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アフリカの食文化と農業の多様性を理解して支援を

日本のイモ類生産技術を活かそう

Utilize Japanese technology producing root and tuber crops

『アフリカNOW』81号(2008年6月30日発行)掲載

執筆:志和地 弘信
しわち ひろのぶ:1986年から主に ネパールにて国際協力事業団(JICA)専門家(農業・村落振興)として勤務、2000年から国際熱帯農業研究所(在ナイジェリア)作物改良部、研究開発部で勤務、2004年より東京農業大学国際食料情報学部国際農業開発学科教員。 専門分野:作物栽培学など。


アフリカでは食用となる穀類やイモ類は、ほとんどが伝統的な焼畑農法によって栽培されている。収量と効率を重視する世界の農業とアフリカ農業とでは、顕著な違いが見られる。たとえば、世界平均では食用作物のうち穀類がイモ類の2.5倍も消費されているのに対して、アフリカではイモ類が穀類の消費を上まわっている。広大なアフリカにはアジアとはまた異なった独自の食文化と農業の多様性がみられる。

多様な作物を生産

アフリカの人々の食を支える農業の特徴は、自然環境に対応して多様性に富むことと、飢餓のリスクをさける工夫がなされている点にある。十分な降雨量が望める地域ではココア、コーヒー、アブラヤシ、ゴムなどの換金作物のプランテーションを中心に、食用作物はこれらの間に植えられる。湿潤地域ではキャッサバ、ヤムイモ、タロイモなどの根菜作物や料理用バナナを主食としている。やや雨量の少ない地域はトウモロコシ、ヒエ、モロコシなどの穀類を多く栽培するとともに家畜の飼育をおこない、雨量の少ない地域では乾燥に強いヒエ、フォニオ、テフ(アフリカ原産の雑穀)、生育期間の短いササゲマメ等を生産しながら家畜飼育に重点を置いて、旱魃のリスクの分散を行っている。また、いずれの農業形態でも多くの種類のマメ類の生産をおこなって、タンパク質を補っている点に特徴がある(特にササゲマメは世界の90%の440万トンを生産)。一方、アジアで消費が多いコメは、西アフリカの数カ国とマダガスカルで局所的に生産されている。
アフリカの農業を理解するうえで、イモ類の重要性を認識することが重要である。世界の97%(4,200万トン)のヤムイモ、50%(1億トン)のキャッサバ、73%(800万トン)のタロイモ類がアフリカで生産されている。西アフリカから中央アフリカにかけては根栽農耕文化圏を形成しており、日常の祭事にまで影響を及ぼす多様なイモ食文化が見られる。

在来作物の生産性改善が重要

アフリカにおける農業研究や開発支援は、トウモロコシなどの主食穀物、外貨獲得作物あるいはキャッサバのような外来種(トウモロコシも外来種)に集中しがちであった。農業開発を通したミレニアム開発目標(MDGs)への貢献、さらには「緑の革命」の推進には、アフリカ農業の多様性の保全と活用が今後の鍵になると考えられる。特にミレニアム・ビレッジ・プロジェクトなどを通じて認識されてきた、アフリカの国々の内需向け作物、伝統的に利用されている作物の生産性や活用を高めることが重要である。
ところが、アフリカ在来のヤムイモ、タロイモ、モロコシ、ヒエなどはこれまで研究開発の対象にされてこなかったために、依然として低い生産性にとどまっている。日本が支援するコメ生産はリスク分散の新たなるオプションであり歓迎されるものの、コメの消費地が西アフリカの一部を除き大都市部に限られていること、内陸部の道路の未整備、輸送コストが高い現状を考えると、コメの生産を内陸の農村部の小農に定着させるのは困難を伴うだろう。そのような背景のなかで、アフリカ在来の主食作物の生産性改善(品種や栽培技術の改良並びに収穫後の管理方法など)に取り組むことは非常に重要と考えられる。

アジアの国々はイモ類の生産性改善に支援を

特に、ヤムイモやタロイモの生産性改善については、ヤムイモの一種である長芋や自然薯、タロイモの一種である里芋などに高い生産技術を持つ日本やアジアの国々が支援できるだろう。ヤムイモとタロイモの生産性は日本や台湾でヘクタール当たり20トンであるのに対して、アフリカでは9トンほどである。これらのイモ類の生産に関しては欧米の支援は得られない。なぜなら欧米では栽培・利用されておらず、ノウハウや研究者が少ないからである。

在来作物の付加価値をさらに高める研究を

イモというと野暮ったいイメージを持つ人が多いかもしれないが、イモ類は食物繊維の供給源であり、カリウム(灰分に含まれる)の多い栄養価に優れたアルカリ性食品である。さらに、必須アミノ酸のほか調理しても壊れにくいビタミンCを含んでいる。イモ類は焼いたり蒸したりすることによって、ゆでるよりも多くのビタミンCを摂取できる。また、日本のヤマノイモが「山のうなぎ」と称されるように、ヤムイモは伝承的に滋養強壮の効果があると、アフリカやアジアの多くの国で言われている。ヤムイモにはムチンなどの糖タンパク質類や多糖類をはじめ、多くの食物繊維とアントシアニンなどのポリフェノール類が含まれている。肉質が赤いダイジョ(ヤムイモの一種)には、赤ワインと同じくらい抗酸化作用があるポリフェノールが含まれている。また、近年まで避妊薬のピルが野生のヤムイモを原料に作られていたように、ヤムイモにはアラントイン、ディオスゲニンなどの機能性物質などの有効成分を含む種や品種がある。西アフリカでも生産されるトゲイモ(ヤムイモの一種)には、細胞の活性化を促すと考えられているディオスゲニンが含まれることが最近明らかになって、健康食品としての利用が検討されている。しかし、これらについては、研究が始まったばかりであり、特にアフリカのイモ類の加工とその利用についてはほとんど研究されていない。
筆者らは、西アフリカでも生産が盛んなダイジョを原料に4年前から焼酎の生産を試みてきた。貿易自由協定(FTA)により生産が縮小すると考えられる沖縄県のサトウキビの代替作物として、沖縄の伝統作物カテゴリーであるダイジョの利用を模索するためであった。まず、いも焼酎ブームによって原料が不足しているサツマイモの現状を考慮して、焼酎原料としての利用を試みた。その結果、ダイジョは米焼酎や麦焼酎と比べてイソブチルアルコール、イソアミルアルコール、β-フェネチルアルコールが多く、風味豊かな焼酎になることがわかり、商品化に移した(今年、糸満市の比嘉酒造から大々的に発売します)。焼酎の製造は過程で発生する外皮や残渣の処理の問題も包括的に考慮する必要がある。これは乳酸発酵による飼料化を検討中であり、沖縄の養豚産業に貢献できる。さらに、ほとんどが外皮に含まれる機能性物質も利用が可能であると考えられ、研究をすすめている。
アフリカのイモ類の膨大な生産量を活かして、こういった付加価値を高める努力も必要であろう。多くの研究者の参加を期待したい。


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