2024年3月号(アフリカニュース発掘部)

アフリカニュース発掘部2024年3月号です。
参考:アフリカニュース発掘部とは?

■目次
1 小説の翻訳(英語→ショナ語):ツィツィ・ダンガレンブガ著 ”Nervous Conditions” のショナ語翻訳(ジンバブエ 文化)
2 小分けアルコール飲料の販売禁止(ナイジェリア 社会)
3 多くの移民が違法路上販売に従事(ガーナ 移民 社会)
4 ピグミーが直面する国立公園からの強制追放(コンゴ民主共和国 環境 社会)
5 植民地時代の英雄像(歴史 植民地)
6 医療用ドローンの可能性(保健医療 社会)
7 インフレ拡大はなぜ?(ナイジェリア 経済)
8 警察に対する認識(警察 世論調査)
9 セネガル大統領選挙(1):選挙前の状況(セネガル 選挙)

1. 小説の翻訳(英語→ショナ語):ツィツィ・ダンガレンブガ著 “Nervous Conditions” のショナ語翻訳

ジンバブエ 文化

● 概説   2024年1月、世界的に有名なジンバブエ人作家であるツィツィ・ダンガレンブガ(Tsitsi Dangarembga)の代表作Nervous Conditionsのショナ語翻訳版Kusagadzikanaが出版された。ショナ語はジンバブエの主要な言語の一つであり、本書の主人公もショナ語を話す設定である。原著(英語)は1980年代にジンバブエで執筆されたが、女性の作家自体が受け入れらず、結局ロンドンで1988年に出版された。本記事では、今般ショナ語翻訳を行ったイグナシゥス・マバサ(Ignatius Mabasa)へのインタビューが掲載されている。マバサ氏は、本書の翻訳は「植民地支配からの精神の解放 (the liberation of many things that remain colonised, including our minds)」であると述べている。小説も歴史を伝える重要な資料の一形態である。小説を現地語に翻訳することで、歴史学の専門家だけでなく、一般の人びとが自分たちの先祖の歴史を学び、語り合うことができる。また、本書の主人公がモデルとする植民地時代のジンバブエ(ローデシア)の田舎に暮らす女性たちの識字率を考慮すると、彼女たちの多くが英語を話さなかったと予想される。その点からも、彼女たちが話していたであろうショナ語で物語を語り直すことには大きな意義がある。インタビューでは、翻訳版出版までの道程や翻訳にあたり苦労したことなども語られている。

● 詳細記事 Mushakavanhu, Tinashe. 2024. “Nervous Conditions: on translating one of Zimbabwe’s most famous novels into Shona.”The Conversations. 19 February.

● 感想   インタビューの中で、「repatriating」や「decolonising」といった単語が使われていたのが印象的であった。植民地支配が人びとの精神にまで侵食し、いまだその名残が小説といった大衆文化にもみられていることへの翻訳者の強い抵抗感が伝わってきた。本書は原著が英語のため、「decolonising」なのかは正直理解が及ばなかったが、自分たちの民族の物語を自分たちの言語で語り直すことに、人びとにとって大きな意義があるというのは想像できる。また、記事を読んでいて、昨今話題の旧植民地宗主国により略奪された文化財の返還問題が想起された。今後、ぜひ「Nervous Conditions」を読んでみたい(インターン:青木)。

● もっと知りたい! 現地メディアによる報道は例えば以下の通り。
・「インタビュー:ツィツィ・ダンガレンブガ『ジンバブエは、これ以上悪くなることはないと思うたびに、それ以上悪くなってきた』」(McVeigh, Tracy. 2022. “Tsitsi Dangarembga on Zimbabwe: ‘Every time we say it can’t get any worse, it does’.” The Guardian. 30 September.
・「私がNervous Conditionsを書いた理由」(Dangarembga, Tsitsi. 2021. “’I wrote it as a fugitive from what my life had become’: Tsitsi Dangarembga on Nervous Conditions.” The Guardian. 27 March.

2. 小分けアルコール飲料の販売禁止

ナイジェリア 社会

● 概説 2024年2月5日、ナイジェリアの食品医薬品管理局は、未成年者飲酒対策の一環として、小袋もしくは200ml以下のボトルでの酒類販売を禁止すると発表した。しかし、小売業者を中心に反対運動も起きており、下院からはこの措置を見合わせる要望が出されている。本記事では、医療社会学者のエメカ・ドゥンビリ(Emeka Dumbili)氏が、酒類小分け販売の制限の必要性を解説している。ナイジェリアでの酒類小分け販売の問題点の一つに、「入手のしやすさ」があげられる。小分けされたアルコール飲料は、スーパーや路上など、様々な場所で売られている。また、小袋や小さなボトルは隠し持ちしやすく、小学校や中学校の近くでも販売されているため、未成年者が保護者から隠れて飲酒をすることができる。加えて、販売会社による「Buy-two-get-one-free (2つ購入でもう1つ無料)」といった販売戦略は、価格の面でも入手を容易にしている。さらに、小袋販売の酒類のアルコール度数の高さも問題である。通常、小分けで売られる酒類はスピリッツ(蒸留酒)のため、アルコール度数が40~60%と非常に高く、健康面へのリスクも高い。以上の問題点から、未成年飲酒対策に小分けアルコール飲料の販売の規制は必要不可欠であるといえる。他のアフリカ諸国でも同じような規制の動きがみられる。その内、ウガンダのように未成年飲酒の減少に成功した国もあれば、マラウィなど効果が得られなかった国もある。警察などの法的機関と連携し、厳しい取り締まりの継続が求められる。また、本記事では、未成年飲酒のその他対策として未成年者への教育の徹底をあげている。未成年飲酒の危険性を広く認知させるために、草の根的な取り組みの重要性を訴えている。

● 詳細記事 Dumbili, Emeka. 2024. “Nigeria’s ban on alcohol sold in small sachets will help tackle underage drinking.”The Conversation. 24 February.

● 感想  本文では、未成年者への教育の必要性が強調されているが、それ以上に、販売者、保護者、教員など未成年者を囲む大人への教育を徹底するべきではないだろうか。また、販売を一律に禁止する以前に、広告の制限・禁止や酒類販売の認可制度、年齢確認の義務付け、小分けアルコール飲料への課税などが検討・実施されていたのかも気になる。小分けの酒類販売を禁止することで、多くの業者や労働者に影響があることは容易に想像できる。日本のタバコパッケージのように、包装の一定面積以上に、未成年飲酒の危険性を示した警告の表示を義務付けるなどのやり方もあるのではないかと思ってしまった(インターン:青木)。

● もっと知りたい! 現地メディアによる報道は例えば以下の通り。
・「小袋、ペットボトルでのスピリッツの販売が禁止:8000億ナイラの投資が危機」(Kolawole, Yinka. 2024. “Ban on spirits in sachets, PET bottles threatens N800bn investments.” Vanguard. 12 February.
・「小分けアルコール飲料の販売禁止に関係者は懸念」(Adeeso, Adejumoke. 2024. “Stakeholders Express Concerns Over Ban Of Sachet Alcoholic Drinks.” Leadership. 21 February.)

3. 多くの移民が違法路上販売に従事

ガーナ 移民 社会

● 概説 ガーナの首都アクラでは、周辺国からの多くの移民が、違法な路上販売に従事していることが問題となっている。本記事では、アクラで移民による路上販売問題の研究をしている著者が、移民路上販売者、行政の双方を調査した結果を紹介するとともに、行政がとるべき対策を提案している。アクラに住む移民の多くは、自国の経済状況の悪化などの理由で移住したものの、都市部で安定した仕事を得ることができず、路上販売などのインフォーマルセクターの仕事で生計を立てている。路上販売者の中には、以前より現金収入が増え、医療や教育などのソーシャルサービスへのアクセスがしやすくなったと語る者も多い。しかし、生活費がかさむ都市での生活に余裕はない上に、いつ取り締まりに遭い、職を失うことになるかわからないといった不安定な状態に置かれている。一方で、行政は、道路交通状況や環境問題の点から、首都での路上販売を禁止しており、監視や取り締まりが行われている。しかし、その管理に強制力はなく、効果は期待できない。著者は、路上販売者に対して代替の収入源を用意することなしに、ただ路上販売を禁止することは、何千人もの人々の生活を否定することであると結論付けている。路上販売者が安定した他の仕事に就くことができるように、職業訓練プログラムの実施をすること、行政機関や関連省庁が協同して、路上販売者を受け入れた街づくりを行うべきであると主張している。

● 詳細記事 Takyi, Stephen Appiah and Owusu Amponsah. 2024. “Ghana: Street vending helps migrants to survive in Accra, but it’s illegal – a solution for all is needed.” The conversation. 28 February.

● 感想 路上販売者を組み込んだ街づくりという提案が、路上販売者たちの生き方を認めつつ受容するいい対策だと思った。行政機関へのインタビューの中でも言及されていたが、路上販売を許可する区域を設定したり、車道と歩道の間に路上販売用のスペースを割り当てるなど、街づくりから取組んでいくことが、持続可能な解決策として有効そうである。しかし、路上販売で得られる収入が安定していない、少ないことも事実である。彼らが月16USDほどで生活をしていることには驚いた。職業訓練プログラムの提供など、より安定した生活ができる選択肢を行政が提供する必要性は強く感じる(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
・「アフリカ諸国のインフォーマルセクターが抱える問題」(Azunre, Gideon, Festival Boateng, Owusu Amponsah and Stephen Takyi. 2022. “Yes, Africa’s informal sector has problems, but the answer isn’t to marginalise it.” The Conversation. 14 August.

4. ピグミーが直面する国立公園からの強制追放

コンゴ民主共和国 環境 社会

● 概説 2022年7月、コンゴ民主共和国のチセケディ大統領が先住民の権利保護に関する法律に署名した。国土の多くを占める熱帯林では、ピグミーと呼ばれる人々が森の中で暮らしを営んできたのだが、森林保全を名目とした森からの強制移住が問題となっていた。本記事の舞台であるヴィルンガ国立公園は、その豊かな生態系からユネスコの世界自然遺産にも登録されているが、多くの人びとが「公園」外への移住を余儀なくされてきた。上述の法律の署名から約2年経った現在でも、多くの人びとが以前暮らしていた森へ帰ることができず、また、国立公園ガードによる暴力事件もたびたび報じられている。ヴィルンガのコミュニティのリーダーであるムヒンド氏は、森からの強制移住はコミュニティの基本的権利の侵害であると主張している。政府は、人びとに移住先の土地をあてがうのみで、彼らが新しい生活様式に適応するためのサポートを提供することはない。慣れない農村での暮らしへの適応は簡単ではなく、捕まってしまうリスクを何度も冒して、こっそり森への帰還を試みる人も多い。移住の対象となった人びとへの適切な補償、サポートはもちろん、先住民の権利を保護する法律を実質の伴ったものとするために、国内外からの長期間の経済的、技術的、政治的サポートが必要である。

● 詳細記事 Noella Nyirabihogo. 2024. “’I’d give anything to go back’: Pygmy communities face eviction in Virunga.” African Arguments. 1 March.

● 感想 ピグミーと呼ばれる人びとが代々暮らしてきた森を、周りが勝手に世界遺産だと祀り上げた挙句、環境保全のために彼らを追い出している実情を知り、非常に身勝手に感じた。自然遺産の理念や環境・生態系の保全は大切なことであるので、未来に継承するためにも、その在り方は見直されるべきだと思う。いつかマウンテンゴリラを生で見てみたいと思っていたが、その国立公園は、現地の人びとを守るためではなく、外部からの観光客のために整備されているのだとか、元々住んでいた人が追い出されたまま戻れていないのに、私たちは簡単に入れてしまう現状の不条理さにショックを受けた。

● もっと知りたい! 
・「DRC国立公園ガードによる先住民への暴力」(Al Jazeera. 2022. “Investigation documents murder, rape by DRC national park guards.” Al Jazeera. 6 April.)
・「森林保全のためにDRC先住民へのサポートが必要」(Serge Sabin Ngwato. 2020. “Indigenous peoples in the DRC need our support to save the forest.” Al Jazeera. 10 August.)
・AJF翻訳記事「WWFの資金提供を受けた武装エコガード(森林警察)が「コンゴ共和国の先住民に暴力を振るった」」(原文: John Vidal. 2020. “Armed ecoguards funded by WWF ‘beat up Congo tribespeople’.” The Guardian. 7 February.)

5. 植民地時代の英雄像

歴史 植民地

● 概説 アフリカ諸国独立以後、旧植民地都市に立てられた植民地時代の英雄を称える像が、植民地主義の暴力性や白人至上主義、植民地時代以前の歴史の抹消を象徴しているとして、激しい論争を巻き起こしてきた。しかし、これらの像をめぐる歴史はより複雑であり、その事実はしばしば見落とされてきたという。本記事では、アフリカの文化遺産の専門家であるラバディ氏が、アフリカ諸国に設置された植民地時代の英雄を称える像・モニュメントをめぐる歴史を解説している。
英雄像をめぐる歴史は、①独立期(1950s~80s)②再設置期(90s~2000)③再論争期(2010s~)の3段階に大別される。多くのアフリカ諸国が独立を果たした1950年~80年代、英雄像をめぐっては主に3つの方策が採られた。一つは、像の「再利用」である。この時期に複数の像が旧宗主国へと送還された。次に、像の破壊、倒壊である。1962年のアルジェリアでのジャンヌ・ダルク像破壊事件はその一例である。英雄像の倒壊は、植民地時代に受けた暴力への報復や暗い過去からの脱却、植民地主義に対する強い否定の象徴であった。一方で、この時期、アフリカ各地の多くの英雄像が放置されたことも事実である。その理由は様々あるが、独立後の新リーダーの多くが親ヨーロッパの立場であったことを考えると、「何もできなかった」ということであろう。実際、1990年代になると、旧宗主国による多額の援助を一つの理由として、独立直後に破壊・倒壊された英雄像が再設置される事例がみられるようになる。例えば、2005年、コンゴ民主共和国ではレオポルド二世の像が首都キンシャサに再設置された。この背景には、ベルギーによる多額の米ドル融資が影響していることは明らかである。また、観光客誘致を目的とした新しい英雄像の設置も各地でみられた。
しかし、2010年代に入りインターネットが普及すると、英雄像への抗議の動きが再興し急速に拡大することになる。「#RhodesMustFall」のスローガンを掲げた南アフリカのケープタウン大学でのセシル・ローズ像に対する抗議運動は、その代表例である。南アフリカで始まったこの運動は、アフリカ大陸を越え、様々な国での新(neo)植民地主義反対運動の流行の引き金となった。このように、植民地主義に関連する「英雄像」には、旧宗主国から旧植民地国への援助や経済的束縛、観光戦略、記憶の保存といった様々な要素が絡まっていることを見落としてはならない。現在でも旧宗主国による経済援助が重要な歳入源となっている旧植民地国家は多い。今なお、英雄像は明るい未来を眺めて立ち続けているのである。

● 詳細記事 Labadi, Sophia. 2024. “Colonial statues in Africa have been removed, returned and torn down again- why it’s such a complex history.” The Conversation. 12 March.

● 感想 #RhodesMustFall運動に関しては、大学の授業やニュースで耳にしたことがあったが、この運動が、歴史認識の問題、つまり「過去の問題」ではなく、様々な事情が絡み合った「現在の問題」であるということまで考えられていなかった。これまでにも、アフリカの街中や観光地で、何かしらの像やモニュメントを見る機会はあったが、特に深く考えず「立派な像だ」など思って通り過ぎてしまってきたように思う。本記事を読んで、記憶の中で景観の一つでしかなかった「何かの像」が際立って思い出されるとともに、それらの像がどんな台座に立っていたのか、何も見えていなかったことに気が付き、「知る」ことの大切さを実感した(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
・同記者による論文「ポストコロニアル・アフリカにおける英雄像:多元的な遺産」(Labadi, Sophia. 2023. “Colonial statues in post-colonial Africa: a multidimensional heritage.” International Journal of heritage studies. 10 December.
・「#RhodesMustFall運動とは何だったのか」(Chaudhuri, Amit. 2016. “The real meaning of Rhodes Must Fall.” The Guardian. 16 March.
・コクラン、ショーン2020「英オックスフォード大学のコレッジ、植民地政治家の石像を撤去する意向BBC News Japan. 18 June.

6. 医療用ドローンの可能性

保健医療 社会

● 概説  近年のアフリカの保健医療分野では、医療用ドローンが高い注目を集めている。一方で、医療用ドローン及びそのシステム構築のコストは高く、政府主体の導入はなかなか進んでいない。本記事では、医療用ドローンにはそのコスト以上のメリットが見込めるとして、アフリカでの医療用ドローンの活用法を解説している。現在、ルワンダ、ガーナ、マラウィなどの国で医療用ドローンが導入されており、ワクチンや血液、血清の輸送、HIV/AIDSなどの感染症の移動型検査設備として活用されている。アフリカの多くの国で、都市から離れた地域では、近くに病院がない、道路が整備されていないといった理由から、ヘルスケアへのアクセスに多くの制約があるのだが、医療用ドローンの導入によって、そのような課題の解決が期待できる。しかし、医療用ドローンの導入にはコストがかかるため、そもそも都市の基本的な医療設備でさえ不十分な国において、最先端の技術に費やす財源を確保することは難しい。アフリカ諸国政府は、他国からの援助に依存し、自国の保健医療分野に関して傍観者となっている現状から抜け出す必要がある。ドローンを含めた医療最新技術は、アフリカ諸国政府自身が舵を取り、医療器具、設備、インフラ整備の優先順位を再考する機会を提供しているのである。

● 詳細記事 Ameso, Edwin and Gift Mwonzora. 2024. “Drones are not a panacea for Africa’s healthcare problems, but offer great opportunities.” LSE Blogs. 6 March,

● 感想 ルワンダ政府とアメリカのベンチャー企業Ziplineによる医療用ドローンの実用例をみると、アフリカの保健医療分野にとっての医療用ドローンの可能性には高い期待が持てたものの、すべてのアフリカの国で今すぐに導入できることではないとも思った。本記事の通り、政府主導で医療保険分野の課題に取り組む必要性を感じた。また、「医療用ドローン アフリカ」で検索すると、多くの日本語でのニュースがヒットすることからも、国際的な注目度の高さを感じた(インターン:青木)。

● もっと知りたい! 
・「アフリカ スタートアップ医療の最前線とその課題」(Jimoh, Rahma. 2023. “African healthcare poses challenges to startups filling the gaps.” Al Jazeera. 3 October.)

7. インフレ拡大はなぜ?

ナイジェリア 経済

● 概説 世界的なインフレは鈍化しているにもかかわらず、2024年2月現在、ナイジェリアではインフレ率の上昇が続いている。2024年1月のインフレ率は29.9%と、過去20年でもっと悪い。開発経済学者である著者によれば、この原因は一つではなく、またスタグフレーションが起こる危険もあると言う。背景の1つは、天然資源の価格である。2023年5月にティヌブ新政権発足後、大統領は即座に燃油補助金を撤廃し、ガソリン価格は跳ね上がった。つまり石油を使用する場合のコストが増大した。別の背景として、現地通貨であるナイラ(Naira)下落がある。ティヌブ政権は2023年6月、公定レートに事実上の変動相場制を導入し、その結果、2023年6月から2024年2月中旬までの間にナイラは69%下落した。つまり、輸入依存が続くナイジェリアでありながら、通貨安による輸入コストが増大したことになる。

● 詳細記事 Onyeiwu, Stephen. 2024. “Inflation in Nigeria is still climbing while it has slowed globally: here’s why,” The Conversation, 14 March.

● 感想 何かが突然ドーンと起こる突発的な問題ではなく、じわじわと着実に人々の日常を苦しめる問題の1つだと思う。だからたちが悪いし、国際的な注目もなされない。しかし、例えばナイジェリアで暮らす私の知人は、日々上がっていく物価に苦しんでいて、食事回数を減らしたという人もいた。国全体で見ても失業率が、特に若者を中心に上がっている。安全についても、北部を中心に誘拐事件が頻発している(玉井)。

● もっと知りたい!
・当然、住民も黙ってはいない。抗議運動や、ストライキは増加している。例えば以下:「生活費の高さに住民が抗議」(Babangida, Mohammed. 2024. “Residents protest high cost of living in Sokoto,” Premium Times, 13 February).)

8. 警察に対する認識

警察 世論調査

● 概説 アフリカの世論調査について定評のあるアフロバロメーターが、警察に対する認識に関する最新の調査成果を発表しており、同記事はその概要を報告している。調査は39か国で2021~23年に行われた。この成果により、警察の違法行為、汚職、暴力に対する認識の一端が明らかとなる。

例えば警察に助けを求めた人のうち、54%が適切な支援を得られたと回答。国別にみると、ブルキナファソ(77%)やモーリシャス(76%)は高い一方、マラウィ(37%)やマダガスカル(37%)は低い。
「正当な理由なく運転手を停止させること」について、平均して39%の人々が「頻繁に」または「いつも」行われると回答。これはガボン(68%)やケニア(66%)で高い一方、エチオピア(18%)やカーボベルデ(16%)で低い。
汚職(corruption)について、回答者の46%が、警察官のほとんどあるいは全てが汚職をしていると回答。ほかにも、警察官による抗議活動やデモにおける過剰な暴力について、回答者の38%が頻繁にまたは常に行われていると回答。この認識が最も高いのはガボン(64%)、セネガル(60%)、ギニア(51%)などであった。

● 詳細記事 Krönke, Matthias and Thomas Isbell 2024. Corrupt, brutal and unprofessional? Africa-wide survey of police finds diverging patterns.The Conversation. March 13.

● 感想 一般論として世論調査の結果はいつそれを尋ねたかによっても結果は変わり得る(例えば選挙の後かどうか)ので慎重に見る必要はある。他方で「イメージ通りだな」とか「そうなのか?」など色々と思うところもある。重要なのは、なぜそうした認識がその国・地域で表れているのか、という点だと思う。この辺りは、色々な人と交流したり、日々のニュースを見たり、現場に行けたら話を聞いたり見たりしながら、想像し考え学んでいかなければならないだろう(玉井)。

● もっと知りたい!
・アフロバラメーターの調査成果はこちらから読むことができる:Afrobarometer 2024. “PP90: Law enforcers or law breakers?”.

9. 2024セネガル大統領選挙(1):選挙前の状況

セネガル 選挙

先日行われたセネガル大統領選挙について、発掘部3〜4月号に分けてお送りします。記事作成はAJF会員の村田はるせさんがしてくださいました。ありがとうございます!まず3月号では、選挙前の状況について、jeune afriqueをもとにお伝えします。来月号では選挙の結果についてお伝えする予定です。

■ 2月3日@ダカール:デモ隊は追い散らされ、ネットが切断されている

2024年2月3日、セネガルのマキ・サール大統領が、2月25日に実施予定だった大統領選挙を延期すると発表。大統領選延期は独立以来初で、2月4日には抗議デモが行われた。政府はこの動きを抑えこもうと、2月5日の朝からネットを切断、多くの人びとが携帯電話でのモバイル・データへのアクセスができなくなった。
●詳細記事:jeune afrique. 2024. “Au Sénégal, manifestants dispersés et internet mobile coupé à Dakar,” jeune afrique, 5 février.

■ 2月5日:国民議会議員が大統領選を12月15日に延期

2024年2月5日、前大統領アブドゥライ・ワッドの息子カリム・ワッドの政党(セネガル民主党(PDS))が2月2日に国民議会に提出した、大統領選挙の投票延期に関する法案が緊急に審議された。野党は採決を阻止しようとしたが、政治集会は禁止され、国民議会前は封鎖されていた。議場での議論は過熱したが、午後10時半ころ、憲兵隊が野党議員を採決の場から遠ざけるなか、大統領選挙の投票を2月25日から12月15日へと延期する法案が採択された。Jeune Afrique誌はこの法案を「権力の空白が発生した場合に選挙を組織する期限を定めた「第31条の規定を逸脱する」もの」と指摘している。
[註:カリム・ワッドの母はフランス人。セネガル憲法評議会は1月20日、二重国籍を理由にカリム・ワッドの大統領選立候補を無効としていた。父の政権下で国務大臣を務めたカリム・ワッドは、2015年に不法利得罪で懲役6年と罰金1,380億CFAフラン(2億1,000万ユーロ)の判決を受けた。2016年に大統領恩赦を受け、釈放後はカタールに居住してセネガルに帰国していない。PDSが提出した法案では、大統領選挙が実施されるまで、サール大統領は4月2日の任期期限を超えて大統領でありつづけられると規定していた。]
●詳細記事:Soumaré, Marième. 2024 “Au Sénégal, les députés reportent l’élection présidentielle au 15 décembre 2024,” jeune afrique, 6 février.

■ 2月9日:抗議デモ中、警察の弾圧により若者三人殺害される

2024年2月9日、マキ・サール大統領が大統領選挙延期を表明した一週間後、セネガル全土で抗議デモが実施された。治安部隊がすぐに解散させようとしたため、デモ参加者が投石などで抵抗、治安部隊がこれに催涙ガスで応じる混乱状態となった。こうしたなか多数の負傷者が出た模様で、若者3人が死亡した。一部の死者は実弾を受けたという証言がある。デモを呼びかける市民社会「Aar Sunu Election(わたしたちの選挙を守ろう)」の共同コーディネーターのマリク・ジョップは、「市民の不服従こそ、この国を止めて、憲法の合法性を回復するためにわたしたちが使う手段だ」と語った。野党側は、サール大統領は選挙延期によって自陣営の候補の敗北を避けようとしたうえ、自身はまだ何年も大統領に留まろうとしているとみている。
[註:憲法の規定により、すでに二期を務めたサール大統領は今回の選挙には立候補できない。]
●詳細記事:Jeune afrique. 2024. “Au Sénégal, trois jeunes tués lors d’une journée de contestation réprimée,” jeune afrique, 10 février.

■ マキ・サールとウスマン・ソンコ、代理人を立てての最後の闘い

セネガル大統領選の投票日は紆余曲折ののち、マキ・サール大統領の任期満了を前にした3月24日となった。約700万人の有権者が19人の立候補者に投票することになる。注目は、マキ・サール大統領の最大の政敵ウスマン・ソンコの代理といえるバシルー・ジョマイ・ファイ(44歳)と、ファイよりも18歳年上でサール政権の元首相アマドゥ・バとの闘いである。すなわちサール大統領と、高い人気を誇るウスマン・ソンコが代理人を立てて繰り広げる闘いとなっている。
●詳細記事:Boko, Mawunyo Hermann. 2024. “Entre Macky Sall et Ousmane Sonko, un combat final par procuration au Sénégal,” jeune afrique, 18 mars.

■ 参考:ウスマン・ソンコ(Ousmane Sonko)人物像

租税・財産総監視局の元上級検査官で、ジガンショール市長。2016年に政党「セネガル仕事・倫理・友愛のためのアフリカ愛国者(PASTEF)」を結成。しかし同年は大統領選出馬を阻まれた。2020-2021年にマッサージ・サロンで働いていた女性への強姦などの疑いで告発された。しかしソンコは、これは2024年の大統領選に出馬させないための陰謀として、裁判を欠席。2023年6月1日の判決では、この件については無罪となったが、「若者を堕落させた」罪で有罪となり、懲役2年を言い渡された。この判決は国内の広範な抗議行動を引き起こし、死者もでた。同年7月3日には、かねてから憲法に違反して三期目の任期を目指すのではと野党から批判されていたマキ・サール大統領が、次回大統領選には出馬しないと国営テレビで発表した。そのごソンコは国家憲兵隊介入部隊(GIGN)に自宅監禁状態に置かれてきた。ソンコの大統領選出馬は2024年1月に憲法評議会によって拒否された。
●詳細記事:jeune afrique. 2024. “Osumane Sonko“.

■ 参考:バシルー・ジョマイ・ファイ(Bassirou Diomaye Faye)人物像

ティエス出身。ソンコ同様租税・財産相関支局で勤務していた。ソンコを支え、PASTEFの事務局長などを務めた。2023年4月、司法当局によるソンコの件の扱い方を批判したとして、「法廷侮辱罪、名誉毀損罪、および公共の平和を危うくする行為」で逮捕された。なお、ソンコもファイも2024年3月14日に恩赦によって解放された。
●詳細記事:jeune afrique. 2024. “Bassirou Diomaye Faye“.

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