

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