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モザンビーク政府、NGOメンバーの入国を拒否

『アフリカNOW』109号(2017年12月31日発行)掲載

問われる日本のアフリカ外交

モザンビークでのTICAD閣僚会合が突き付けたもの

The First TICAD VI Follow-up Ministerial Level Meeting in Mozambique questions Japanese diplomacy

1993年から続くTICAD(アフリカ開発会議)プロセスにおいて、日本のNGO とアフリカの市民社会は一貫して提言活動などによる積極的な関与を追求し、参加を拡大させてきた。しかし、2017年8月にモザンビークのマプートで開催された第1回TICAD Ⅵフォローアップ閣僚会合では、モザンビーク政府に入国登録を申請していた日本のNGO メンバーのうち1名に対し、同国政府がビザの発給を行わず、会議への参加が妨げられた。さらに、アフリカ連合(AU)の加盟国としてアフリカ連合委員会とモザンビーク政府がこの閣僚会合に招へいしたサハラ・アラブ民主共和国(RASD)代表団の処遇をめぐって事前会議が紛糾し、同代表団の会場入場をめぐって、旧スペイン領サハラ地域(西サハラ)の過半を占領しているモロッコ政府の代表団が実力を行使するという事態も生じた。TICAD 閣僚会議をめぐるこれらの異例の事態は、日本のアフリカ外交とアフリカ援助のあり方自体を問うものとなっている。


モザンビーク政府、NGOメンバーの入国を拒否

A NGO member was denied entry by Mozambican government

執筆:斉藤龍一郎
さいとう りょういちろう:AJF 理事。2000年4月から2016年10月までAJF 事務局長。立命館大学生存学研究センターで、生存学ウェブサイトのアフリカ関連情報データベース作成・更新を担当。TICAD 閣僚会合で何が起きたのか

2017年8月24-25日にモザンビークの首都マプートで、第1回TICAD Ⅵフォローアップ閣僚会合(関連会議は8月23日から)が開かれた。この会合では、(1) 会議に参加するNGO メンバーとして登録され、モザンビーク政府に入国を申請していた日本のNGO メンバー日本のNGO メンバー、渡辺直子さんへのビザが発給されなかった、(2) 開会式の会場入り口でモロッコ政府代表団がサハラ・アラブ民主共和国(República Árabe Saharaui Democrática: RASD)代表団の入場を阻止するために実力を行使したことにより、開会式の開始が2時間遅れた、という異例の事態が起きた。この2つの事態はいずれも、日本のアフリカ外交とアフリカ援助のあり方に大きな問いを投げかけている。

渡辺さんが所属する日本国際ボランティアセンター(Japan International Volunteer Center;JVC)およびモザンビーク開発を考える市民の会(モ会)は、インターネット上の署名サイトのChange.org を利用して、8月23日から日本の外務省とモザンビーク政府にあてて、「国際NGO スタッフ・渡辺直子さんがモザンビークに入国できるようにしてください!」と題したウェブ署名(1)を開始。10月18日に外務省に4,516筆の署名を提出し、その後もウェブ署名を継続している。

また、今回のTICAD 閣僚会合に日本から参加した市民ネットワーク for TICAD(Afri-Can)は、渡辺さんへのビザ不発給が判明したことに対し、8月11日に「TICAD VI フォローアップ閣僚会議参加希望者へのビザ不発給措置について強く再考を求めます」と題する要請書を発表。会合が開かれる前の8月16日および22日には、AJF も含む多くの団体の署名とともにこの要請をモザンビーク 政府、日本政府、共催機関に送付。さらに、会合が終了した翌日の8月26日には世話人名で「TICAD 市民社会参加者へのビザ発給拒否措置に抗議し、今後のTICAD 関連会議に向けた防止策を求めます」という声明を公表し、TICAD の主催者と共催者にTIAD 関連会合への市民社会の参加を妨害するビザ不発給の再発防止を求めた(『アフリカNOW』2019号4-5ページにこの声明を掲載)。また、10月5日にAfri-Can の主催で開催されたセミナー「アフリカにおけるSDGs と『アジェンダ2063』達成に向けたパートナーシップ〜国連SDGs ハイレベル政治フォーラム(7月、ニューヨーク)とTICAD VI フォローアップ閣僚会合(8月、モザンビーク):アフリカと日本の市民社会は何を語ったか」では、「TICAD VIフォローアップ閣僚会合で浮き彫りになった課題:西サハラ問題と日本市民社会参加者へのビザ不発給措置について」と題する報告が行われた。さらに、このセミナーの開催前には緊急企画「TICAD VI フォローアップ閣僚会合を揺るがした『西サハラ問題』〜その経緯と現在:本当の問題は何なのか?」が実施され、西サハラ問題研究会を主宰する高林敏之さんが発表した。

ビザ不発給の理由は開示されていない

本稿では、渡辺直子さんへのビザ不発給問題に関する動向をまとめ、モロッコ政府代表団によるRASD 代表団の入場を阻止するための「実行使」問題については、別稿(「アフリカNOW」2019号6-7ページ)で検証する。

JVC のウェブサイトに掲載された「モザンビークビザ不発給措置についての経緯報告(9月1日更新)」(2)では、以下のように説明されている。

【1】JVC 渡辺は、「TICAD」参加登録がされていたが、モザンビーク政府よりビザ発給拒否にあった。
【2】ビザ申請先の駐日モザンビーク大使館の指示に沿って、「理由照会レター」を作成し、照会を行った。
【3】同時にあらゆる働きかけが、日本の市民社会(NGO など)から日本の外務省を通じて駐日モザンビーク大使館に、あるいは直接モザンビーク政府になされた。
【4】しかし、モザンビーク政府からは日本の外務省を通じて「理由照会レター」や「不服申立書」が届いていないとの主張がなされ、手続きなしでの非難や働きかけは不当であるとの指摘がなされた。(この時点で「理由照会レター」は駐日モザンビーク大使館に届いており、また「不服申立書」の提出の要請はこれまで一度もなかった)
【5】経由地である南アフリカに到着した渡辺が、南アフリカのモザンビーク領事館でもビザ申請を行ったが、同領事館の手続き上、「TICAD 参加」として渡航するにはモザンビーク政府からの招待状が必要であるとされ、この時点でモザンビーク政府がビザ発給を拒否している以上、同国への入国は不可能になった。
【6】各方面への働きかけを受けて、日本の外務省担当者らは「モザンビークでも働きかけを継続する」と約束し、「TICAD」参加のためモザンビークに出発した。
【7】「TICAD」参加のためにモザンビーク入りしているNGO が現地でUNDP(国連開発計画)及び日本の外務省にも、改めてモザンビーク政府への働きかけを要請するものの、発給拒否の撤回はなされず、Change.org にて日本外務省への働きかけ要請の署名キャンペーンを開始した。
【8】「TICAD」閣僚会議直前、「TICAD」参加のためにモザンビーク入りしているNGO から日本の外務省およびモザンビーク国外務・協力省に声明が手渡され、外交上の解決が要請された。
【9】「TICAD」閣僚会議開催中の8月25日に、最初の署名937筆が河野外務大臣宛に提出され、対応が要請されるが、撤回なきままに閣僚会議は終了した。

日本の外務省やモザンビーク政府へのNGO 側のさまざま働きかけに対してモザンビーク政府は、ビザ不発給に対しては異議申し立てが可能だと説明している。しかし、【2】で説明されている「理由照会レター」に対しては、「司法判断」という回答がなされているだけである。なぜモザンビークの司法が渡辺さんへのビザ発給の可否を「判断」したのか、この「判断」の根拠とその証拠はどのようなものかなど、いくつもの疑問に対する答えは明らかにされていない。ビザ不発給の理由はいまだに開示されていないと言えよう。

ビザ不発給を繰り返させないために

9月22日にはJVC の主催で、「いま世界・アフリカで何が?~日本NGO のモザンビーク入国拒否問題から考える」が開催。この報告会では、渡辺さんが自身のモザンビークの農民団体・市民団体との関わりを踏まえて報告を行い、国際協力NGO センター(JANIC)事務局長の若林秀樹さんが市民の権利を守る立場から、ビザ不発給の問題点を指摘した。

この報告会で渡辺さんが自ら語っているように、渡辺さんは、モザンビーク北部で、主に日本のODA 資金によって、日本・ブラジル・モザンビーク3ヵ国共同の巨大開発事業として実施されつつあるプロサバンナ事業に反対するモザンビークの農民団体・市民団体と連携して、プロサバンナ事業の進行が人びとの生活に及ぼす影響などを調査してきた。さらに、2013年1月から継続して開かれてきた「プロサバンナ事業に関するNGO・外務省意見交換会」やモザンビークからの農民団体の代表を迎えて開催されてきた集会などで、この調査を踏まえた報告と問題提起を行ってきた。前述したとおり、モザンビーク政府は渡辺さんへのビザ不発給の理由を開示していないが、市民社会の観点からは、こうした活動が今回のビザ不発給につながっていることが強く推認される。今回のTICAD 閣僚会合の場で、プロサバンナ事業の対象地に強固な反対運動が存在していることや、2016年春にはJICA による市民社会分断工作に関する資料が大量にリークされたことなどが報告され、論議の対象となることを避けようとしたのだと考えられる。

前述のウェブ署名の呼びかけサイトの「キャンペーンの進捗」には、8月27日付けで渡辺さんのメッセージが掲載されている。
”8月半ばに、南アフリカでモザンビークの仲間たちと会う機会がありました。そこで今回のビザのことを共有すると、彼ら・彼女らは、こう言いました。「これは、我々への弾圧が強くなるという、我々へのサインだ」”

ビザを発給せず、モザンビーク国内への立ち入りを禁じることは、モザンビークの農民団体・市民団体との直接の対話や共同調査を妨げ、その声を日本そして世界へ届けることを封じ込めようとすることに他ならない。これに対して、渡辺さんだけでなく、モザンビークの農民団体・市民団体と連携するためにモザンビークへの入国を望むすべてのNGO メンバーや研究者へのビザがすみやかに発給されることは、モザンビークで闘う人々への弾圧を許さないことにもつながっている。

モザンビーク政府が渡辺さんへのビザ不発給の理由を開示できないことは、モザンビーク政府がNGO や日本の外務省などからの要請に対してどのように対応すればよいのかを決めかねているからではないかとも推察できる。今後の推移に注目したい。

 

(追記) 9月21日に外務省を通じてモザンビーク大使館から渡辺さんに、モザンビーク司法当局は「未来永劫入国査証(ビザ)を発給しないとの決定を行ったわけではなく,今後通常の手続きに従い、(中略)査証(ビザ)申請できる(原文ママ)」という連絡があった。この連絡を受けて渡辺さんは、10月23-25日にマプートで開催された「モザンビーク・ブラジル・日本3ヵ国民衆会議」に参加するために10月2日にビザを申請。10月19日にビザを受け取る予定であったが、会議から約1ヵ月半後の12月10日現在もなお「司法当局による審査中」とされ(3)、ビザが発給されていない。いつ審査結果が出るのか、何がなぜ司法当局で審査されているのかは不明のままで、このまま入国ビザが永遠に発給されない可能性も否めない。

(1)http://bit.ly/2wh6twh

(2)http://www.ngo-jvc.net/jp/notice/2017/09/20170901-mozavisa.html

3)外務省の説明による


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