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エボラウイルス病に立ち向かうナイジェリア

Nigeria fights against the Ebola virus disease

『アフリカNOW』101号(2015年1月31日発行)掲載

執筆:Sonny Uche Unigwe

ソニー・ウチェ・ウニグエ医師:ナイジェリア・エヌグ(Enugu)州出身。ナイジェリア国立大学付属病院感染症内科医師。Child Rescue and Survival Project (CREASUP) 代表。ナイジェリア国立大学医学部卒業後、感染症専門医としてラッサ熱やHIV/AIDS の感染症の治療に従事。長崎大学大学院熱帯医学研究所にて修士号を取得後、ナイジェリア大学附属病院の感染症医師として勤務。また、エヌグ州でエイズ予防・啓発と早期治療のための団体の活動に従事している。

※本稿は、2014年10月13日にAJFと2014年度NGO研究会「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとNGO」 の共催 で行われた緊急報告会 「エボラ出血熱に立ち向かうナイジェリア〜西アフリカで今何が起こっているか?」におけるウニグエ医師の講演をまとめました。

※本稿では、「エボラ出血熱」ではなく「エボラウイルス病」と表記します。


発熱と出血を引き起こす一連のウイルス

エボラウイルス病は、ウイルス性出血熱のひとつとして知られています。エボラウイルスに感染して発症すると発熱し、出血するからです。日本でも最近、話題になったデング熱に感染したときも、エボラウイルス病と似たような症状が出る場合があります。また、ナイジェリアなどの西アフリカ諸国では、ラッサウイルスによるラッサ熱がしばしば発生しています。ラッサ熱はエボラウイルス病と症状が似ていますが、エボラウイルス病ほどには重篤化しません。1969年頃から西アフリカ諸国では、何度もラッサ熱が発生しました。今回、エボラウイルスが流行しているギニア、シエラレオネ、リベリア、そしてナイジェリアでもラッサ熱が繰り返し発生してきました。ナイジェリアでエボラウイルス病が発生したとき、ラッサ熱対策から得られたさまざまな経験や教訓が役に立ちましたが、それは、対策に似かよった点があったからなのです。

エボラウイルスは最初はコンゴ民主共和国やウガンダなどアフリカ中央部でひろがりました。これらの国々では何年にも渡るエボラウイルス対策の経験を蓄積してきたので、発生した国の中でエボラウイルスを封じ込め、食い止めることができました。

エボラウイルスの謎

エボラウイルスは、ナイジェリアの文化にしばしば登場する、半分人間で半分精霊からできている摩訶不思議な仮面にたとえることができます。私たちはまだ、エボラウイルスの全容を知っていません。エボラウイルスは多くの謎に包まれている仮面のような存在なのです。

エボラウイルスは感染力の強いウイルスで、バイオテロ物質としても指定を受けています。ラッサウイルスもバイオテロ物質として指定を受けていますが、エボラの方がもっと強力です。感染拡大を食い止めるために懸命に闘っている医療従事者に対しても深刻な悪影響を及ぼすウイルスなので、医療従事者にとってはテロリストだと言うこともできます。

エボラウイルスが最初に発見されたのは1976年で、スーダン(現南スーダン)とザイール(現コンゴ民主共和国)の2ヵ国で発見されました。両国は国境を接しています。ザイールのヤンブク(Yambuku)村に流れているエボラ(Ebola)川流域で発見されたウイルスなので、その川の名にちなんでエボラウイルスと名付けられました。

エボラウイルスには、ザイール種、スーダン種、ブンディブギョ種、タイフォレスト種、レストン種という重症度の異なる5つの種類の株があります。通常は動物から人に感染し、最終的には人から人へと感染します。フルーツバットとも呼ばれるオオコウモリが自然宿主だと言われています。エボラウイルスに感染すると致死率は50~90%と言われており、ワクチンは未開発で、治療法もまだ確立されていません。それに対してラッサウイルスは治療法が確立されています。

エボラウイルス病は、これまでコンゴ民主共和国、南スーダン、ウガンダなどのアフリカ中部の国々で何度も発生してきました。最近では西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリアにもひろがっています。

医療従事者の感染がもたらす悪循環

最近になって感染が拡大した国々では、医療従事者は、エボラウイルスに恐怖を抱きながら仕事をしています。治療しようとしている病気の犠牲者に自分自身がなってしまう可能性があるからです。医療従事者自身がエボラウイルスに感染すると、さらに感染が拡大してしまいます。また、感染の恐怖が高まることによって、エボラウイルス病を治療しようとする医療従事者の数が減ってしまうと、さらなる感染拡大が引き起こされます。人々をエボラウイルスから守らなければならない医療従事者が医療に従事しないということなると、一般の人々はどうなるでしょうか。エボラウイルスはさらにひろがり、多くの人々がエボラウイルス病に苦しむことになってしまいます。

ナイジェリアでは、エボラウイルス病で最初に亡くなったのはリベリア系アメリカ人のパトリック・ソーヤー(Patrick Sawyer))さんでした。彼はリベリアでエボラウイルスに感染し、ナイジェリアに入国したときに発症しました。彼の治療に関わった医療従事者が次に亡くなってしまいました。ナイジェリアでは20人が感染し、8人が亡くなっています。その8人の内の5人が医療従事者です。今回エボラウイルスの感染がひろがった西アフリカの国では、これまで401人の医療従事者が感染し、232人が亡くなりました(編集部注:この講演が行われた2014年10月13日時点の人数)。

オオコウモリから動物・人に感染する

エボラウイルスはオオコウモリ(オオコウモリの多くは果物を食べるのでフルーツバットとも呼ばれています)の尿・唾液・血液などから検出されていますが、フルーツバットはエボラウイルスの自然宿主なので、エボラウイルス病を発症しません。一方で、サルやアンテロープはエボラウイルスに感染すると発症します。フルーツバットが食べた果物に残っている唾液を媒介として、他の動物にエボラウイルスの感染がひろがっていきます。フルーツバットの唾液が残った果物が木から落ち、その果物をアンテロープが食べて感染することも考えられます。

ガボンでは、フルーツバットを捕獲して自宅に持ち帰り、調理して家族全員が食べたことによって、家族全員が死亡してしまったという事例がありました。しかも、村全体にエボラウイルス病がひろがってしまったのです。

また別の感染経路として、捕獲されて市場で売られているチンパンジーやアンテロープが感染源になるケースもあります。エボラウイルスに感染したチンパンジーやアンテロープが適切に下ごしらえされない状態で売られ、それを食べた人たちもエボラウイルスに感染してしまうというわけです。アフリカではこうした野生動物の肉(ブッシュミート)が珍味として重宝されています。また、一部の人々にとっては唯一の動物性タンパク源になっています。ただし、すべての動物がエボラウイルスに感染しているというわけではありません。

体液に媒介されて感染が拡大

エボラウイルスが人間に感染すると、今度は人から人へと感染がひろがっていきます。感染している人の唾液や汗などの体液を媒介として感染がひろがっていきます。エボラウイルスに感染している人の体液が寝具などに付着して、それに接触したことによって感染することもあります。また、エボラウイルス病で亡くなった人の遺体に付着しているエボラウイルスは、死後5日間ほどはまだ感染力を保持しているので、埋葬する際に遺体に接触した人、あるいは遺体に接触した人と接触した人にも感染がひろがっていく場合もあります。そのために遺体は、アフリカでは通常は遺体を土葬しますが、火葬することが推奨されています。火葬によってエボラウイルスがひろがる可能性を軽減することができるのです。

もっともエボラウイルスに感染しても自覚症状がない場合、つまり発熱をしていない段階であれば、エボラウイルスを他の人に感染させるということはありません。またエボラウイルスは空気を媒介して感染することもありません。ただし、エボライルス病を発症している人がくしゃみや咳をしたときに周りの人に感染させる可能性はあります。

医療従事者は、エボラウイルス病の患者に触ることや患者の体液に触れることによって感染する可能性があります。患者を治療する際に防護服をきちんと身に着けていない場合や、患者の血液などに触れた注射針を誤って自分の体に突き刺してしまったときに感染することもあります。

エボラウイルスの潜伏期間は2~21日間です。つまり、エボラウイルスに感染してからエボラウイルス病を発症するまで、最長で21日間あるということです。ですから、エボラウイルスの感染者と接触をしてから21日経っても発症しない場合は、エボラウイルスに感染していないか、あるいは自分の体の中にある免疫システムが機能して、エボラウイルス病を克服することができたということなります。

エボラウイルス病を発症すると

エボラウイルス病の初期の重要な症状は発熱です。関節痛や筋肉痛、脱力感などもあります。病状が進行すると腹痛・嘔吐・下痢などにつながっていきます。こういった症状は、アフリカ各地で発生している発熱を伴うさまざまな病気と類似性・共通性があります。ですから、初期の段階でエボラウイルス病であるか否かを判断するのは難しい。そのために、エボラウイルス病と気付かずに、よくある肺炎やマラリア、敗血症などの治療をしてしまうことも多いのです。

患者の生存率をあげるためには、初期の段階でエボラウイルス病であると診断することが重要です。発熱していても回復に向かう場合には、2週間目にはその兆候が現れます。しかし、2週間目で病状が悪化するならば、エボラウイルス病が進行して最終的には死に至ってしまいます。また、たとえエボラウイルス病を克服して生存できたとしても合併症と闘わなければいけないということもあるでしょう。

エボラウイルス病が第2期に進行すると出血を伴います。腎臓や肝臓などにも症状が現れてきます。体重の急速な減少がみられ、脱水症状が出てきます。病状がここまで進行すると生存することが難しくなってきます。それでも一部には、生存することができる患者がいます。

エボラウイルスがいったん患者の体内に入ってしまうと、患者の免疫システムが弱体化してしまい、ウイルスが体の中に入っていることを検知できなくなります。その間にエボラウイルスが体のさまざまな臓器にひろがってしまうのです。ラッサウイルスに感染したときにも同じことが起こります。サイトカインという物質が放出され、血管や腎臓、肝臓などが損傷を受けるようになります。ラッサウイルスよりもエボラウイルスの方が激しい症状を引き起こします。エボラウイルス病を発症すると、口や鼻や耳などいろいろな部位から出血します。臓器でも出血が起こり、腎臓などが損傷して大量に出血します。その結果、なんとか回復して生存することができた場合でも、合併症に苦しむこともあります。脱毛や視力の損失、性器に障害が生じることがありますが、どのような合併症が現れるのかは、それぞれの患者によって違います。

エボラウイルス病の診断をするためには、エボラウイルス病に関わる指標を把握することが必要です。エボラウイルスの感染拡大が進んでいる地域への渡航歴があるかどうかを知ることも重要ですが、それだけでは疑わしい症例であるとは言えません。それに加えて高い発熱と出血の兆候が見られるならば、エボラウイルス病の疑いがあると診断されます。エボラウイルス病患者が発生したら

エボラウイルス病の患者が見つかったら、患者を管理するために施設に隔離しなくてはなりません。患者に接する人たちの防護服も用意しなくてはなりません。この施設の中では、患者に接触する前に防護服に着替えるための単独の部屋が必要になります。治療が終わり退室をするときは、入口とは別の出口を通って防護服に着替えた部屋と別の部屋に入ることが重要です。その部屋で防護服などを処分し、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌機)などで消毒・除染する必要もあります。もし何かの器具などを再利用する必要がある場合には、漂白剤などできちんと殺菌・消毒した上で再利用しなければなりません。

エボラウイルス病は決定的な治療法が確立されていないので、こうした手順をきちんと管理して実施していくことがもっとも重要なのです。また、患者をきちんとケアする必要もあります。患者が脱水症状に陥らず、免疫システムが維持されてウイルスと戦うことができるという状態を維持することが重要です。

患者のケアのために、他のウイルスやバクテリアなどにさらに感染することを防ぐための抗生物質の投与も有効です。ビタミンK もよく使われます。必要な場合には輸血が行われます。シエラレオネやリベリアではエボラウイルス病の生存者からの輸血も行われています。ナイジェリアでそのようなことが行われたかどうかは知りませんが、数年前、ナイジェリアでラッサ熱患者の治療にあたった医師がラッサウイルスに感染してアメリカに戻ったときに、ラッサ熱生存者からの輸血を受けたことを覚えています。

エボラウイルス病を発症した患者を管理するためのキーポイントは、まず隔離をするということ、それから即座に消毒を行うということです。患者と接触したときはすぐに消毒しなければなりません。100%あるいは希釈された漂白剤を使ってすぐ消毒することが重要です。患者の排泄物や体液が付着したものを洗うときは、30分は漂白剤につけておく必要があります。また、患者を隔離した部屋の壁もスプレーで消毒しなければなりません。患者から発生したなんらかの物質が霧状になって大気中を浮遊し、壁に付着している可能性があるからです。治療施設をすべて滅菌をするために、塩素が入った消毒液で壁をスプレーするということも重要です。また消毒液や漂白剤は、24時間ごとに交換しなくてはなりません。体温計などの機器を消毒するときはアルコールを用います。治療施設のどの部屋であっても、消毒液で手を洗浄できるようにしておき、そこで消毒してから次の患者の治療に取りかかります。

患者と緊密な接触があった家族などをきちんと検査することも重要です。また、患者と2次的な接触があった人、たとえば患者だと思われる人になんらかの調査をするために接触した、あるいは患者の親戚と接触したなど、直接ではなくても2次的に接触した人に対しては、モニタリングをしてきちんと調査をすることが重要です。

さらにコミュニティの人々に対して、エボラウイルス病の見分け方やどのような人がエボラウイルスに感染している可能性が高いのかなどについての情報を提供して啓発すること、エボラウイルスの感染を防ぐための予防教育も必要になります。

医療従事者が注意していること

医療従事者がエボラウイルスから自らを守り、感染拡大を防ぐためにやらなければいけないことは、手をきちんと洗浄することといつでも消毒できるようにアルコールを含む殺菌剤を常備しておくことです。エボラウイルスは濃度70%のアルコールによって消滅してしまいます。ナイジェリアではこうした情報を伝えるための啓発活動が行われていますので、手洗い用の殺菌剤は市場からすぐになくなってしまいました。

医療従事者は治療に際して、N95 と呼ばれる特別なフェイスマスクを着用しています。ナイジェリアではエボラウイルス病の治療にあたる医療従事者に対して、このフェイスマスクをどのように装着するかを学ぶための研修が行われました。また、聴診器や体温計をアルコールや漂白剤などで消毒するための手順も詳細に定められています。

エボラウイルス病で亡くなった遺体に残留しているエボラウイルスを完全に消滅させるためには火葬がもっとも効果的です。ただし、アフリカでは遺体を火葬するという文化がありませんので、火葬を普及させるのは困難です。そのために、漂白剤を使って遺体を消毒し、袋に入れて埋葬するという手順がとられています。

エボラウイルスを克服するために医療従事者には、人々を啓発して意識を高めることやモニタリングや調査をするという役割もあります。エボラウイルスに感染した疑いがあるために自宅で静養している人たちに対して1日に2 回、体温を測るように伝えています。感染が疑われる人をモニタリングしている医療従事者は、自宅で静養しているモニタリングの対象者の家に行き、そこで体温を測ってすぐにショートメッセージサービス(SMS)を使って担当のコーディネーターに連絡を入れます。GPS システムによって、検温を行った場所がどこなのかがわかるようになっています。ナイジェリアでは、政府が積極的にこうした取り組みを推進しています。

たとえば、エボラウイルスに感染した疑いがある人が、自宅でのモニタリングの開始から2週間後に自宅でも同様に水と石けんが用意されています。銀行の従業員は手袋をつけて、殺菌剤を持ち歩いていました。どの職場でもエボラウイルス対策を念頭において仕事をしていました。銀行でも大学でもコミュニティでも医療の現場でも、誰もが殺菌剤を使って手を洗っていました。コミュニティの会合や学校に多くの人が集まるときも、やはりエボラウイルス対策に注意していました。

ナイジェリアでは、他の州にエボラが拡散したときのことを考えて、それぞれの州ごとにエボラウイルスをコントロールするためのセンターがあります。各州の知事は合同で会議を行い、エボラウイルスの発生に備えてトレーニングを受け、準備しておきたいと希望するボランティアを募りました。さまざまな経緯によってエボラウイルスと接触した可能性がある人々に対するモニタリングと調査は真剣に行われています。

エヌグ州の大学の付属病院では、医師や看護師、医療機関のスタッフだけでなく遺体を扱う葬儀業者までが、エボラウイルス対策のためのトレーニングを受けました。この人たちを手始めにして、緊急病棟や一般病棟など病院内のすべての関係者に対してトレーニングを実施しました。防護服の装着の仕方を訓練し、質疑応答を通して理解を深め、どのようにして予防策をとるのかについて同僚と一緒に学び合いました。

エボラウイルスを克服するためには情報の透明性も重要です。私たちはうわさにも対応しました。ナイジェリアでエボラウイルスが発生したときは、ナイジェリア医学協会によっていくつもの委員会が設置され、合同での会議などをつうじて、さまざまな側面からエボラウイルス対策に取り組みました。この時期には、テロリスト集団のボコハラム(Boko Haram)ですらも停戦を提案してきました。それがエボラウイルスを恐れたためなのか、それともエボラウイルス病の患者への同情によるものなのかはわかりませんが。

ギニア、シエラレオネ、リベリアではなぜ感染の拡大がとまらないのか

それではなぜ、ギニア、シエラレオネ、リベリアの西アフリカの3ヵ国では、いまだにエボラウイルスの感染の拡大がとまらないのでしょうか。

まず言えることは、この3ヵ国など西アフリカ諸国は、エボラウイルスとの闘いを初めて経験したということです。西アフリカ諸国は、ラッサ熱に対応した経験はあります。しかし、ラッサウイルスはエボラウイルスほど病原性が強くないので、ラッサ熱の治療を経験したことがある医療従事者でも、エボラウイルス病には対応できませんでした。またこの3ヵ国は、ナイジェリアと比べると医療資源や物資が全般的に不足しているので、エボラウイルスと闘うための医療資源や物資もナイジェリアほど早く用意することができなかったという事情もあります。

アフリカ中央部におけるこれまでのエボラウイルスの何回にも及ぶ流行と今回の西アフリカ3ヵ国などでの流行には大きな違いがあります。それは今回、この3ヵ国では都市部でもエボラウイルスの感染がひろがったということです。人口密度が高い都市部では、感染は急速かつ広範囲にひろがります。アフリカ中央部でのエボラウイルスの流行は、都市部から離れた地域や農村部で起こりました。エボラウイルスに感染した人たちは、都市部の病院に搬送される前に亡くなってしまい、限られた範囲内でなんとか感染の拡大を食い止めることができました。アフリカ中央部では地理的な条件によって、都市部にまでエボラウイルスの感染が拡大しなかったのです。一方で、今回エボラウイルスが流行した西アフリカの3ヵ国では、エボラウイルスに感染した人たちが他の地域に移動した頻度はかなり高いと考えられています。それぞれの国の首都であるギニアのコナクリ(Conakry)、シエラレオネのフリータウン(Free Town)、リベリアのモンロビア(Monrovia)でもエボラウイルス病がひろがりました。

また、ギニアで最初にエボラウイルス病が発生した地域はシエラレオネやリベリアとの国境付近で、国境を越えて親戚を訪れるなど、もともと人々が活発に行き来していました。そのために、エボラウイルスの感染も国境を越えて拡大しました。

さらに、各国の対応にも問題がありました。シエラレオネでは当初、エボラウイルス病のと考えていることが起きたとき、それは起こってはいは異なります。

ある種の文化的な信念もエボラウイルス病を拡大させる要因になりました。人々は、エボラウイルス病は何らかの毒によるものであって、エボラウイルスによるものではないと信じてしまったのです。そのために伝統的な薬草を使った治療法に頼り、エボラウイルス拡大を防ぐことができませんでした。特にギニアでは、人々は病気の治療のために、病院に行くよりは伝統的な治療法に頼る傾向があります。

そして、エボラウイルスに対する偏見(スティグマ)が根強いために病院に行きたくないという人もいました。しかも、エボラウイルスの感染大が続いているこの3ヵ国は、近年まで続いた内戦や政治的な対立によって保健システムが脆弱で、医療従事者などの人的資源や物資も不足しています。

治療の成功例がもたらした効果

ナイジェリアでは、エボラウイルス病の治療の成功事例があったことが、エボラウイルスを克服するための取り組みに役立ちました。治療を受けた人の60〜65%が実際に生存することができたので、エボラウイルスと接触した可能性のある人たちに対して、早期に病院に来るならば、もしエボラウイルス病を発症しても、初期の段階で治療を受けることによって生き延びることができると伝えることができたのです。逆に発症したことを隠して治療が遅れると、生存の可能性は減ってしまいますよ、とも伝えました。

この成功事例に励まされて、エボラウイルスと接触した可能性のある人たちもスティグマを恐れることなく、毎日の体温チェックやモニタリングを受け入れることができました。私たちはナイジェリアで、エボラウイルスと接触した可能性のある891のケースについて十分なモニタリングを実施することができました。

それに対して、今回エボラウイルスが流行したギニア、シエラレオネ、リベリアは、保健システムと医療資源・物資が脆弱であるために、事態はなかなか改善されません。エボラウイルス病によって医療従事者自身が死亡したり、感染への恐怖から医療従事者が逃げてしまうということも起きています。

エボラウイルス病を発症して生存できるかどうかは、患者の免疫システムがどういう状態にあるのかに大きく左右されます。そして免疫システムの状態は栄養状態とも密接に関わっています。そのためにHIV 感染によって免疫システムが弱っている人や栄養状態がよくない人は、なかなか生存することができません。収入レベルや生活様式から推測すると、ナイジェリアの人々は比較的、免疫システムの状態がよいということも、エボラウイルス病を克服する上で有利に作用しました。

感染の拡大を食い止めるために

現在進行中のエボラウイルスの感染の拡大を食い止めるために、何ができるのでしょうか。

今回のエボラウイルスの感染の拡大は、貧困と病気そして無知という3つの要素の悪循環があることを明らかにしました。ひとつの要素が別の要素を増幅してしまうという悪循環を生み出したのです。

エボラウイルスの自然宿主であるオオコウモリなどのブッシュミートを食料とすることは、貧困と関係があるでしょう。もし家畜を飼っていれば、エボラウイルスと接触する可能性は大きく減少します。

また、エボラウイルスに関する知識がないと、エボラウイルス病を発症しても伝統的な薬草や治療者(ヒーラー)に頼り、病院に行って検査を受けるといったことが頭に浮かびません。そして発熱や出血などの症状は、精神が邪悪なために起きると考えてしまうのです。さらに、エボラウイルス病の治療のために、たとえばモンロビアの病院に行っても、結局は亡くなって遺体となって戻ってくる人の方が多いということになると、どうせ死ぬなら自宅で死んだ方がいいということになりがちです。

ナイジェリアでは幸運にも、エボラウイルス病の治療を受けた人の生存率が高かったので、エボラウイルス病を発症したことを隠さずに、きちんと治療を受ける人が出てきました。そうすることによって、エボラウイルスがコミュニティの人々にひろがることを予防することもできました。その一方で現在、エボラウイルスの感染の拡大が進行しているギニア、シエラレオネ、リベリアでは、脆弱な保健システムを強化するためのさまざまな支援が求められています。

いまや世界がひとつの村(グローバル・ビレッジ)になっています。ある国から別の国に飛行機で数時間で飛んでいけるということは、エボラウイルスが世界中のどこにでも出現する可能性があるということを示しています。エボラウイルス病の治療に従事して患者から感染したというスペイン人がいました。また私は今朝、米国の病院でリベリア人のエボラウイルス病の治療に従事していたアメリカ人看護師がエボラウイルスに感染したというニュースを知りました。

米国にはエボラウイルスの感染を防ぐための整備された施設・設備があり、防護服を着ていたにもかかわらず、医療従事者が感染してしまったのはなぜでしょうか。このようなことがあるからこそ冒頭で私は、エボラウイルスは仮面のようなもので、まだまだ謎が多く、いまだに全容がわからないと述べたのです。

2014年10月13日 東京・JICA 地球ひろば

出典 WHO ウェブサイトhttp://apps.who.int/gho/data/node.country.country-NGA

ナイジェリア連邦共和国の概要
・人口:1億6900万人(2012年)、公用語:英語
・行政区分:全国36州と1連邦首都領域(アブジャ)
・宗教:キリスト教、イスラム教、土着宗教
・民族:300以上、イボ民族(南東部)、ヨルバ民族(南西部)、ハウサ民族(北部)が3大民族
・一人あたりの国民総所得額:2,450米ドル(2012年)
・平均寿命:男性=53歳、女性=55歳(2012年)
・一人あたりの年間医療費額:161米ドル(2012年)
・自己負担による医療費の個人支出割合:95.7%
・HIV陽性者:推定340万人以上( UNAIDS資料を参照)
・エイズ治療が必要な人数:150万人、治療人数:49万人(治療アクセスができているのは32%)
・貧困ライン:人口の46% が1日1米ドル以下の絶対的貧困ライン以下の所得

エヌグ州について
本日の講師のソニー・ウチェ・ウソギエ医師が在住し、感染症対策を担っている。
・エヌグ州はナイジェリアの南東部に位置し、人口380万人(2012年推定。静岡県の人口とほぼ同じ)、農業が中心であり、次いで貿易業やサービス業が盛んである。主な民族はイボ民族で、キリスト教が多数を占めるが、土着宗教もある。
・イボ民族はナイジェリアの南東部地域に集住しており、他の民族と比較して商業の民として貿易業を生業とし世界中にディアスポラとして移住している。日本で暮らすナイジェリア人の多くはイボ民族である。
・エヌグ州は国内トップクラスの国立ナイジェリア大学を始めとしてエヌグ州立大など、教育に力を入れている。1つのコミュニティに公立の小学校、中学、高等学校を設立している。
・医療施設や医療設備が不十分であるため、富裕層の中には海外で治療を受ける人も多い。また、海外からのドナーによって運営されている私立病院も多い。一方で、妊産婦や5歳以下の子どもの医療費の無料プログラムを開始しており、District Health System(WHO のスキーム)の支援で運営されている。
・エヌグ州におけるHIV 感染率は6.5%と高い。ナイジェリアのHIV 感染率は平均で3.1%である。
・州都のエヌグ(Enugu)から最大人口都市のラゴスまで車で約9時間、飛行機で約1時間。

出典 緊急報告会での配布資料


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