『アフリカNOW 』No.8(1995年発行)掲載
昨年の夏、世界が注目したルワンダの内戦の発端となったハビャリマナ大統領機撃墜から1年が経った。難民流出直後は世界中から援助の手が寄せられたが、その後のルワンダの醸成は伝わってこない。また、ブルンジの情勢の悪化に伴って、ザイール国内のルワンダ難民キャンプも不安定要素が増えてきている。難民キャンプで活動している団体から寄せられた情報や外国のニュースから、最近のルワンダ、周辺国の難民キャンプの様子を探ってみた。
食料不足の難民キャンプ
ザイールの難民キャンプからの報告によると、部下部では3月下旬の時点ではキャンプ設立直後に比べて混乱は収まり『平穏な状態』になっていたという。難民の数も減っていない。逆に言えば、人々は帰国しておらずキャンプ生活が常態化しつつあるといえる。
国連はゴマとブカブ合わせて120万人を越す難民をケアし続けなくてはいけないということになる。キャンプでは国連が医療費や食糧をカットしているという噂が流れているが、これは食糧の配給が遅れているということから推測されたらしい。報告によると『それまではダルエスサラームからルワンダ国内を通過してゴマやブカブに運んでいたルートが変更され、ウガンダ国内からゴマを通り、湖をわたってブカブに運ぶルートになった』ため、輸送期間が大幅に伸び、1週間以上かかるようになったのが一番の原因のようである。実際に食糧は底をつき始めている上に、国際的な支援も滞っている。先日来日した世界食料計画(WFP)のンコンギ事務局次長も食糧不足の事態は深刻であるとして、『ここ数週間のうちに食糧ではなく資金支援がなければ食糧の確保は不可能になる』と語っている(各国が資金ではなく食糧を拠出するとした場合、集荷、船による運搬、陸揚げなどで拠出すると決めてから難民の口に届くまでさらに時間がかかるため、すぐに使える資金の拠出の方が望ましいと同氏は述べている)。
難民キャンプでは『国連が自分たちをルワンダに追い返すために食糧をカットし始めている』と勘ぐる人々も出てきており、フランスのNGO、International Action Against Hunger(AICF)(本部パリ)も、数週間のうちに食糧が届かないとしたら『キャンプの中で暴動が起こる可能性がある』と苦慮している。
食糧不足にもなる不安を抱えてまでも人々がルワンダに帰ろうとしない理由のひとつに、虐殺に関与した者に対する処罰の基準が明確になっておらず、裁判も行われていないことがあげられる(初裁判が6日に行われたが)。キャンプでは現政権がルワンダに帰還した人々(特にフツ族)を『かたっぱしから』刑務所に入れているという噂が流れている。その上、ブルンジ国内での情勢が悪化したため、ブルンジ側、ザイール側のキャンプにいたルワンダ難民がタンザニア側に避難している状況である。
ザイール領内の難民キャンプ内の治安維持のために国連軍の派遣が提案されていたが、先の国連総会で否決された。キャンプでザイール兵による数多くの強奪が横行していると言われていたのだが、新たな措置として国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がザイール兵を難民キャンプの警備兵として雇うことになった。ザイール兵はそのほとんどが給料をザイール軍から受け取っておらず、強奪が半ば日常化していたが、この『新たな雇用主』により、少なくともザイール兵による強奪はその後、報告されていない。
ロイター電によれば、ザイール側の難民キャンプにいる旧政権に対し、外国から武器が運ばれているという噂が流れている。イギリスの援助団体OXFAMによれば、この数ヵ月の間、イリューシャン(ロシア製飛行機)が何度も武器を積んでザイールの飛行場に到着しているという話である。ゴマの空港は近くにルワンダ難民キャンプとしては最大級の規模のキャンプがあるが、そこにいる旧政権の指導者たちに対して武器を供給している模様だと同団体は述べている。どこから武器が運ばれてくるのかは不明であるが、ブルガリアやエジプト経由で運ばれてくると付け加えている。
ルワンダ国内に目を向けてみると、そんな中でも明るい話題が一つある。虐殺と内戦の混乱の後、小学校が再開されてから6ヶ月が経ったが、先月、6万5千人の生徒に対し卒業国家試験が行われた。試験はルワンダの歴史始まって以来初めての試みで、英語、フランス語、ケニヤルワンダ語とスワヒリ語で行われた。内戦でほとんどの学校が機材や施設をなくしていたが、国連機関であるユニセフとユネスコの開発した『文房具キット』が使われている。『文房具キット』は教師用緊急パッケージで場所を選ばず、80人までの生徒を指導するのに使うことが出来るもので、中身は黒板、教師用指導書やチョーク、鉛筆、練習帳といったものだ。これまではルワンダ国内に支給されていたが、今後は周辺国の難民キャンプにも支給される。
しかし、多くの人々は未だ悪夢からさめることが出来ないでいる。ロイター伝の伝える国際赤十字委員会の報告によれば、ルワンダのンデラ精神病院では未だに週に100名を越す人々を新患として受け入れている。昨年の内戦と虐殺によって精神に深い後遺症を負った状態の人々である。ンデラ病院の患者のほとんどは『内戦や虐殺で心に傷を負い、未だに回復できておらず、激しい焦燥感にも苛まされている』。道委員会は患者5人のうち1人は『斧を持った男に追いかけられる夢を何度も見ている』と報告している。
そんな中、『国際社会は100万の人々が虐殺されたルワンダを無視している』とルワンダ国連特使シャハリャー・カーン氏は訴える。国際社会がこの1月、ジュネーブで、新政権の復興国家再融和計画に対し、577万ドルを拠出する旨を決定したにも関わらず、支援はほとんど届いていない。カーン氏は『ルワンダ政権へ資金支援が行われない場合、また新たな流血の惨事を生むことになるだろう』と世銀とEUに資金支援を促している。