『アフリカNOW』 No.24&25(1997年発行)掲載
11月初旬に来日した3人のゲストは、名古屋、静岡、東京、大阪、兵庫、京都、広島、札幌と講演、農村訪問を行いました。今号は11月10日東京港区白金の明治学院大学で行ったセミナー講演内容を中心に、各地での講演を報告します
アフリカ日本協議会は活動の大きな柱の一つとして、アフリカの草の根の人々の声を届けることをテーマとしてきました。それは、協議会が生まれるきっかけとなった1993年10月のアフリカシンポジウムにおいて「アフリカの開発の主体は自分達であり、まずそのことを認めた上で、関係を築いて欲しい」という声を草の根で活動しているアフリカのNGOの人々から聞いたことに端を発しています。
今年度は「食料」をテーマにセミナーを行いました。その理由は、一つにはアフリカ日本協議会が設立された際にまず、3年間は第1フェーズとして、アフリカへ向けて行う支援の方向性、具体策を模索するのと同時に、そのための国内での理解促進に活動を集中させるという合意があり、3年目の節目としてアフリカが抱える諸課題の中でも、根本的かつ広範に存在するテーマを選択しようとしたことです。もう一つの理由は,1996年がローマにおいて世界食料サミットが開催されるなど、「食料」というテーマが世界的議論の影響を受ける日本の国際協力に携わる人々に、草の根から見た食料問題を伝えたかったからです。
実際、21世紀の食料需給に関する議論は昨年来盛んに行われてきました。そしてそのような国際社会の議論では「世界の穀物生産は世界人口を賄うのに十分であり、問題はその分配のあり方にある」、「国内生産こそが重要である」などマクロレベルの食料需給問題に焦点が当てられています。しかし、このような議論からは、草の根の人々の食料事情が果たして改善されるのかどうか、ということが全く見えてきません。
私たちは「草の根の人々にとっての食料安全保障とはどういうことなのか」を明らかにし、その実現のために何を議論し、何をしていかなければならないのか、を明確に示していく必要があると考えました。
ところで、草の根の人々と一口に言っても、都市スラムの人々、零細漁村の人々、遠隔地の農村の人々などさまざまな状況下におかれている人がいます。その中で今回は、敢えて「農村部において狭い土地しか持たない農家の人々、および土地無し農民」に対象を絞りました。それは、彼らがアフリカの人口の大部分を占めているという事実に加え、「誰にとっての食料危機か」ということを考える際に、都市住民に代表される消費者の食料危機をどうするかという視点ではなく、生産者である農民がどうしたら自立的に生きていけるのかという視点でテーマを捉えたかったからです。
ケーススタディーとして、食料生産不足が直接飢餓に結びついてしまった苦い経験を持つエティオピアと、植民地政策による換金作物中心の農業体系によって土壌劣化が深刻な問題となっているセネガルを選び、現地NGOと協力して村落レベルにおける食料事情を的確に把握すべく詳細な実態調査を実施しました。草の根の声を実質的に議論に反映させていくためには、人々の意志に加え、客観的な状況把握と問題分析が不可欠であると考えたからです。調査の結果、村落レベル、世帯レベルの食料事情は気候変動や土壌劣化など自然環境の劣化に大きく影響され、その環境劣化の背景には不適切な経済・農業政策、人口増加といった社会的(社会環境)要因が潜んでいるという指摘がなされました。われわれが取り組んでいかなければならないのは、劣化した自然環境の回復と、適切な社会環境の構築です。今回の調査では、食料事情と環境を悪化させる要因を探り、その根本的な解決策を探り出そうとしました。セミナーのタイトルにはそのような意味も込めて「環境」を取り入れています。