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私たちが食べているチョコレートは児童労働によるものかもしれない

児童労働の撤廃・予防に取り組むNGO、ACE事務局長:白木朋子さんインタビュー

How could we escape from chocolate produced by child labour?

『アフリカNOW 』No.86(2009年11月発行)掲載記事

白木朋子(しろき ともこ)さん:児童労働の撤廃・予防に取り組むNGO、ACE(エース)事務局長、理事。ACE設立メンバーとして1997年12月より活動開始。「児童労働に反対するグローバルマーチ」(1998年)、「ワールドカップキャンペーン2002?世界から児童労働をキック・アウト!」(2001?2002年)、「世界中の子どもに教育を」キャンペーン「世界一大きな授業でギネスに挑戦!」(2003年)などで企画・運営を担当。2005年4月より現職。

- バレンタインデーに向けて、てんとう虫のチョコレートを使ったキャンペーンを実施されましたね。

白木 チョコレートを食べる人たちに児童労働の問題について知ってもらい、チョコレートに関わるすべての人たちがしあわせになることをめざす「しあわせへのチョコレート」プロジェクトの一環です。今年2月から、ガーナのカカオ生産地の子どもたちが学校に行けるようにと始めた「持続可能なカカオ農園経営と教育を通じた児童労働撤廃プロジェクト(スマイル・ガーナ・プロジェクト)」の資金を集めるために、しあわせを運ぶ「てんとう虫チョコ」の販売を思いつき、たくさんの人たちが買ってくれました。1パック500円のうち約250円をガーナの子どもたちの支援に使っていきます。今年の1-2月には、予想以上の注文があって、チョコレートの梱包に大わらわでした。夏場はお休みしていたチョコの販売を10月1日から再開しましたので、プレゼントなどにご利用ください。
日本に輸入されているチョコレート原料のカカオの約70%(2005年)がガーナ産です。そのガーナでも、児童労働が報告されています。私たちが食べているチョコレートは、児童労働によるものかもしれないのです。
ガーナにおける児童労働の実態を知るために、昨年2月に3週間の現地調査を行いました。11月には、子どもたちが学校に行けるように地域支援のプロジェクトを立ち上げるための調査を行い、今年からスマイル・ガーナ・プロジェクトを開始したのです。
ガーナのNGO、CRADA(クラダ)と連携して、カカオ産地の農村共同体が子どもたちを学校に行かせることができるよう支援しています。プロジェクト開始から地域での働きかけにより、それまで学校へ行っていなかった子どもたち37人が登校できるようになりました。

- これまでのACEの活動は、インドの児童労働に関する取り組みが中心だったと思いますが、なぜガーナでプロジェクトを開始されたのですか。

白木 アフリカでは、子どもの3人に1人が児童労働を強いられており、何とかしなければと思っていました。西アフリカのカカオ生産地での児童労働が問題になっていたこともあり、2007年にガーナでのプロジェクトに取り組むことを決定しました。
もちろん、現在もインドのNGOと連携して「子どもにやさしい村」プロジェクトという、インドの農村で児童労働をなくす取り組みにも関わっています。毎年インドへのスタディツアーも行っています。さらに、インド南部の綿花産地でも調査を行い、2010年の活動開始に向けて、現在新しいプロジェクトを準備中です。
インドでは、近年、遺伝子組み換え綿花の導入が進んでいます。遺伝子組み換え綿花の種を育て販売する業者のもとで、たくさんの子どもたちが働いているのです。両親が前受金を受け取っているので、子どもたちは学校に行くこともできず借金を背負って働いています。大量の農薬が使われている農場で、長時間の労働を強いられることから、農薬の影響を受けている子どもたちもたくさんいます。ILO(国際労働機関)182号条約(「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約;最悪の形態の児童労働条約」)が定める「債務奴隷などのあらゆる形態の奴隷労働またはそれに類する慣行」「児童の健康、安全、道徳を害するおそれのある労働」が行われているのです。
ILO182号条約は1999年に採択された条約です。この条約と、1973年に採択されたILO138号条約(「就業が認められるための最低年齢に関する条約;最低年齢条約」)そして1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」(日本政府訳では「児童の権利条約」)の三つが児童労働の問題に取り組む上で重要なものになっています。「子どもの権利条約」は、18歳未満を子どもと規定していますので、18歳未満の人口が過半数を占めるアフリカでは、児童労働は大きな問題になるでしょう。

- ガーナでの取り組みについて、詳しく話してください。

白木 昨年11月、プロジェクト実施を前提にした調査に入り、地域の人たちと子どもたちを学校に行かせるためには何が必要かを話し合いました。その討議を踏まえて、スマイル・ガーナ・プロジェクトを立ち上げました。実際にプロジェクトを実施するのは地域の人たちで、ガーナのパートナーNGOのCRADAと共に住民が一生懸命取り組んでいます。ACEはCRADAと一緒に目標を達成するために必要な活動を考え、協力者を見つけたり、資金や情報を集めて提供するなどの支援を行っています。
プロジェクト自体は、地域の人々の生活向上も視野に入れた包括的なものですが、まずは村のおとなと子どもたちが、禁止すべき児童労働と認めてもいい子どもの仕事(手伝い)の区別を理解するように集会や日常的な会話の中で伝えたり、子どもたちが学校に行ける条件づくりに取り組んでいます。
ガーナでは1994年に、「基礎教育義務化・無償化・普遍化プログラム(FCUBE: Free Compulsory Universal Basic Education)」が設けられ、このプログラムに基づいて、2005年に義務教育が無償化されたので、近年は就学率が上がっています。
その一方で、学校や教師がまだまだ足りない、学校までの距離も遠く、貧しい家庭では学用品や制服が用意できない、などの問題もかかえています。スマイル・ガーナ・プロジェクトの対象地域には中学校がなく、中学校に行くためには1時間以上離れた隣村まで行かなくてはなりませんでした。教育局に働きかけた結果、中学校の設置と教師の派遣は約束してもらえましたが、地元の負担で木造の仮設校舎が建てられただけで、完全な校舎の建設のメドはたっていません。
こうした働きかけの一方で、地域の人たちは、学校へ行かずに働いている子どもがいないか見て回るパトロールを行い、子どもたちを学校へ行かせるように、親に働きかけています。子どもは学校へ行くのが当たり前という、日本であればごく普通の感覚をこの地域で育てていると言えるでしょう。この地域では、家族労働でカカオを生産していますので、親がその気になれば、子どもを学校に行かせることができるのです。また、カカオ農家の収入を上げるために、カカオの農園管理の改善のためのトレーニングなどにも取り組んでいきます。
2000-2001年に、西アフリカのカカオ農園の児童労働が欧米のテレビなどで報道され、NGOや消費者団体のキャンペーンの結果、世間の注目を集め、カカオ産業も対応をとるようになりました。カカオ産業側の対応としては、2001年10月に米国の議員とチョコレート製造業者協会がカカオ農園から最悪の児童労働をなくす目的で「ハーキン・エンゲル議定書」を締結しました。それを受けて2002年には国際ココア・イニシアティブ(ICI)が発足し、それ以後に米国政府、ILO、労働組合、NGO、消費者団体などが共同で実態調査や児童労働予防プロジェクトの開発・実施などを行ってきました。
議定書に定められた項目のうち、5項目の「カカオ豆生産量の50%に児童労働が使われていないことを認証できるようにする」が、目標であった2005年までに達成できなかったため、期限が2008年まで延長され、ガーナでは官民一体の取り組みが進んでいます。これらの動きが進んだのも、メディアやNGOの情報提供が消費者を動かしたことが発端になっているので、カカオ農園の児童労働の実態を世界に広く紹介いくことはたいへん重要なのです。

- ガーナでは人口の40%近くが14歳以下です。子どもも働かないとやっていけないような気もしますが。

白木 子どもが学校に行きながら、年齢や体力に見合った仕事をすることは、むしろ子どもたちのためになることでしょう。問題になっているのは、仕事をするために学校に行けない状態になってしまう、長時間の重労働や不自然な姿勢での労働などによって健康が損なわれ、発育が阻害されてしまう、子ども兵士にされたり、性産業や薬物の生産・取引に従事させられたりするなどの現状なのです。
 先ほど紹介したインドの綿花産地のように、親が前受金を受け取って、子どもたちが学校にも行けずに長時間の労働、それも農薬の被害を受ける可能性の高い危険な仕事に従事させられるのは、明らかにILO182号条約違反で、すぐにもなくさなければならない最悪の形態の児童労働であると言えます。
スマイル・ガーナ・プロジェクトを実施しているガーナのカカオ産地は、主に小規模な家族経営の農園ですが、欧米のテレビ番組や2007年に日本語版が出た『チョコレートの真実』(キャロル・オフ著/北村陽子訳、英治出版)などで取り上げられたコートジボワールなどの大規模なカカオ農園の場合、どんな取り組みが必要であり可能なのかを調べるのが、今後の課題になっています。カカオの国際取引や価格決定の仕組みなどにも問題のルーツがあると考えていますので、ガーナやコートジボワールの児童労働の実態や子どもたちの状況、カカオ貿易の問題などについて、一緒に調べたり教えてくれる人を求めています。
一方、日本では、カカオ豆生産に児童労働が関わっていること、この児童労働をなくす取り組みが広がっていること自体があまり知られていません。「しあわせへのチョコレート」プロジェクトを通して、私たちが食べているチョコレートの裏側にある児童労働の現実を多くの人々に知って欲しいと願っています。

2009年8月26日、ACE事務所にて
聞き手:斉藤龍一郎

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