アフリカにおけるイモ類の主食としての重要性

-最近のキャッサバの広がりに関連して-

2004年 第6回 食料安全保障研究会セミナー 記録

日時:2004年11月16日(火)19:00-21:00
会場:文京シビックセンター3階(障害者会館)会議室C<
講師:志和地弘信氏(東京農業大学助教授) 

報告

参加者:NGO、研究者、開発コンサルタント、学生など14名。

内容:吉田昌夫氏が司会を担当した。参加者の簡単な事項紹介の後、講師による講演が始まり、その後、質疑応答・ディスカッションに移った。

【講演】

0.はじめに
1)自己紹介

青年海外協力隊員としてネパールに派遣されて以来、村落振興プロジェクトのチームリーダーも務めるなど、ネパールとの関わりが長い。アフリカでの仕事は、ナイジェリアの国際熱帯農業研究所(以下IITA:International Institute of Tropical Agriculture)に勤務から。IITAでは、ヤムイモの育種を担当していた。

2)本日の話

アフリカは大変大きなイモの消費地域だ。西アフリカから中部アフリカにかけて、ヤムもキャッサバも普及している。本日は、主に、IITAの仲間たちが行っていた研究を中心に話す予定。つまり、これまでキャッサバがどのように広がり、今後どうなっていくのかということを、ヤムイモの話も折り混ぜながら考えていきたい。

3)IITAについて

国際農業研究所の多くは、世界的にみて複数の作物を研究対象にしているところが多い。IITAも、6つの作物(バナナ、キャッサバ、トウモロコシ、ヤムイモ、ササゲ、ダイズ)を中心に研究している。中には、カカオやパームの研究を行う人々もいるが、常時、研究対象としているのは、今述べた6つだ。

1.キャッサバとは?

1)キャッサバ

南米原産。Sweet種(甘味種)とBitter種(苦味種)がある。Bitter種(苦味種)は、そのまま食べると危険である。青酸性の毒が強いため。Sweet種(甘味種)は、そのまま生でかじる人もいる。アフリカでは、生産量の多いBitter種が好んで栽培されている。2003年におけるアフリカのキャッサバの生産量は約1億トンで、世界の生産量の53%を占め、2020年にはその生産量は現在の約2倍になると期待されている。

2)生産の伸び

1970年からの30年間、世界全体として伸びているが、これはアフリカの生産増が大きい。中南米は、原産ということもあり、ほとんど横ばい。アジアでも1970年代から生産量は微増。アフリカはどんどん伸びている。特に、西アフリカ(320%)、中部(94%)、東部・南部アフリカ(143%)という実状がある。

また、干ばつがあっても、地上の葉を落とし、蒸散を抑えることができるため、生産量が激減しない。したがって、「穀物だけでは危ない。キャッサバを作付体系に組み入れるべきだ。」という営農指導を行っている。

3)他の食用作物(主食)との伸びの比較(西アフリカの場合)

ヤムイモもキャッサバも増えている。トウモロコシや米も伸びを見せている。ソルガムだけは生産量が倍になった程度。一方、この30年間に人口は、2倍になった。人口の伸びを追いかけるように伸びている。

2.ヤムイモについて

1)ヤム

  • アフリカは、ヤムイモ生産の多い地域だ。食用のヤムイモは6種類で世界の96%をカバー。日本の長芋、自然薯(日本、朝鮮半島、台湾に自生)も同じ仲間。アフリカの固有種が2種類。東南アジア原産が2種。Bitter種も2つあり、毒としてはアルカロイド系の毒を有するものもあるが、加熱により分解する。
  • ヤムイモの生産量は、世界中で約4000万トン。そのうち、アフリカだけで3600万トンをカバーしている(世界生産量の96%)。他に統計の対象と言える地域は、フィジー、台湾、フィリピン、日本など。
  • ヤムイモは、アフリカ、アジア、オセアニアのみという限られた地域でしか生産、消費されていない。このことは、研究費がなかなかつかないという現状にも反映している。

2)ヤムベルト

  • 昔、京都大学の中尾佐助先生が「ヤムベルト」という概念を打ち出した。その該当地域が湿潤サバンナに広がる(スライド:西アフリカのヤム、キャッサバ栽培地域)。
  • ところが、この30年間にヤムベルトが降水量のより少ない北の方に100km上がってきている。ヤムの早生品種が多く開発され、普及した結果である。実は、同じ現象がキャッサバにも起きている。

3)ヤムの重要性

ヤムイモは、700万年前からあった。アフリカの人々の生活に根付いていた。ヤムマウンドという土盛りをつくり、労働集約的である。結婚式や祭事に使っていた。新ヤムは9月、豊穣の祭りを行う。こういった習慣は、キャッサバには見られない(アフリカ)。キャッサバとの違いのひとつ。

4)ヤムイモの問題

  • 種芋だ。なかなか増えない。例えば、トウモロコシの場合、3~4ヵ月で1粒の種子が300倍になる。キャッサバは、12ヵ月で10倍。ヤムの場合は、5-10倍にしかならない。
  • 人間の食用部分と種芋が一致する点も大きな課題のひとつ。キャッサバは、枝を挿し木して増やすのでこの二つが重ならない。

5)ヤムイモの品種改良:高収量&食味

  • 2001年にヤムの高収量品種が開発された。「95年シリーズ」(???)と呼ばれるものだ。これまでヤムの収量は、8-10t/haだったが、この品種は13t/haも穫れるというもの。しかも、食用にしたときの「喉越し」がよい。ヤムは、高収量というだけでは普及がまず進まない。食味が重要な要素となっている。
3.キャッサバについて(その2)

1)キャッサバの品種改良:高収量

キャッサバがアフリカ大陸に持ち込まれたのは16世紀。コンゴからギニア湾沿いに伝播していったのだが、高収量品種の開発に取りかかったのは1971年からになる。IITAで韓国のDr. S.K. Han(韓博士?)が3倍体の品種を開発した。その高収量品種を、毎週、教会の前で無料配布し、普及に成功したと聞いている。現在、206品種が、コンゴ、ガボン、ナイジェリア、タンザニアなどで普及し、改良品種によって収量が46%増加したというインパクト調査の結果が出されている。

2)キャッサバの品種改良:耐病性

  • 高収量品種開発の次の仕事は、耐病性品種。
  • 病害としては、CMD(キャッサバ・モザイク病)とCBB(キャッサバ・バクテリア・ブライト)が代表的なものである。タンザニア、モザンビーク、マラウィなどでは、深刻な害を及ぼした。
  • CMD(キャッサバ・モザイク病)
    White fry(白蝿)がVector(媒介)になるのだが、人を通して運ばれてしまう。これは、繁殖が容易というキャッサバの利点が仇となった例だが、そもそものきっかけはコンゴ動乱である。他国からコンゴの領土に入った兵士がお土産として持ち帰り、各地に感染が拡がった。
  • 現在、ナイジェリアでは、カメルーンとの国境地帯(幅5km~20km、長さ3000km)に、キャッサバの耐病性品種が大量に植えられ、一種のResistant wallとしてカメルーンのキャッサバからの感染を防ごうとしている。
  • ナイジェリア政府は、在ナイジェリア日本大使館に対し、こういったキャッサバの耐病性品種普及支援を求めたが、NERICA(ネリカ米)への支援が現在優位であり理解が得られていない。

3)現状

今は、高収量かつ耐病性かつ対腐敗性の品種が、アフリカ人だけの育種チームによって開発されている(*)。

*農家の希望は、

  1. 高収量であること
  2. 乾燥・病害に強いこと
  3. 栽培期間が短いこと

の3点にある。3.については、長いものは20ヵ月にもなる。これは長すぎる。かといって、14~16ヵ月の中生品種はアフリカで使えないところも多い。収穫時が乾季と重なり、土がカチカチになって収穫できない。

4.キャッサバの今後

1)現状

  • 2003年のナイジェリアにおける農産物価格の推移(スライド)が、ここにある。これを見ると、ヤムイモが一番高価格である(ヤムイモはいものまま売買され、収穫期以外の季節には価格が高くなる)。一方、キャッサバはいもの価格は非常に低価格で安定している。農村で加工され、多く販売されるガリ(キャッサバ粒)になると、トウモロコシ並の値段であり、決して手取りは安くない。今、増えている需要はこの部分、つまり自家消費よりはCash Cropとしての需要である。その場合、加工されてから売られる場合が多く、手軽な食品として都市住民の需要がふえている。またでんぷんのり用の需要がある。
  • また、ナイジェリアは6万トンのスターチをヨーロッパから輸入している。これを自家消費でまかないたいというのが、政府の意向でもある。輸入米に対する関税を200%かけるように、でんぷんの輸入にも高関税をかけたいといっている。

2)ガリ(キャッサバをすりおろして、水分を取り除き、炒った細かい粒状のもの)

  • キャッサバの調理法は、焼き芋、餅、ガリからつくるアチェケ(コートジボワールでの呼び方)、エバ(ナイジェリアでの呼び方)揚げ団子、蒸しもの等多彩である。
  • 最近、ナイジェリアで、一番増えているのは、乾燥ヤムイモ、乾燥キャッサバである。乾燥ヤムイモはヨルバ人だけの技術だったが、今はあちこちで行われている。
  • ガリ(キャッサバの粒)は、家庭ならすりおろしてから発酵させたキャッサバを鉄板で炒って作る。日持ちがよく少なくとも3ヵ月は十分もつ、自家消費にもなる。
  • 機械(ミル)を導入した場合は、発酵させず、生のまま粉砕している。例えば、笹川アフリカ協会は、エンジンをHONDAからもらって機械を販売している。人力なら1日あたり120kgまでしかできないが、この機械を使うと、500kg~1500kg/日の粉挽きができる。なお、この機械は、1台が800~1000ドルになる(詳しくは、IITAのウェブサイトの’ Mechanization and Enterprise’ を参照)。

3)でんぷん

  • でんぷんとしての使用は、需要がある。主に、合板を製造する過程への用途は、ガーナで27%と高く、今後も需要は増えると思われる。
  • ただし、質の問題がある。ナイジェリアで使われているキャッサバでんぷんを、他の研究機関でチェックしてもらった。「使えない」という結果であった。理由は、
    1. 掘り出してから加工までの時間がかかりすぎていること
    2. 洗浄水が汚いこと
    3. 硫黄硫化物(漂白剤)を使っていること

    の3点である。これらをクリアする必要がある。

【質疑応答】

Q.ヤムとキャッサバの値段の違いは?
A.まず、嗜好性の違い。ヤムイモの方が好まれる。端境期に価格が高くなる。

Q.配布されたFAOの資料(「総食事エネルギー供給量にしめる主要穀物及び根菜類のシェア、1969-71、1990-92年間」)がある。穀物と根茎類の比較で見ると、イモ類は全体の14.9%でそれ程多くない。アフリカは、他の地域に比べればイモ類をよく食べているけれども、穀物もイモ類も同じように食べているということではないか。
A.アフリカ全体のデータなので、平均すればそういう結果になっている。ただ、そもそも乾燥地ではイモ類が手に入らないので、穀物の比率が非常に大きくなっている。イモが食生活に占める割合は、我々と比べものにならない。(注:この数字はアフリカ全体をとっており、イモ類が生産されない北アフリカを除き、サハラ以南のアフリカだけをとれば、もっと比率が高くなる)

Q.カロリーで考えれば、重量換算でイモは穀物の5分の1と聞くが、どうなのか。
A.ヤムもキャッサバも正味は重量の0.7と考える。ただ、収穫されたイモの4割くらいは腐っているのではないか、とも言われている。収穫して加工するまでの手間の問題だ。きちんと追いかけた人がいないのだが、この辺りも予算がつきにくい調査になる。

Q.ヤムイモひとつで何食分か?
A.1本で3~4kgになるので、一日2本で一家族が養える。

Q.ヤムイモの売買ではなく、生産・加工は女性か?
A.植え付け・収穫は男。他の生産・加工は女性。

Q.ヤムイモを市場から買うのは男なのか。
A.卸売は男。小売りはどちらでも。

Q.農協のような組織はないのか?
A.ヤムイモの取引で農協という話は、聞かない。チーフを中心に社会が成り立っているので、農協ということにはならないのではないか。

Q.増産に力を入れるよりも、乾燥させて長持ちさせる方が重要ではないか。
A.両方、重要だ。

Q.1980年代、ベナンでは深刻な病害(ACMB:アフリカン・キャッサバ・モザイク・バイラス)が起こった。薬剤でウイルスを抑えることは可能か。
A.ベナンの場合、キャッサバグリーンマイトが媒介虫と判明し、この媒介虫を殲滅すれば防除できると考えた。薬剤はそのために使った。羅病体は全て抜き取り・焼却処分し、耐性品種に植え替えられた。

Q.ナイジェリアではどうだったか?
A.それ程、大きな被害ではなかった。

Q.1983年、1992年の干ばつにおいて、FAOはキャッサバに対し、どういう対応をしたか。
A.よくわからない。ただ、個別の国々では、ナイジェリアやベナンなどが優先的に予算を配分している。加工にシフトしているのは間違いない。ナイジェリア政府が日本政府に支援を頼んだが、断られた話は既にした通り。

C.今年は「国際コメ年」だが、同じように「国際イモ年」を作ったらどうか。

Q.肥料の要求度はどのくらいか。
A.化学肥料は入れていない。ヤムもキャッサバも、年間降水量1000mmくらいのところで作られている。ブッシュを開いて最初にトウモロコシを植える。ヤムができるところなら最初にヤム。その後、トウモロコシ、マメ・根菜、最後にキャッサバという順序で作付けている。それから後は、本来、10年~15年程、間をおく方がよいのだが、今は5年未満に短縮している。地力が回復しないまま、作付けているのが現状。

Q.収穫期の判定は?
A.キャッサバは植えつけてから約1年後。

Q.キャッサバのあとにマメを植えるのはどうか。
A.キャッサバを全て掘り出して、そのあとに何かを植えるわけではない。掘り出したキャッサバは、3日以内に加工しなければならないが、掘り出さなければそのまま地中に入れて貯蔵することができる。そのためにも、作付けの順序が最後になっている。

Q.長く置くと木化しないか?
A.2年、3年おくと、腐ってくるので、よくない。

Q.キャッサバの青酸は何年経ってもだめ? 毒気が自然に抜けることは無いのか。
A.無い。発酵か、水に晒すか、すればよい。

Q.キャッサバの葉はどうするか。栄養価は高いのか。
A.優れた野菜である。カメルーン、コンゴ、マラウィ、タンザニアの一部などでは積極的に食べられている。ビタミンとプロティン、ミネラルも豊富。古くなると、シアンが入ってくるので、若葉がよい。家畜飼料にキャッサバの葉を使おうという計画もある。コンゴでは、刻んでパームオイルで痛める。煮込んでイモと一緒にシチューにしたりもする。

Q.主食をイモ類に依存する西・中央アフリカ地域で幼児など潜在的栄養失調があると聞く。必須アミノ酸が不足するということだが、何か対策は考えられるか。
A.キャッサバだけではなく、混作の中にメイズを入れなさい、豆類を入れなさいと薦めている。大豆などは、豆乳にして薦めている。カメルーンでも、ささげ(カウピー)、トウモロコシ、イモの混作を薦めている。実は、みんなイモだけを食べているわけではない。アフリカでは必ずシチュ-の様な副食と一緒に食べる。夜は、重いのでヤムを食べたくない、という声も多い。

Q.ヤムもキャッサバも作りたてでないと美味くないのか。
A.美味くない。みんな、食べ切るようにしている。

Q.ゆで汁を使うことはないのか。
A.カメルーン、ナイジェリア(イボ地域)などの中部アフリカだとよく使っている。

Q.ナイジェリアでは、ガリ作りは農村女性の所得としてかなり大きいのではないかと思ったが、どうなのか。
A.多分。私が実験などを依託していたおばちゃんなんかは、結構よかったと思う。

Q.キャッサバでんぷんは農村部でも作っているのか。
A.いや、工場でしか作っていない。

Q.工場での生産は、大々的にやっているのか。
A.ナイジェリアは、国産品のスターチを国内で消費し、かつ輸出したいと考えている。ところが、タイ産のものに比べて値段が2倍になっている。国内消費だけでなく、大規模にやろうとすると、国際市場の価格競争を考えなければならない。今はまだできていない。

>>2008年刊行『アフリカの食料安全保障を考える』
コラム アフリカの食におけるイモ類の重要性はこちら

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