Zimbabwe:Food Conditions Depend on International Power Politics
『アフリカNOW』63号(2003年3月31日発行)掲載
尾関葉子(DADA(アフリカの開発のための対話プロジェクト)代表、AJF会員)
広がる食料不足
「ゴクウェ(Gokwe:ジンバブウェ西部の町)でメイズ 泥棒殺される」「ブラワヨ(Bulawayo:南西部の都市)でメイズ倉庫に盗みに入った親子つかまる」「パンの列で喧嘩」「闇メイズを求める人々、夜中の1時から行列」。これらは、最近のジンバブウェの新聞に掲載された記事である。食べ物をめぐる争いの記事が載らない日はない。
ジンバブウェの食料不足は、全人口の約半分にあたる600万人が飢餓に直面するという予測が出されていたが、最近は、これに都市人口のうちの100万人が加えられ、700万人という数字が口に出されるようになっている。こうした食料不足の主な原因として、(1)雨不足(2)経済不況(3)土地不法占拠に端を発した土地再配分(4)HIV/AIDSによる働き手の喪失、の4点があげられており、それらの原因は複雑にからみあっている。
雨不足
食料不足の一番の原因は、雨不足による昨年の不作である。今(2月)は雨季の真っ只中で、収穫はまだ先なので、現在消費されている食料は少量の乾季作を除き、昨年(2002年)の収穫つまり一昨年(2001年)の11月から昨年3月までの雨季作によるものということになる。
その期間の総雨量だけを見るとほぼ平年並み。しかし実際には、11月と12月に大量の雨が降り、一部地域では根腐れをおこしてしまうほどだったが、年があけた2002年1月には雨はピタリと止んでしまったのだ。立ち枯れてしまった作物には、2月になって降り始めた雨も遅すぎた。ジンバブウェでは、1月は雨季の中休みとなることが多く、この乾いた期間の長さが、収穫の大きな分かれ目になる。
土地問題と農場占拠
先日のロイター電は、「かつて南部アフリカの穀物庫であったジンバブウェが今や緊急救援を受取る国に転落した」と評しており、その理由は2000年に始まった(白人所有の)農場の(黒人による)不法占拠問題にあると分析している。しかしこの解釈は、あまりに欧米寄りの見方であり、この国が抱える問題をすり替えていると言わざるをえない。
ジンバブウェは独立の際に、それまで人種差別的政府を作っていたローデシア人(主にイギリス系白人で、つい最近までそのほとんどがイギリスとジンバブウェの二重パスポートを所持していた)を国から追い出さず、黒人と白人の和解を目指してきた。しかし、人口の1%に満たない白人が耕作に適した土地の70%以上を占有するという極端な格差は一向に是正されなかったために、その状況に業を煮やした、独立闘争を闘ったゲリラ兵士を名乗る人々が2000年に白人農場を次々に占拠する事態となった。その後、政府が追随する形で白人農場の強制収用に乗り出し、すでに1100万へクタール以上の土地が収用されている。
独立闘争の最大の目的は、奪われた土地の回復であったが、独立に際して結んだランカスターハウス協定では、10年間は白人の財産に触れないという条件がつけられた。土地に関しては、所有者が自分の意志で買いたい者に市場価格で売るという、いわゆるWilling Sell Willing Buy方式をとったが、黒人が得た土地は多くはなかった。
1990年代から少しずつ土地収用に関する動きが始まったが、ジンバブウェ政府の資金は充分ではなかった。元宗主国のイギリスは、独立の際に、土地改革のための資金提供を約束しており、サッチャーそしてメージャー政権のもとで、交渉は地道に辛抱強く続けられていた。ところが、労働党のブレア政権に交代してからは、政府の方針が転換。資金提供を拒否し始め、交渉は頓挫してしまった。ブレア政権の方針は、ジンバブウェの土地問題をもはや「戦後補償」ではなく、「援助」の一環と同様に扱うというものであった。彼の言い分からすれば、ジンバブウェは、民主化やグッドガバナンスなど、「援助」の際の条件において適切な行動をとっていないということになり、「援助」は望ましくないのだろう。
20年前、10年前であれば国際社会が後押しをしてくれた土地収用・再配分も、今ではムガベ大統領の横暴としか理解されない。しかし、現政権の問題と戦後補償は別の話である。現状がどうであれ、独立時の土地再配分支援の約束を反故にしているのはブレア政権のほうなのである。
GMイエローメイズ
さてジンバブウェでは、昨年の10月から緊急救援が行われているが、その点で触れなくてはならないのが、遺伝子組み替え(GM)作物のメイズのことである。ジンバブウェでは、GM作物はいまだ研究段階で、商業目的での生産は認められておらず、国内市場には流通していない。しかし今回の緊急救援では、食料支援を表明したWFP(世界食糧計画)とそのトップドナーであるアメリカ政府は、ジンバブウェなど南部アフリカ諸国政府に、援助食料が「非GMではないメイズである可能性もある」ことを示唆した。
援助食料にGMメイズが含まれることについては、披援助3ヵ国のうち、マラウイが問題ないという政府見解を発表したが、ジンバブウェとザンビアはGMメイズの受け入れを拒否した。ところが、その後USAID(米国援助庁)から、「GMメイズが含まれる可能性のある」物資以外の援助は出せないと脅かされ、結局ジンバブウェ政府は、製粉された状態という条件つきでGMメイズの受け入れを認めた。2年続く干ばつ・不作で大規模の食料不足に直面している中、やむを得ぬ選択であったが、GMメイズの扱いについては、製粉した状態と指定することで、風や動物などによって種が畑に飛んで混じることをかろうじて防ぐという最低限の制限をかけるに留まり、人体への影響については、問題ないというアメリカ側の主張を認める前例を作ることとなってしまった。
今回配給されたのは、GMメイズだというだけでなく、ジンバブウェの人々の主食である白いメイズではなく、黄色いメイズであった。黄色いメイズと白いメイズは、食べてみればわかるが、まったく異なる。日本の米不足の際に輸入されたタイ米が、多くの日本人には口にあわず、捨てられるという事態すら起こったことを覚えている方であれば、このことは理解していただけるであろう。
もし援助食料として提供できるだけの城メイズが世界市場になかったとするならば、黄色いメイズやGMメイズ以外の代用品を考えることもできたのではないだろうか。例えば、エチオピアの主食はテフであるが、他の国での生産は非常に少ないため、緊急救援でテフが配られることはほとんどなく、大概は小麦が配られている。ジンバブウェでも、小麦はポピュラーな穀物である。都市の人々はパンを毎日の食事にかかさないし、村では、パンは高級なもので年に一度しか食べられないという人もいるが、それでもパンは、皆が知っている「食べたい食物」である。
パンにするのに手間も燃料もかかるにせよ、エチオピアの例やこの国の事情をかんがみた上での食料支援であれば、小麦を援助することもできたはずである。ドナー諸国はなぜGM(しかも黄色い)メイズにこだわらなければならなかったか。そこには提供する側の国事情がからんでいるとしか思えない。もちろん、自国の消費分を切り詰めてまで食料援助に提供する国はないだろう。しかし、相手国が拒否している物を押しつけるような行為が、非常事態に乗じて行われるべきではない。 日本では以前、アメリカ産のGMのトウモロコシや大豆の不買運動がおこったことがある。運動は成功し、大手商社が軒並み注文をキャンセル。GM農産物の生産を拒否する農家を増やすという貢献をしたことがある。あの時のGMメイズはどこに行ったのか?そのままお蔵入りになり、この時を待っていたのだろうか?今回のメイズが同じメイズとはいわないが、GM不買運動に賛同したわたしたちは、南部アフリカのGMメイズ援助の責任の一端を担っているのではないだろうか。
ますます広がる被害
飢饉の被害はますます広がっている。WFPは、600万トンの輸入が必要という数字をはじき出しているが、これらを買う外貨をジンバブウェ政府は持っていない。アピールの半分も援助は集まっていないという。
現在の雨季は、今年後半の食料事情を左右する。しかし残念ながら、また雨は少ない。南部ではほとんど降っていない。1月の雨季の中休み期間は2月中旬までずれこんだ。さらに2月になって、国内一番の収穫が見込まれる穀倉地帯でヨトウムシが大量に発生した。食料不足に追い討ちをかけかねない状況である。ジンバブウェ国営通信のニュースが毎回報道する状況から推測すると、被害は甚大のようである。国内で一番収穫が期待できる地域での発生だけに、5月以降の収穫への影響が懸念される。一日も長く雨が降ってくれることと、迅速な国際社会の対応を祈るだけである。