コラム アフリカの食におけるイモ類の重要性

執筆:志和地弘信

2008年1月に発行した『アフリカの食料安全保障を考える』をウェブ化しました。

キャッサバについて

アフリカは大きなイモ類の消費地域で、西アフリカから中部アフリカにかけて、キャッサバやヤムイモが普及している。

キャッサバは南米原産で、甘味種と苦味種がある。苦味種には青酸性の毒があり、そのまま食べると危険だが、甘味種にはないためそのまま生で食べる人もいる。アフリカでは、生産量の多い苦味種が多く栽培されており、2003年におけるアフリカのキャッサバの生産量は約1億トン。世界の生産量の53%を占め、2020年にはその生産量が現在の約2倍になると期待されている。世界のキャッサバの生産量は、1970年からの30年間に大きく伸びているが、これにはアフリカでの生産増という要因が大きい。特に、西アフリカは320%の伸びを示しており、この30年間で2倍になった人口の増加を追いかけるように生産量が増大した。また、東部・南部アフリカは143%の生産量の伸びを示しているが、中部アフリカでは94%の微減になっている。

キャッサバは、干ばつがあっても、地上の葉を落とし、蒸散を抑えて生育を続けることが できるため、生産量に影響を受けにくい。ただし栽培期間は、長いもので20ヵ月にもなる。14~16ヵ月で収穫できる品種もあるが、アフリカでは収穫時期が乾季と重なると、土がカチカチになるために、収穫が困難になるなど問題も多い。

キャッサバがアフリカ大陸に持ち込まれたのは16世紀であり、コンゴからギニア湾沿いに伝播した。高収量品種の開発が開始されたのは1971年からで、現在は206品種が、コンゴ、ガボン、ナイジェリア、タンザニアなどで普及し、改良品種によって収量が46%増えたという調査結果も出されている。

キャッサバの品種開発の次の目標は、耐病性品種の開発である。病害の代表的なものは、キャッサバ・モザイク病とキャッサバ疫病であり、タンザニア、モザンビーク、マラウィなどで、深刻な被害をおよぼしている。キャッサバ・モザイク病は、ホワイトフライがベクター(Vector:媒介物)になる他、繁殖に使うキャッサバの枝を人々が持ち運びすることによって運ばれる。繁殖が容易というキャッサバの利点が感染の拡大を促す結果になっている。流行のきっかけはコンゴ動乱で、他国からコンゴの領土に入った兵士が、ウイルスに感染したキャッサバの枝を自国に持ち帰ったことによるといわれている。現在、ナイジェリアでは、カメルーンとの国境地帯に、キャッサバの耐病性品種を普及するプロジェクトが進められており、カメルーンのキャッサバからのウイルスの進入を防ごうとしている。

ヤムイモについて

アフリカでは、ヤムイモの生産も多く、食用の主なヤムイモは6種類ある。ヤムイモは日本のナガイモやジネンジョと同じ仲間で、アフリカの固有種が3種類、東南アジア原産が2種類、ムカゴを利用する種類もある。アルカロイド系の毒を有するものもあるが、加熱により分解する。ヤムイモの生産量は、世界中で約4,000万トン。そのうち、アフリカだけで3,600万トンをカバーしており、他に統計の対象と言える地域は、中米、オセアニア、台湾、フィリピン、日本などで、限られた地域でのみ生産・消費されている。ヤムイモの利用は、有史以前からあったと考えられ、アフリカの人々の生活に根付いていた。栽培にはヤムマウンドという土盛りをつくり、労働集約的に生産を行い、収穫されたイモは結婚式や祭事にも使われる。ナイジェリアでは毎年9月に、新ヤムイモの豊穣の祭りを行うが、こういった習慣は、キャッサバ栽培には見受けられない。

ヤムイモ栽培の問題点は種イモの繁殖率が低いことにある。たとえば、トウモロコシは3~4ヵ月で1粒の種子が300倍に、キャッサバは12ヵ月で10倍に増やせるが、ヤムイモは5~10倍にしかならない。また、キャッサバが枝を挿し木で増やすのに対して、人間の食用部分を種イモとするヤムイモは繁殖を一層困難にしている。

ヤムイモについても、2001年に国際熱帯農業研究所において高収量品種が開発された。ヤムイモの在来種の収量は、1haあたり8~10tであるが、これらの品種の収量は13tである。しかし、ヤムイモの普及は、高収量というだけでは難しく、喉越しや甘みなどの食味も重要な要素になっている。

アフリカのイモ類の今後

2003年のナイジェリアにおける農産物価格の推移を見ると、生イモのまま売買され、収穫期以外の季節には出荷が少なくなるヤムイモが一番高い。キャッサバの価格は、生イモの価格が低く安定しているが、農村で加工されて、マーケットで販売されているガリ(キャッサバ粒)になると、トウモロコシ並の値段であり、決して安くない。ガリはキャッサバをすりおろして、水分を取り除き、炒った細かい粒状のもので、家庭では、すりおろしてから発酵させたキャッサバを鉄板で炒って作る。日持ちがよく1ヵ月以上保存できる。

キャッサバの調理法は、焼きイモ、フフ(モチのように搗いた物)、ガリからつくるアチェケ(コートジボワールでの呼び方)、揚げ団子、蒸し物など、多彩にある。最近のナイジェリアでは、ヤムイモ粉、キャッサバ粉の生産と消費が増えている。ヤムイモ粉の生産はヨルバ人の技術だったが、現在は西アフリカの各地で行われている。現在、増えているイモ類の需要は、自家消費より手軽な食品として都市住民の消費が増えていることによる。また加工食品や工業原料としてのデンプン用の需要も増えている。ナイジェリアは、6万トンのスターチをヨーロッパから輸入しており、これを自家生産でまかないたいというのが、政府の意向でもある。

今後、アフリカのイモ類は換金作物としての重要性が増してくるものと考えられる。


【参考文献】
AJF/食料安全保障研究会第6回セミナー http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/fs20041116report.html

小川 了、2004、『世界の食文化〈11〉アフリカ』、農山漁村文化協会http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4540040871/africajapanfo-22

The International Institute of Tropical Agriculture/Cassava(英語) http://www.iita.org/cassava

The International Institute of Tropical Agriculture/Yam(英語) http://www.iita.org/yam

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